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カケル達一行が機械部品を回収しているとき、急に入口の方から大きな声が聞こえてくる。


「おいおい、なんだコイツは。ちっ、全員やられてるじゃねぇか、使えねぇ奴らだ。おい、こいつ等をやったのはお前らか?」


その言葉にカケル達が振り返ると、そこには豪華な服に身を包んだ神経質そうな男と、その背後には金ぴかの趣味の悪いレーザー砲、そして背丈が2倍ほどある大きなゾンビが立っている。その見た目にカケルは見覚えがある。


〇自走型殲滅兵器・ギャラ[モンスター] コスト10 10/1 ☆5

効果・このモンスターはいかなるダメージも受けず、いかなるカードの効果も受けない。一回攻撃すると、このカードを墓地に送る

ーその時、世界が震えた気がするー


〇死なずのバックリン[モンスター] コスト6 2/8 ☆5

効果・死亡時、最大HPー2の状態で「死なずのバックリン」を蘇生させる

ー無機質だが神秘の温もりを感じるー


だがカケルが知っているカードたちと微妙に違う部分がある。ギャラはこんなに趣味は悪くなかったし、バックリンもこれほどまでに大きくはなかった。恐らく改造されているとカケルは直感し、その改造を施した人物も目の前にいる神経質そうな男であろう。横を見ればルルが絶句している。


「兄さん・・・?何でここに。国外に逃げたのでは?」

「ハハハッ!俺がこんなお宝を前にして国外に行くわけないだろう。ルルもヒース家の人間なら分かるはずだ。ここに眠っている宝の価値を、誰よりも!このアイギス様の頭脳をもってすれば、この宝の山をさらに有効活用できる。見ろ、俺の最高傑作たちを。度重なる技術研究と人体実験の末に辿り着いた、生物の完成形だ。お前ならこいつらの凄さが分かるだろう、ルル。こっちに来い」


そう言ってアイギスと名乗った男はルルを手招きする。どうやらアイギスはヒース家の長男のようで、ルルの兄にあたるようだ。アイギスが言った、技術研究と人体実験というワードは、ここに転がっているダンジョン荒らし達の死体を見れば大方察しはつく。不老不死の技術の研究には、ゴーレムとエルフが使われていた。ゴーレムは解体され、構造を分析する。エルフは人体実験の道具となった。アイギスが最高傑作と謳ったギャラとバックリンは、それらの犠牲の上に生み出されたモンスター達なのだ。アイギスの狂気から遠ざかるようにルルが後ずさり、そんなルルを庇う様にカケルが前に立つ。アイギスは急に現れたカケルに嫌悪感を示す。


「なんだお前は、俺とルルの話を邪魔するなよ。冒険者には難しい話だから分からんだろ、引っ込んでろ」

「お前は、同じだ。自らを魔王と名乗る、あのクソッタレと。自分が天才か何かだと勘違いして、平気で禁忌を冒す。命を弄びやがって、ぶち殺す」


そう言ってカケルは「地喰い」の剣を構える。その構えを見て、思わずアイギスは、知らず知らずのうちにバックリンの後ろに隠れている。恐怖に中てられたと言えばいいのだろうか。カケルは実力で言えば、この中では大したことは無い。だがディープワールドカードゲームの世界を深く知っているカケルの口から洩れる本音は、何物をも凌駕するのだ。しかしバックリンの裏に隠れたアイギスは途端に高笑いをする。


「ハハハッ!バックリンは最強の盾だ。これで俺が死ぬことはもうない。そしてギャラは最強の矛だ。今から始まるのは蹂躙だ。俺の最高傑作たちを前にして、お前らは何も出来ずに死に晒すんだよ!残念だよルル。お前はもう少し賢いと思っていたが、どうやらお前の事を買いかぶっていたようだ!」


心底残念そうにアイギスが叫ぶ。そしてアイギスが叫び終わると同時に、自走型殲滅兵器・ギャラの銃口が青く光り輝く。反射的にギドが矢を放つが、その狙いすました矢をバックリンが受け止める。そしてギドが舌打ちすると同時に、ギャラの銃口からレーザー砲が放たれる。今しがた盾になったバックリンもろとも。


「なっ!?」


バックリンもろともレーザー砲を打つのは予想外だったのか一瞬ギドの動きが止まるが、瞬時にカケルとトゥグリが盾になり、レーザー砲を受け止める。いくら体力がある二人と言えども、ギャラのレーザー砲をまともに受けて、無事で済むはずが無い。二人は派手に吹き飛ばされて壁に激突し、口から血を吐き出す。


「トゥグリさん!」


それを見てルルが悲痛な叫び声をあげ、銃を抜き取り、アイギスに向かって構える。だがその手は震えており、実の兄を撃つという事に抵抗があるのが、容易に見て取れる。見れば歯はガチガチとなり、体中から汗が溢れている。そのルルの様を見て、アイギスが笑う。


「ルル、慣れないことはするもんじゃない。俺たち選ばれた人間は、自ら手を汚す必要などないのだ。ただ駒たちを適切に扱えばいい。そうだろう?」


そう言ってアイギスはニヤリと笑う。見れば、一回レーザー砲を撃てば壊れる筈のギャラが何事もなくチャージをはじめ、バックリンも既に復活している。どうやらカケルが知っているモンスターではない様だ。アイギスは随分と実験を繰り返してきたのだろう。その結果がこの最高傑作たち、という訳だ。だがここにいる冒険者たちはそんなものを意に介することもなく、武器を構える。そしてバルコがアイギスをあざ笑う。


