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人狼

ガルガンの死体を皆が見つけてから一晩が立ち朝日が昇ったころ、村の人たちがもう一度ガルガンの家に訪れる。皆表情は暗い。どうやら一睡も出来なかったものもいるようだ。ルナの目などは赤くなっている。そしてギン、ヒハ、ピッツの三人がガルガンの遺体を運び出す。ガルガンの胸に突き刺さっていたミスリル製の鶴橋はとても重いようで、何とかヒハとギンの二人がかりで引き抜く。そしてガルガンを村の端に連れていき、花畑の中心に穴を掘る。


「ここはもしかして」

「そうですポール。ここはルナとピッツが行こうとしていた花畑。ガルガンさんもここの花畑をいたく気に入っていました。すいませんポール。昨日はカッとなって」

「あ、いや・・・。俺も悪かったよ。ルナちゃんもごめん。ドゴールについてデリカシーがないとか言ったけど、デリカシーが無かったのは俺も同じだ」

「もう気にしてないよ」


ポールは今一度ルナに謝り、ルナもポールの謝罪を受け入れる。村の人たちがガルガンのために穴を掘っている間、ポールは今話題に上がったドゴールがいつの間にかいなくなっていることに気付く。


「あれ?そう言えばドゴールは何処だい?」

「ドゴールなら人狼が怖いのか、明け方に王都に帰っていきましたよ。本人は、王都の冒険者を呼んできて人狼討伐作戦をやるんだと言ってましたが。でもあの鉄扉があるように、ガナスの村付近にはモンスターが沢山出没しますし、ランク2のドゴールが呼べるくらいの冒険者ならモンスターに襲われてはひとたまりもありませんね」


ポールの疑問にカケルは辛辣に答える。ドゴールは散々亜人を馬鹿にしてきたので、いざこうしてガルガンがやられて怖くなったのだろう。ガルガンと言えば「四人四季」の一人で、ガナスの村の守り神、英雄である。そんなガルガンが敗れたのだからドゴールなど適うはずが無く、端的に言えば逃げたのである。ポールはドゴールの自分勝手な振る舞いに溜息をつくが、王都に帰ったのなら数週間は戻ってこないと割り切り、仕方なく前を向く。見ればもうガルガンの遺体は土の中だ。それを見てヒハが顔を伏せて呟く。


「ガルガンさん抜きでは、どうやってこの村をまわせばいいのか」

「やるしかないでしょう、村長。大障壁は張れなくとも、村長には緑の魔力がある。自然の治癒や体力増強のスペルが使えるのです。それにここには少しですがスクロールや武具もあります。人狼に対抗するには心もとないですが、何もないよりはマシでしょう」


絶望的な表情を浮かべるヒハに、ギンが何とか言葉をかける。だがその中でポールは考え込んで、疑問を呈する。


「ちょっと待って。これは本当に人狼の仕業なのかな?」

「何?」


ポールの言葉にギンが驚く。恐らくギンにしてみればまた訪問者が何かを言っているという認識なのだろう。事実、ドゴールの評判などこの村の中では最低であり、部外者のいう事など信用できないという雰囲気も醸し出している。だがポールは続ける。


「本当にこの事件が人狼の仕業なら何でガルガンさんの家の壁は壊されていたのに、村の外に出る扉は壊されていなかったのかな?どっちも鉄なのに。それにガルガンさんの胸に鶴橋が突き刺さっていたのも可笑しい。人狼は道具を使う様な亜人じゃないでしょ。あとさ、ドゴールは人狼が怖くて逃げだしたけど、カケルは怖くないの?」

「俺はこう見えて死なない術を身に着けていますから。それに「星落とし」っていうスクロールも持ってるんですよ。今度みせてあげます」

「ふーん。まぁそういう事にしとこうか」

「ポールとやら。何が言いたい?」

「まぁまぁ落ち着いてくださいよギンさん。俺にはどうもこの事件、人狼の仕業には見えない。もし本当に人狼がこの村にいるというのなら、なぜ今までの赤の日では暴れることは無く、昨日暴れたのか?

