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パンドラの箱

「確か川の近くだったはずなんだが」


そう言いながら戦士が機械工場の場所を探す。いくら獣の通り道という目印があっても、未知の森を捜索するのは大変苦労するものだ。当時の冒険者たちもしらみつぶしに捜索して、ようやく機械工場を探し当てたのだ。それに隠れている方が、盗賊達にも見つからないというものだ。そんな風に探し回っていると、別の冒険者に出会う事も多々あるもので。


「あら、バルコじゃない?何してるの、こんなところで」

「げっ、フランシスカ。また一人で未知の森を彷徨い歩いてるのか。ここは危険なところだぞ、いい加減パーティーを組んだらどうだ?」

「仕方ないじゃない、私に合う仲間がいないのよ。でもバルコなら大歓迎。それにバルコ並みに強いギドもいるじゃない。そこまで言うなら、アンタたちについていってあげてもいいわよ?」


半ば強引にそのフランシスカという冒険者がパーティーに加わろうとするが、バルコもフランシスカの安全を考慮した場合断るわけにもいかず、仕方なく承諾する。フランシスカという冒険者は、30代ほどの女性で、無謀にも少しのポーションとククリナイフ一本で未知の森を歩いていたようだ。思わずルルがカケルに問う。


「カケルさん、冒険者の中にはアサシンっていう職業があって、非常に軽装だとは聞いてたんですが、あんな軽装で大丈夫なんですか?」


そう言ってルルはフランシスカとトゥグリを交互に見る。確かにフランシスカは軽装だが、「地喰い」の鎧でガチガチに守りを固めたトゥグリと比較すること自体がナンセンスだと感じ、カケルは苦笑する。そしてカケルは、自分の格好も中々に浮いてると感じる。


(武器は「地喰い」の剣があるから申し分ないけど、よく考えたら防具が心もとないな。今まで生き残れたのはモンスターがいたからだけど、ルピーが入ったら防具も考えないと)


そしてカケルは頭をおさえる。冒険者というのは出費が馬鹿にならない職業だ。そんな風にカケルが考え込んでいると、前方からウッドゴーレムが現れ、腕をフランシスカ目掛けて振り下ろす。


「危ない!」


それを見てルルが慌てて銃を構えるが、フランシスカはルルが銃を構えるよりも早く動く。ウッドゴーレムの振り下ろしを余裕をもって回避し、そのままククリナイフで振り下ろされた腕を切り落とす。あまりの鮮やかさにルルが呆気に取られていると、無防備なウッドゴーレムに向かってトゥグリが剣を振り下ろし、ウッドゴーレムの巨体を真っ二つにする。ポカンとするルルにマウリが話しかける。


「な、冒険者ってのは見た目で強さを判断しちゃいけないんだよ」


その先頭の様子を見て、今まで黙っていたポールが口を開く。


「フランシスカって強いんだね。何でそんなに強いのに、一人なの?」


丸腰のポールが冒険者にそんなことを聞くものだから、思わずギドがギョッとして、カケルに尋ねる。


「おいカケル、あのポールってやつは死にたがりか?」

「いやポールは探偵っていう職業で、好奇心が有り余っているんだ。出来れば気分を悪くせずに、質問に答えてやってほしい。餌さえ与えればポールは満足して黙るから」


その説明に思わずポールは苦笑するが、訂正はしない。どうやらカケルの認識で概ね合っているようだ。やれやれとばかりにフランシスカがポールの質問に答える。


「前のパーティーにいた時は楽しかったわぁ。でもある日魔法使いに、二刀流じゃない盗賊なんている価値がない、って言われてね。モンスター使いは私をフォローしてくれたんだけど、私も怒っちゃってねぇ。次パーティーを組む時は、ちゃんと見定めないといけないって学んだのよ」


はぁ、とフランシスカは溜息をつく。パーティーのメンバーは考えて選ばないといけない。特にそれが、自分の背中を預けるとなれば言うまでもないだろう。誰なら信じられるか、それは人それぞれだろう。フランシスカの話を聞いてルルが拳を握りしめている。それを偶然見たカケルが思わず心の中でルルに合掌する。


(叶わぬ恋心ほど悲しいものはない。まだ若いんだ、めげないでくれ)


そんないざこざがありながら、一同は機械工場に到着する。だがすぐに戦士が異変に気付く。


「まて、入り口に向かって多くの足跡が続いている。恐らくダンジョン荒らしだ」


その言葉に一堂に緊張が走る。ダンジョン荒らしとは文字通り、他人が攻略したダンジョンを荒らし、戦利品だけ奪い去っていく輩のことだ。今回のダンジョンはグレゴリが作った陣地なので、ダンジョン制覇時の戦利品は現れなかっただろうが、それでも機械工場なので機械部品は沢山転がっている。機械部品の価値を知っているものなら、ここは宝物庫に見えるだろう。