「選ばれた人間は、ただ駒を扱うだけ、か。大層なご高説だなぁ。魔王軍との戦争も、イート国との戦争も、お前らは何もしてねぇじゃねぇか。最前線で命を張って戦ったのは俺たち冒険者や騎士団、そして民兵たちだ」

「あぁ、お前らは使い勝手のいい駒だよ!勝手に戦ってくれて、故郷のために命を張ってくれる!英雄という勲章さえ与えれば満足だろ?」

「満足なわけねぇだろ!戦いたくて戦ってんじゃねぇ!殺したくて殺してんじゃんねぇ!だが俺らが動かねぇと、もっと多くの人が死ぬ。お前らの尻拭いをしてやってんだよ!それをテメェら、折角助かった命をこんなことに使いやがって、戦争から何を学んできた!」


アイギスの身勝手な言い分にンバルコの怒りが爆発する。戦争の始まりは、決まって身勝手な理由からだ。そして割を食うのは、決まってお人好しな奴らだ。この世界は人々の心の醜さが具現化して、理不尽に埋め尽くされている。イート国との戦争を通して、バルコたちは何のために剣を振っているのかという疑念にかられた。それは奇しくも、かつてクーガが抱いた感情と同じもの。イート国の騎士団は、魔王の命令でやむなく前線に立たされた者達だ。死を前にして恐怖で顔を歪める彼らを見て、果たして本当に正義は自分たちにあるのかという葛藤も生まれた。だが正義があると自己暗示をかけないことには、バルコたちの心が先に壊れていた。戦争とは、人間が考えた究極の蟲毒である。だがそんなバルコの怒りもアイギスには届かない。


「そんな悠長に話していていいのか?ほら、もうギャラのエネルギーが溜まった。バカな奴だ、戦場は殺すか殺されるかの世界なのになぁ!」

「うーん、戦場を知らない奴が戦場を語るなんて、見ていて滑稽だね」


アイギスの笑いを、ポールが一蹴する。そのポールの憮然とした態度に腹が立ったのか、アイギスは問答無用でギャラに命令を出し、レーザー砲を発射させようとする。だがその瞬間、また矢が飛んでくる。レーザー砲を発車しようとエネルギーを溜めた銃口に矢が突き刺されば、大惨事となるだろう。しかし、これもバックリンに防がれる。


「学習しないな!」


アイギスが勝ち誇るが、今度はアイギス目掛けて矢が放たれる。それもバックリンが受けたその瞬間、今度はククリナイフ、黒槍、使い古された無骨な直剣が次々とアイギス目掛けて投げられる。それに驚いたアイギスは慌ててバックリンの背後に隠れて一息つくが、その間に守るものがいなくなったギャラに戦士とバルコが斬りかかる。哀れギャラは、瞬時にスクラップにされる。


「さて、残るは無能な指揮官と、図体だけでかいゾンビか」


そう言ってカケルがゆっくりと起き上がる。バルコが話し相手になって時間稼ぎをしていた間に、自然の治癒を使って回復した様だ。見ればトゥグリも何事もなく起き上がっている。それを見て思わずアイギスはパクパクと必死に口を動かすが、恐怖からか何も言葉を発せない。自らの負けを悟ったが、目の前の冒険者たちが己を見逃してくれるほど甘くないと、理解したのかもしれない。そこからは一方的な蹂躙だった。バックリンは何度も死に、また生き返るを繰り返す。何回そうしただろうか、遂に復活できなくなったバックリンは、灰になって消え去る。そして、機械工場の隅っこで震えるアイギスを冒険者が囲んだその時だった。


「皆さん、待ってください」


ルルが冒険者たちを止めにかかる。冒険者たちは怪訝な顔をして、反面アイギスは心底嬉しそうになる。


「おぉルル、俺の弟よ!流石にお前は賢い!お前からこいつ等を止めるように、説得してくれ!こいつらは俺の価値を理解してないんだ!」


この期に及んで、まだ自分は特別だと錯覚しているアイギスに冒険者たちは冷めた目を向ける。そしてそれはルルも同じであった。弟に冷めた目を向けられ、アイギスは一瞬驚くが、すぐにルルの銃が自分に向けられていることに気付き、慌ててルルの説得に入る。


「ま、待てルル!俺はお前の兄だぞ、銃を向けるな!それにお前に、引き金を引くだけの度胸がないのは知っているんだぞ!お前には無理だ!」


そのアイギスの命乞いを聞いて、ルルは大きく息を吸い込む。まるで覚悟を決めるように。そして躊躇うことなく、静かに引き金を引く。撃鉄がはねて、洞窟に赤い花が咲く。驚くほど静かに、一人の人生に終止符が打たれる。実の兄を殺したルルは、未だに震える手を見つめて、ポツリと呟く。


「これが、人を殺すという事ですか」

「おいルル、何もお前がとどめを刺す必要はなかったんだぜ?」


ギドがルルを気遣うが、ルルは首を振って、きっぱりと答える。


「いえ、僕が終止符を打つべきなんです。辛い役回りだけ、皆さんに背負わせるわけにはいきませんから。僕も皆さんの側に立ちたいんです。トゥグリさん、僕もすぐにそっち側に行きますから」


ルルの言葉をトゥグリは首をかしげて受け流す。か弱い少年の初めての告白は通じなかったが、それでもルルの心が変わるきっかけになったのは、ここで述べるまでもない。兄殺しという罪を背負って、ルルは一回り成長したのだ。

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