それは人狼なんて本当はいないからじゃないですか?」

「な、何を馬鹿なことを!人狼はいる。この村に住んでいるものならそれは常識なんだ!」


ポールの言葉についにギンは激昂し、その場を立ち去る。残された村人たちも同様に立ち去り、その場にはポールとカケルが取り残される。二人きりになったタイミングでポールはカケルに尋ねる。


「カケルはさ、未来が見えてるよね?教えてほしいな。本当に人狼がいるのかどうかをさ」

「未来なんて見えてないんですがね。でも人狼はいますよ、確実に。ただガナスの村の人たちにとって亜人は本当に敵なのか否か、大事なのはそれだけです。人間の心を持った狼と、狼の心を持った人間、果たして本当に怖いのはどっちでしょうかね」

「何だい、謎々かい?」

「人生の命題です」


ポールが質問してもカケルははぐらかすだけで、質問には答えようとしない。だがポールも簡単に引き下がるつもりはないようで、カケルから言われた言葉の意味を必死に考える。


(ガナスの村の人たちにとって亜人は本当に敵か否か?それは確かに分からない。ガナスの村はドワーフであるガルガンを英雄と言っていた。やっぱり人の事を推し量っても分からないなら、聞くしかないか)


そこまで思考を巡らしたところでポールは村人たちに聞いて回ることを決める。


「俺はちょっと村人たちに聞いてくるよ。人狼はいるのか、そしてガルガンさんが人狼に殺されたんじゃなければ、動機は何か。それにこうなった以上はこの村に滞在するつもりだよ。幸いにもあと数日で赤の日が最大まで強くなる日だ。その時に人狼がいれば、変身するでしょ」

「それは確かにそうですね。くれぐれも好奇心に殺されることのないように」


そう言ってカケルは笑顔でポールを送り出す。ポールの推測通り、カケルが言う通りにこの村に人狼がいる場合は、あと数日でやってくる赤の日が最大まで強くなる日に人狼は間違いなく現れる。そうなればガルガンのいないガナスの村は滅ぶ。ポールは懐からナイフを取り出す。刀身は短いが、銀で出来た、対人狼用の特注品だ。


(最悪、俺が戦うことになるかもね)


そんなことを考えながらポールは村を散策する。すると元気のないルナをピッツが慰めている光景を見る。


「ルナ、元気出せよ。ガルガンさんの事は残念だった。でも俺はルナの笑顔が見たいんだ。また笑ってくれよ・・・」

「うん、分かってる。前を向かないといけないって。でも今は一人にさせて」

「ルナ、明日は」

「大丈夫だよ。明日はピッツと花畑に行くって約束したもんね。明日は大丈夫。その時にガルガンさんのお墓に寄ってもいいかな?」

「あぁ、勿論だ」


その光景を見て、ポールは何とも言えない表情を浮かべる。ピッツとルナは事件のあった夜、二人で門扉の方からやってきた。恐らく今の様に、二人が一緒にいたのだろう。共犯でもない限り犯行は不可能なように見える。本当はポールも二人に色々と聞きたいことがあるのだが、この雰囲気ではとてもではないが質問することなど出来ず、仕方なくポールは銀の下へ向かう。ポールを見たギンは一瞬嫌な顔をして、ポールの出鼻をくじく。


「また貴方ですか。この事件は間違いなく人狼の仕業ですよ」

「何でそこまで言い切れるんだい?」

「私はこの村の医者をやっているが魔力はなくて、必然的にこういう医療道具を使っての治療をしています。君の話だと犯人は人狼ではなく人間で、ガルガンさんを襲ったという事だろう?

「そうだね」

「現場にはガルガンさんの腕が転がっており、その腕は剣を握っていたことは知っていますか?その剣に恐らく犯人のものとみられる血液が付着していたのですが、カルテを見ても一致しないのですよ。私は村医者をしており、村全員のカルテを持っているにも拘わらず、です。これは人間から人狼に変化して、血液も変わっているとみるのが自然ですよ」

「その話本当ですか?」

「山の神に誓って」


驚くポールにギンはしっかりと答える。山の神とはドワーフが信奉する神であり、ガルガンを村の英雄と慕っていたガナスの村の住民たちにとってはこれを口にする以上、嘘はついていないという絶対的な誓いである。ギンの言葉を聞いてポールはさらに考え込むが、中々考えが纏まらないようで、頭を掻きむしる。


