表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/76

冒険者の徒然なる日々

「勢いでガナスの村を飛び出したけど、俺ルピー無いんだよね」


ガナスの村を出てから少しして、ポールが衝撃の事実をカケルに告げる。それを受けてカケルは一瞬固まり、すぐに袋からルピーを取り出し数を数える。見れば、ユタの村から餞別として受け取ったルピーのほとんどは、「星落とし」と「雨降らし」のスクロールに消えて、残ったなけなしのルピーもアレキサンドライトに消えていった。つまり、カケルの所持金は雀の涙ほどである。手元のルピーを見て、カケルは笑顔で答える。


「俺たち相思相愛だね」

「このままじゃ行き倒れだよ!」


カケルのボケにポールが冷静に突っ込む。かたやモンスターを一匹も従えていないモンスター使い、かたや頭は良いが、事件が起きず燻っている名探偵。ルピーがないのは必然である。そんな行く当てのない二人は、何をするにしてもルピーが必要だという結論に至る。そしてカケルが悪い顔をしてこう切り出す。


「ポール、今ティラキア王国の王都では工業革命が起きていて、機械部品の需要が高まっているのは知ってる?」

「あー、そう言えばイート国との戦争に勝って、勢いづいてるんだっけ?逃げ出したはずのティラキアⅠ世が平気な顔で帰ってきたけど、冒険者や王都の住民からの信用を無くして、王都の住民は自分たちで頑張ることを覚えた。その先駆けが工業革命だよね」

「そう、例えばマシーンゴーレムが持つレーザー砲の技術を研究すれば、これからの戦争は180度変わる。王都の住民は国王頼りの生活を見直したんだ。それで貴族離れも起きて、イート国に武器を横流ししていた貴族たちを吊し上げたりもしたんだよ。革命が起きて、混沌の時代を乗り切るために工業革命が起きたのは、歴史の必然だね」


カケルがそこまで言ったところで、ポールはカケルの意図を汲み取る。


「あ、分かった。カケルが持ってたマシーンゴーレムのパーツを売るんでしょ?」

「売らないよ!あれは俺の宝物なの。それに俺には機械部品が山ほど眠っている場所を知ってるんだ」


そう言ってカケルはニヤリと笑う。前にカケルが王都の市場で偶然見かけた露天商。冒険者たちに怒られていたが、彼は機械工場で見つけた部品を、我が物顔で売っていた。つまり、グレゴリがプレイした機械工場には、まだ山ほどお宝が眠っているのだ。そして幸いにも、カケルは王都の冒険者に伝手がある。カケルが本気で頼み込めば機械部品を少しは譲ってもらえるだろうという寸法だ。イート国との戦争で自分が何のために戦っているか見失いかけていたカケルだが、ガナスの村を救ったことによって自信が少し復活した様だ。


(魔王の正体はまだ分からない。でも明日はやってくるし、金は消えていく。これは必要なことなんだ!)


カケルはそう自分に言い聞かせる。空の上から神が嘆いている気がするが、魔王を倒すことだけが人生ではない。ちょっとばかり自分自身に正直な生き方だが、こんな回り道もカケルの人生の一部なのだ。だがそこで待ったがかかる。


「ちょっと待ちなよカケル。今の話だと、君は機械工場の場所が分からないんじゃないかな?君は機械工場じゃなく、赤の時計台を攻撃していたんだろ?」

「それは機械工場を攻撃した、バルコの戦友の戦士に聞けばいいよ」

「でも目印もなしに、正確な場所を覚えてるものかな?未知の森って迷いやすいんじゃないの?」

「目印ならあるよ」


ポールの当然の疑問にカケルはあっけらかんと答える。そして暫く未知の森の近くを歩き、森の入り口に続く小さな道を見つける。


「見つけた。これは獣の通り道だ。この近くにもう一つ獣の通り道がある。機械工場はこの付近だ」


カケルが見つけた二カ所の獣の通り道は、前にカケルがプレイした陣地である。王都に近い場所に設置したこの陣地は、守るものがいなくなりすっかり荒れ果てているが、細い獣道は見間違いようがない。カケルの投影装置にはルールがある。それは相手の陣地を表示する場合、カケルが相手の陣地を認識して、近くまで行かないと反映されないというルールだ。カケルが獣の通り道をプレイしたとき、投影装置にはしっかりと機械工場が映し出されていた。そしてカケルは陣地が投影装置に表示される距離を把握している。つまりこの二カ所の獣の通り道を中心に円を描いたとき、重なり合った部分に機械工場があるという寸法だ。


