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バカ騒ぎ

王都グーンラキアに侵攻した魔王軍を、「四人四季」を筆頭とする人間たちが打ち払った後。ティラキアⅠ世はテト以外の「四人四季」のメンバーを全員国外追放とした。テトは最後まで納得がいっていなかったようだが、アルトリアもガルガンもラカールも、皆笑って王都を出ていった。当時は共鳴石という魔道具の仕組みもまだよくわかっていなかった時代だ。当然、離れた人と連絡を取り合う手段などなく、四人は次第に疎遠になった。


「これもまた運命か・・・」


そう言ってラカールはクーナ・ラカールから大海原を一望する。魔王軍を打ち破ったというのに、リザードマンの住処は年々減るばかり。遂には、巨大な亀の背中に逃げるという選択肢を選ぶことになったのだ。だが、これは運がよかったとも言える。巨大な亀を操っていた男は、亜人への理解があり、リザードマンたちを歓迎した。男は、異質な奴だった。生きている筈なのに捉えどころのない実態、その癖のちにクーナ・ラカールと呼ばれる巨大亀を操る技術、そして亜人を警戒しないという酔狂ぶり。ラカールはその男と毎日のように酒を飲み明かしたが、命というのは平等ではない。遂にはその男までもが死に、ラカールはこの広大な世界に一人取り残されたかのように感じられた。そんなとき、ラカールが合いたかった人物が、クーナ・ラカールにやってくる。


「ラカール、久しぶり!なんだよ、だいぶ見ない間に、すっかり戦神の覇気が消えたんじゃないのか?」

「テト、お主は変わらないな。横にいるのは、前に言っていた孤児か。将来はテト以上の大物になると豪語していたが、成程確かに。この子は強い目をしている。名前は?」

「俺はギドだ!師匠の一番弟子だ!」

「一番弟子も何も、俺はギドしか弟子を取ってないんだがな」


ギドの言葉にテトは愉快に笑う。テトの拾い物、それは一人の孤児だった。いくら英雄と崇められても、この世界を丸ごと変えることなど出来るわけがない。結局テトが出来たのは、孤児を1人救ったことだけ。だが、救われたギドからしてみれば、それがどれほど嬉しかっただろうか。ギドは咆える。


「俺はいつか師匠の様な英雄になる。魔王も倒して、ティラキア王国も変えてみせるんだ!イート国もパルメト国も、悪の手先であるリーガル帝国も、全部倒すんだ」

「テト、お主は一体何を教えているのだ」


ギドのその言葉にラカールは思わず頭をおさえる。だがテトは楽観的だ。


「子供なんてこんなもんだろ。大方、ティラキア王国の広報部は、国内への洗脳だけは得意だからな。だがいつか、ギドも気付くさ。それが成長ってもんだろ?」


テトは、ギドの妄言を若気の至りだと笑い飛ばす。事実若気の至りなのだが。リーガル帝国というのは、ティラキア王国が一方的にライバルだと認識している国だ。ティラキア王国は新興国家で、リーガル帝国の様な、歴史のある国を良く思っていない。そこでティラキア王国は、不老不死の実験などという不確かな技術への研究を始めた。だがそれがうまくいくはずもない。そして最後にティラキア王国がとった手段は、魔王や周辺国家や亜人を仮想敵とすることで、国民の団結を図るやり方だった。


「テト、前も言ったがティラキア王国の未来は暗い。奴らは事あるごとに愛国だと叫ぶが、その実ティラキア王国はどんどん孤立している。そしてティラキア王国は今や無法地帯だ。正しく愛国心はならず者の最後の拠り所だ。テト、悪い事は言わない。ギドと一緒に国外に逃げるんだ。最早「四人四季」も解散した。クーガも立場上厳しいし、お主の横に並び立つ者はいないのだ」

「あー、ラカール。忠告はありがたいんだけどさ、俺は一度くらいはティラキア王国を信じてみようかなって思ったんだよ。そりゃティラキアⅠ世は魔王軍との戦争の時に逃げ出した。それに戦争で戦った魔王軍には妙に亜人が多かった。もしかしたら長年迫害を受けてきた亜人たちが、立ち上がったのかもしれない。それなら、ティラキア王国は自業自得だ。でも、真相はもっと別かもしれない。分からないから、俺は一つの道を信じてみることにするんだよ」

「だが・・・」

「俺が死んだら、後は分かるだろ?こんなことを頼めるのはお前くらいだよ。ガルガンはもう年だし、アルトリアは一匹狼だし。ラカール、お前はいつだって「四人四季」の要石だった。これからも頼むよ、友からの願いだ」