「気を付けて内部に入るぞ」


バルコのその言葉に全員が頷く。そして慎重に機械工場の中に入り、遠くの方に人影が動いた気がするとカケルが感じた時には、すでにギドが矢を放っていた。


「ぐぁっ!」


小さい悲鳴が聞こえると同時に、ダンジョン荒らし達も襲撃だと悟るが、その時には既にフランシスカ、バルコ、トゥグリが走り出している。音もたてずフランシスカがククリナイフをふり、バルコが黒槍と日本刀を巧みに操る。ダンジョン荒らし達は次々にその数を減らすが、黙っているばかりではなく、反撃を試みる。だがその反撃も、すべからくトゥグリに無効化される。戦いは一方的と言って差し支えない。終わってみれば血の海に沈むダンジョン荒らし達を、一同が見下ろしている。


「うっ、これが殺し合い・・・」


正確に言えばルルだけは目の前の惨状を見て口を押さえている。子供には刺激が強かったようだ。だが泣き言ばかりも言ってられず、何とかルルが慣れてきたその時、ルルはあることに気付く。


「あれ?このダンジョン荒らし達がつけている家紋、ヒース家のだ」


その言葉にルルを除く全員が驚くが、すぐに冷静になったギドが新たな気付きを得る。


「ちょっと待て、一部のやつらが着ている服も見たことがあるぞ。イート国のやつらが着ていた服だ」

「イート国とヒース家が手を組んでいたのかな?確かにルルの話だと、技術研究の名目でヒース家はイート国と繋がってたみたいだけど、何でこんなところにいるんだ?」

「それはカケルが一番よく分かってるんじゃない?」


カケルの疑問にポールが答える。カケルは意味が分からないとばかりに首をひねるが、ポールがカケルの持つ袋を指さし、それでようやく理解が及ぶ。ポールが自らの推理を述べる。


「そう、イート国と言えば不老不死の技術研究が盛んだったよね。確かゴーレムやエルフの構造を研究して、不死身の肉体を手に入れるっていう研究。それに機械工場って、ゴーレムの装備交換にも使われるんだよね?恐らく葬儀を交換しようとやってきたマシーンゴーレムを待ち伏せして、捕獲してたんだと思うよ」


ポールが言い終わると同時に入口に一体のマシーンゴーレムが現れる。それを見てギドが弓を構えるが、それよりも早くカケルがマシーンゴーレムに駆け寄る。皆が驚く中、カケルは袋の中から、いつの日か野生のマシーンゴーレムから受け取った古いパーツを取り出す。カケルはあの時の事を鮮明に覚えていたのだ。


「おー、久しぶり。君から受け取ったこのパーツ、大事にとっておいたよ。俺のこと覚えてる?」


カケルの言葉に、マシーンゴーレムは当然とばかりに胸に手を当てる。その光景を見てルルが驚きのあまり腰を抜かす。だが外野の事など気にも留めてない様で、カケルはマシーンゴーレムと楽しく会話する。


「君の友達は随分とこのダンジョン荒らし達にやられたみたいだ。彼らを救えなかったのは申し訳ないけど、君だけは無事でよかった。もしよければ、また古い装備をくれないかな?」


そう言いながらカケルは自然の治癒をマシーンゴーレムにかける。するとマシーンゴーレムもそれが嬉しいのか両手を上げ、何の躊躇いもなくカケルに古いパーツを手渡す。それを受け取ったカケルは満面の笑みを浮かべ今一度マシーンゴーレムにお礼を告げ、手を振ってマシーンゴーレムと別れる。そこでようやく、皆が意識を取り戻す。


「コイツ、デタラメだろ・・・」


ギドの呟きが全員の心情を表している。だがカケルは大丈夫だと感じたからマシーンゴーレムに話しかけたのだ。マシーンゴーレムは賢いモンスターなので、こちらから手を出さない限り襲われることはない。それに色の日からも、マシーンゴーレムの心は穏やかだとカケルは分かっていたのだ。かくしてカケルは懐かしい出会いに心安らぐのだった。当初の予定通りカケルは無事機械部品を得ることに成功したが、機械部品の山を見つめて、ルルが歓喜の声を上げる。


「凄いです、皆さん。ここは宝の山ですよ。これほどまでの機械部品があれば、アンドロイドを作り出すことだって可能かもしれないです」

「アンドロイド?」

「マシーンゴーレムのような機械を、人間が意のままに操る時代が来るかもしれないってことですよ」


余程興奮しているのか、アンドロイドという言葉を知らないバルコの疑問に答える事無く、ルルは未来を夢見る。だがそこでカケルは声には出さずに、心の仲だけで苦言を呈す。


(人間が楽を選んだ結果が、必ずしも幸せとは限らない。高望みは自らの破滅を招くこともあるんだ)


カケルは地球の事を思い出す。娯楽のために開発されたVR技術は、いつしか無人兵器のために使われた。ライオンの残虐さはその牙に現れるが、人間の残虐さは表面化されない。いつだって技術とは、開発者の思いよりも、使い手の欲望が如実に現れるものなのだ。不老不死の技術とは、まさしくパンドラの箱であろう。人は目に見えぬものを無性に欲しがり、その結果破滅する。そう、このダンジョン荒らし達の様に。

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