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それぞれの事情

全員がラウンジに到着すると、徐にカケルが料理を始める。と言っても冒険者らしい茶色い料理だが、それを満面の笑みでカケルは皆に配る。最初はリーとアイゼンハルトとキルクスは、料理に手をつけなかったが、周りが美味しそうに食べているのを見て、思わず茶色い料理を口に運ぶ。ジョーフィッシュを焼いたもののようだが、王子や王女にはいささか味が濃すぎたようだ。


「ちょっと!味が濃すぎるじゃない!」

「これは・・・初めて食べる味だね」

「俺の舌にはちょっと合わないかな」


順にリー、アイゼンハルト、キルクスがカケルの料理を評価する。軒並み悪評だが、カケルはその評価を受けても、あっけらかんとしている。そして、こう切り出すのだ。


「皆さん。たとえそれぞれが月読みの懐中時計を奪い合う仲だとしても、親睦を深めておくのは大事だと思いますよ。特に、俺としては一つ気になることがありますので」


そう言ってカケルは三人の王子と王女を見る。その視線を受けて、キルクスが溜息を吐く。


「カケルさんの気になることは分かるよ。何でこの船に乗っている王族は、王位継承権を持っていない奴ばかりなのか、でしょ?俺は第一王子だけどルガリアに王位継承権を取られたし、リーは王女だから王位継承権はない。アイゼンハルトも第二王子だ。俺らは価値がないから、こんなところに送られたんだよ」

「キルクス!少なくとも、僕は自分に価値がないとは思ってないし、リーとキルクスの評判も聞いてるよ」

「よせよ、アイゼンハルト。俺らが堅苦しい言葉を使ったり、礼儀正しい作法を真似したりしない事が何よりの証拠だろ?こんな振る舞いをしても、誰も俺らに怒らない。父上は、見向きもしない。カケルさん達も、俺らに敬語なんて使わなくていいから」

「そうか、分かった」


自らを価値がないと自嘲するキルクスに、カケルは肯定も否定もせず、自然体で接する。カケルとしては色々思う所はあるが、キルクスが敬語はいらないというのなら、カケルはそれに従うだけだ。そんなキルクスを見て、怒りの声をあげたのはリーだ。


「何言ってんのよ、キルクス。私はアンタの才能を評価してるのよ。そもそも武力第一のリーガル帝国の考え方がおかしいのよ。キルクスは頭がいいのに。キルクスの頭の良さは、誰よりも私が知ってるのよ!」

「リー。いいんだ。俺ももう吹っ切れたから。頭がよくても、自分の身一つ守れないし」

「そんなの、適材適所よ」


キルクスの言葉にリーが反応して、空中に素早い蹴りを何発も放つ。それを見てカケルは思わず息をのむが、すぐに理解する。確かにリーは強い。だが女性だから、いくら強くてもカンギの国王になることはないのだ、と。そしてカケルは、少しだけ皆の事を理解する。はみ出し者であるがゆえに、互いに共鳴した彼ら。厳格な側近や召使もいないこのゴールデンローズ号は、彼らにとって仮初の楽園なのかもしれない。


(やっぱり話し合いは大事だな。第一印象なんてあてにならない。皆、俺なんかよりよほどしっかりしている)


そうカケルは結論付ける。そうやって盛り上がっているところに、ラウンジに一人の人物がやってくる。その人物の顔はバロンにそっくりだが、服装が違う。どうやら船長のカブのようだ。カブはラウンジに集まる皆を見て大声で挨拶をする。


「よく来たな、俺の船に!俺は船長のカブだ。敬語は使えんが、舵の扱い方なら俺の右に出る者はおらんよ!」

「ラウンジにいていいんですか?」

「危険地帯は抜けた。暫くは自動操縦で大丈夫だ」


カケルの素朴な質問にカブは冷静に答える。そして、これからの道のりを教えてくれる。


「実は今回の旅路は、去年俺が通った道と全く同じ道のりなんだ!まずティラキアに行き、ヒイラギ、カンギと通過し、パルメトを経由して、最後にリーガルに戻ってくる。途中で危険な暗礁がいくつもあるが、そこは俺の腕の見せ所だ。安心していいぞ!」


そう言ってカブは操舵室に帰っていく。カブがいる操舵室に、それぞれの大切なものと月読みの懐中時計があるのかと、カケルは考える。そして、これからの道のりがそれぞれの国をめぐることに気付き、カケルは首をかしげる。


(何でそれぞれの国を巡るんだろう。それにこんな長い旅をする必要があるのか?単に月読みの懐中時計を奪い合うだけでいいのに。いや、そもそも何でバロンさんは、月読みの懐中時計の奪い合いなんてことを考えてるんだ?)


