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ゴールデンローズ号

「カケル様とポール様、ホールへご案内します。他の方との挨拶と、これからの簡単な説明を行いますので」


そう言ってバロンが歩き出し、二人は慌ててバロンについていく。ゴールデンローズ号は小さいが、内部の構造は入り組んでおり、気を抜けば迷子になりそうなのだ。案内されたホールには煌びやかな衣装に身を包んだ男女がおり、カケルとポールは思わずたじろぐ。元々は王族が招待された場なので、カケルとポールは大いに浮いているのだ。そしてポールは、ホールにいる男女のほとんどが子供だということに気付く。


(これは一体なんだろうか)


そうポールは疑問に思うが、ポールの思考は甲高い声に乱される。


「ちょっと、どういう事?見るからに王族じゃない奴がいるんだけど!」


ポールとカケルに食って掛かったのは、チャイナ服に身を包んだ少女だ。思わずカケルはチャイナ服があることに驚くが、カケル以外に地球からこの世界にやってきた人間が広めたのかと納得する。すると、黙る二人にさらに少女は怒る。


「黙ってないで、何か言いなさいよ!

「やめるんだ、リー。いきなり知らない人にそんな態度で突っかかっても、いいことは無いよ」


リーと呼ばれた少女を止めたのは、昨日パレードにいた、リーガル帝国の第一王子、つまりキルクス・イークハイムである。思わぬ乗客にポールは驚く。しかし、同時にカケルがポール以上に驚いている。


「アルトリアさんにラパツさん!?何でこんなところに?」

「それはこちらの台詞だ、カケル。私たちはヒイラギの代表で来ている。お前は何故ここに居る?」

「俺たちもティラキア王国の代表で来たんですよ。横にいるのは、ガナスという村で知り合った名探偵のポールです」

「・・・そうか」

「待って、その憐みの目はなにかな?」


何とゴールデンローズ号にはアルトリアとラパツが乗船しているのだ。二人は亜人たちが治めるヒイラギの代表として、ここに来たようだ。確かにエルフのアルトリアにはうってつけかもしれない。そして例のごとく、ポールの名探偵という職業はあまり受け入れられない様だ。ポールは抗議しているが、アルトリアは優しく微笑むのみだ。そんなポールを後目に、カケルは辺りを見渡す。ティラキアの代表のカケルとポール。ヒイラギの代表のアルトリアとラパツ。リーガルの代表のキルクスに、カンギの代表のリー。あと列強はパルメトがあったとカケルは思い出し、未だ何も言わずに座っている少年に目をやる。カケルの視線に気付いたのか、少年はにこやかに挨拶をする。


「最後は僕か。僕はパルメトの第二王子の、アイゼンハルト・フォンデリッヒだ。よろしく頼むよ」


そう少年が自己紹介をしたところで、バロンが切り出す。


「皆様、自己紹介の方は終わりましたでしょうか?それでは今から、この船で皆様にしていただきたいことを言います。まずはこちらをご覧ください」


そう言ってバロンが金色の懐中時計を取り出す。それを見て、アイゼンハルトが目を見開く。


「まさか、それは月読みの懐中時計?」

「流石はアイゼンハルト様、その通りでございます。この魔道具に魔力を流すと、そこで過去に起きたことを正確に知ることが出来ます。聡明なる皆様なら、この魔道具の値打ちがどれほどのものかは、言うまでもないでしょう。この旅路が終わった際に、この月読みの懐中時計を、皆様の中から一人に贈呈いたします」

「え?いいのかい?」

「勿論、対価は必要です。皆様、大切なものは持ってこられたでしょうか?今から皆様の大切なものをお預かりします。ご安心ください、あくまで預かるだけです。この旅路が終わればお返しします。ただし、この旅路の間は皆様の大切なものは操舵室に保管します。この旅の終わりに操舵室を確認し、皆様の大切なものがなくなっていたら、それを持っていた方に、月読みの懐中時計を贈呈いたします」

「何それ、聞いてないわよ!言っとくけど、私が持ってきたこの紅玉の指輪は、カンギの国宝なのよ。渡せるわけないじゃない!」


リーが市ヒステリックに叫ぶが、バロンの眼光が怪しく光る。


「それは、辞退なされるという事ですか?大切なものを預けられない方には、月読みの懐中時計を贈呈することは出来ません。リー様はそれでよろしいのですか?私が愚考しますに、リー様はカンギの第一王女でありながら、その性格故にまだ嫁ぎ先がお決まりになられていないかと。今回の旅路でも月読みの懐中時計を持って帰ることが出来なければ、国王様はお怒りになられると推察いたします」

「くっ、何で私のとこの事情を知ってるのよ!」

「皆様の事は調べております故。少々イレギュラーな存在はおりますが」


そう言ってバロンがチラリとカケルとポールを見やる。だがカケルは月読みの懐中時計を、綺麗な懐中時計程度にしか見ておらず、ポールに至っては何ルピーで売れるかを計算している。そんなマイペースな二人にペースを乱されたのか、リーは溜息を吐いて紅玉の指輪をバロンに渡す。


