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色褪せぬ日々

ヒハとカケルとポールの三人が夕飯を共に食べ親睦を深めた次の日、ポールは一人ガナスの村を歩いている。全ては今回の事件の真相を知るため。そして彼はガルガンの家に辿り着く。ガルガンの家はあの事件が起きてから誰も立ち入っておらず、家の中もそのままだ。ルナはピッツの家に寝泊まりしている。ポールは淀みなく家の中に入る。


(四方の壁は土、木、レンガが無事で、鉄の壁だけがひしゃげている。入口の扉には鍵がかかっているのは確認済みだから、やっぱり犯人はこの鉄の壁を破壊してガルガンさんを殺したことになる)


そこまで考えてポールは頭を抱える。


(でも分からない。何で犯人は態々一番硬そうな鉄の壁を破壊したんだ?それに、それほどの力があるのなら何故鉄扉を破って村の外に出ていかない?少なくとも人狼が犯人じゃなければ、これにはトリックが使われているはずだ)


ポールは唸り声をあげながらガルガンの家の周りをグルグルと回る。だがそんなことをしてもポールの目に映るのは地面のみ。このままここで考えても何も浮かばないとポールは諦め、気分転換にガルガンの墓がある花畑に向かう。するとそこには先客がいる。


(おっと。そう言えば今日だったか)


先客はピッツとルナで、丁度二人でガルガンの墓に手を合わせているところだ。その二人を遠巻きにポールは眺めるが、随分と長い祈りのように感じる。


(ガルガンさんはこの村にとっては必要不可欠な人だった。カケルが言っていたけど、本当に予言通りならこのガナスの村は滅びの運命にあることになる。やるせないね)


過去にポールはガルガンの事をただの酔っぱらいだと心の中で評価したことがあるが、考えを改める。本当にただの酔っぱらいならこれ程まで多くの人に、死を悼まれたりはしないだろう。そして二人が墓から立ち去ってからポールもガルガンの墓に向かう。するとガルガンの墓には花が添えられている。


(あれ?ガルガンさんって酒が好きだったはずだけど。何で酒の供え物はないんだろ)


そう考え、少し無粋ではあるがポールはルナとピッツに追いつき、質問する。


「ごめんルナちゃん、今大丈夫?」

「え?うん・・・」


凄い形相になっているピッツを置いておいて、ルナはポールの質問に答える。


「ガルガンさんって酒が好きだったよね?何で酒じゃなくて花を供えたの?」

「え?ガルガンさんは普段は酒は飲まないよ。飲むのは特別な日だけ」


そう言ってピッツとルナは去っていく。ポールはそのルナの言葉の意味を考え、そして思い出す。カケルがガルガンの家に酒を持ってきたとき、ルナは何の日と言っていたか、を。


(待てよ。それなら次に向かうべきはガルガンさんの家だ。もう一度調べないと!)


何かに気付いたポールは急いでガルガンの家に向かい、家の中にある棚という棚を漁る。そこにはガルガンが几帳面につけていた日記がある。ポールとドゴールとカケルの三人がガルガンの家に入った時、ポールは棚に日記があるのを見ていたのだ。そしてポールは目当てのものを見つけて、思わずポツリと呟く。


「分かったぞ、人狼の正体が・・・!」


そしてポールは外に出て村の中央にある柱を見やる。柱の頂上には大きな怒りの石が設置しており、地面にわずかに開いた隙間から差し込む太陽光を受け止めている。怒りの石はガナスの村の特産品だが、あれほどの大きさとなると相当な値段がする。ヒハ曰くこの村の宝だそうだ。そして怒りの石は色の日に合わせて、石自体の色も変わるという特殊な性質を持っている。俗にいうカラーチェンジという奴だ。あの怒りの石は、太陽光を受け止め、その日の色を識別する役割があるのだ。事件の日にヒハが赤の日だと叫んだのも、怒りの石が赤く輝いていたからである。そして今怒りの石は緑色に光っている。赤の日が最大まで強くなる日まであと3日だという。それまでにポールは人狼の正体を突き止めることに成功したのだ。思わず笑みが零れるが、寸でのところでポールは違和感を浮かべる。


(あれ?ちょっと待て。何かが可笑しい。この事件、これで終わりじゃない気がする。何だ?何を見落としているんだ?)