カケルは悩むが、悩んでも答えは出ないと悟り、諦める。それに、本物の名探偵であるポールが無邪気にはしゃいでる様子を見て、考え過ぎか、とカケルは気持ちを落ち着ける。最近トラブル続きで、自然と体が身構えていたのだろう。だが、バロンは強いと言っていたし、そうそう鍵を奪われるようなことはないだろうとカケルは感じる。そして皆はジョーフィッシュを食べ終わり、今度は酒が入る。どう見てもリーもキルクスもアイゼンハルトも未成年だが、治外法権だとカケルは割り切る。酒が入ると、談笑はさらに活発になる。


「キルクス、前から思ってたけど、アンタはルガリアには勝てなくても十分強いんだから、もっと自信持ちなさいよ」

「リーに強いって言われても疑っちゃうな」

「いや、実際強いよ。何ならカケルさんより強いんじゃない?」

「言ったな、アイゼンハルト。俺の本気を見せてやる!」

「出たー、カケルさんの一気飲み!」


リーとキルクスとアイゼンハルトは酒に滅法弱く、そしてカケルも下戸なのだ。ここに酔っ払いが四人、ゴールデンローズ号は海の上の密室に変貌し、さながら治外法権だ。この場を止める者はいない。


「カケルがあんなに馬鹿だとは知らなかったな」

「そうですね、アルトリーチェ」

「おい」

「間違えた。露骨に舌打ちをするなヘボエルフ」

「だからお前はポンコツなんだ!」


アルトリアとラパツの息ピッタリの漫才を見て、ポールは心を殺す。一体自分は何を見せられているんだろうという疑問を抱いてはいけない。その疑問を抱けば、心が耐えられずに死んでしまうと感じたのだ。名探偵のポールは目の前の状況を見て、すぐに理解する。目の前の二人が互いを嫌いあっているように見えて、本当はとても意識していることを。もっと言えば、揃いも揃って左手にグローブをつけているのを見て、ポールは悟っている。フランシスカから学んだ知識を、名探偵は無駄にしないのだ。だからこそポールは目を瞑る。


(心を・・・心を無にするんだ。ツッコみたいけど、ツッコんだら殺される・・・!何をしてるんだカケル、こっちに帰ってきてくれ!)


ポールは心の中で願うが、カケルはもう出来上がっている。そんな折、バロンがラウンジに現れ、バカ騒ぎをする皆を見て、目を細めて笑う。


「やれやれ、操舵室の鍵を奪いに来ずに何をしているのかと思えば、このような楽しい事をしておられたのですね。若さとはいいものです」


そのバロンの口からポツリと漏れ出た言葉は、この喧騒の中、妙にしっかりとポールの耳に届く。思わずポールは近くのグラスに酒を注ぎ、バロンに渡す。


「ポール様、これは?」

「バロンさんも一緒に飲もうよ。今この時、俺たちは招待客じゃなくて、ただの酒飲みの集まりだ」

「ポール様、私はこの船の執事でございます。優れた皆様のなかで、月読みの懐中時計を持つに相応しい方を見つけるのが、私の役目です」


そのバロンの返答に、ポールはゴールデンローズ号の船内を見渡す。確かに金がかかっているのは見てわかるし、そもそも一介の執事に王族を呼ぶほどのコネクションもない。だがポールは、この舞台の裏にどんな人物がいるのか、などにはまるで興味がないのだ。


