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これからの事

「後悔の旅路へ行ってまいります」


バロンのその言葉を聞いてから、カケルは記憶がない。気付けばゴールデンローズ号を降りたち、リーガル帝国の帝都にいるのだ。バロンのその言葉を思い出して、カケルは胸を抑える。本当にこれでよかったのかという疑問が頭をよぎり、思わず隣にいるポールに掴みかかる。


「何?カケル」

「ポール、どういうことだよ!君は名探偵じゃなかったのか!誰もが幸せになる未来を考えるんじゃなかったのか!これじゃバロンさんは、きっと・・・!」


続く言葉があまりにも辛いもので、カケルは言葉が詰まる。だが、ポールはしっかりとカケルを見据えて、答える。


「これが俺の考えた最高の未来だよ。カケルはラウンジでみんなで酒を飲んだ時の事を覚えてる?俺はあそこで、バロンさんと飲んだんだ。そこでカブさんの事を想うバロンさんの気持ちを知ったんだ。それに、最後に決めたのはバロンさんだ。バロンさんは辛い未来でも逃げないって決めたんだ。俺はそれを尊重しただけだよ」

「それでも、もっとやりようがあったんじゃないのか!」

「カケル・・・。バロンさんは完璧な人間じゃない。外面は完璧でも、心の中では酷く傷ついていたんだ。俺はそれが見ていられなかっただけさ。俺を怒ることで、カケルの気持ちが晴れるなら幾らでも怒ってくれ」

「・・・ごめん、俺が悪かった。ポールが一番つらい役回りをしたんだって気付いていたのに、怒鳴ったりしてごめん」


カケルが目を伏せ、ポールに謝罪する。そのカケルの謝罪を受けて、ポールは何とも言えない表情をする。そしてポールはチラリとリーガル帝国の帝都を見やる。あの後、リーとアイゼンハルトとキルクスはそれぞれの国に帰った。リーとキルクスは政略結婚をすることになったようだ。ゴールデンローズ号に乗っていた忍びたちが、リーとキルクスが好かれ合っていることと、二人の才能をそれぞれの国王に伝えたのだ。これにより、リーガル帝国とヒイラギ国の結びつきはより強くなる。そればかりではない。リーガル帝国とヒイラギ国は変わった。リーガル帝国は力こそすべてという考えを改め、積極的に王子や王女に勉強を教えるようになった。そしてヒイラギ国は女性だからと差別しないようになった。何より一番大きいのは、それぞれの国王が、家族に向き合うようになったという点だろう。時間というのは進むだけで、戻ることは絶対にない。そのことを、各国の国王は認識させられたわけだ。アイゼンハルトのところも随分と変わったそうだ。当初は各国の国宝を一時的ではあるが奪ったことで、糾弾されたようだ。だが、その裏にアイゼンハルトの優しさがあったことを知り、パルメト国内部でのアイゼンハルトの評価は180°変わったと言える。また、海は危険なものだという事を再確認したパルメトは、青の色の日に海に祈りを捧げる風習を復活させる様だ。


(変わったんだね、色々と。アルトリアとラパツは相変わらず二人旅するみたいだし)


そう考えて、ポールは嬉しいような悲しいような表情を滲ませる。変わるもの、変わらぬもの、色々な人がいるだろう。今回の旅路は、ポールの心に深く突き刺さった旅となった。子供たちはまだ若いから変われた。変われる余地があったのだ。だがバロンは、すっかりと大人になってしまっていた。現実が酷くやりきれないものなら、地獄の方が楽だと感じる時もあるのだろう。そんなことを考えていると、カケルが力なく呟く。


「ポールは、変わったね。初めてガナスの村で会った時とは大違いだ。君は俺が思っている以上に強く、そして賢い」

「それもこれも全て、カケルのお陰だよ。カケルとの旅があったから俺は変われたんだよ」

「・・・ポール、聡明な君の事だ。もう魔王の正体が分かってるんじゃないか?」


そうカケルに言われて、ポールはビクリと震える。そして、恐る恐る尋ねる。


「俺が魔王の正体に気付いているとして・・・それがどうしたんだい?」

「俺に魔王の正体を教えてほしい。それで俺の旅は終わるんだ」

「いやだ!俺はまだカケルと旅をしたい!色んなところを回って、いろんな人と出会って、この世界を隅々まで見たいんだ!分かるだろうカケル、俺には君がいないと駄目なんだ!だから教えたくない!」


ポールは、帝都のど真ん中だというのに、人目も憚らずに咆える。それはポールの心からの叫び。普段の名探偵としての飄々とした態度からは一転して、人間としての欲望にまみれた、心の叫び。だがその叫びを受けても尚、カケルは無言で項垂れるのみだ。そしてポールは悟る。これがカケルの願いなのだ、と。


