事件の真相
ポールはふと頭が割れる程の頭痛に襲われ、目を覚ます。辺りを見渡すと、他の村人たちも一斉に目を覚ましている。こめかみをおさえながらポールが辺りを見渡し、果たして何が起きたのかとスープを覗き見る。すると村人が騒ぎ出す。
「誰だ!スープに永眠茸を入れたのは!」
村人が口に出した永眠茸という言葉にポールは覚えがある。ドゴールが言っていたが眠り茸の一種で、口にすれば12時間は眠りこけるという代物だ。そしてそのことを思い出しポールが村の中央にある怒りの石を見ると、緑色の光が随分と弱まっている。
「不味い、あと1時間で日付が変わる!」
ポールの叫び声に全ての人が怒りの石を見て、血相を変える。誰かがスープにいれた永眠茸により、あっという間に恐怖の時が目の前まで迫ってきているのだ。村人たちは蜘蛛の子を散らすように家に逃げ帰り、戸締りをしっかりする。そんな中、ポールは懐に手を忍ばせて急いで辺りを見渡す。
(何処だ、何処に消えた!)
ポールが探しているのはこのガナスの村に紛れ込んでいる人狼だ。必死に探すがその姿はどこにもなく、ポールは気付く。永眠茸を入れたのは人狼が逃げるための時間稼ぎだ、と。だが同時に考える。
(待てよ?人狼が逃げるか?俺の考え通りなら人狼である人物はこの村に深い思い入れがあるはずだ。少なくとも、今だけはこの村から逃げるなんて有り得ない。人狼はこの村のどこかに隠れたんだ)
そしてポールは人が隠れられそうな場所を虱潰しに探す。焦りながらでは精彩を欠くが、それでも必死に探し、諦めかけたその時、ガナスの村の壁を注視する。ガナスの村は洞窟の中にあり、周囲を壁で囲まれている。その壁を掘ったのはこの村の英雄ガルガンであり、壁は凸凹ながらもしっかりとならされていている。まるでガルガンの優しさが見えるかのようなその壁の一カ所をポールがよく見ると、僅かに違和感を感じる。
「まさか、隠し扉?」
迷うことなくポールは短刀を片手に隠し扉を開く。壁に擬態させたその隠し扉の先には、少しの空間と小さな花畑。そしてこじんまりとした墓とビール、ワイン、ウォッカが供えられている。そしてそこにはポールが探し求めていた人狼の姿と、その人狼を庇う様に立つ協力者の姿がある。思わずポールは銀の短刀を構え、はっきりと喋る。
「見つけたよ、ルナちゃん・・・いや人狼と言った方が良いかな」
「私が人狼?何のこと?」
「ルナが人狼な訳ないだろ」
ポールの視線の先には怯えるような表情をするルナと、それを庇う様に立つピッツの姿。その二人の姿を見て、ポールは自分の推理があっていることを確信する。ここからは探偵としての仕事だ。今回の事件の真相を語り、ルナとピッツの真意を確認する。そのためにポールは必死に二人を探したのだ。ポールは事件の全容を話し始める。
「ルナちゃんは人狼だよ。と言っても本当にこの村に人狼がいるとは俺は思っていなかった。何故なら、人狼が赤の日に狂暴化するというのなら、今までガナスの村は数えきれないほどの赤の日を経験している筈なのに、被害が出ていないのは何故か、という疑問が生まれるからだ。この疑問の答えとして、初め俺は人狼がいないからだと思っていたが、ガルガンさんの日記を見て、あることに気付いた」
そう言ってポールはガルガンの家から持ってきた日記を取り出す。多少埃は被ってはいるが、日記は綺麗なままで、ガルガンが大切にしていたことが窺える。そしてポールは日記をパラパラとめくり、魔王軍との戦争のページを開く。そこには「四人四季」と騎士団長クーガの出会い、そしてクーガが戦争で人狼を殺し、その子供を引き受けたこと、更にはティラキア王国は亜人排斥の風潮が強くなり、ガルガンが人狼の子供を保護したことまでが書かれている。ガルガンは子育てなどしたことは無く、最初は失敗ばかりだったが、ガナスの村の人たちはそんなガルガンと人狼の子供に優しく接し、次第にその人狼の子供も大きくなっていったことが日記からは読み取れる。そしてガルガンは人狼の子供にルナという名前を付けたのだ。
「人狼は亜人の中でも特に恐れられている。とてもじゃないがガナスの村以外では生きられない。だからこそ今も村の外に逃げるわけじゃなく、こんなところに隠れているんだ」
「それだけじゃない!私はガルガンさんやピッツ、そして村の皆を置いて何処かに行くことなんて出来なんだ!」
ポールの言葉にルナは反論する。だがポールは気にせず、続ける。
「ルナちゃんが人狼だとすると、当然いつも一緒にいるピッツはルナちゃんを庇っているという事になる。まぁ亜人への差別意識がないこの村の住人だ、そういう事もあるだろう。それにピッツはルナちゃんが暴走しない様に抑える事もしていたと思う。でもそうなると新たな疑問点が浮かんでくる。ガルガンさんの家は壁が壊されているけれど、ガルガンさんを殺した凶器はミスリル製の鶴橋だ。人狼ならそんな道具を使わなくても、鋭利な爪で一発だ。それにルナちゃんは本気でガルガンさんの死を悲しんでいた。ガルガンさんを殺す動機がない。つまり今回の事件、犯人は別にいる。そうでしょう、ヒハさんにギンさん?」
