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楔を打て

カケル達一行はイート国に向かって歩き続ける。そして明らかに空気が変わったのをカケルが感じるのと同時に、ギドが異変に気付く。


「見ろ、変な建物がちらほら見える。恐らくあれが魔王の支配する陣地だ。武器を構えろ、ここはもう敵地だ。それぞれ相手するべき敵は理解しているな?」


そのギドの言葉に全員が頷く。事前にカケルが出した情報から、戦い方は決めてあるようだ。


「当然だ、やってやるぜ」

「頑張る」

「死ぬなよ、お前ら。俺もソウルイーターをぶっ殺してやる」


魔法使いと戦士は闇夜のシノビを攻撃し、バルコはソウルイーターを攻撃する様だ。カケルはディープワールドカードゲームの世界には詳しいが、逆に言えばゲームに出ていなかった冒険者たち一人ひとりの能力がどれほどかは分からない。バルコの実力は市兵衛との戦いである程度は把握してはいるが、とてもではないがソウルイーターのスタッツに人間一人で勝てるとは思えない。それでもバルコがやると言ったのなら、それに口を出すべきではないと悟り、口を噤む。バルコが黒槍を握りしめる。「魂殺し」の意志を託されたバルコたち冒険者は、「魂殺し」を彷彿とさせるソウルイーターを見過ごせないのだ。


「良い心意気だ。お前らがパルメトの冒険者ギルドにいればちっとは俺の生き方も楽しかっただろうな。終わったらまたバカ騒ぎをしようぜ。俺は師匠を眠らせてやる。本当は魔王のやつをこの手で殺したかったが、それはお前に任せる」


そう言ってギドがカケルに目配せをする。それを受けてカケルは小さく頷く。ギドはテトと戦うことを決め、敵の本陣に攻撃するのはカケルになる。元々モンスター使いであるカケルは、一人で動いてもモンスターがいることでそれなりの戦力が望める。敵の本陣を叩くほどの機動力と申し分ない戦闘能力を併せ持ったカケルが、魔王を殺すという役目を引き受けたのは当然であろう。それにカケルは個人的に魔王への恨みがある。許せないのだ、命をぞんざいに扱う魔王という存在が。戦いの火種をばら撒くその行為が。カケルは怒りを押し殺しながら、ユタの村の鍛冶師から受け取った剣を握る。


(殺す、殺してやる・・・)


怒りは抑えるが殺意は抱いている。カケルもこの世界に馴染んできたという事だろう。もう目の前にいる人たちは、名もなきNPCではない。楽しい思い出を共有した友なのだ。


「私たちはテンタクルサンドワームと三つ首のケルベロスを倒しますね」


冒険者たちに負けず劣らずユタの村の戦士たちもやる気に満ち溢れている。もう彼らはただのユタの村の住民ではない。「地喰い」という、災厄カードの中でも戦闘能力で言えば群を抜いて強いモンスターを相手に戦い抜いた戦士たちだ。彼らの装備は「地喰い」の素材で作られている。もう生半可なモンスターでは相手にならないだろう。心なしかモンスターを素材としか見ていない気がするのは、カケルの気のせいではないだろう。


「それなら私たちはミュータントをやるよ。いかれた人間の科学者が生み出した化け物なら、私たちが自然の摂理ってやつを説いてやらないとね」


エルフ達はミュータントの撃破を誓う。エルフは人間を基本的に嫌うが、何よりも嫌なのは人間の高慢なところだ。人間は自分たちが神にでもなれると信じて疑わない。故に森の神を信奉するエルフ達にとってみれば、人間の考えはあり得ないと考えるのが普通だ。


「諸君らの助力、感謝する。私たち騎士団と民兵はイート国の騎士団の対処に回る。残った冒険者や騎士団、民兵は敵の補給線の攻撃を頼む。これは聖戦でも何でもない、ティラキア王国の未来を決めるためのただの戦いだ!たとえ泥臭くとも、ティラキアの未来のために!」


そう言ってクーガが剣を抜き、天にかざす。それに続き、連合軍の面々は各々、武器を手に取り天にかざす。種族や生まれや育ちは違えども、今確かにこの時は、思いは一つに―――。そして各自、自らの敵に立ち向かう。死の恐怖を打ち払い、全ては明るい未来のために。


