表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/76

共闘

カケルは言い争うラカールとポーカルの間に、ウォッカ片手に割り込む。


「なんだテメェ!」

「まぁまぁ熱くならずに。二人にはそれぞれ考えがあるようですけど、自分の考えを相手に伝える事と、相手の意見を素直に受け止める事は、とてつもなく難しいんですよ。まずは落ち着いてウォッカでもどうぞ。確かラカールさんは、今日が誕生日でしたよね」

「何故、それを?」

「ガナスの村でガルガンさんと酒を飲んで話していた時に、聞かされました。ガルガンさんは酒は好きではないけれど、「四人四季」の皆さんの事を思い出すために、皆さんが好きだった酒を飲んでたんですよ。その時に誕生日についても聞かされました。随分と仲が良かったんですね」

「パーティーは解散したというのに、全くガルガンらしいな。カケルよ、お主から見ても仲がよさそうに見えるか?」

「はい。俺はもう一つ別のパーティーを知ってますけど、そのパーティーは全員同じ種族なのに、しょっちゅう喧嘩してたそうですよ」


カケルは怒り狂うポーカルをさらりと受け流し、ラカールと談笑する。実際、ポーカルの怒りは理解できる。ポーカルからしてみれば、仲間の仇が何食わぬ顔で自分たちの住処にやってきて、あまつさえ族長と仲良くなっているのだ。面白いはずが無い。だから、カケルもポーカルの怒りを利用することにする。あまり褒められたやり方ではないが、敵の敵は味方という奴だ。


「話は変わりますが、シータとカイは、ティラキア王国に嵌められたんです。犯人は恐らくティラキアⅡ世。これはまだ推理の段階ですし、証拠も当然ない。でも証拠なんてのは、ティラキアⅡ世を脅して吐かせればいい。俺は、何とかしてこのティラキアⅡ世を護衛の騎士から遠ざけたいと思うんですが、どうでしょうか?」


カケルは本題を切り出す。人間とリザードマンは、結局のところ種族で言えば、分かり合うことは無いだろう。だが、人の括りなら話は別だ。必死に頭を下げるシータとカイを見て、ポーカルも思わずたじろぐ。人間のいう事は信用できないが、シータとカイの話なら聞いてみようと思わせたら、賭けは勝ちである。そしてどうやら、カケルは賭けに勝ったようだ。


「話くらいは聞こうと思うが、ポーカルはどうだ?」

「ラカール様がおっしゃるなら」


そこからは、シータの独壇場だった。漁師の仕事の辛さと、稼ぎの悪さ。妻に先立たれて、男手一つで息子を育てる事の大変さを涙ながらに語り、その息子がある日急にいなくなったことの不安を、あらん限りのボキャブラリーで語る。そしてティラキアⅡ世の口車に乗せられて、クーナ・ラカールの領海侵犯をし、更には証言まで捏造したことを認めた。最後まで聞いて、ポーカルは大いに心を打たれたようだ。


「そんな辛い事があったんだな!確かにお前は悪くねぇ、悪いのは王国だ!王国をぶちのめして、俺らの絆を深めよう、兄弟!」


そんなポーカルを見て、ポールは思わずカケルに小声で尋ねる。


「ねぇ、カケル。これじゃまるでポーカルさんを騙してるみたいなんだけど。俺、心が痛いよ。そりゃ確かにリザードマンの協力を得られれば心強いけどさ、ここまでやる?もしティラキアⅡ世が犯人じゃなかったらどうするのさ。それに、どこまでいっても人間とリザードマンは、互いに手を取り合える未来は来ないと思うんだけど」

「ポール。今までの自分の中での常識を全て入れ替えるっていうのは大変なことなんだ。それには大きな刺激が必要だ。それに、確かに人間とリザードマンが手を取り合う未来は、残念ながら来ないだろう。でも、リッツベルとクーナ・ラカールの盟約はまだ消えていない。リッツベルとクーナ・ラカールの仲が以前の様に戻るのは、夢物語じゃないと思う。市長のザッツバーグは恐ろしく優秀だし」


そこまで言ってカケルはチラリとシータとカイを見やる。一見するとリザードマンたちに認められたかのように見える二人だが、ラカールは賢い。シータが殺したと言っても過言ではないリザードマン。その両親には一切シータの存在を伝えていないのだ。きっとシータはこれから、無実のリザードマンを殺したという罪の十字架を一生背負って生きていくのだろう。そして、死んだリザードマンの両親も、シータを一生許さないのだろう。命を奪うというのは、そういう事だ。


