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カンギ国

「よく戻られました。ヒイラギ国はどうでしたでしょうか?実は、亜人が治めるヒイラギ国は、人間至上主義のティラキア王国と揉めております。まだ戦争にまでは発展しておりませんが、イート国とティラキア王国の戦争の際に、ヒイラギ国は軍隊を派遣しませんでした。皆様も、隣国との付き合い方には、十分気を付ける事をお勧めします」


そういうバロンに、カケルはその通りだと頷く。戦争というのは、暗く冷たい。命の温もりを感じぬ場所で、殺すか殺されるかしかない二択を強いられる。常時隣国に憎しみを抱けば、その先に待つのは戦争しかない。相手に攻め込むための理由を必死に探し出したらもう末期だ。そしてバロンは次の目的地の説明に入る。


「さて、次の目的地はカンギ国です。カンギは言わずと知れた武術大国。リー様も様々な武術を学ばれていつ事と存じます。カンギはリーガル同様、力こそが正義でございます」


カンギは武術大国だ。当然リーも、とてつもなく強い。だが、体は強くとも心まで強いとは限らない。カケルは、リーの体の震えを思い出す。カケルはカンギの国王の家庭環境は深く知らない。それどころか、カンギの現国王の名前さえ知らない。だから、実際にその目で確かめる必要がある。カンギ国に降り立つときに、震えるリーの肩をポールが支えようとするが、その時、キルクスがリーを支える。


「リー、大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫よ。ありがとうキルクス。やっぱりキルクスは優しいわね」


その様子を見て、ポールは頭を掻く。そしてカンギの港町、ファンシンに降り立つ。そこで、ポールは住民の世間話を耳にする。ファンシンには、丁度王位継承権を持っている第一王子が視察に来ているという。どうやら、王位を継承した後スムーズに国を運営するために、視察に時間をかけるのがこの国の流儀のようだ。


「クーエン様がお見えになられたぞ!」


そう言って住民が道の端によると、豪華な装備に身を包んだ第一王子が、大勢の護衛を引き連れて、馬に乗って道の真ん中を歩く。すると、クーエンがリーに気付く。


「おや?リーじゃないか。魔道具を手に入れるために、ゴールデンローズ号に乗っていたんじゃないのか?あぁ、もしかして逃げ出したのか?日々の稽古の時みたいに。お前はいつも俺に勝てなかったし、逃げ出したくなる気持ちはわかるが、今度も逃げたら、もう逃げる場所はないだろう」

「・・・っ!逃げてなんかないわよ!月読みの懐中時計だって手に入れてみせるわ!アンタに心配されなくても、私は十分強いわよ!」


クーエンに馬鹿にされて、リーもいきり立つ。売り言葉に買い言葉という奴で、頭にきたクーエンが馬から飛び降り、リーに詰め寄る。そんなクーエンを止めるように、キルクスが手を広げてクーエンの行く手を阻む。



「はっ、姉の癖に一度も俺に勝ったことがない奴が何を言ってるんだ。何なら今ここで、決闘をしてみるか?・・・なんだお前は?コイツの恋人か?」

「俺はキルクス。リーガル帝国の第一王子だ。今はゴールデンローズ号に乗っていて、リーとは友達みたいなものだ。リーと戦うというのなら、まずは俺を倒してからにしろ」

「ちょっと、キルクス!」


リー本人を置いてけぼりで、話が進んでいく。だが、キルクスの言葉にクーエンはニヤリと笑う。キルクスが第三王子のルガリアに負けて、王位継承権を失ったことを知っているのだ。


「いいぜ、その決闘受けてやるよ」


自信満々のクーエンに対し、キルクスの表情には不安が見て取れる。殺し合いではないので、武器は殺傷能力がない者を使う。キルクスは剣を握り、対するクーエンは籠手を着ける。


「俺は隣国の王子でも手加減出来ねぇ。逃げ出すなら今だぜ?」

「誰が逃げ出すか・・・!」


クーエンの安い挑発にキルクスは乗り、いきなり走り出して距離を詰める。その速さは中々に早く、連撃も見事なものだ。剣に振り回されていないその連撃は、正確にクーエンの体を捕らえる。だがクーエンは流れる動きでその連撃を躱し、遂にはパシリとその剣を掴んでしまう。


「えっ!?」

「なに驚いてんだ、よっ!」


そしてキルクスの動きが止まったところでボディブローを叩きこみ、クーエンはキルクスの手から剣をひったくり、その剣先をキルクスの首筋にあてる。キルクスが降参を口にすると、くーせんの見事なまでの戦いぶりに観衆は拍手で称える。そこかしこでクーエンを褒め称える言葉が聞こえ、クーエンはキルクスとリーを見下しながらニヤリと笑う。対するキルクスはリーに向き直る。


「・・・ごめん。格好つけて飛び出したのに、手も足も出なかった」

「いいのよキルクス。その・・・私のためにありがとう」


決闘に負けても、キルクスとリーは仲が悪くなったりせず、寧ろより仲が良くなったようだ。その様子を見て、クーエンは顔を顰める。どうやら負けたのに笑顔でいられる二人が気に食わない様だ。そしてクーエンの怒りの矛先は、見るからに冒険者であるカケルに向く。


