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集結

カケル達の戦略は決まった。こちらから攻め込み、相手の陣地を荒らし尽くすという、シンプルだが我武者羅な作戦だ。今この場に集まっている全員覚悟を決める。今から彼らは王都グーンラキアを離れてイート国に乗り込むのだ。当然安寧などあるはずもなく、敵軍で孤立すればすぐに死ぬだろう。だがそれでも彼らはなりふり構っていられないのもまた事実。故に少しの勝機を全力で掴みに行くのだ。皆が戦いの準備を始める中、カケルは考える。


(俺もイート国に攻め込むなら、恐らく未知の森に配置した陣地とモンスターは支配の範囲外になるだろう。すると彼らは野生に帰るはずだ。こちらから攻めるとなると、連れていけるモンスターは俺の本陣に配置しているモンスターだけに限られる。果たしてどうするべきか・・・?)


カケルは手札と盤面をのぞき込み、必死に考える。恐らくこの選択こそが戦いを左右する重要な分水嶺となるはずだと本能的に悟る。現在のカケルのHPは24、魔王の半分にも満たないがやれることはやったと言えるだろう。アイテムの使用コストは14で、十分アイテムの使用に空きはある。魔王のHPは変わらず52で、手札は7枚だ。本陣も空のままで、つまり手札を捨ててでも意図的に本陣にモンスターを召喚していないということになる。


(これは明らかに誘っている。攻め込んでみろと挑発しているんだ。いいだろう、グレゴリとルアを殺して得たその傲慢、正面から打ち破ってやる)


カケルは闘志に燃えながら本陣にモンスターを再配置していく。


〇リザードマン[モンスター] コスト4 5/3 ☆1

効果・このモンスターはスペルで受けるダメージが1減る

ーリザードマンの戦士は盾と剣で語るー


〇ウッドゴーレム[モンスター] コスト3 4/5 ☆2

ー無機質だが木の温もりを感じるー


〇星を紡ぐ者[モンスター] コスト2 4/4 スペル赤 ☆5

効果・プレイ時、全ての陣地に4ダメージ

―星の輝きのように、命とは儚いのです―


〇不動のガーゴイル[モンスター] コスト1 1/1 ☆1

効果・死亡時、プレイヤーの最大HPー1することで不動のガーゴイルを本陣に召喚する

―何かの守り人―


〇ゴブリン[モンスター] コスト2 3/2 ☆1

効果・陣地が破壊されるたびにカードを1枚引く

ーガラクタも奴らにとっては宝物だー


〇スライム[モンスター] コスト3 2/4 スペル青 ☆1

ー・・・ー


〇マイコニド[モンスター] コスト2 2/3 ☆2

効果・召喚時、同じ場所にマイコニドを1体召喚する

ー菌は増殖するー


〇一つ首のケルベロス[モンスター] コスト5 5/5 ☆1

効果・このモンスターが相手モンスターを一体倒せば「二つ首のケルベロス」に進化する

ー地獄の門番、まだ眠りの時ー


合計コスト24、ピッタリまで本陣に配置する。コストの関係でキラービーは入れられなったが、現状のカケルの全戦力である。油断は少しもないという気概を感じる。カケルは手札と、王都グーンラキアで大金を払って購入した二枚のスクロールを眺める。


〇復元装置[アイテム] コスト1 ☆1

効果・貴方の使ったアイテム一つを選択する。両プレイヤーはそのアイテムの効果をすぐに使用する

ーよくある模倣品だー


〇怒りの石[アイテム] コスト1 ☆2

効果・プレイヤー、陣地、モンスターいずれか1つの最大HPを-1して、その後1ダメージ

ーガナスの村は破滅の運命ー


〇誰かの隠れ家[陣地] 体力7 ☆5

効果・プレイ時、カードを5枚引く

―今は忘れ去られた誰かの家―


〇大障壁[スペル] コスト緑・赤 ☆2

効果・1つの陣地を選択する。その陣地にモンスターは進軍不可

ー突如現れたその壁は生き物を拒んだー


〇水の流れ[スペル] コスト青 ☆1

効果・手札を1枚引く

ー止まることなく流れ続けるー


〇雨降らし[スペル] コストなし ☆6

効果・貴方のプレイヤー、陣地、モンスター全てのHPを5回復する

ー雨はすべての命に平等に降りかかるー


〇星落とし[スペル] コストなし ☆6

効果・陣地を一つ破壊する

ー星は一つの命に終わりを告げるー


カケルは手札の水の流れというスペルカードを見て懐かしい気持ちになる。思えば、スペル青を得るためにユタの村の魔道具屋の主人に頼み込んで痛い思いをしたものだと感傷に浸る。丁度イート国へ攻め込む途中にユタの村がある。


