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四人四季

ガルガンに家の中に招き入れられたポールは家の中をぐるりと見渡す。壁に飾ってある装備は使い古されてはいるが、そのどれもが一級品であろうことは、素人のポールにでもわかることだ。装備の凄さが分かるドゴールなどは、壁に飾ってある装備を見つめ続けている。ポールが目線を戻すと、丁度カケルがガルガンにビールを注いでいるところだ。見ればガルガンの体は震えている。


(昼間から酒かぁ。「四人四季」と言えば、英雄と持て囃されるほどの実力者揃いで有名だけど、今じゃただの酔いどれだね。それに体も震えてるじゃないか、アル中が)


ビールを飲むガルガンの姿を見てポールは英雄でも大したことは無いと感じる。老兵ガルガン、古い時代の英雄だが、ドワーフであるが故に日の目を見ることはついぞ無かった。ポールはその話を聞いて一度でいいからガルガンを見たいと感じていたが、往々にして理想と現実はかけ離れるものだ。ポールは心の中で溜息をつきながらビールを飲み、瞬時に安酒であることを見抜き、これを持ってきたカケルに対して心の中で抗議の声を上げる。


(安酒だなぁ、そしてこんな安い酒をうまそうに飲むこの爺さんも笑える。年をとっても耄碌だけはしたくない)


そんな風にポールは考えるが、そんなポールの考えなど周りが知る由もなく、談笑と共に時間は過ぎてゆく。初めは敵愾心を剝き出しにしていたガルガンも、今ではすっかりカケルに心を開いている。そして二人は意気統合し、楽しそうに話す。


「ほうほう、カケルは自らを魔王と名乗る奴と死闘を繰り広げたのか。それはいい事だ。儂らは魔王と直に戦ったから分かるが、そいつは確かに偽物だな」

「へぇ、今の話を聞いてイート国の魔王が本物の魔王じゃないという確信を得たんですか?」

「当然だ。いいか、カケル。戦争というのはとても大掛かりなものだ。戦争一つやるのに途轍もないほどの労力を割く必要がある。両者の信念が平行線なら戦争は起こらん。だがその平行線の信念が何処かでブレてぶつかり合った時・・・今までの蟠りが全て憎しみや怒りに変わって戦争が起きる。両者の信念のぶつかり合いが戦争なのだよ」

「両者の信念のぶつかり合い・・・教えてくださいガルガンさん。魔王の正体を。貴方なら知っているはずです」

「魔王は死んだよ。あの魔王軍の侵攻の時にな」

「・・・え?」


ガルガンのその言葉にカケルは驚きのあまり間抜けな声をあげる。だがガルガンの顔は嘘を言っている様には見えず、カケルは混乱する。混乱しているのはカケルだけではなく、ポールとドゴールも同じである。ドゴールは人間とは違うと言われていた亜人の、人間と同じような思考回路に疑問を抱き、ポールは魔王が死んだなどという話を聞いたことがないのに、それを知っているガルガンに疑問を抱く。そんな訪問者たちの疑問すべてに答えるようにガルガンは一人の少女を家の奥から連れてくる。


「コイツはルナと言う。魔王軍の侵攻の時に拾った、孤児だ。男手一人で育てるのも大変でな。良ければルナの話し相手になってくれんか?お前らの疑問の答えも分かるやもしれんぞ」


そのガルガンの言葉に三人はルナと言う少女をジッと見る。まだあどけなさが残るその少女は、孤児というには綺麗すぎる。痩せ細ってもいない。だが心に何か闇を抱えているのかもしれない。神秘というのは人に、この世の者とは思えぬ雰囲気を与える。試しにとドゴールがルナに話かける。


「俺はドゴール、ランク2の冒険者だ。お前戦争孤児だってな。親は魔王軍の侵攻の際に死んだのか?」


その言葉にルナは泣きそうな、怒りそうな、そんな顔をして抗議をする。思わずたじろぐドゴールを見て、ポールが首を振る。


「普通そんなこと聞くかなぁ。ごめんねルナちゃん、この冒険者デリカシーなくてさ。それよりも俺も聞きたいことがあるんだ。ガルガンさんは「四人四季」のメンバーなんだね。そして四人四季は3人が亜人だという。どんなパーティーだったか聞いてもいいかな?」

「私も少ししか知らない。メンバーがドワーフ、エルフ、リザードマン、そして人間だって言う事と、パーティーの仲はとても良かったって事だけ。あと亜人への意識も悪いものじゃなかったよ」


にこやかに笑うポールの質問に、ルナは少し怯えながらもなんとか答える。ポールの笑みに何処か恐怖を感じる様だ。そして最後にカケルが質問する。


「今日は何の日かな?」

「今日はとても悲しい日。ガルガンさんの親友が亡くなった日だよ」


カケルの質問にルナは暗い顔で答える。だがそれだけ聞いたカケルは満足そうに頷く。


「やっぱりビールを持ってきてよかった」


その言葉を聞いてポールはカケルの評価を改める。今までポールは、底知れないカケルへの恐怖を持っていたが、ただ英雄に気に入られようとするだけの、しがない冒険者だという認識に変える。そこからは三人はルナと談笑をして時間を過ごし、ドゴールが大きなあくびをしたところで解散となった。その流れのまま三人の来訪者はガナスの村を散策する。するとギンとヒハが何かを話している姿を見る。近づいてみるとモンスター除けのために村に張ってある大障壁についての話のようだ。