「聖なる領域、だったか?確かに変な空間だな」

「同意」

「お前ら気を引き締めろ、見えたぞ。闇夜のシノビと俺の師匠だ」


戦士と魔法使い、そしてギドは不思議な空間にいる。正方形のその空間の角にはバカでかい大理石の柱が立っており、地面も同じように大理石で真っ白だ。その空間に、大きな弓を携えた男と、忍びの装束を身にまとった少女が佇んでいる。ギドが顔に怒りの表情を張り付けながら矢を放つが、弓を携えた男は何でもない様にそれを躱す。そしてゆったりとした声で話し始める。


「酷いなぁ。僕を英雄と知っての狼藉かな?僕はテト、僕が、僕こそが英雄だ」


そのテトの言葉にギドは歯軋りをする。


「ふざけるな!俺の師匠はそんな話し方はしねぇ!一人称だって違う。それに師匠は自分の事を英雄だと自慢しない!あの時代の英雄は間違いなく、「四人四季」の皆だ、師匠なら謙遜してそう言った!」


そう怒鳴りながら続けざまに矢を3つ射るが、テトは最小限の動きでそれを回避していく。あのルフさえ一撃で打ち落とすギドの矢を、だ。それが出来るという事はすなわち、ギドの前にいるのは間違いなく英雄テトなのだ。それが分かってギドは悲しい顔をする。そんなギドの背後に忍び寄る影。


「戦闘中に物思いに耽っていていいのか?」


そう言いながら忍びの少女が短刀をギドの首元目掛けて振りかぶるが、金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いて、戦士が大剣で短刀を防ぐ。そしてすぐさま魔法使いが闇夜のシノビ目掛けて魔法を放つ。


「アイスカッター!」


〇アイスカッター[スペル] コスト青 ☆1

効果・モンスター1体に2ダメージを与え、攻撃力を1下げる

―鋭利な氷の刃が敵を切り裂く―


氷が刃となって闇夜のシノビに襲い掛かるが、不思議なことに少女は霧のように消え、標的を失った氷の刃は地面に突き刺さる。戦士と魔法使いも事前にカケルから伝えられていたから知っているが、やはり実際に見ると驚いた顔をする。闇夜のシノビの効果である、2以上のダメージを無効化するというその特性。どうやら忍びを捉えるのは思ったより難儀なことだと悟り、戦士と魔法使いの表情に焦りが生まれる。対照的に闇夜のシノビは挑発的に笑う。


「私は主の刀、貴様ら程度に遅れは取らない」


この世界はディープワールドカードゲームの世界とは違うので、単純なスタッツがものをいう世界ではない。今戦士と魔法使いが対峙している闇夜のシノビは、途方もなく厄介な敵である。そしてテトも同じく厄介である。自分こそが英雄であるという自負が、テトの動きに余裕を持たせる。あのギドがまるで相手にならない、そんな敵だ。もうギドの矢は何本躱されただろうか、遂にギドが声を張り上げる。


「何で、何で!間違いなく師匠のはずなのに、なんで俺の事を覚えていないんだ!俺が今握っているこの弓は、アンタが俺に託してくれた弓だ!」


今にも泣きそうな声で、ギドは悲痛な心の丈を叫び声に乗せる。英雄テト、彼が使った弓はやけにでかく、そして弦を引くのにも尋常ではない腕力がいる程の強弓だ。だが今テトが背負っている弓は何処にでもある、普通の弓だ。ギドが叫びながら矢を放つが、テトは軽々とそれを避け続ける。


「もういいかい?今度は僕の番だ」


そう言いながらテトは飄々と矢を番えて、放つ。それだけの動作なのにまるで時が止まったかのようにギドには感じられる。それほどまでに綺麗な所作なのだ。テトが軽々と放った矢は目にもとまらぬ速さでギドの肩を貫く。思わず叫び声をあげるギドは、視界の端で悲しそうに笑うテトの姿を見る。その姿を見て、ギドは確信する。