(少しだけトゥグリやマウリ、ルゥダと会うのもいいかもしれない。皆、どうなったんだろう)


そんなことを考えているとカケルの後ろから食欲をそそる匂いが流れてきて、思わずカケルが後ろを振り向くといつの間にか宴会が始まっている。


「おうカケル、お前も飲めよ」


呆気にとられるカケルにバルコが有無を言わさず酒を押し付ける。戦争の前に酒を飲んでいいのかとカケルは抗議しかけるが、酒を楽しそうに飲む彼らの目に少しの恐怖が混ざっているのを見て、何も言えなくなる。彼らは、死ぬかもしれないという恐怖を無理やり酒を飲むことによって忘れているのだ。故郷のためにと言えば聞こえはいいかもしれない。敵討ちだと意気込めばカッコいいかもしれない。未来のためだと言えば誰かが英雄だと言ってくれるかもしれない。だが恐らくこの中にいるほとんどは道半ばで死に、後に残るのはその名前と生きざまだけだ。怖くないはずが無い。カケルが顔を上げると、皆思い思いに宴を楽しんでいる。


「エルフは初めて見たな。アルトリアはやはり酒は強いのか?」

「かの英雄テトの弟子には負けるだろう。飲み比べてみるか?」


ギドとアルトリアが酒の飲みあいをしている。それぞれが互いに好きな酒を飲みあっているようだ。アルトリアはワインで、ギドはビール。ギド自身はビールは初めは好きではなかったようだが、師匠であるテトの影響を受けてビールが好きになったようだ。ちなみに飲みあいの勝負はアルトリアの圧勝だった。エルフは強いのかとカケルは驚く。向こうではウッドゴーレムのガイアとリザードマンのギークが大道芸をやっている。ガイアがギークを空中に放り投げ、放り投げられたギークは空中で剣と盾を綺麗に操り、演武を行う。


「おぉ、すげぇな!これが戦闘種族リザードマンの戦い方か!」

「違うと思う」


バルコの仲間である戦士が陽気に笑い、魔法使いがツッコミを入れる。どうやらだいぶ酒が回っているようだ。くだらない事でこれ以上ないほど笑う。何と素晴らしい事であろうか。思わずカケルは呟く。


「・・・こんな時が永遠に続けばいいのにな」

「あぁ、そうだな・・・」


その呟きにバルコは優しく答える。宴は夜深くまで続いた。そして翌日、朝日が何事もなく昇り、人々は覚悟を決める。天気は雲一つない快晴、最後の眺めにしては上出来すぎるくらいだ。イート国への侵攻の途中でカケルが一瞬だけユタの村に寄りたいと言ったので、そこで行軍は一時停止し、カケルは急いでユタの村に立ち寄る。ユタの村でカケルを出迎えたのはトゥグリだ。


「お兄さん、お帰りなさい」


その笑顔はえらく軽やかで、言葉では表せないような美しさを孕んでいる。見ればユタの村は栄えているようだ。「地喰い」との戦いに勝ったユタの村の人々は「地喰い」の素材や特産品である命の石を売って、過去の傷も少しは癒えたようだ。それが分かって、カケルは嬉しくなる。思わずでかかる涙を押し込めながらカケルは笑顔でただいまを伝える。それからは住民たちに迎えられて、あっという間に時間は過ぎていく。