「いい?カンギの国宝なんだからね!絶対に操舵室の鍵をなくしたりするんじゃないわよ!」

「勿論でございます。操舵室の鍵は私と、船長であり私の兄でもあるカブの2人しか持ちません。操舵室に入るには、私かカブを倒すしかありません」

「それは無理難題だね。バロンさんはとても強い、立ち振る舞いで分かるよ」


笑いながらバロンがそんなことを言うと、キルクスがそんなことを言う。そのキルクスの言葉に同調するように、アイゼンハルトとリー、そしてアルトリアも頷く。だが、冒険者歴が浅いカケルには、立ち振る舞いだけで力量をはかる技術はない。


「バロンさんって凄いんですね」

「私は兄と共に海を旅することがありますので。海のモンスターと戦えるように、訓練しておいて損はありません」


そんな呑気な感想が漏れるカケルに、バロンは謙遜する。そして、それぞれが大切なものをバロンに渡していく。キルクスは黒烏の瞳、アイゼンハルトはミスティックナイフ。紅玉の指輪も黒烏の瞳も、ミスティックナイフも、そのどれもが国宝だ。紅玉の指輪は、ルビーに赤の魔力を込めた指輪で、噂ではファイアースピアを10発は撃てる代物だという。人間なんて、一つ魔力を入れられただけで激痛が走るのに、よくもそれほど魔力を溜めたと、カケルは感激する。黒烏の瞳は、伝説の八咫烏の瞳を加工したもので、考古学的な価値は計り知れない。ミスティックナイフはパルメトの技術を結集して作られたナイフで、その切れ味はオリハルコンを凌ぐという。


「私がヒイラギから預かったのはこれだな」


そう言ってアルトリアが出したのは、リンギルの樹皮だ。あの「自己再生」の特性を持つというリンギルの木、その樹皮を使えばどれほどのポーションが出来る事か。そして、カケルはオーシスたちの住んでいたウオアムと、ヒイラギが裏で手を結んでいることを知る。面白い事を知ったと感心するカケルに視線が集まる。どうやら最後はカケルの番のようだが、カケルはリュートから国宝を預かっていない。しかし、カケルは臆することなくマシーンゴーレムの機械部品を取り出す。それを見て、アイゼンハルトが首をかしげる。


「それは?」

「見て分からないですか。マシーンゴーレムの古い部品ですよ。俺の宝物です」

「ふざけんじゃないわよ!そんなの、どこが宝物よ!国宝の一つも持ってないの?中途半端な覚悟でここにきてるんじゃないわ!」

「・・・リーさん。俺からしてみれば、やれ綺麗な石や、やれ烏の目玉程度で国宝だと騒ぎ立てる、貴方達の感性の方が理解できない」

「なっ!?」

「言わせてもらいますが、何が宝物かなんて人それぞれ。誰かの大切にしているものを馬鹿にできる人間なんて、この世にはいないと断言しますよ。当然、余程の礼儀知らずはその限りではありませんがね」


底冷えするようなカケルの言葉に、リーはたじろぐ。そのカケルの言葉には重みがあるのだ。リーもキルクスもアイゼンハルトも、王族とはいえまだ子供だ。対してカケルは、出会いや別れを数え切れぬほど経験している。カケルが貰った、マシーンゴーレムのギアのこの部品も、カケルにとっては宝物だ。何故なら、もうカケルの残された人生で、ギアに会う事はないかもしれないのだから。それを知っているから、アルトリアとラパツ、ポール、そしてバロンは無言でカケルの言葉を肯定する。やがてリーも渋々納得する。これで全員がゲームへの参加資格を得たことになる。皆の大切なものは操舵室に保管され、鍵はバロンとその兄であるカブのみが持つことになる。そこでポールが疑問を投げかける。


「そう言えば、さっきから話に出ていた、船長のカブさんはどこにいるの?」

「カブなら、今は操舵室です。この船には自動操縦システムも搭載されているのですが、この辺りはまだ暗礁が多くて、カブが操縦しているのです」

「へぇ、ここら辺暗礁が多いのか。ホールには窓もないから気付かなかった」

「もうこの旅路の説明は終わりましたので、解散となります。甲板に出るもよし、ラウンジで休憩するもよし、お好きになさってください。私は皆様の大切なものを操舵室に保管しに行きますので」


そう言ってバロンは一礼し、ホールを後にする。残された7人は、互いに牽制し合うように睨み合う。無理もない話だが、それぞれが列強の代表で来ており、今回の旅路で、一つしかない月読みの懐中時計を奪い合う間柄なのだ。


「腹減ったよ、カケル」

「よし、ラウンジに行こう。きっと海の上だから、海のモンスターの料理が出てくるよ。ジョーフィッシュとか」


前言撤回、二人だけは相変わらずマイペースだ。そんな二人に中てられたのか、アルトリアとラパツが笑い、二人の後を追ってラウンジに向かう。残りの三人も顔を見合わせ、ここに居ても仕方ないと判断したのか、ラウンジに向かうのだった。

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