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神頼み

結局あの不思議な出来事が起きてから、混乱した皆はそのまま家に帰った。ヒハとギンがガルガンを殺した動機も、今日中にルナに話すという約束もしている。口約束だが、破ろうものならポールがあの二人を殺すつもりでいる。事件の当事者同士が話した方が蟠りが少ないと考えた、ポールの配慮の表れである。だがそんな事よりも、ポールが今わからないのは、何故ルナが人狼に変身しなかったかである。


(ルナちゃんのあの表情・・・。本人も驚いていた。つまりあの状況を作り出したのはルナちゃんじゃない。いやそれどころか、あそこにいた人たちは全員驚いていた。じゃあ一体誰が?)


そんなことを考えながらポールが村を歩いていると、カケルが道端で寝ている姿を見つける。思わずポールはカケルに近づき、揺すって起こす。


「カケル。こんなところで寝てたら風邪引くよ」

「むにゃむにゃ・・・寝させて。昨日寝れてない」


ポールがカケルを起こそうとすると、カケルは寝言でそんなことを言う。だがポールもカケルに風邪をひかれては困る。そう考えカケルを立たせようとした時、カケルがいつも持ち歩いている袋を見つける。それはカケルが短い旅路で集めてきたアイテムを入れている袋だ。思わずポールは興味を引かれ、その袋の中を見る。


「おぉー、ガラハの水瓶と火炎石。それにこれはマシーンゴーレムの古いパーツ?それ以外にもモンスターの素材がいくつも。あとこれは宝石かな。カケルって何気に凄かったんだ」


カケルの持ち物、そのほとんどは死んでいったモンスター達の遺品である。カケルは彼らの事を忘れ去ることが出来ず、後生大事に持ち歩いているのである。ポールがカケルの持ち物を見ている間に、村の入り口で鉄扉を叩く音がする。思わずポールが鉄扉の方を見やると、扉の向こうから声が聞こえる。


「開けてくれ!俺だ、ドゴールだ。冒険者を連れてきた、これで人狼にも抵抗できる!」


それは一度人狼騒ぎで逃げ出したドゴールの声だ。どうするべきかと迷っていたピッツは、仕方なく鉄扉を少しだけ開ける。するとそこには傷だらけの冒険者たちの姿がある。思わずピッツは驚き、冒険者たちに尋ねる。


「おい何があったんだ!村の近くのモンスターにやられたのか?」

「違う、突如竜巻が発生したんだ。昨日はまるで激動の一日だった。訳も分からぬうちに空中に投げ出されて、生き延びようと藻掻くうちに、あっという間に今日になってた。一昨日までは綺麗な流星群が見れたというのに。頼む助けてくれ、傷ついてるやつらにポーションを」


そう言ってドゴールは後ろの冒険者たちを指さす。竜巻にやられたのか冒険者たちは傷だらけだ。ここまでくればピッツにも断る理由がない。確かにドゴールは嫌な奴ではあったが、ピッツは目の前で傷ついている人達を見捨てられるような性格ではない。それに数をそろえたとはいえ、ドゴールはもう一度このガナスの村に帰ってきたのだ。バカだが悪い奴ではないと考えながらピッツは冒険者たちを村に招き入れる。すると今の会話を聞いていたのかポールが後ろに立っている。


「やぁピッツ」

「あぁポールか。全く昨日はいきなりルナに短剣を向けて、許さないからな。でもこれで分かっただろ、ルナは人狼でも何でもないって。ヒハとギンがガルガンさんを殺した理由については、二人からルナに説明されるみたいだし、もうこの事件はこれで終わりだ。この冒険者たちも律儀に人狼を狩りに来たみたいだが、この村には人狼はいない。怪我が治ったら帰ってもらうからな」

「それについてはちょっと待ってほしいんだ。ドゴールとは一応知り合いだからね。ちょっと彼らに聞きたいことがあるんだ」

「それは好きにしたらいいと思うが、この村にこれ以上厄介ごとを持ち込むなよ。ガルガンさんの死を乗り越えて、この村は少しずつだが前を向いている。どっかの魔術師はガナスの村は滅びの運命だと予言したみたいだが、予言なんて嘘っぱちだ」