(どういうことだ?村の住民の血液と一致しないなんて。だがギンさんが持っていた魔道具は、確かに血を読み取る魔道具だ。待てよ、魔道具ならカケルが詳しいかもしれない)


そう考え、ポールは村中を歩き回りカケルを探す。するとカケルはちょうど村長からお使いを頼まれているところだった。


「外にいるモンスターを狩ってきてほしいなんて無茶を聞いていただいてありがとう」

「いえいえ、俺も冒険者ですから。困ったときはお互い様でしょう。森狼を狩ればいいんですね。確かに森狼の肉は美味しいですし」

「本当に助かるよ。折角だから夕飯はごちそうするよ。君がモンスターを狩りに行っている間にスープでも作っておくとしよう」


そう言ってヒハは薪を集めてスープを作る準備をして、カケルは村の外に向かう。そんな折にヒハがポールを見つけて、笑顔になる。思わずヒハが何を言うかを予想したポールが逃げ出そうとするが、それをヒハは許さない。


「おぉ、ポール君。丁度良かった。君もモンスター狩りを手伝ってくれないか?夕飯はごちそうするよ」

「え、えっと・・・」

「頼むよ」


そのヒハの笑顔に耐えきれずポールはカケルについていく。丁度カケルに魔道具の事を聞こうとしていたので、ポールにとっても都合がよかったとも言える。だがカケルはポールを見て、はっきりと告げる。


「え?助っ人?要りませんよ。ポールは探偵ですから、モンスターは狩れないでしょう。その代わりこれをヒハさんに届けてください。ガラハの水瓶と火炎石という魔道具です。ヒハさんは魔道具を持っていないようで、これらがあれば夕飯づくりも楽になるはずです」

「あ、うん」


こうして一瞬でポールは切り捨てられ、またヒハの下に戻る。時間にすればほんの数分の出来事で、火のついた薪に鍋をセットしているヒハが驚いた表情でポールを見つめる。だがすぐに元の顔に戻り、ガラハの水瓶で水を出してスープを作る。その間、ポールはヒハと会話をする。


「ポール君。君は探偵だそうだね。私はよく分からないが、ダンジョンにある謎を解いたりするのかい?」

「それがメインかな。まだ探偵という職業は知名度が低くて、一緒にダンジョンに潜る冒険者たちには寄生だって馬鹿にされたりするけど。でも探偵というのは好奇心を食って成長する職業だ。あぁ、俺は今回の事件、好奇心を食うつもりはあっても、喰われるつもりはないよ。ただガナスの村の未来のためにも、英雄の死の真相について解き明かす、それだけだ」

「そうか。初めは君の事を誤解していた。あのドゴールという冒険者と同じものだと考えていたよ。勝手に判断して避けていた。許してほしい」

「いや、俺も悪いので。それより村長は魔道具を持っていないようだけど、ギンさんが持っている血を読み取る魔道具は本物なの?」

「あぁ、あれは本物だよ。事件が起きた後、私が魔力を注いで急いで鑑定したが、現場に転がっていた剣に付着していた血は誰とも合致しなかった。やはり人狼がいるとしか考えられない。あと私は、魔道具以外にもこんな骨董品も持っている」


そういってヒハが取り出したの白熱灯のランタンだ。このガナスの村は、天井に蛍光灯がついており、洞窟内を明るく照らしている。唯一怒りの石のまわりには蛍光灯はないが、怒りの石が色の日に合わせて光るので、それが光源となる。蛍光灯も白熱灯も、村長のヒハが積極的に村に取り入れた技術だ。そんな村長の自慢話をポールが聞いていると、カケルが手に森狼をもって、傷だらけで帰ってくる。思わず二人はぎょっとするが、カケルは平気な顔で嘯く。


「参りましたね、特訓をやめたら腕がなまってました。今日から特訓を再開しないとなぁ・・・」


カケルは見た目のわりに平気そうで、ひとまずヒハとポールは安心する。そしてカケルが自分自身に自然の治癒をかけた後、夕飯を食べる。まるでガルガンの死を忘れたいかのように、楽しく食事をとる。赤の日が最大まで強くなる日まであと数日。束の間の安寧を噛み締めるかのように、三人は楽しそうに語らう。

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