(でも、それでも。シータが一人で背負うには重すぎる十字架を、少しでも軽減できれば、俺が決闘で頑張った意味はある)


そう気持ちを切り替え、カケルは前を向く。一時的だがシータとカイ、そしてラカールとポーカルは思いを一つにしたのだ。カケル達がいるクーナ・ラカールが、揺れ動く。その自信のような生命の鼓動を感じ取り、ここに来てから笑顔を見せなかったシータとカイが、ほんの少し笑顔を見せる。人生とは数えきれない失敗や過ちがつきものだ。だが、人というのは過去の失敗や過ちを認め、そこから成長できる生き物だ。数十年や数百年では人間という種は進化しない。だが、生きている間に成長できるのも、また人間という種族だ。カケル達はラカールとポーカルを引き連れて、海上都市リッツベルに戻る。帰りの船に乗り、最後にカケルは今一度クーナ・ラカールを振り返る。リザードマンを筆頭に、多くの命を育む巨大な亀、クーナ・ラカール。召喚者がこの世を去っても、この亀は悠久の年月を生き続けてきたのだ。


「大自然というのは美しいな」


思わずポツリと漏れ出たその言葉は、カケルの本心だ。大自然は雄弁に語る。リザードマン達が乱獲をしないお陰で魚が泳ぎまわり、豊かな海が保たれている。だが、自然の語りを聞き取れる人間が少ない事も、また事実だ。リッツベルでは工業排水の垂れ流しと乱獲により、周辺に魚がいなくなっている。リッツベルの周辺の海は赤く染まっている。工業排水の垂れ流しが原因で、赤潮が起きているだ。


(恐らくこのことに気付いているのは、ザッツバーグくらいのものだろう。何とかザッツバーグと話し合いをしないと)


カケルは考える。これからのリッツベルとクーナ・ラカール、ひいては大海原の未来のために、自分が何を出来るのか、を。カケルは最近、自分がなぜここに居るのかという事の答えを探し求めている。地球にいたころのカケルは自堕落な人間だった。何不自由なく暮らせる幸せの上に胡坐をかき、過去も知らず人間の犯した過ちも知らず。とうに戻らない自然の事など知るはずもなく。ただ、VRゲームにはまっていた。そしてそんな幸せな生活すら、些細なことで嫌気がさしたのか、この世界にやってきた。果たして自分は何のためにいるのか、そして自称神であるユナテクトはこんなクエストを表示させてカケルに何をさせたいのか。そのことを毎日考えているのだ。それはカケルの成長であろう。カケル本人は気付いていないが、この世界にやってきてから、カケルは随分と変わったのだ。カケルはクエストをチラリと見やる。


(「海鳴り」の破壊か。このクエストをやるつもりはない。だが、このままでは海が破壊されて「海鳴り」が死ぬのも時間の問題だ。つまり俺がすべきことは、この海を守り抜くこと)


カケルは一つの結論を出す。そうこうしているうちに、船はリッツベルに到着する。ひとまず人間に見つからない様に、ラカールとポーカルはシータのボロ小屋に隠れることにする。


「悪い、カイ。リザードマン達の世話を頼む」

「父ちゃんは?」

「俺はやることがある」


そう言ってシータは家の外に出る。気になったカケルが後をついていくと、シータが、クーナ・ラカールがある方に向かって、石を積み上げているところだった。それを見て、カケルは全てを悟る。シータは石を積み上げると、しっかりと手を合わせる。


「名前も知らないし、今はこれくらいのことしか出来なくて申し訳ない。ティラキアⅡ世に罪を償わせたら、俺も自分の罪を償う事にする。だから、今だけは俺の事を見守っていてほしい」


そんなシータを、カケルは無言で見つめる。シータが言う所の罪の償い方は、つまるところそういう事だろう。命を奪うというのは、そういう事だ。だが、シータが罪を償えば、カイは一人で取り残されることになる。


(でもシータが選んだ道なら、今ここで俺がとやかくいうのは無粋か)


そう結論付け、カケルはボロ小屋に戻る。人の考えというのはそれぞれ違うからこそ、この世界はままならないものである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