そう言ってピッツは吐き捨てるように言う。その言葉を聞いて、ポールはその通りだと感じる。ガナスの村の事をよく知らない第三者が、予言なぞという大層なものをぶら下げて人気を取る。そんなもの許されるはずが無いと感じる。そしてポールはドゴールに会う。ポールの姿を見るとドゴールは若干気まずそうになる。


「あ、ポール。そのなんだ、悪かった。生きてたんだな」

「うん生きてたよ。ドゴールもよく帰ってきたね。それも冒険者たちを引き連れて。ガナスの村は亜人への理解がある稀有な村だけど、亜人なんて敵、じゃなかったっけ?」

「う、うるさい!王都の冒険者ギルドに帰ったら、バルコってやつにこっぴどく説教されたんだ。相手の事を詳しく知らないのに、一丁前に語ってんじゃねぇぞ、って。だから見極めるために帰ってきたんだ!」

「へぇー」


そう言ってポールは目を細める。ドゴールは自己顕示欲が強く、見栄っ張りのランク2の冒険者である。当然冒険者ギルドでの地位は低く、馬鹿にされたままでは終われないと、なけなしのプライドでこの村に帰ってきたのだ。ドゴールについてきた冒険者たちも、亜人なぞ怖くはないと口だけはでかく主張し、実際に亜人を見たこともない冒険者たちだ。皆口だけではないと示すためにガナスの村にやってきたのだ。だがガナスの村に来る道中で、竜巻に襲われてボロボロになったのなら世話ないが。


「それでドゴールたちは竜巻に襲われたんだって?」

「あぁ、一昨日の夜なんかは星が綺麗で、流星群まで見えたんだ。なのに昨日は一日中天気が悪くて、酷い目に遭った。あっという間に昨日が終わっちまったよ。もしかしたらこれは、亜人を軽んじた俺たちへの天罰かもしれねぇな」


そう言ってドゴールが、過去の自分の愚かさに自嘲するが、ポールはふと考え込む。そして何を思ったか村の外に出る。それを見てドゴールが慌てて後をついてくる。


「おい待てポール!村の外にはモンスターがわんさかいやがる。一人で飛び出すな!」

「分かってる。でも少しだけ確認したいことがあるんだ」


そう言ってポールは外に出て、空を眺める。今日はいい天気で、異常気象は昨日だけだったようである。そんな中、ポールは辺りを少し調べてあるものを見つける。それは石ころほどの大きさの石と、その石ころ状に窪んだ地面だ。そしてポールはそれらを見つめて、ガナスの村に帰る。


「おい、もういいのか?」


ドゴールが驚いて尋ねるが、ポールは首を縦に振り、そのままガナスの村に帰り、ルナの下に向かう。


「ルナちゃん、昨日はいきなり剣を向けてごめんね。それで今日さ、ギンさんとヒハさんに会うよね。良ければ俺も立ち会っていいかな?」

「いいけど、でも昨日みたいなのは御免だから、それならピッツも連れていく」

「良いよ、別に。」


その有無を言わさぬ物言いに、ルナは反論を飲み込んで、コクリと頷く。ルナ自身も、何故昨日変身が起きなかったかが不思議でならず、探偵であるポールが何かに気付いたようなので、話くらいは聞こうとしたのだ。成り行きでドゴールもついて来ようとするがポールから止められる。


「悪いけどドゴールは来ないで」

「何でだよ」

「とても大事な話だから」


そう言って納得いかないという顔をするドゴールを置いて、ピッツ、ルナ、ポールはヒハの家に入る。家の中では既にギンが到着しており、ピッツとポールの姿を見て抗議の声を上げる。


「私たちはルナにのみ真実を伝えると言ったはずです。何故二人が?」

「もういいよギンさん。俺は全てが分かったからここにいるんだ」


ギンの抗議をポールが受け流す。その圧にギンは押し黙る。ポールの顔は清々しく、本当に全ての謎を解いたようだと、ギンは否応なしに悟る。どちらにしろポールが全てを知っているのなら、ここでポールを追い返しても意味がないのだ。ギンとヒハが黙ったのを確認してから、ポールは話し始める。


