リーガル帝国
「つ、着いた・・・。リーガル帝国、遠すぎるよ!もう森狼の肉は見たくもない」
そんなことを言って、ポールがヨロヨロとリーガル帝国の帝都の門をくぐる。リーガル帝国は歴史ある大国だ。ティラキア王国の様な新興国家とは違い、血統というのを殊更に重視する。王位継承権は第一王子のみ。ただし、決闘をして王位継承者に勝てば、王位継承権が移るという、武力頼みのシステムを採用している。これにより、帝王はバリバリの武闘派になるのだが、官僚が優秀で、技術研究やインフラなども積極的に取り組んでいる。そのため、この帝国は何百年の間も繁栄してきたのだ。
(という事まではディープワールドカードゲームのシナリオに書いてあったから知ってるけど、ぶっちゃけリーガル帝国は本編ではあまり関わりがなかったからなぁ。俺が知っているのは、特別イベントの「後悔の旅路」くらいか)
そこまで考えて、カケルはディープワールドカードゲームの特別イベントを思い出す。それは船に乗って世界各地を回るイベントだった。だが、カケルは「後悔の旅路」の後にプレイを開始したので、このイベントの中身までは知らない。
(でも、確かこのイベントでは世界各地の王族たちが招待されるはず。だから俺らもこの船に乗り込まないといけない。ティラキア王国が戦争を回避する手掛かりが見つかるかもしれないから)
そう考え、カケルはリュート直筆のサイン入りの、ゴールデンローズ号の招待状を握りしめる。本来はリュートが招待客であったが、ティラキアⅡ世が逝去したのでこれなくなり、急遽カケルとポールが招待状を託されたのだった。そんなこんなでカケルとポールはリーガル帝国にやってきたのだが、丁度リーガル帝国はパレードの真っ最中だった。カケルが今の時期は良いと言ったのは、これが目当てである。真っ先にパレードに飛び込むカケルに、ポールが急いで後からついてくる。
「ちょっと、カケル!ゴールデンローズ号に乗る話はいいの?あとこれ、何のお祭り?」
「ポールは質問が多いなぁ。このパレードは帝王の生誕祭だよ。それに、招待状のところに日付があるけど、その日付は明日になってるだろ?つまり、今日は存分にパレードを楽しめっていう、ユナテクトからのお告げだ!」
「絶対違うと思う・・・」
ポールがあきれ顔で突っ込むが、カケルは気にするそぶりも見せず、パレードを楽しむ。そこで、ふとカケルは懐かしい感覚を味わう。こんなに楽しいパレードはいつぶりだろうか、と。少なくとも地球にいたころのカケルは引き籠りであった。そうでなくとも、パレードなぞ時代の変化と共になくなっていった。効率を求めた人類は、遂には電磁波で五感をコントロールし、家にいてもパレードにいる気分を味わえるという機械を生み出したのだ。だが、やはり生のパレードは素晴らしいとカケルは感じる。カケルは自分の気分が高揚するのを、確かに感じる。そんな風に生誕祭を楽しんでいると、人々の歓声と共に本日の主役が現れる。このリーガル帝国の帝王、ヨハネス・イークハイムと、その家族だ。帝王にもなると一夫多妻制を取っており、何人も妻がいる。そして、それぞれの妻の前に子供が立っている。中には、何人も子供がいる妻もいる。そして、こういうのはランキング付けがされており、帝王の横に立つ夫人の前にいる子供がこの帝国の第一王子に当たるわけだが、その表情はどこか暗い。
「あれ?あの第一王子、あまり元気がなさそうだね」
「当然だよ。あの第一王子、キルクスは第三王子との決闘に負けて、王位継承権を失ったんだからね。第三王子のルガリアの剣の腕は、随分と立つみたいだよ」
ポールの疑問にカケルがさらっと答える。その答えを聞いて、もうポールはカケルが何でも知っている事には突っ込まないようにし、改めて舞台に立つ王族を眺める。第一王子のキルクスとは対照的に、第三王子のルガリアは随分と笑顔だ。どうやら剣の腕でルガリアに敵う者はいないらしく、見ればルガリア以外の全員に影がある。歴史ある帝国、だがその歴史というのは多くの犠牲の上にあるのだとポールは感じる。王位継承者以外の男子は全員帝王の引き立て役、そして女子は政略結婚のために使う訳だ。
(だから歴史とか伝統って大嫌いなんだよね)
ポールは内心吐き捨てる。辛い顔をしているキルクスに歩み寄るものは、壇上の上には一人もいない。実の母親ですら、息子の事を軽蔑の目で見ている。現帝王であるヨハネスは、最早ルガリアしか見ていない。まだキルクスは年齢で言えば子供だ。帝国の王子で鳴ければ、夢を見ることだってできるし、走り回ることだってできる。だが、出自だか血統だかが邪魔をして、キルクスを子供から王子に無理やり変えているのだ。きっと王位継承者のルガリアも、なまじ剣の腕が立つせいで、およそ一般的な子供が歩むような道は望めないだろう。ポールは溜息を吐く。
(目の前に困ってる人がいるというのに、俺は無力だから何も出来ない。それがさらにもどかしいんだよね)
名探偵とて万能ではない。ポールも、自分が出来ることと出来ないことの区別くらいはついている。カケルは平気でとんでもないことを思いつくのだが、ポールにはそれも真似出来ない。若干の後味の悪さを残しながら、パレードは幕を閉じる。そして次の日、カケルとポールは招待状に書かれていた場所に向かう。そこは人気のない寂れた漁村だ。栄えている帝都にもこんな場所があるのかと一瞬カケルは驚くが、海に浮かぶ豪華な船に目を奪われる。大きさはそれほどではないが、綺麗な塗装技術と、立派な帆がたなびいている。思わずカケルは感嘆する。
「これがゴールデンローズ号か。リーガル帝国の技術は随分と進歩してるんだね」
思わずポールもそんな感想を述べる。だが、一瞬見惚れてしまっていたカケルは、すぐに思い出す。自分がこのシナリオを知らないという事を。今から起こることはカケルは全く知らないのである。思わず緊張するカケルとポールに、ゴールデンローズ号から初老の紳士がやってくる。執事服が似合っているその紳士は、カケルから招待状を受け取る。
「私はこのゴールデンローズ号の執事を務めます、バロンと申します。失礼ですが、貴方はティラキア王国の王子、リュート・ティラキア様ではないようですが」
「あー、ティラキアⅢ世は父であるティラキアⅡ世を亡くしたばかりで。代わりに俺たちが来たわけです。大丈夫ですか?」
「それは困りましたが、今更どうしようもありません。お二方の乗船を認めましょう。お名前は?」
「ランク1冒険者のカケルです!」
「名探偵のポールだよ!」
「・・・分かりました。カケル様とポール様ですね。他の方はもう乗船されております。どうぞこちらに」
バロンは二人の肩書に一瞬固まるが、すぐに丁寧な対応に戻る。そして二人はゴールデンローズ号に乗り込む。二人が乗り込むと、ゴールデンローズ号は静かに出航する。バロンが二人に向き直り、真剣なまなざしで口を開く。
「後悔の旅路へ出航いたします」
そのバロンの真剣な眼差しに思わずポールとカケルはドキリとする。まるでこれから何かが起きる前触れのように感じたからだ。だが、船は出航した。もう後戻りはできない。これからゴールデンローズ号は世界各地を回る。そこでどんなことが起きるのかは、カケルにも分からない。