テトの言いたいことは即ち、自らが囮となってティラキア王国の行く末を見守るという事だ。もしテトが死ぬようなことがあれば、ティラキア王国は英雄を軽視して、自分たちの命だけを考えているという事になる。ラカールは断ろうとするが、テトの強い眼差しを見て、ため息をつく。


「全く・・・。お主は昔から頑固な奴だったな」

「助かるよ」

「もしお主が死んだとして、その先はどうする?その弟子が逃げる先も用意しているのか?」

「俺が死んだらギドにはパルメトに行くように言っている」

「そうか」


そこで、会話は終わる。それからは、テトとラカールが久しぶりの再会を祝して、日が昇るまで酒を飲み明かす。傍から見ればただのバカ騒ぎであるが、バカ騒ぎが出来るのがどれほど恵まれているかという事を、冒険者は知っている。ラカールがテトにビールを注ぎ、テトがラカールにウォッカを注ぐ。そうやって朝まで酒を飲み、翌日テトは頭をおさえながらティラキア王国に帰っていった。後日、イート国侵攻の際に、ティラキアⅡ世は逃げ出した。グレゴリやルア、そしてテトと言った王国の主力が死んだのをラカールが知ったのは、少し後の事だった。


_____


「カケルさん、ありがとう!本当に助かった!」

「いやー、流石カケル。でもちょっとヒヤッとしたね。こんな力の強弱で、物事の真偽なんてはかれるはずが無いのに。決闘の儀はリザードマンのしきたりだって言うけどさ、正直時代遅れだと思うよ」


決闘の儀が終わって、汗だくになったカケルにシータとポールが駆け寄る。カイはと言えば、カケルとラカールの激戦を見て、興奮冷めやらぬ様子だ。そしてポールが、リザードマンの古いしきたりを非合理的だと一蹴する。そのポールらしい考え方にカケルは苦笑するが、すぐにポールの考えに同調する。


「確かにそうだね。でも、そう考えてるのは俺らだけじゃないと思うよ?」


そう言ってカケルは激しく言い争っているラカールとポーカルを指さす。どうやらポーカルが今の決闘に納得がいっていない様だ。


「ラカール様、今の決闘はなんだ!神聖な決闘であるはずなのに、あの人間は小細工ばかりしかけやがった。極めつけは最後の、ラカール様の精神を揺さぶるための戯言!剣と盾で語るべき闘技場で、あの人間はあろうことか、人の死の話を持ち出した!俺から見ても、アイツの武力は大したことは無かった。あのまま行けば、ラカール様は確実に勝っていたんだ!」

「ポーカル。それは我の心配か?それともリザードマンのしきたりの心配か?」

「っ。当然ラカール様の心配です!」

「ならば心配はいらない。確かに、あの人間・・・カケルと言ったか。カケルは武力では我らには到底敵わん。必死にやっても、我に一太刀も浴びせられなかったのだからな」

「では・・・!」

「だが、あのカケルだけではなく、ほとんどの人間なら、我は一対一で負ける気はない。しかし、実際は我らリザードマンの領地は減り続けるばかり。不意打ちを食らって卑怯だと罵ってみるか?相手の策にはまって、正々堂々勝負しろと喚いてみるか?分かるだろう、個人の戦力だけで競い合う時代は終わったのだ」


そのラカールの言葉に、ポーカルは返す言葉もないようで、ただ悔しそうに押し黙る。リザードマンは伝統を重んじ、個人の戦力こそすべてだと考える。だからこそ、族長を決めるにしても、物事の真偽をはかるにも、決闘という手段が用いられる。だが、いつまでも伝統に縛り付けられていては、いつか大事なモノを見失う。ラカールは、「四人四季」の一員として世界を見てきたので、そのことを知っているのだ。そんな様子を見て、カケルはいつも持ち歩いている袋からウォッカを取り出す。


「やっぱり持ってきてよかった」

「カケル、まさか・・・」

「ラカールさんとも酒を飲まないと。酒を飲むことで、友情が生まれるんだ」

「本当かな?」


ウォッカを片手に、カケルは上機嫌にラカールとポーカルに近づく。勿論、シータとカイ、そしてポールも一緒に連れていくのを忘れずに、だ。それにただ酒を飲むのが目的ではない。


(いくら決闘の儀でシータとカイの言い分を認めたとしても、リザードマンの心の中ではまだしこりがあるはずだ。それを取り除かないといけない。ティラキアⅡ世は危険だ。でも今のままじゃティラキアⅡ世に喧嘩を売る事なんて出来やしない。だから、戦力が必要だ)


カケルは頭の中でこれからの構想を思い描く。シータとカイは不安そうだが、ポールはカケルを見つめて、無言でついていく。

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