「さて、本来この集まりは何故ガルガンさんが死んだかの説明の場だったよね?」

「そうだよ、ガルガンさんの仇は私がとる」

「待ちなよルナちゃん。何故ガルガンさんが亡くなったか、それは俺の口から説明するよ。まず初めに、俺はガルガンさんの家に招き入れられたとき、ガルガンさんが酒好きだという印象を受けた。体の震えもアルコール依存症によるものだと感じたよ。でもそれは後から間違いだと気付いた。ルナちゃん、ガルガンさんは普段は酒をあんまり飲まないんだよね?」

「うん」

「そう、あれは好きで飲んでたわけじゃない。ガルガンさんが酒を飲むのはかつての戦友を思い出すため。ガルガンさんがビールを飲んだ日は、戦友が亡くなった日だった。あれは弔い酒なんだ。それならば体の震えもアルコール依存症などではないことになる。ギンさんのカルテを思い出したら、すぐに分かったよ。あれはパーキンソン病の症状だ。いくら寿命が人間より長い亜人と言えども、寄る年波には勝てない。ガルガンさんは寿命が来ていたんだ。イート国では不老不死の研究とかがされているみたいだけど、彼にはそんなものはいらない。ガルガンさんは、自分を待つ人の下に旅立ったんだ」

「自らを待つ人の下に・・・?」


そのポールの言葉にルナはハッとする。そしてギンとヒハは苦々しい顔をする。そう、ガルガンの家の中にはガルガンの死体とミスリル製の鶴橋があり、壁もボロボロだった。だが内部は綺麗だ、綺麗すぎた。ポールがガルガンの家で探した日記も綺麗に残っていた。まるで争いなど無かったかのように。


「人狼であるルナちゃんが犯人ではないのなら、一体誰がガルガンさんの家の壁を壊したのか。洞窟の壁を砕くことが出来るガルガンさんなら、鉄の壁を破壊するのも容易だろう。ガルガンさんの寿命があと僅かなのは、医者であるギンさんなら事前に知っていたはずだよ。そして、態々一番硬い鉄の壁を破壊したのも、その後にギンさんやヒハさんが人狼のせいにしようとしたのも、全てはこの村の未来のため。この村の周囲には沢山のモンスターが生息している。ガルガンさんが死んだあと、誰がこの村を守るのか?そう考えたヒハさんとギンさんとガルガンさんは、一つの作戦を実行に移したんだ」


ピッツが全てを悟り唾を飲み込む。ルナは聞きたくないとばかりに耳を塞ぐが、心優しきガルガンを知っているからこそ、耳を塞いでも続く言葉が何か分かってしまう。


「ガルガンさんは自殺したんだ。「四人四季」のメンバーがやられたという噂は尾ひれがつき、多くの冒険者たちや腕自慢がガナスの村にやってくる。ガルガンさんは自分の命を使って冒険者の勧誘を行ったんだ」


ポールが言い終わると、ヒハとギンは膝をつく。まるで長い演技をやめて、疲れ果てたかのように。だがそうなるとまだ分からないことが残る。その疑問をピッツが口にする。


「待てよポール。それなら何でルナは人狼に変身しなかったんだ?」

「実はあれは一人の人間によるものなんだ。ガナスの村の人間ではなく、自由に動ける人物。そしてまるで未来を見通しているかのような、先見の明。いるんでしょ、出てきなよカケル」


そう言ってポールが入口の扉に声をかけると、扉が音を立てて開き、カケルが現れる。その顔は笑顔で、末で何か大きなことをやり遂げたかのような充足感を孕んでいるが、とぼけた感じでカケルは答える。


「ポール、俺を呼びましたか?確かに立ち聞きしたのは悪いと認めますが」

「演技はもういいよ。全て分かったんだから。事件後、実はカケルの荷物を調べたんだけど、持ってるはずのものをカケルは持っていなかったんだ。前にカケルが、俺に見せてくれると言っていた「星落とし」のスクロールは何処に行ったんだい?」

「・・・」

「言えないよね。あれはもうすでに使ってしまったのだから。カケルは「星落とし」のスクロールを使って月を落としたんだ」

「月を落とした?だが赤の日が最大まで強くなる日はブラッドムーンとは言うが、実際は月はウオアムの赤の魔力の余波を受けて赤くなるだけ。月を落としても人狼には変化するぞ」