「カケル、君は卑怯な奴だ。そんなお願いされたら、名探偵として応えないといけないじゃないか」


遂にポールが折れる。そのポールの言葉は途切れ途切れで、酷く辛そうで。だが、それがカケルの願いだとすれば、ポールは無下には出来ない。


「カケル、最後に俺たちが辿った道のりを、遡ろうよ」

「・・・そうだね、ポール」


そうやって二人は最後の旅に出る。彼らが歩んできた道のりを遡る旅に。まず二人はカタコンベに向かう。カタコンベでは簡易的な墓が作られている。そのローテンとシュテルガルドの墓に向かって、フランシスカだけではなく、バルコとギドまでもが手を合わせている。


「え?二人が何で?」


思わずカケルが呟くと、3人はカケルとポールに気付き、立ち上がり、笑顔でカケルとポールを出迎える。


「あら、カケルとポールじゃない。久しぶり」

「実は俺が師匠の墓参りをしにリングウェイに行ったら、墓荒らしに荒らされていたから、むしゃくしゃして暴れてやった。俺とバルコで伝説の猟師になってやると息巻いていたが、今じゃ立派な伝説のお尋ね者だ」

「だから二人揃って、フランシスカのところに逃げ込んだって訳だ。ここにはカケルが張った大障壁があるし、モンスターに襲われる心配もねぇ。それにフランシスカも一人じゃないから寂しくないっていうし、これぞまさに一石二鳥だ!」


そのバルコとギドの話に、思わずカケルとポールは笑い転げる。バルコもギドも変わっておらず、そんな二人に溜息を吐きながら接しているフランシスカも、なんら変わらない。そしてひとしきり笑った後、ギドの気持ちをカケルが汲み取る。


「分かるよギド。自分の大切な人が馬鹿にされて正気でいられるはずが無い。きっと天国のテトも喜んでるさ」

「分かってくれるかカケル」

「全く、それでここに逃げ込んでるんだから私に感謝しなさいよね。でも、なんかこうして3人でいると、昔ローテンとシュテルガルドといた事を思い出すわね・・・」


ポツリとフランシスカが呟く。3人でバカ騒ぎをしていたころの事を思い出しているのだろう。これ以上いては3人の楽しい時間を邪魔すると思い、カケルとポールは最後にローテンとシュテルガルドの墓に手を合わせてからカタコンベを去る。


「またいつでも帰って来いよ!」


去り際にバルコがそんなことを言う。それに応えるように、カケルとポールは手を振る。もうカケルが帰ってくることはないかもしれないと知りながら、悲しそうに手を振るのだ。ガナスの村に向かいながらカケルとポールは談笑する。


「カケル、3人とも変わってなかったね」

「そうだね。フランシスカにとっては、楽しいパーティー時代を思い出したような気分なんだろうね。これから先はどうなるかは分からないけど、今あの瞬間は彼らだけのものかもね」


そんなことを言いながら二人はガナスの村に到着する。相変わらず馬鹿みたいに重い鉄扉を二人がかりで開けると、門番をしていたのはドゴールだ。


「あ?ポールとカケルじゃねぇか!おいおい、随分と久しぶりだな。元気にしていたか?」

「俺もカケルも元気だけど、何でドゴールが門番をしているんだい?この村の門番はピッツのはずだろう?」

「ピッツなら今日は非番で家だ。ほら、ピッツはルナと結婚しただろ?だから、俺も門番をして、ピッツの負担を減らしてやってるんだよ」


そう言ってドゴールが鉄扉を一人で閉める。それを見て、カケルはドゴールの成長ぶりに驚く。この鉄扉を一人で閉めるとは、ドゴールもギドやトゥグリの様な人外集団の仲間入りをしたようだ。


「折角だから、村長の家やギンさんにも挨拶しておけよ」

「分かったよドゴール」


そうやって二人はドゴールと別れ、村長であるヒハの家に向かう。するとヒハの家には、都合よくギンもいる。ギンとヒハは、二人を見て再開に喜ぶ。


「おぉ、ポールとカケル。久しぶりだな」

「全くです。二人が出て行ってから随分と時間が経ちましたが、元気にしていましたか?」

「えぇ、俺もポールも元気ですよ。ピッツとルナちゃんの結婚式に出れなかったことは申し訳ないです」

「それについては二人も気にしていないらしいぞ。それにこの村はポールとカケルによって随分と助けられた。感謝してもしきれんさ。まぁお茶でも飲め」


そう言って二人が茶を飲みながらガナスの村を見渡す。ガナスの村は随分と変わった。村は冒険者が溢れかえり、モンスターを狩ってはその素材から新しいものを作っている。そして二人はヒハとギンに別れを告げ、最後にピッツとルナの家に向かう。


