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オノムラニアディ

「話だと?侵入者が何を語る」


ポールの話をザッツバーグは訝しむ。事実、寝室に知らない者がいれば怪しむのは当然と言える。だが、ポールは飄々と答える。


「俺はポール、名探偵だよ。後ろにいるのはこの都市の漁師の親子と、クーナ・ラカールにいたリザードマン達だ。市長と話し合おうと近くまでやってきたら、いきなり市長の屋敷から大きな音がしたんだ。だから急いで駆け付けた」


そう言ってポールは割れた窓ガラスと、仕掛けが作動した鉄球を指さす。それを見てザッツバーグは安心する。


「どうやら防犯装置が起動して侵入者は排除されたようだな」

「そうだね。俺らの取り越し苦労だったわけだけど、折角だから俺らの話を市長に聞いてほしい。このリザードマン達・・・ラカールとポーカルは、先日のリザードマンを処刑した件については許すと言っているよ」

「何だと?それは真か?」

「勿論。その代わり、今回の事件を仕組んだ張本人、つまりティラキアⅡ世には責任を取らせたいんだ」


そう言ってポールは、自らの推理を話す。最初は半信半疑だったザッツバーグも、次第にポールの推理にのめりこんでいく。そして最後まで聞いたころには、歯軋りをする。


「そうか、これで合点がいった。実はリザードマンを処刑した後、ティラキアⅡ世から武器を売ると言われたが、このためか。ポール殿、改めて礼を言う。私は取り返しのつかない選択肢を選ぶところだった」


そう言ってザッツバーグは姿勢を正して、ラカールとポーカルに向き直る。


「ラカール殿とポーカル殿。大変申し訳ない事をした。過程がどうであれ、リザードマンを処刑するという決断を下したのは私だ。どのような処罰でも、受ける覚悟はできている」

「海の神は寛大だ。亡くなったリザードマンの両親は一生許さないだろうから、毎日クーナ・ラカールの方に向かって祈りを捧げるのを忘れるな」

「それにしてもティラキアⅡ世ってやつは許せねぇ!リッツベルとクーナ・ラカールを潰しあわせようなんて、反吐が出る!」


ポーカルが怒りを露にする。冷静になれば、ティラキアⅡ世のしたことが許せなくなったのだ。そんなポーカルを見て、ザッツバーグは頷き、窓から海の方を見る。


「私はこの偉大なる大海原が好きだ。耳をすませば、夜の海にマーメイドの歌声が聞こえてくる。遮るものない海を、魚たちが泳ぎ回り、巨大な亀が悠々と揺蕩う。私はこの大海原、オノムラニアディが子供のころから大好きだった」

「オノムラニアディ?」

「この海の名前で、古代エルフ語で「偉大なるもの」という意味だそうだ。その昔、旅のエルフに教わった」

「古代エルフ語、成程ね」


ザッツバーグの言葉にポールは納得する。恐らくその旅のエルフは、かつての戦友に会いに来たのだろう。森に籠らずに旅をするエルフなど、世界広しと言えども、ポールは一人しか知らない。そして、ポールは古代エルフ語というものに興味を持つ。


(カケルなら何か知っているかも。今度聞いてみよう)


そんなことを考えるが、ポールの思考は一瞬のうちに元に戻る。


「ザッツバーグさんの気持ちは分かったよ。それで、これからの事なんだけど、問題はどうやってティラキアⅡ世に責任を取らせるか、これに尽きると思う。ザッツバーグさんが手を出すのは論外だね。最悪ティラキアとパルメトの戦争が始まっちゃうし」

「そうだな。出来れば私がケジメをつけたいが、そういう訳にもいかない」

「やっぱりここは・・・。あ、これはザッツバーグさんには関係ない話か。ごめんごめん。もう俺たちはいくよ。長居しても意味はないし、ザッツバーグさんの本心を、リザードマン達が聞いたことに意味があるんだ」


そう言ってポールは別れを告げる。ふと、ザッツバーグと、ラカールとポーカルの目が合う。種族は違うが、考えていることは同じだという事が分かっただけでも、前進である。きっとリッツベルとクーナ・ラカールの未来は明るいものであろう。市長の家から撤退するポールの後ろを、シータとカイ、そしてラカールとポーカルがついていく。そんなポールに、カイは興味津々で尋ねる。