「カケル、よく帰ってきたな。冒険譚を聞かせろよ」

「確かに、王都の土産話を聞かせてくれるって約束しましたよね」

「若者よ、少し見ない間に随分と逞しくなったようだの」


気付けばカケルはマウリ、トゥグリ、ルゥダに捕まってしまっている。だがカケルは土産話もほどほどに、本題を切り出す。


「皆さん、聞いてほしい事が。実は俺たちは王都の騎士団や冒険者、エルフ達と共にイート国に侵攻している途中なんです。もしよければ、その・・・」

「皆まで言うなよ、俺とお前の仲だろカケル。違うか?」

「私はもっともっと強くなったんだよ。マウリも日々訓練しているけど私には及ばない」


カケルの言葉に割り込むようにマウリとトゥグリが強い意志の籠った眼でカケルを見つめる。その言葉にカケルはありがとうと言いながら、ただただ深く頭を下げる。皆何も言わなくてもカケルの意図を組んでくれる。それが酷く嬉しくカケルは感じるが、同時に負けられないという意志が強くなる。そのままカケルはユタの村を少し歩く。こじんまりとしたギルドに行くと解体作業員が煙草をふかしている。向こうもカケルに気付き、話しかけてくる。


「おう、久しぶりだな。「地喰い」の解体作業で少し前までは忙しかったんだが、今は見た通りだ。あぁそうだ、これやるよ」


そう言って解体作業はカケルに一振りの剣を渡す。「地喰い」の素材を加工して作った、やたら重い剣だ。だが妙に手になじむとカケルは感じる。カケルは解体作業員にお礼を告げ、今度は魔道具屋に向かう。魔道具屋では老婆が相変わらず店番をしている。


「おや?アンタはいつぞやの。帰ってきてたんだね。アタシに何か用かい?」

「スクロールを買おうかと。あと、俺に前みたいに青の魔力を流し込んでほしいんです。ちょっと大規模な戦争がありまして、その準備です。あくまで保険ですけど」

「なんだい、また激痛に襲われるってのに、進んで茨の道を歩くもんだから見ていてハラハラするよ」


そう小言を言いながらも老婆は迷うことなくカケルに青の魔力を注ぎ込む。皆なんだかんだ言ってもカケルの事が好きなのである。それが痛いほど分かり、カケルは苦笑する。

_____

場所は変わってここは連合軍の冒険者たちのたまり場だ。カケルがいない間に作戦はどんどん詰められている。今もバルコが戦士と魔法使いに作戦を伝えているところだ。


「カケルがいないうちに作戦を言うぞ。俺がソウルイーターに、お前らが闇夜のシノビに攻撃をかける。残りのやつらは陽動や敵の補給線の襲撃に努める。これでいいか?」

「あぁ、それで大丈夫だ。死ぬなよバルコ」

「うん、大丈夫。死なないで」

「当たりめぇだ。そう言うお前らこそ死ぬんじゃねぇぞ。所詮俺らは英雄志望の死にたがりだ。死んじまえばそれまで、後世には名前さえ残らない。でもそんな俺達でもカケルは平等に接してくれた。こんな無謀な作戦、アイツは絶対に止めるに決まっている。だが時間稼ぎさえできればそれでいい。それでカケルが生き残れる確率が少しでも上がるなら・・・」


その言葉に戦士と魔法使いが各々の得物を強く握りしめる。ふと彼らに声がかけられる。歌う様な声色、オフィーリアだ。


「命の輝きとはかくも美しいものですね。例えこの戦いで死ぬ人がいても、私は忘れません。その人が生きた思い出は私の心の中で生きていますから。これほどの命の輝きを見せられて、記憶に残らないという方が無理があります」


そう言ってオフィーリアはニコリと微笑む。その屈託のない、純粋なまでの笑顔に、違いないとばかりに冒険者たちは笑い出す。例え少しの間だけとはいえ、互いに思い出を共有した仲である。昨日はくだらない宴会で盛り上がりもした。あれほど楽しい宴会は、もうきっと来ないかもしれない。気付けばギドやエルフ、クーガたち騎士団も集まり、最後に皆で声を張り上げる。


「イート国のやつらを打ち倒すぞ!」


満場一致のその言葉は、何処までも木霊する。死にゆく命が発した心の声は、ウオアムの大地に溶けて消える。やがてユタの村から帰ってきたカケルは、クーガが考案した作戦を聞き入れる。その裏で連合軍が密かに覚悟を決めているとも知らずに・・・。

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