古い思い出
風が吹いている。まだ人々が魔王の脅威に抗う術が少なく、一致団結していた時代。王都グーンラキアを突如魔王の軍勢が襲った。風が混乱を招き入れようとした時、彼らは颯爽と現れた。そう、この世界で暮らす者なら誰もが知っている、古い英雄の話だ―――。
「本当にお主ならこの絶望的状況を切り抜けられるのだな?」
「俺一人の力じゃ無理です。でも俺には頼もしい仲間がいる。王都の住民の後ろ盾もある。きっと魔王の軍勢を打ち破ってみせます」
当時のティラキア王国の王、ティラキアⅠ世は厳かに一人の弓使いに尋ねる。尋ねられた男はやけに大きい弓を背負った大男だ。のちの英雄、テトである。ティラキアⅠ世は新興国家ティラキア王国の初代国王だ。彼は例に漏れず人間至上主義であり、徹底した亜人排斥により人々の不満を亜人に向けていた。亜人も亜人で人間を嫌っているのである意味両想いであろう。人は、共通の敵が現れれば団結する生き物である。だがそんな世界でテトは変わっていた。いや亜人でありながらテトと共に旅をする残りの3人の亜人も変わっていた。彼らは互いを尊重し合い、良き戦友として日々切磋琢磨していた。人間、リザードマン、エルフ、ドワーフ。種族の違う彼らが仲良しなのは珍しい事である。そしてテトは、愛する仲間の尊厳を守るために、時の国王の言葉さえも臆することなく訂正する。だが一人が声を上げたところで何も変わらない。結局国王の考えは変わることなく、テトは難しい顔をして王城を出る。
「この国は相も変わらず古い考えだ。魔王の前では種族で悩むだけ無駄だというのに。手を取り合う必要があるんだ・・・」
そうテトは自分自身に言い聞かせる。それは変わりゆく王都にのまれないように抗うためだ。遥か昔、まだ人間が亜人と手を取り合えた時代はあった。だが人間は繁栄を望み、その頭脳を自らのためだけに使ってきた。ティラキアⅠ世の話を聞いたテトの仲間達は、それぞれ人間に対して不満を言う。
「やれやれこれだから人間は・・・あぁ当然お主は違うぞ」
長い髭をさすりながらドワーフが言う。身長は低いが筋骨隆々のドワーフは鍛冶が得意な種族だ。ドワーフの武具を求めて人間がドワーフを攫う様になってからは、ドワーフは人間から隠れて生活している。このドワーフは卓越した戦闘技術があるので堂々と王都に出てこれている。
「人間は信用できない」
顔がバレない様に目深にフードをかぶったエルフが同調する。エルフは自然を愛し、動物も愛する。故に乱獲をしたり森林を伐採したりする人間とは折り合いがつかない。それにエルフは珍しい種族であるため、このエルフの女性は顔を隠しているのだ。
「だがそうは言っても、人間と手を取り合わぬことには魔王に太刀打ちできないのもまた事実」
リザードマンがくぎを刺す。剣と盾を使いこなすのがリザードマンという種族の特徴だが、彼はリザードマンの中でも特に戦闘技術が高い。それに物事を俯瞰で見れる冷静さを併せ持っており、このパーティーのストッパー役も担っている。
「まぁまぁ、俺らは俺らでやれることをやるだけだ。今までだってそうだったし、これからもそうだろう?」
各々の意見をテトがまとめ上げる。背中に背負っている弓はやけにでかく、弦を引くだけで結構な腕力が要求される代物だ。4人は種族は違えど背中を預けられる仲間であり、何よりも互いを信頼し合っていた。そんな仲の良い4人に王都の騎士団長が近づく。
「冒険者ギルドで再上位ランクであるランク5に属する、「四人四季」の皆様ですな?私はこの王都の騎士団長を務めておりますクーガと言います。この度は魔王軍撃退の手伝いをしていただき誠にありがとうございます。そして申し訳ありません。王国兵の中には未だに亜人差別の意識があるものも多く、亜人とはともに戦えないという輩が脱退をしました。後は魔王軍を目の前にして戦意喪失したものも脱退し、我らの軍は半数ほどに減少しました。ですが、残りの我らは例えこの命刺し違えても王都のために散る覚悟は出来ております。冒険者の方々はそこまでの忠誠は、この王都にはないはずです。どうか、命を大事にしてください」
騎士団長クーガは義理を重んじる、立派な人間である。だがパーティー「四人四季」の面々はそんなクーガの話を受けてニッと笑う。
「クーガさん、俺ら英雄志望なんですよ。馬鹿げてるわけじゃないんです。本当にこの世界に名前を刻んでやろうって意気込んでるんです。だから、魔王軍にも精一杯抗ってやりますよ」
そんなことを言うテトにクーガは顔を顰めるが、ハタとテトたちの後ろに王都の住民が集まっていることに気が付く。その住民たちは揃いも揃って武装している。そう、民兵だ。
「魔王軍に俺たちの王都を好き勝手されてたまるかってんだ!」
「儂らもやってやるぞ!」