ポールの推理にヒハが突っ込む。それは当然の疑問だが、カケルの目的は月を落とすことではなく、さらにその先。


「実はこの星から月がなくなると、ウオアムは凄い速度で自転を始めるんだ。一日は8時間で終わり、竜巻や砂嵐などの異常気象が襲ってくる。当然月をそのままウオアムに落としたら大災害になるけど、最近イート国は技術研究が盛んだよね。「星砕き」というレーザー砲なら月を粉々に砕くのも可能なんじゃないかな?」

「あ!」


その言葉に反応したのはピッツだ。ドゴールたち冒険者を襲った異常気象は、月がなくなったから起きた現象なのだ。ドゴールたちが竜巻に襲われる前に見た流星群は月の欠片だという事だ。そしてポールが村の外で見た窪みと石ころ。ただの石が転がっているのなら、あのような窪みは出来ない。つまりあの石は月の欠片で、空から地面に落ちてきたから、地面に窪みが出来ていたという事だ。だがそうなるとまた新たな疑問が浮かび上がる。


「待て、だが今は普通だぞ。異常気象など起きてない。どういうことだ?」

「それはカケルに聞こうよ、ヒハさん。どうなんだいカケル。何で落ちたはずの月が何事もなく夜空に浮かんでるんだい?」

「・・・待ってくださいポール。確かに月が落ちれば一日は8時間で終わり、12時間眠りこける永眠茸を食べれば一日半が過ぎ去る。つまりは、寝ている間に赤の日が最大まで強くなる日は過ぎ去るという理屈は分かりました。でもまだ謎は残っているでしょう。ポールも見たはずですよ。怒りの石が緑から赤に変化したその瞬間を」

「あぁ、その謎ももう解けているよ」

「謎?バカな、まさか色の日すら操ったと言うつもりですか?」

「そうだよ、カケル。君は色の日すら操ったんだ。正確に言えば俺らを勘違いさせて、だけどね。俺が見たのは怒りの石じゃなかくて、同じ大きさにカットされたアレキサンドライトという宝石だ」


ポールの言葉にカケルは何も反論できずに口を一文字に閉じる。アレキサンドライトは、太陽光や蛍光灯の下では緑色に、白熱灯や蠟燭の明かりの下では赤色に変化する性質を持つ宝石だ。このカラーチェンジの性質を使って、カケルは日付が変わると同時に、ヒハから借りた白熱灯のランタンを近づけて石の色を変化させたのだ。全ての謎を解かれて、カケルはフッと力なく笑う。


「あぁ、俺の負けか。上手くやったと思ったんだけどな。名探偵を騙しきることは出来なかった、か」

「カケル、月は無事なのかい?」

「月は無事だよ。俺には自称神のサポートがあってね、そいつは一日もあれば月を復元することが出来るんだよ。我が儘な奴でね、このウオアムの大地には干渉しないが、ウオアムが滅びない様に、ウオアムを取り巻く星々には普通に干渉してくるんだ」


カケルの話す内容は突拍子もない事だが、不思議とこの場にいる全員がそれが真実だと感じる。そこには推理などというものはいらない。ただやり切ったという表情をするカケルの顔を見て、嘘を言っているようには見えないと感じるのだ。カケルは力なくポールを見つめる。


「どうやら俺は、この物語の最悪の結末を回避できなかったみたいだ。それで今からポールは、ルナをティラキア王国に突き出すんだろ?」


まるで未来が見えているかのようにカケルは話すが、ポールはと言えばキョトンとした顔でカケルが驚く事を言う。


「何でそんなことをしなくちゃいけないんだい?俺が事件の真相を話したのは、ただ答え合わせ、それだけだよ。素晴らしい謎を出したカケルへの精一杯の賛辞だよ。それに、この村にいたのは心が優しい亜人だけだ」


そう言ってポールがルナを見つめる。視線を向けられたルナは一瞬何を言われたか分からなったようだが、すぐにその意図に気付き、ポールとカケルに対して頭を下げる。それを見てピッツ、ギン、ヒハと続いて、無言で頭を下げる。どう足掻いてもバッドエンドになると噂の人狼の棲む村。だが未来とは、予言者一人が決めれるほど、単純なものではない様だ。

