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ヒイラギ国

ティラキア王国の港町リングウェイの観光が終わり、7人はゴールデンローズ号に帰ってくる。リングウェイに降り立つまでとは少し変わった7人。その変化は微々たるものだが、それが積もり積もってその人を形どる。今なら、カブとバロンがどういう思いでこの海路を選んだのかが分かるというものだろう。世界を旅するというのはそれだけで、自分の見解が広がるものだ。7人をバロンが出迎える。


「皆様、ご無事で何よりです。こちらも特に問題はございませんでした。次の目的地はヒイラギ国です。ヒイラギ国の代表はアルトリア様とラパツ様ですね。この国は亜人たちが治める国です。皆さま、偏見などは持ち寄らずに、どうか見たままの世界を感じ取るようにお願いします」

「亜人は人間への警戒意識がある。だが、害がないと分かればフレンドリーになる。それを忘れるな」

「ヘボエルフは口は悪いですけど、皆さんの事を思って忠告しているんです。安心してください、ヒイラギは良いところですよ」

「余計なことを言うなポンコツ商人!」


アルトリアとラパツの掛け合いを見て、リーとアイゼンハルトとキルクスはドン引きする。だが、ポールとカケルは、別の感情を抱く。もう柵なども無視して結婚すればいいのに、とカケルは感じるがエルフと人間の寿命が違うという事を思い出す。


(でもあのラパツさんがそんなことで諦めるとは思えないな。もしかして不老不死の技術を盗んだりするんだろうか・・・。ラパツさんならやりそうだなぁ)


カケルはラパツの性格から、彼が考えていることを正確に見破る。愛する人のために不老不死の技術を使うのならとてもロマンチックで、そしてとてもラパツらしいやり方だ。カケルは心の中で苦笑する。そんなことを考えながらホールから甲板に向かい、カケルは今日も今日とてオノムラニアディに向かって自然の治癒を使う。すると、そんなカケルにアルトリアとラパツがやってくる。


「こんなところで何をやってるんだ」

「海に向かって自然の治癒を使ってるんですよ。実は少し前にクーナ・ラカールに行って、そこでリザードマンの英雄のラカールと会いました。その前はガナスの村に行きました。そこではガナスの村の英雄のガルガンが、亡くなりました」

「・・・そうか。ガルガンは死んだか。私たちエルフは基本的にはドワーフとの折り合いは悪いが、嫌っている訳ではない。ガルガンとはしょっちゅう揉めたが、同時に背中を預けられる戦友だった」


しんみりと答えるアルトリアの横顔を、カケルが無言で見つめる。ガルガンには、自分の死は伝えないでほしいと言われたが、カケルはそうすることが出来なかった。亜人は人間と比べて長生きだ。命の価値というのも当然変わるものだが、カケルにはとても、アルトリアが人の死に鈍感になっているとは感じられない。アルトリアはカケルに尋ねる。


「ラカールはどうだった?」

「元気でしたよ。クーナ・ラカールで、決闘も行いました」

「アイツは強かっただろう?」

「かすり傷一つ付ける事も出来ませんでした」

「そうだ、ラカールはとても強い。私のパーティーで、ストッパー役でありながら誰よりも強かった。誰もアイツの最後の決定には逆らえなかった。ガルガンは物が作るのが上手かった。そして人一倍プライドがあったが、アイツが住む家を私たちに造らせたのは、驚いたな。そうか、もうこの世界には私とラカールしかいないのなだ・・・」


そのアルトリアの姿を見て、カケルは胸が苦しくなる。長命とは、必ずしもいい事ばかりではない。一行は、悲しい気持ちを携えながらヒイラギに向かう。ヒイラギの港町では、右を見ても左を見ても亜人だらけだ。


「うわ、凄いね。リザードマン、エルフ、ドワーフ、コボルト、ドラゴニュート・・・。亜人ばかりだ。俺たちは浮くんじゃないかな」


そんなことをポールが言う。実際、アルトリアは違和感なく溶け込めているが、残りは浮いている。そして、このヒイラギの港町ポートルートで、カケルは懐かしい顔を見つける。


「オーシス様、何故こんなところに?」

「おや、カケルじゃないか。実は、このポートルートの市長から、移住の誘いを受けておってな。丁度ウオアムに閉じこもるだけではいかんと考えていたところだから、視察で来ていたのだよ。おぉ、アルトリアもいるじゃないか。そして金にがめついラパツも。元気にしていたか?」

「私は元気だ。オーシス様も息災で何よりだ。そうか、あのオーシス様がそんなことを考えるとは、時代の変化か」

「私も元気ですよ。今はヘボエルフと一緒に旅をしています。この世界の広さを知るための旅ですよ」


ポートルートにいたのは、始まりのエルフのオーシスだ。前から感じていたが、アルトリアの言動から、オーシスは昔は人間に懐疑的だったのだとカケルは悟る。それこそ、ウオアムの外にも出られなかったのだろう。それがこんなところにいるとは、あのイート国との戦争で変わったのだろう。リーはオーシスの美しさにたじろぎ、キルクスとアイゼンハルトはオーシスの底知れぬ強さに怯んでいる。それぞれが軽く自己紹介した後、キルクスが尋ねる。