そしてポールはまたガルガンの家の周りをくるくると回り、見落としていたことに気が付く。それは不意にポールの頭に浮かんだ疑問の答えだが、ポールを驚かせるには十分すぎた。


「あぁー!?」


そのポールの叫び声に思わず近くにいるギンが盛大にひっくり返る。と同時に、ギンが持っていた何かの石が地面に転がる。


「何をするんですか!」

「ごめん、悪気はなかった。でもあることに気が付いて、思わず叫んじゃった。転がった石を拾うよ」


そう言ってポールは地面に転がった石を拾い集める。どうやら火打石のようだ。火炎石があるカケルなどには不要だが、火炎石がない人間にとっては必須道具である、火をつける石である。王都などの発展しているところなら、召喚者が持ってきた技術で作られたマッチなどがあるのだが、このガナスの村にそんなものがあるはずもない。火打石は随分と原始的な手法だが田舎の村では仕方がなく、ヒハもカケルの火炎石を羨ましがっていた。


「火打石?」

「えぇ、昨日の朝からヒハに借りていまして。これがないと火をつけるのも大変でしょうから、返しに行くところだったんですよ」

「・・・なるほどね」


そのギンの言葉にポールは納得するように頷く。そんなポールの挙動をギンは不思議がるが、ポールはそのまま一人村の端に向かい、懐から銀の短刀を取り出す。それを眺めてポールは考える。


(人狼の正体は分かった。そして今回の事件の真相も。全てを明かすのは赤の日が最大まで強くなる日だ。その時人狼は必ず姿を現す。その時俺が人狼を探し出して、返答次第によっては・・・)


そこまで考えてポールは短刀を握りしめる。今までのポールなら有無を言わさず人狼を殺していただろう。だがそこで人狼に話を聞くという選択肢が出てくるあたり、ポールも成長したのだ。そんな一人葛藤するポールの姿を、遠くからカケルが見つめている。


「確かイベントだと、この時点でポールは事件の真相を見抜いているはずだ。そしてポールが謎解きを始めるのは赤の日が最大まで強くなる日。ブラッドムーンだ。ここは洞窟だからブラッドムーンなんて分からないけれど、あの村の中央にある怒りの石が赤く輝くはずだ。勝負は一瞬、失敗は許されない。皆が笑えるハッピーエンドを目指す・・・!」


カケルは一人決意する。それはカケルが知っているイベントの悲惨な結末を塗り替えようとする無謀な行為。だが諦めなければそこに道は現れる。未来は分からないからこそ、そこに抗う余地があるのだ。カケルはすぐにガナスの村の外に向かい、近くの森を調べる。昨日カケルがヒハのお願いで森狼を狩った場所だが、今回の狙いは森狼ではない。暫くカケルは森を調べて、遂に目当てのものを見つける。


「あった、永眠茸」


永眠茸。物騒な名前がついているが、ただの眠り茸の一種である。と言っても効果は強力で、これを食べたら12時間は眠りこけるという代物だ。当然起きた時の空腹は計り知れない。ディープワールドカードゲームにも実装されており、バレンタインイベントで非リア充がリア充への抵抗として、永眠茸入りのチョコレートを配布した事件がある。それを食べたリア充たちはリアルで12時間ゲームにログイン出来なかったという、馬鹿な逸話が残っている。


「多くの人間を泣かした永眠茸。この世界でも頼りにしてるよ」


そう言ってカケルは永眠茸を採取していく。ある程度採取したらカケルはガナスの村に帰る前にが移動で少し待つ。夜も更けるころ、馬車の音が聞こえてカケルと何かを話し、カケルに何かを渡す。暗がりの中だからだれが何を渡したかまでは分からないが、大きなものと小さなものを一つずつカケルに渡したようである。カケルはそれらを受け取り、小さな荷物はいつも持ち歩いている袋の中にいれ、大きな荷物を森の中に設置する。そして何食わぬ顔で鉄扉を叩き、ガナスの村に帰っていく。それぞれが思惑を重ねながら数日が過ぎ、遂に日時は赤の日が最大まで強くなる日の前日、11時。後13時間で日付を跨ぎブラッドムーンになるというその日に、村の住人全員が一カ所に集められている。見ればポールとカケル、つまり来訪者まで集められており、これは一体何の騒ぎだと誰もが感じ始めた時ヒハが現れ、声を発する。


「皆、良く集まってくれた。赤の日が最大まで強くなる日まであと13時間となった。今から人狼除けのスープを配るので、皆はそれを飲んでもらいたい」


その言葉に村人たちの顔は深刻なものになる。ある者は山の神に祈りを捧げたりしている。刻一刻と恐怖の時が近づいている中、ポールはスープを受け取りながら心の中で決意する。


(こんなスープで人狼を退けられるのならとっくにやってる。つまり効果はない、ただのプラシーボ効果だ。でも俺には銀の短刀がある。日付が変わって人狼の兆しが現れた瞬間にこの短刀を突き付けて脅して、全て白状させる。神頼みなど不確かなものではなく、俺は自分で未来を掴み取る!)


図らずもこの村の全員が何らかの決意をして、一斉にスープをあおる。そして瞬時に異変に気付く。立ってられないような酩酊感と強烈な眠気に襲われて、全員がその場に倒れる。薄れゆく意識の中ポールが見たのは、しっかりと立っているカケルの姿だった。

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