〇大障壁[スペル] コスト緑・赤 ☆2

効果・1つの陣地を選択する。その陣地にモンスターは進軍不可

ー突如現れたその壁は生き物を拒んだー


緑と赤の魔力を消費することによってモンスターの侵攻を阻む結界を作り出す、大障壁というスペル。そうやらこのガナスの村にも大障壁が張られているようだが、経年劣化によってボロボロになっている。それが心配で、ギンという医者が村長であるヒハに向かって抗議の声をあげているのだ。


「村長、前々から言っているでしょう!この結界はもう限界です。村長が緑の魔力しか持ってなくて大障壁のスペルを唱えられないのは分かっていますが、それなら大障壁のスクロールを買いましょう!このままではモンスターの侵入を許すことになるのですよ!」

「そうは言ってもこの村は貧しい。大障壁のスクロールを買う様なルピーはないぞ。それに結界はなくともこの村には鉄扉がある。並大抵のモンスターは入ってこれんよ」

「忘れたのですか村長!人狼は鉄をも容易に引き裂きます。鉄扉などあってないようなものなのです。それに王都の預言者が言っていたでしょう。ガナスの村は破滅の運命、と。私は預言なんて信じませんがね、このままじゃ本当に予言通りになりますよ」

「うぅむ・・・」


どうやらギンは随分ご立腹のようで、離れたところにいるポールやドゴールにも聞こえる程の声で騒いでいる。それを聞きながらポールはガナスの村を一瞥して、確かにこの村はルピーとは縁がなさそうだと認識する。ドゴールはドゴールで、冒険者らしい考え方をする。


「そんなに人狼が怖いなら俺たち冒険者を雇えばいいのにな。そしたら人狼でもドラゴンでもぶち殺してやるのに」

「ドラゴンは無理でしょ。それにこの村にそんな大金もあるはずが無いよ」

「まぁそりゃそうか。あと人狼が本当にいるなら雇われなくてもこの村に居続けるか。なんせ人狼を殺せば50000ルピーだ。ティラキア王国はいいよな。亜人を殺せば金が手に入るんだから。と言ってもあのガルガンっていうドワーフの相手だけは死んでも御免だがな」


ドゴールが豪快に笑い飛ばす。人間を殺せば殺人罪で亜人を殺せば英雄。それがこのティラキア王国の常識だ。歪なようだが最近イート国との戦争に勝ったティラキア王国は勢いづいており、国外逃亡していたティラキアⅡ世も王都に帰還。この国は昔の様な亜人排斥の意識が強くなってきたのだ。当然冒険者たちもそんなボーナスタイムにつられ、亜人をただのルピーとしか見ていない。勿論バルコなどの一部の冒険者は亜人にも対等に接しているが、大部分の冒険者はドゴールの様な考え方を持っている。そんなドゴールを見てカケルは舌打ちをして、ポールに話しかける。


「ポールは探偵ですよね。人々の幸せを願うべきじゃないですか?その頭脳は亜人を見つけるためじゃないでしょう」

「いきなりなんだいカケル。俺が俺の頭脳をどう使おうが、それは俺の勝手だよ。それとも君はまさか冒険者の身でありながら亜人の味方をするのかい?」


その返事にカケルはさらに顔を歪めるが、ふと視線の先にルナとピッツが話しているのを見て、ポールを手招きする。


「ポール、見てください。貴方から見てあの二人はどう映りますか?」


見ればピッツがルナに懸命に話しかけているが、話題作りが下手なのかあまり会話は盛り上がっていない。だがあのルナが、それでも楽しそうに話している。


「誰がどう見てもピッツはルナに気があるように見えるけど」

「流石探偵」

「何が流石探偵何だい。こんなの誰が見ても明らかだよ。別に探偵の力でも何でもない。分かったよ、カケルは俺の事を馬鹿にしてるんだろ。君も俺の力を見くびっている頭の悪い人間の一人だという事だ」

「いや、俺が言いたいのはこの村にはこの村の暮らしがあるという事です。彼らから見れば俺たちは等しく部外者、それ以上でもそれ以下でもない。せめてこの村にいる間くらいは、彼らの事を知る努力をするべきだという事です。それこそ探偵の貴方の力を使って」


そう褒められてポールは一瞬キョトンとするが、すぐに納得する。


「成程、君はガルガンにも気にいられようと頑張っていたけど、とにかくこの村でコネクションを作りたいんだね。いいよ、乗ってあげるよ。心証を良くするに越したことは無いし」


ポールとカケルの利害が一致して、仮初の友達関係が生まれる。ドゴールはカケルを軟弱ものとみなしており、仲良くなる気はないようだが。それぞれの陰謀が渦巻きながら少しずつ物語は動く。

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