「大体の位置は絞り込めた。後は王都の冒険者たちを説得するだけだよ」


そう言ってカケルは意気揚々と王都に向かう。そして王都に足を踏み入れたカケルとポールが見たのは、革命を経て変わり果てたティラキア王国の王都の姿だった。


「広場で貴族の処刑が行われてるよ。そしてそれを見て喜んでいる民衆・・・。狂ってるね」

「俺は冒険者だから血を見るのは慣れてるけど、ポールにはきついんじゃないかな。イート国との戦争に勝った王都がこの様とは、何とも皮肉だ。これじゃクーガも報われない」


二人は顔を顰めながら王都を歩く。王都の惨状を見て、ドゴールの性格が歪んだのも無理はないと二人は考える。いや、ドゴールだけではなく、これでは冒険者たちも亜人排斥を捌け口にしなければやってられないだろう。一種の混乱状態に陥る王都では、前より貧富の格差が酷くなっていると感じられる。そうこうしているうちに二人は冒険者ギルドに到着する。カケルがギルドの扉を開けようとするが、前より重くなっておりピクリともしない。


「え?あれ?重すぎるんだけど」

「当たり前だ。俺ら冒険者は英雄視されて、英雄希望の馬鹿どもがわんさか冒険者ギルドにやってきたんだ。だから扉をより重くしてやったんだよ」


カケルの後ろから声が聞こえてカケルが後ろを振り向くと、そこにはバルコとギド、そして戦士が立っている。どうやらギドもパルメトの冒険者ギルドからティラキアの冒険者ギルドに移動した様だ。そしてギドが片手で軽々とギルドの扉を開け、カケルは絶句する。だがすぐに気を取り戻し、ギドの肩をポンと叩く。


「ギド、強くなったね」

「俺は元から強い」


カケルはぐうの音も出なくなるが、それでも王都の冒険者ギルドの変わりようが少し嬉しくもなる。ギドもバルコも戦士も、イート国との戦争で辛い思いをした。だがそれを乗り越えて、前を向こうと頑張っているのだ。そんなことを考えてカケルは感慨深くなるが、冒険者ギルドが変わったのもまた確かだ。見れば新人も何人か入っているようだ。カケルはそろそろ本題を切り出す。


「バルコ、前に攻め落とした機械工場があったよね?あそこに埋まっていた機械部品てまだ手付かずなの?」

「あぁ、手付かずだな。王都も工業革命だし、丁度いい。今なら需要も高まってるだろうし、そろそろ掘り出すか」

「その掘り出し手伝うからさ、ちょっと機械部品くれないかな?」

「カケル・・・お前乞食かよ」


カケルの言動にバルコは呆れるが、仕方ないとばかりにカケルとポールの同行を許可する。なんだかんだ言って腐れ縁こそ、この世で最も固い絆だ。すると、カケル達の背後から声が聞こえる。


「あ、お兄さん。お久しぶりです」

「おぉカケル。王都に来てもカケルがいなくて寂しかったんだが、帰ってきたのか」


その声はユタの村のトゥグリとマウリのものだ。カケルは一瞬驚くが、すぐに二人が王都で冒険者登録をしたのだと悟る。ユタの村には戦士が沢山いる。もう彼らがユタの村を離れても十分強くなったのだ。そして彼らは憧れであった王都にやってきたのだ。だが王都の景色を見て、トゥグリなどは随分と幻滅したようだ。


「これが王都、ですか。今はさしずめ混沌の時代と言ったところですね。イート国との戦争で何もしなかった人たちが、更に悪事を働いた貴族たちを吊し上げて喜んでいる。広場で処刑されていたのはイート国と合同で科学技術を研究していた、ヒース家の主人ですね」