「オーシス様は始まりのエルフとして聞いたことがあるよ。そんな有名なエルフでも、今まで未知の森の中で隠れて生きていたの?」

「その昔にちょっとやんちゃをしてねぇ。でも、時が経ったし、もうそろそろ桃源郷を離れてもいい頃合いかなと思ったのさ。そうだ、キルクスは頭がいいんだよね?古代エルフ語に興味はないかい?」

「興味があります」

「げっ」


オーシスの誘いに顔を顰めるのはカケルだ。カケルはエルフの性格というのを知っている。話し始めたら止まらない、その性格を。カケルも昔捕まったことがあるが、その時は強引に逃げ出した。だが、今回は横にキルクス、アイゼンハルト、リーがいる。特にキルクスなどは興味津々だ。ここで逃げ出したら立つ瀬がないと感じたカケルは古代エルフ語を習う事を決意する。すると、オーシスは頷いて話し始める。


「そうかい、なら古代エルフ語について説明するよ。まずはこの世界の言語についてだけれど、この世界の言語は、ある日急に、数名の人物によって広められたんだよ。地域によって言語は異なるが、広められた言語の共通点は、完成度の高さと、他の言語を翻訳できる点だね。このことから、この世界に言語を広めた人物は、予め言語というものを知っていたとみられているよ。信じられないだろうが、この世界には時々、その当時の技術力では説明がつかないほどの発明品が生まれるんだ。俗にオーパーツという奴だね」

「えっと、古代エルフ語の話は・・・?」


ペラペラと喋りだすオーシスに、思わずアイゼンハルトが尋ねる。すると、オーシスは額を叩いて、古代エルフ語の話に戻る。


「いけない、いけない。私としたことが、話が脱線していたよ。さて、古代エルフ語は、ある言語にエルフ達が悪戯心を加えた物さ。例えば干し肉を古代エルフ語で言うとウキニソフ。偉大なるものはオノムラニアディだよ。実は、これらの単語を一回ローマ字表記にすれば、古代エルフ語は読み解ける」


そういうオーシスに、ポールは脳内で考える。


(干し肉がHOSINIKU、偉大なるものがIDAINARUMONO・・・。あぁ、成程。ローマ字表記にして反対から読んでいるのか)


そこまでポールが考えた時、カケルが首をかしげる。


「あれ?アルトリアさんって、未知の森でラパツさんに別れを告げる時に、ウオタギラ、アラヌオヤスって言ってましたよね?」

「待て、カケル」

「待ちません。えっと、ウオタギラはUOTAGIRA、アラヌオヤスはARANUOYAS・・・。あっ!アルトリアさんも可愛いところありますね」


そうカケルが言うと、アルトリアは無言で剣を引き抜く。そしてそんなアルトリアを、ラパツが必死に抑えるのだ。先ほどリングウェイで心が死んだカケルの、精一杯の反撃だ。そんなバカ騒ぎを見て、オーシスが笑う。


_____


「カケルは悪い奴だ」

「見損ないましたよカケルさん」


アルトリアとラパツはカケルに悪態をつきながら、ゴールデンローズ号に戻っていく。そんなカケルに、励ましの言葉をかけるのは、意外にもリーだった。


「カケル、アンタわざとやったでしょ。ポートルートに降り立つ前のアルトリアの表情が暗かったから、励ますつもりであんなことやったんでしょ。アルトリアとラパツに怒られながらも、少し笑ってたよ、アンタ」

「・・・よく見てるね」

「私は武術大国のカンギに生まれながら女性だったからね。女性では男性に勝てないからって、随分と失望の目で見られたのよ。だから、他人の表情の変化には敏感なのよ」


そう言って暗い顔で笑うリーに、カケルの胸は締め付けられる。リーの言葉は、他人の表情の変化に敏感にならなければ、どうなっていたか分からないという事に他ならない。カケルは、ふと次に向かう国はカンギだという事を思い出す。見れば、目の前でゴールデンローズ号に戻ろうとしてるリーの肩は、少しばかり震えている。カケルもすっかり忘れていたが、リーもアイゼンハルトもキルクスも、表向きはぞれぞれの国の代表だが、その実は王位継承権を持っていない者の集まりなのだ。今回の旅路で、月読みの懐中時計を持って帰らなければ、彼らにどんな運命が待ち受けているかなど、考えるまでもないだろう。そんな不安に押しつぶされて、カケルは目の前で震える少女の気持ちを和らげることさえ出来ない。すると、ポールがリーの頭を軽やかに撫でる。


「ちょっと、いきなり何よ!」

「大丈夫だよ、リー。俺は名探偵だ。必ず、皆が幸せになる未来を掴んでみせるよ」


その気さくなポールの態度に、リーは顔を伏せる。カケルはプレイしたことがない「後悔の旅路」。当然本来のイベントでは、ポールはいない。だが、過去のカケルの頑張りが、ここにきて成果を見せる。今この景色があるのは、過去にカケルが積み重ねてきたモノがあるからだ。

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