そう言ってポールは後ろを振り向く。するとそこにはヒハとギンが立っている。急に話を振られたヒハはすっとぼける。
「はて?一体なんの話をしているんだ?」
「とぼけるなよ。俺はガルガンさんの家の周りを一通り調べてみたんだが、一つの違和感を見つけたんだ。それは地面に血が一滴も垂れていないこと。現場には血が付いた剣が転がっていたのにこれは不思議な話だ。それにその剣に付着した血は、村人のものとは一致しなかったというギンさんの証言。でもこれも、人狼であるルナちゃんに動機がない事から、辻褄が合わないことになる。そして思い出したんだ。ヒハさんとギンさんは仲がいいという事と、ヒハさんは緑の魔力を持っているという事をね」
ヒハとギンは喧嘩をすることもあるが、喧嘩するほど仲がいいという。それにヒハとギンは気軽に物の貸し借りをする仲であるという事も、ポールは知っている。押し黙るヒハとギンを後目に、ポールは話し続ける。
「ヒハさん、ある日貴方はカケルに対して森狼を狩ってきてほしいと頼んだ。そしてカケルは傷だらけになりながらも森狼を仕留めた。そんなカケルに対して、貴方は何故自然の治癒を使わなかったんだい?」
「それは・・・」
「貴方は自然の治癒を使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。何故ならその日の深夜、貴方はガルガンさんから受けた傷を癒すために、緑の魔力を使って自然の治癒を使ってしまったから。だから貴方は傷だらけのカケルに対して、見守ることしか出来なかった。そしてギンさんは剣に付着した血からガルガンさんを殺したのはヒハさんだと気付いたが、仲がいいのでそれを黙って、人狼の仕業のようにした。思えば事件が起きてからギンさんもヒハさんもやたらと人狼という言葉を口にしてたよね。それは俺に対して、この事件の犯人は人狼だと刷り込もうとしたんじゃないかな?貴方が人狼を犯人に仕立て上げようとした根拠は他にもある。貴方は緑の魔力しかなくて大障壁のスペルを唱えることが出来ないと言ってたけど、本当は赤の魔力も持っているはずだよ。何故ならカケルに森狼を仕留めるように頼んだあの日、俺がほんの数分場を離れた間に、貴方は火をつけていたからだ。火炎石も持っておらず、火打石もギンさんに貸していたヒハさんがどうやってそんな短時間で火をつけることが出来たのか?答えは一つしかない。そしてヒハさんは人狼がいるという話に説得力を持たせるために、敢えて大障壁のスペルを唱えなかったんだ」
ポールの言葉にギンもヒハも何も言い返すことが出来ない。その沈黙こそがポールの推理への肯定であり、ルナはヒハとギンを睨みつける。
「ヒハさんとギンさんがガルガンさんを殺した・・・?許せない、許せない!」
「何でヒハさんとギンさんがガルガンさんを殺したかまでは分からないけどね。それは本人たちの口から聞くとしよう。あとルナちゃん、ヒハさんとギンさんから今回の事件の動機を聞いた後はどうするつもりだい?」
「決まってる。ガルガンさんの仇を取るんだ!」
「そうだね、ルナちゃんの怒りはもっともだし、人狼の姿になれば人を殺すのも簡単だ。でもね、人間は弱い生き物だからこそ、強い人狼を恐れる。俺には俺の使命があるんだ」
そう言ってポールは銀の短刀を躊躇なくルナに向ける。今のルナの返答を聞いてポールは、ルナを殺すことを決意する。怒りに暴走する人狼を抑えることは、ピッツにも厳しいと判断したのだ。最後に残された手段は一つだけ、それが悲しい選択だとしても、ポールはこの村の未来のために躊躇なくその選択肢を選ぶ。
「待てポール。ルナも落ち着け!俺は君に人殺しになってほしくない!」
ピッツが叫ぶがルナもポールも最早聞く耳を持たない。互いに睨み合い、悲しい物語を紡ごうとしている。ディープワールドカードゲームに於いての鬱イベント、人狼の棲む村。遂に村の中央にある怒りの石が赤く輝き、赤の日が最大まで強くなる日を迎える。その瞬間ルナとポールは互いに飛び出す。ルナは腕を伸ばして、ポールは短刀を振りかざして。今最悪の結末を迎えようとしたその時・・・。
「は?」
「え?」
ポールとルナの間抜けな声が木霊する。両者何が起きたか分からないという感じで固まる。そして驚いたのは二人だけではない。それを眺めるピッツ、ギン、ヒハも同時に驚く。それもそのはず、ルナの姿は人狼ではなく、人間のままなのだ。思わずポールはもう一度怒りの石を見るが、間違いなく赤く輝いている。だというのに、いつまで経ってもルナに変化は訪れない。そんな混乱の折、ピッツが何とか正気に戻り、ポールの手から短刀を取り上げる。
「よく分からないが、またこの村に血が流れなくて良かった!山の神よ、感謝します!」
ピッツが山の神に感謝をしている間も、ポールは混乱しており、固まっている。全員何が起きたのか分からない様だが、それでも最悪の結末を回避したのだ。