「トゥグリ、何でそんなに詳しんだい?」

「それは彼を見たら話がはやいです」


そう言ってトゥグリとマウリが横に避けると、彼らの後ろに隠れていた子供がひょっこりと現れる。その男の子はまだ子供で、誰がどう見ても冒険者ギルドにいるのは不自然だと感じる程だ。そしてその面影は、広場で処刑されていたヒース家の当主とどこか重なる。カケルは全てを悟る。


「君はまさか・・・」

「えっと、お初にお目にかかります。カケルさんの噂は、トゥグリさんとマウリさんからかねがね。僕はヒース家の次男、ルル・ヒースと言います。お父さんが処刑されちゃって、ヒース家は没落。お兄さんは国の外に逃げ出して、路頭に迷っていた僕をトゥグリさんとマウリさんが助けてくれたんです」

「話を聞いてると、どうやらイート国に科学技術を提供したのは当主の独断だったようだし、罪のないルルにまで責任を負わせるのは違うだろって話になったんだ」


ルルの話をマウリが補足する。確かに罪のない子供にまで責任を押し付けるのはいけないとカケルは感じる。特にそれが、大人たちの身勝手から来たものだとすれば、猶更である。だがルルはまだ子供で、とてもではないが冒険者は不可能だと感じるのもまた事実だ。するとそんなカケルの不安を感じ取ったのか、ルルは懐から銃を取り出す。


「僕は大丈夫です。こう見えて機械を扱うのは得意なんです。まだ試作品ですけど、そこそこ威力はあるので、自分の身くらいは守れます。それに僕と同じくらいの女の子も頑張ってるんだから」


そう言ってルルはチラリとトゥグリを見つめる。どうやらルルはトゥグリに助けられた恩義を感じて、彼女を守るために冒険者になったようだ。マウリはトゥグリを見た時のルルの顔が少し赤くなっているのを見逃さなかったが、残念ながらルルの恋心が叶う事はないだろうと感じる。何故ならトゥグリは誰かに守ってもらう様なか弱い少女ではないから。


「道案内は俺がしよう」


そう戦士が言い、ギド、バルコ、トゥグリ、マウリ、ルル、ポール、カケルがそれに続く。トゥグリが片手でギルドの扉を開けているのを見て、ルルが驚いていた。そして8人は即席のパーティーを組み、機械工場に向かう。カケルは投影装置を見やる。ガナスの村にいる間に手札は随分と変わった。デッキ切れにならない様に一番安いパックも買ったので、デッキはだいぶ増えている。手札は以下の7枚だ。


〇大障壁[スペル] コスト緑・赤 ☆2

効果・1つの陣地を選択する。その陣地にモンスターは進軍不可

ー突如現れたその壁は生き物を拒んだー


〇水の流れ[スペル] コスト青 ☆1

効果・手札を1枚引く

ー止まることなく流れ続けるー


〇薄明[スペル] コスト白 ☆1

効果・貴方のモンスターが3体以上いて貴方の陣地が3枚以上ある時、貴方は今回のターンが終わった後に追加の1ターンを獲得する

―夜が明ける、その瞬間を切り抜き自分だけのものにする―


〇機械工場[陣地] 体力10 ☆2

効果・貴方のモンスターは墓地にはいかずこの陣地の下にストックされる。この陣地が破壊されるとき、下にたまったストック3枚につきカードを1枚引く

ーここは死の工場だー


〇スケルトン[モンスター] コスト1 1/1 ☆1

効果・ターン終了時、このモンスターのHPを最大まで回復させる

―死の兵士―


〇マーメイド[モンスター] コスト2 0/3 ☆2

効果・召喚時、プレイヤーのHPを5回復させる

―癒しの歌声が響き渡る―


〇骨の盾[アイテム] コスト2 ☆1

効果・モンスター1体のHPを+1して、「自己再生」を与える

ー不死身とは呪いであるー


カケルは未だにモンスターを召喚していない。イート国との戦争から月日が経っても、あの時の傷がまだ癒えず、後悔にさいなまれているのだ。それに今のカケルはあてもなくぶらりと旅をしている。時が来れば魔王の正体も分かるだろうという感覚。だがそれは楽観などではなく、この大地に生きているという、確かな実感からくるものだ。カケルは自分でも気づかぬうちに笑みを浮かべる。これから行く機械工場ではどんなことが起こるのだろうという期待に、胸を膨らませて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