「おい、そこのお前。お前冒険者だろ?俺と戦えよ」


そのクーエンの言葉に、カケルは露骨に嫌そうな顔をする。カケルが見れば、クーエンはまだ子供だ。きっと自分の強さを少しでも多くの人に見て貰いたくて、はしゃいでいるだけなのだと悟る。そういう意味では、クーエンが冒険者であるカケルと戦いたいと言ったのは、ある意味当然でもある。だがカケルがこの決闘を受けるメリットなどどこにもない・・・。


(いや、メリット云々の話じゃない。リーとキルクスが馬鹿にされたんだ。いきなり現れて、好き放題言ってきて。コイツ、むかつくな)


そこまで考えて、カケルは地喰いの剣を引き抜く。思わずその場にいるポールとアルトリアとラパツ以外の人間は、カケルの蛮行に驚きを隠せない。決闘とは神聖な儀式で、真剣を使う事は、この国では禁止されているのだ。だが、カケルはたとえ相手が王族でも、引き下がらない。自分が正しいと思う道を突き進むのだ。カケルは地喰いの剣の切っ先をクーエンに向ける。


「ねぇ、クーエンだっけ?」

「な、なんだ?」

「さっきクーエンはキルクスの剣を手で握った。でも、実戦ならそれでクーエンの指は吹き飛んでいたよ?君は自分は強いっていうけどさ、単に実戦を経験してないだけだよね?」


そう言われて、クーエンは言い返すことが出来ない。実際にクーエンは強いが、それは決闘という限られた条件での強さだ。クーエンは死にたくないという意識からか、思わず後ずさる。そしてそんなクーエンを庇う様に、カケルの前に忍びたちが現れる。ゴールデンローズ号に乗り込み、ここまでリーを見張ってきた忍びたちだ。だがカケルはそんな忍びたちにも臆することなく、平然と告げる。


「君たち、帰ってこの国の王様に伝えなよ。決闘での強さなんて何の役にも立たない、ってさ。あと、キルクスの、リーを思う心の強さも伝えなよ。社会にでて役立つのは、傲慢な強さより謙虚な思いやりだよ。そしてこれに懲りたら、二度とこんなことをするな。子供を叱るのも大人の役目だよ」


そう言ってカケルが剣を持って忍びたちに近づくと、忍びたちは慌ててクーエンを捕まえて、カンギの城に逃げ帰る。後に残されたファンシンの住民たちは目の前の光景に驚きを隠せないでいる。それを見てカケルは感じる。最初はこんなものか、と。何事にも変わるのにはきっかけがいる。今まで当たり前だと思っていたことを疑うのだ。それはとても難しいことかもしれない。だがこのカンギの人々が、伝統だとか習わしだとかで有耶無耶にして目を逸らしてきた闇が、今照らし出されただけだ。それで変われないならそれまでだ、とカケルは感じる。そして7人はゴールデンローズ号に戻る。


「キルクス、立てる?」

「ありがとう、リー」


リーが優しくキルクスを立たせる。それを見て、カケルは随分と第一印象から変わったなと感じる。いや、元々こちらが素だったのかもしれない。だが、武術に重きを置くカンギの国柄が、リーから個性を奪い去っていたのだ。帰り際、アイゼンハルトがカケルに声をかける。


「カケルさん、僕からも礼を言わせてほしい。ありがとう」

「あぁ、いいよ別に。そんなに改めてお礼を言われるようなことじゃない。それにクーエンはまだ子供だ。それを考えれば、俺も少し大人げなかったよ」

「いや、あれでいいと思う。僕の出身地のパルメトは商業国家だ。僕にはリーの様な力も、キルクスの様な頭の良さもない。あるのは商売人としての資質だけ。だから、こういう時にも頭の中で、自分にとっての最善手ばかり考えてしまうんだ。僕はどうやったら皆みたいにカッコよくなれるかな・・・?」

「・・・」


アイゼンハルトのその呟きは、カケルの胸に深く突き刺さる。若さとは、可能性の連続だ。その過程で新たな道を見つける奴もいれば、挫折する奴もいる。諦める事も成長ではあるが、カケルはそんなことを年端もいかぬ子供に言えるような人間ではない。それにアイゼンハルトはパルメトの第二王子だ。その重責は、カケル程度には到底計り知れない。だからカケルは袋から、宝石を取り出す。


「カケルさん、これは?」

「宝石だよ。中には命の石や怒りの石なんて言うアイテムもある。物の価値は人それぞれだ。人間というのは不思議な生き物で、俺にとってはそれらの石は冒険に役立つアイテムでしかない。でも君なら、それらの石の持つ、別の価値にも気付いてるでしょ?強くなるっていうのは、なにも自分を鍛える事だけじゃない。お金があれば、多くの人を救えるんじゃないかな?」

「え?でもこれはカケルさんの宝物で・・・」

「別にあげるわけじゃない。これは投資だよ。君ならこのアイテムの価値を最大限まで引き出してくれると思っただけさ。だから、またいつでもいいから。君が十分強くなったら、また返してほしい」

「・・・はい!」


その様子を見て、ラパツが肩をすくめる。傍から見ても、カケルの演技はバレバレだ。何しろ本当に投資したいのなら、それらのアイテムはラパツに渡すべきだ。だから誰がどう見ても、カケルがアイゼンハルトを励ますためだけについた、その場限りの優しさだという事は一目瞭然なのだ。だが、当のアイゼンハルトは怒りの石と命の石を受け取って、少しだけ元気が出たようだ。だからラパツは何も言わない。子供の成長をサポートしてやるのが大人の務めという奴だ。子供は急激に成長する。これは自分もうかうかしてられないな、とラパツは考えるのだった。

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