―――――

「それでポールは何で俺の旅についてくるんだい?」

「良いじゃないか、俺と君の仲だろう。どっちみち、もうガナスの村に名探偵はいらないってことだよ。ガナスの村は滅びる事無く前に向かって進んでいくんだ。道のりは険しいだろうけど、新たにやってきた冒険者たちがモンスター達を倒してくれてるみたいだしね。あのドゴールも必死になってるみたいだよ」


ガナスの村を出て、仲良く歩く人影が二つ。かつては犯人と探偵というその立場も、今では仲の良い友達となっている。あれからガナスの村は変わった。ガルガンの死を乗り越え、村は一回り成長した様だ。冒険者たちはモンスターを狩り、村のために役立っている。同時にルナが人狼だという事も知らされたが、ガナスの村で人狼を毛嫌いする人間はもう一人もいなかった。後変わったことと言えばもう一つ。思い出したようにポールがカケルに伝える。


「そうだ、ピッツがポールから受け取った宝石を見て、随分と喜んでいたよ。あの宝石で結婚指輪を作るみたいだね。お相手は決まってるよね。結婚式は今日だったかな」


その言葉に思わずカケルは遠くなったガナスの村の鉄扉を見つめる。耳をすませば、新郎新婦を祝福する鐘の音が聞こえてきそうだ。思わずカケルは熱くなった目頭を手で押さえる。その姿を見てポールが驚いて、カケルを心配する。


「え?カケル大丈夫?」

「大丈夫だ、ただ・・・俺のやってきたことは無駄じゃなかったって分かったんだ。俺が月を落とした時、本当はとても怖かった。月が復元されなければどうなるだろう、異常気象で誰かが死ぬんじゃないか、「星砕き」で月は砕けるのか、なんて色々な不安があったよ。恐怖で手が震えもした。でも、無駄じゃなかった!無駄じゃなかったんだ・・・!」


カケルは今にも泣きだしそうだが、それを何とか抑える。涙をこらえるカケルを、ポールが労う。未来というのは分からないからこそ、人々はそこに希望を見出す。一人では未来が変えられなくとも、二人なら。二人が無理なら三人なら。それでも無理なら、もっと、もっと。カケルは最初の一歩を踏み出したに過ぎない。だがその一歩が、皆の心を突き動かした。王都の宝石職人は、怒りの石と同じ大きさにアレキサンドライトをカットし、ラパツは「星砕き」とアレキサンドライトを運んできた。カケルが積み重ねてきた絆が、未来を掴み取ったのだ。バッドエンドしかないという人狼の棲む村。皆が心を病む中、それに抗おうとするやつがいれば、正しくそいつは英雄と言って差し支えない。ポールとカケルの新たな旅路を、遥か上空から月が祝福している。

_____

教会の鐘が、祝福を告げている。少女は、この短期間で起きた出来事を思い出す。命の恩人でもあるガルガンの死。それはまだ年端もいかぬ少女にとっては、あまりにも残酷すぎる現実であった。戦争孤児であった少女を、ガルガンは我が子のように育ててきた。ガルガンの日記には、少女の成長が事細かに書かれている。そんな矢先、ガルガンが死んだのだ。少女は酷く混乱したし、はじめはヒハとピッツを許せないとも考えていた。だが、ガルガンが、この村の英雄が、子供たちのためを思ってこそこの結末を選んだのだと知って、不思議と腑に落ちた。それは少女が知っている、どこまでも優しいガルガンに他ならないから。それに少女はもう一人ではない。顔を見上げれば、一人の若者の顔。守衛と呼ぶにはいささか若すぎるが、人手不足のこの村では致し方ない事だ。それに、年齢なぞあまり関係なのかもしれない。彼がこの村を思う気持ちは、本物だから。


「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


神父がそう少女に問う。少女は今一度、目の前の花婿を見つめる。二人とも年齢は若いが、このガナスの村にとっては、とても喜ばしい事だ。少女が周りを見渡せば、村長や医者や村人たち、そして改心した冒険者たちが、ジッと見つめている。この未来を紡ぎだした、掴みどころのない冒険者と名探偵はこの場にはいない。だがそれでも、あの二人も新たな旅路を祝福してくれていると、少女は感じる。風が吹いている。その新緑の風が、少女の涙をはらりと吹き飛ばす。少女は満面の笑顔で、顔をあげて元気に答える。


「誓います!」

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