「なぁ!ポールは何で市長様にも敬語を使わないんだ?父ちゃんでも、偉い人には敬語を使うぞ」

「俺に敬語が合わないっていうのもあるけど、一番の理由は、敬語を使った手話し合いがうまくいく保証はどこにもないって事かな」

「だが人間は殊更に体裁を気にする生き物だろう」

「そうだぜ。ポール、お前他人にどう思われようが構わないってのか?」


カイの疑問にラカールとポーカルが賛同を示す。そこでポールはフッと笑う。


「俺は敬語なんて使わなくても、相手には俺の言いたいことが伝わるからいいの」

「ふーん、変なの」

「カイも今に分かるよ。敬語の有無なんて・・・いやもっと言えば言葉の有無なんて関係なく、思いが伝わる瞬間ってやつをさ」


そう言ってポールは二ッと笑う。ポールは名探偵だ。それは周りから見ても明確である。だがポールの考えは時々よく分からない。つまりは変人なのだ。そんなポールの相棒は、同じく変人にしか務まらない。ポールは屋敷を出て、屋敷の庭に向かう。そこには血だらけのカケルがいる。


「カケル、無事?」

「死にかけたよ!でも、何とか生きてる」


あの高さから落ちて無事だったのは、カケルが常日頃体力増強のスペルを使っていたことと、後は土壇場でカケルの頭脳がフル回転したからであろう。あの後、瀕死のカケルはすぐに自然の治癒を使うのではなく、まずは手札を見て最善の手を考えたのだ。まずカケルは青の地をプレイしてそこにジャイアントラットを配置し、水の流れのスペルを使った。


〇水の流れ[スペル] コスト青 ☆1

効果・手札を1枚引く

ー止まることなく流れ続けるー


〇青の地[陣地] 体力10 スペル青 ☆1

―青は輪廻―


〇ジャイアントラット[モンスター] コスト3 2/2 ☆1

効果・攻撃時【毒】を与える

―ピギィ―


そして引いてきたカードは緑の地。すぐさまカケルは緑の地をプレイして、ジャイアントラットをそこに移動させ、最後に森の神への感謝を心の中で捧げまくり、自然の治癒を2回使い、生命ポーションを使ったわけである。その結果、ザッツバーグの屋敷の庭に緑と青の魔法陣が現れ、致命傷を負っていたカケルは一命を取り留めたのだった。


〇緑の地[陣地] 体力10 スペル緑 ☆1

―緑は再生―


〇生命ポーション[アイテム] コスト2 ☆2

効果・プレイヤーもしくはモンスター1体の最大HPを+1して、その後HPを3回復する

―原料は命の石―


カケルはざっと過去を回想し、良く生きていたと感涙する。そして、カケルが落ちたことを知りながら、それを放置していた性格の悪いポールに一言物申す。


「ポール、何か言う事は?」

「やっぱり君は盗賊より、モンスター使いがお似合いだね」


そのポールの返しにカケルは激怒する。だが、同時にカケルは気付いている。ポールはわざとカケルを挑発して、皆の意識を自分たちに集めているのだと。いくら夜とはいえ、辺りを見渡せば屋敷の庭の変化に全員気が付く。そうすれば、何があったのだとカケルに質問がある丸野は自明の理だ。ポールは、カケルが不思議な人間だということに気付いている。だから、ここはあえてカケルと派手な言い争いをして、背後にいる4人の意識を自分に向けさせていたのだ。そして、4にんは周りの異変に気付くこともなく、カケルは立ち上がり、そのまま屋敷を後にする。帰り道、ポールはザッツバーグの思いをカケルに伝える。それを聞いて、カケルは考え込む。


(やはり汚れ役は俺になりそうだな・・・)


そう考えるカケルに、ポールが何とはなしに切り出す。


「ねぇ、カケルはさ。命を奪うという事の重大さを知ってるでしょ。俺は、カケルにそんなことしてほしくないんだよ」

「だが、俺がやらないと他に誰がやるって言うんだ?名探偵のポールなら、とっくに結論が出てるんじゃないか。俺がやるのが最善だってことを。それに、個人的にもティラキアⅡ世は許せないんだ。イート国侵攻の際に、グレゴリやルアやクーガを見捨てたアイツだけはな」


その返しはポールの予想通りの返しだ。それだけ聞いて、ポールは満を持して、次の言葉を口にする。


「ねぇカケル。俺はカケルに教えてもらったことがあるんだ」

「なんだ?」

「困ったときの神頼み、ってね・・・!」


そのポールの顔は、カケルに負けず劣らず悪い顔をしている。

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