「あぁ、やっぱり師匠は師匠だ。冒険者をやっていた時の師匠は百発百中の弓の名手だったが、目が悪くなって冒険者を引退してからは、矢もブレるようになった。丁度今みたいにな。そしていつしかこの強弓も使えなくなって、俺に託したんだ。覚えてるか?アンタからしてみれば孤児を1人拾っただけの事だろうが、俺にはアンタが神様に見えたよ」


ギドは孤児であった。よくある話だが、よくあるせいで誰も助けてはくれなかった。満足のいく食事もとれず痩せ細っていた当時のギドは、今と比べればまるで別人だ。それでもギドが幸運だったのは、テトに拾われたことであろう。テトは初めは英雄の使命として、ただ孤児を1人拾っただけであった。それでもいつしかテトはギドに心を許していった。ギドにならテトは何でも話すことが出来た。ティラキアⅠ世の悪口で盛り上がったこともあったし、パーティーメンバーの自慢話をしてギドに呆れられたこともあった。だが楽しい時間というのは永遠には続かないもので、暫くしてテトの冒険者としての人生も終わりを迎える。


「ギド、俺の弓をお前に託す。今は使えなくても、いつか使える日が来るはずだ。その時、お前は英雄になるんだ」


そう言ってテトはギドに弓を託した。そのことを思い出して、ギドは最後の力を振り絞り、力の限り弦を引き絞る。目には涙を浮かべて、最後の別れを惜しむように。


「見れくれ師匠、俺は英雄になったんだ」


そう言いながらギドは矢を放つ。今までとは比べ物にならないほどの速さで矢がテト目掛けて飛び、風を切り裂きながらテトの額に吸い込まれる。


「ギ、ド・・・」


そう言い残してテトは大理石の地面に倒れる。その言葉は確かにギドの耳に届いた。テトは確かにイート国の魔王という奴に召喚されたただのモンスターだ。だが、オフィーリアが前の主人との思い出を覚えていたように、テトもまたギドと暮らした日々の事を覚えていたのだ。多分これから先も、心無い人間がテトを召喚するのだろう。だがそれでも、英雄テトとしての生き方は、ギドの心にのみ生きている。それが師匠と弟子という関係だ。ギドとテトの決着がついたころ、闇夜のシノビと冒険者コンビの戦いも決着が付こうとしている。


「はぁ、はぁ・・・。くそっ、捕まらない」


戦士が肩で息をしながら愚痴を零す。見れば全身満身創痍で、忍びにいいようにあしらわれているのが見て取れる。戦士と魔法使いのコンビでは、速さに特化した忍びを捕まえることは至難の業である様だ。だがそれでも冒険者コンビの目は死んではいない。理解できないとばかりに、闇夜のシノビが呆れた口調で彼らに降参を進める。


「諦めも一つの道ですよ?貴様らに私は捉えられない」

「愚問」

「そう言うと思ってましたよ、残念です」


闇夜のシノビの降参勧告を一蹴する魔法使い。だが魔法使いが言い終わると同時に、闇夜のシノビが魔法使いの背後に現れ、心底残念そうに小刀を振り下ろす。魔法使いはそれを避けることも出来ずに、背中に小刀が突き刺さる。だが魔法使いはニヤリと笑い、すぐさま後ろを振り返り闇夜のシノビの腕を取る。


「捉えた・・・!」

「なっ!」


自らを囮とした魔法使いの行動に思わず闇夜のシノビは驚くが、それは一瞬。次の瞬間には戦士が闇夜のシノビの首を斬り飛ばして、忍びは遺言も言えずに絶命する。その光景を見て、魔法使いは安心しきって、地面に倒れこむ。思わず戦士が魔法使いに駆け寄る。


「おい、俺たちの勝ちだ。ギドもテトをやっつけた!だから死ぬな、バルコが待ってるだろ!」


その戦士の言葉を受けて、魔法使いが血を吐きながら、静かに笑う。


「バル、コ。最後にもう一度・・・」


それが魔法使いの最後の言葉となった。果たして魔法使いがいつもバルコの傍にいたのは一体何故なのか。その胸の内は、彼女にしか分からない事だろう。ただ今は、戦士が戦友の死を悲しむのみ。

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