「確かに月読みの懐中時計は価値がある魔道具だよ。でも、俺にとっては、このバカ騒ぎをしている時間の方が、もっと価値があると思うよ」


そう言いきるポールに、ついにバロンが折れる。そしてバロンが酒を一気にあおると、即座に顔が赤らみ、バロンの本音が漏れ出す。


「私の兄のカブは、無鉄砲すぎるんですよ。幾ら危ない海でも、乗り出すんです。貴方達も一緒です。幾ら恵まれた家庭に生まれても、いつかは巣立たねばならない。でも外の怖さを知らずに飛び出すと、決まって蛮勇になるんです。だから、こんな場を設けたのですよ」

「それは、このゴールデンローズ号という舞台を作った人物がいるという事かな?」

「・・・どうやら喋りすぎたようですね。名探偵のポール様なら、すぐに分かる事ですよ。若いというのは良い事ですが、同時に危険でもあるのです」

「そうだね・・・。それはその通りだと思うよ」


バロンとポールは酒が入っても重い話になる。それはこの世の摂理のようで、どうしようもない事。バロンの兄であるカブは、随分と短絡的で、好奇心旺盛な人物だ。まるで子供のまま年を取った様な、そんな印象をポールは受ける。だが、バロンは海のモンスターと戦ったこともあるので、海の怖さを知っているのだろう。そんなバロンにしてみれば、カブも、この船に乗っている王族たちも心配なのだろう。確かにリーもアイゼンハルトもキルクスも、年の割には大人びているが、この世界を深く知らないという点は共通だ。ポールは何気なく壁についているランプシェードを取り外す。すると、その中に小型の機械を見つける。


(成程ね、こんなところに盗聴器が仕掛けてある。こんな技術力を持っているのはパルメトか。ってことは、残りのカンギとリーガル帝国は、恐らく忍びでも潜ませてるのかな?)


そこまで考えて、ポールは食糧庫に向かう。そして、先ほどに比べて食料が減っていることを確認する。これで、カケル達以外にも、この船に人がいる事は確定する。思わずポールは溜息を吐き、ポツリと本音が漏れる。


「はぁ、俺には金持ちの考えが分からないな。そんなに不安なら、普段から家族として接すればいいだけなのに」

「ポールは分かってないね。人間は、面子や体裁を重んじる。特に王族ともなれば、その気概はさらに強くなるものだよ」

「カケル、盗み聞きとはひどいね。それにしてもそんな矛盾を抱えて、よく国民に笑顔を見せられるよね。俺なら心労で倒れちゃうよ。対して動物は良いよね!矛盾なんて抱えてなさそうで」

「ポール・・・。動物は矛盾を抱えないから気楽に見える。そして人間は矛盾を抱えても、そんなことを気にも留めないから、これまた気楽に見えるんだよ」


ポールはカケルの言葉に、そんなものか、と考える。ポールは王族に降りかかるプレッシャーなど知りはしない。ただ、ティラキアⅡ世が許せないから、ユナテクトに縋った。別に自分の面子を守るためではない。未来を見据えての最善手だった。残されたリュートは辛い人生を歩むだろうが、その道のりを最大限手助けするために、カケルとポールは動いている。だが、リーとキルクスとアイゼンハルトは、本人たちは誰にも守ってもらえていないと感じている。実際には盗聴器が仕掛けられていたり、忍びが潜り込んでいることから、心配されているのだろう。でもそんな事、本人たちは知る由もない。大人なら耐えられるだろうが、子供なら耐えられるかどうか・・・。


(きっとリーもアイゼンハルトもキルクスも、強がってはいるが心の中は不安で一杯だったはずだ。だからカケルが話し合おうって言った時、嬉しそうに飛びついた。こんな大海原に一人っきりだなんて、王族の育て方と言われれば納得するけど、子供の育て方じゃない)


ポールには思う所があるようだ。名探偵とは、目の前で困った人がいれば、それを敏感に察知し、何とかしてやる職業だ。少なくともポールはそうだと思っている。だからポールは考え込むのだ。カケルさえも知らないこの「後悔の旅路」の先に待ち受ける未来を見据え、どうすればみんなが笑えるのか、を。奇しくも、ガナスの村でカケルがやったことを、今度はポールがやろうとしている。

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