「あ、カケルさんとポールさん」

「久しぶりだな二人とも。カケル、宝石ありがとうな。おかげで最高の結婚式が出来た」


ルナとピッツは二人揃って仲良く出迎えた。見れば、左手に指輪をはめている。ルナがはめている指輪の宝石は、前にカケルがピッツにあげたものだ。どうやら二人が仲良くやっているようだという事を知り、カケルとポールは笑顔になる。そこから4人は少しの間くだらない話に時間を割く。


「カケル、冒険譚を聞かせろよ」

「いいよ。実はあの後、船で世界各国を回ったんだ。それも列強の王族たちと一緒に。ショーフィッシュは美味しかったなぁ」

「何でいきなり料理の話になるの・・・?」

「あははっ、でも確かにあの料理はおいしかったなぁ。王族たちの受けは悪かったけどね」


四人は下らない話で盛り上がる。そして、ある程度話し終わると、ポールとカケルは席を立ち、ピッツとルナに別れを告げる。ガナスの村から今度はティラキア王国の王都グーンラキアに向かう途中で、カケルは、訛りの強い二人組の話を耳にする。


「やっぱりガナスの村には人狼なんていなかったべ。伝説なんて所詮伝説だべ」

「お前、おらに嘘ついたで」

「許してくれぇ」


その二人組の会話を聞きながら、カケルは少し笑い王都グーンラキアに向かう。王都グーンラキアでは、何かのお祭りが開催されている。一体何事かとカケルとポールは身構える。二人はホワイトナイツに歯向かった身なので、コソコソと隠れながらお祭りの正体を見極めようとする。そして、お祭りの主役が登場したのか、民衆がワッとわく。思わずカケルとポールがその声の方を見ると、そこにはティラキアⅢ世、つまりリュートが見違えた姿で馬に乗って、市民の歓声を受けている。そしてその横には、見慣れた少年と少女の姿がある。少年の方は、肩に最新式の機械銃を背負っている。でも臆病な性格はそのままなようで、歓声を受けてビクビクとしている。対して少女の方は地喰いの装備に身を包み、堂々と胸を張っている。そのルルとトゥグリの姿を見て、カケルはポールに語り掛ける。


「行こう、ポール。もう俺たちがいなくても、彼らは立派に成長したようだ。それにしても、ルルもトゥグリも、ティラキア王国の騎士になっていたなんてね。カイも騎士を目指しているし、これからのティラキア王国の騎士団は変わっていくかもね」

「そうだね。新しい時代の風が吹いているのかもしれないね」


そうして二人は、ユタの村に向かう。カケルの旅の始まりであるユタの村を前にして、カケルは感慨深くなる。入口で躊躇うカケルに話しかけたのは、マウリだ。


「おや、カケルじゃないか。それにポールも」

「マウリさん、お久しぶりです」

「久しぶり!」

「そう固くなるな。俺と君たちの仲じゃないか」


マウリは笑いながらカケルとポールを出迎える。そして二人が門をくぐると、ユタの村を散策する。その散歩の途中でカケルは懐かしい気持ちになる。ふと、カケルは思い出したかのように日の出亭を見る。主人がこの世を去り、トゥグリが王都に行っても、残された妻はこの家の面倒を見ているようだ。そんなことを考えていると、後ろから声がかかる。


「おぉ、カケルか。横にいるのは?」

「ルゥダだん、久しぶりです。こちらはポールです。ガナスの村で出会った、俺の相棒みたいなものです」

「そうか、仲間を持ったか。あの時の仲間は元気にしているか?」


ルゥダにそう言われて、カケルは押し黙る。その様子で、ルゥダはウッドゴーレムがどうなったかを悟ったようだ。そして落ち込むカケルの頭をなでる。


「活躍はトゥグリから聞いておるよ。よく頑張ったな」


その言葉をカケルは無言で受け止める。辛い事も沢山あったが、この世界で最初にカケルを認めてくれたユタの村の人々。その優しさに触れて、カケルは今一度涙を流す。そして最後にカケルはもう一度ユタの村を見渡す。ギルドの解体作業員は相変わらず今日も解体に励んでおり、魔道具屋の店主はあの年だというのにピンピンしている。感慨深くなるカケルだが、いつかは別れが来るというもので。カケルはルゥダに頭を下げる。


「今までありがとうございました」


そのカケルの言葉に一瞬ルゥダは驚くが、全てを悟ったようにふっ、と笑う。そしてカケルとポールはユタの村を出る。最後にもう一度ユタの村に向かって振り返ると、カケルが世話になった人、いやそれ以外も含めて、ユタの村の住人全員が手を振っている。それは過去にカケルがユタの村を出た時と同じ状況だが、今度は意味合いが違う。カケルの旅路はもうすぐ終わろうとしているのだ。それくらい、きっとユタの村の人々は気付いている。だから涙で別れるのだ。

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