民兵の言葉に今度こそクーガばかりではなくテトまでもが驚く。確かにこの世界にはつまらない人種差別などはあるだろう。危機を前にして逃げ出す輩もいるだろう。戦争を前にして狡賢く稼ごうとする商人だって当然いるだろう。だが、何のことは無い。人々は危機を前に立ち向かうテト達に英雄の兆しを見たのだ。その英雄というのは負の感情全てを打ち払ってしまうかのような、そんな輝きを放つ、それだけのことだ。
この日、王都グーンラキアで魔王軍と人間が激突した。前線はテトたち「四人四季」と騎士団が務め、ティラキア城を守る最後の砦はクーガ率いる少しの騎士団であった。戦いは苛烈を極めたが、団結力の面で徐々に人間が押していく。やがて魔王軍は敗走し、後には魔王が作り上げた陣地と、少々の敗残兵が残った。魔王がなぜ王都を攻めたかは今も分かっていない。だが、この戦いを機にティラキア王国が力をつけ、皮肉にも亜人排斥の風潮がさらに強くなり、ティラキア王国の国王が欲にまみれていったのは必然と言えたのかもしてない。
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風が吹いている。イート国が今まさに王都グーンラキアを攻めようとしている。そんな時の流れを運ぶ風を肌で感じながら、ギドがオーシスに疑問を投げかける。
「なぁ、エルフ達は人間が憎いはずだ。何でカケル達に協力するんだ?俺だって人間がエルフにしたことを知らないわけじゃない。こんな王都までやってきて、怖くなかったのか?」
それを受けてオーシスが神妙な面持ちで答える。
「怖くないはずが無いよ。けれどね、私たちもいつまでも里に籠っている訳にはいかないんだよ。動かなければ何も変わらない、そうだろう?ウオアムというオアシスから出る必要があるんだ」
「あれ?ウオアムってこの世界の名前じゃ?」
オーシスの言葉にカケルが疑問を抱くが、その疑問にアルトリアが答える。
「カケル、元々ウオアムとは私たちエルフの理想郷の名前なんだ。オーシス様たちが暮らされるエルフの里をウオアムと呼んでいたのが、いつの間にか世界の名前に変わったわけだ」
「そういうことさ。それにしても放浪のエルフの剣士アルトリアか。またこうしてここで会うのも何かの縁かな・・・」
「オーシス様、もうこの世界は昔とは違う。ここに集まっている面々を見ればわかるでしょう。人間へ敵意を抱くばかりでは前には進めないのです」
質問者のカケルを置いてけぼりでアルトリアとオーシスが喋り始める。どうやら二人は過去にこの王都グーンラキアで出会ったことがあるようだが、カケルは知る由もないので話についていけないでいる。するとカケル達の下に王都グーンラキアの騎士団が到着する。だがその数は王都を守るには随分と少なく見える。先頭に立つ老兵が口を開く。
「私はこの王都の騎士団長を務めるクーガだ。諸君らの援助、感謝する。見ての通り、イート国の侵攻に怖気づいて、普段口だけはでかいお偉いさん方は王都から真っ先に逃げ出してしまった。だが私たちは最後まで戦い続けるつもりだ。諸君らはいつでも戦線を離脱してもらって構わない。私たちは孤独に戦うグレゴリ殿とルア殿に気付けなかった時点で、騎士団失格なのだから」
その言葉にギドがニカっと笑ってみせる。
「クーガさん、俺ら英雄志望なんですよ」
そのギドの言葉にクーガはハタと何かに気付き、そしてギドが背負っている大きな弓を見て、顔に手を当てながら天を仰ぐ。
「こんな、こんなことがあるのだな・・・。神よ、感謝します」
その言葉は震えているようにカケルには感じられる。やがて騎士団の後ろから民兵たちも現れて、イート国に対抗するための最大戦力が集まる。カケルはこれからのイート国との戦いのために1枚の紙を取り出す。それにはカケルが投影装置で知った敵の召喚者の陣営が書き写されている。
「皆さん、これを見てください。とある情報筋から仕入れた、敵のモンスターの正確な配置図です。相手のイート国は騎士団以外にもこのモンスター軍団が強力だと聞きます。ですが対処をすれば十分に対抗できるはずです。それにどういう訳か、相手の本陣にはモンスターが一体も配置されていません。戦略としては、全ての陣地に攻撃を仕掛け敵を足止め、その隙に敵の本陣を落とせばモンスター軍団は壊滅するはずです」
カケルは己が知る情報を出来るだけ暈しながら、それでも戦争に勝つために最善策を提示する。その案にクーガが乗っかる。
「ふむ、いい案だ。敵の騎士団の方は私の部隊が何とかしよう。未知の森付近に潜んで、相手の騎士団にゲリラ的に攻撃を仕掛ける。地の利はこちらにあるのだ。イート国の蛮族共に、戦いとは何たるかを教えてやる」
「それは妙案だな。お主等に森の神の加護があることを祈っておるよ」
ニヤリと笑うクーガにオーシスが励ましの言葉をかける。即席の軍隊だが、仲は悪くないようだ。それに今はイート国という明確な脅威を前にして、正確な敵の情報を持ってきたカケルが追及されていないのも大きい。人は共通敵を持つとこうも団結するのかとラパツやバルコなどは驚いている。単に2人とも馬鹿なので、軍議についていけていないだけなのだが。




