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繋いだ思い

リアとルアの記憶を見終わり、カケルの思考はまたあの謎の空間に浮かんでいる。カケルの前には神が何事もなく浮かんでいる。


『やぁ、また会ったな』

「また会ったな、じゃない。これはどういうことだ。俺はリアとルアの記憶を獲得する条件を満たしていないはずだ」

『何を言っている。お前は十分に条件を満たしているよ。リアと市兵衛の心を変えたんだ、これくらいの褒美は当然だろ。まぁ、褒美かどうかは受け取りての意識次第だがな』

「・・・」

『グレゴリとルアは目の前でリアと市兵衛、そして老執事が死んだのを見た。それもこれも全て自分たちが死地に赴くと言ってしまったからだ。だから彼らはこれ以上誰かが自分たちを止めようとしない様に、誰にも知られないように王都グーンラキアから出ていった。今となってはそれが正しかったかどうかは分かりはしない。未来など誰にも分からないからな』

「神でも分からないのか?」

『当然だ。未来など分かるはずもない。分からないからこそ、楽しいんだろ?』


神は未来が分からないことを楽しいという。だがカケルにとっては未来が分からないことは不安で不安で仕方がない。それは脆弱な人間としては当たり前の感情かもしれない。果たして、いつか英雄が現れると断言したグレゴリはどんな気持ちでそんなことを言ったのか。そんなことを考えながらカケルはまた意識を失い、次に意識を取り戻した時は城の部屋の中である。カケルが記憶を見ていた間は、相変わらず現実世界ではほとんど時間が経っていないようだ。カケルが投影装置を見ると、まだグレゴリへ至る道というクエストがある。また、手札の変化もある。あの忙しい日々の中、カケルは増えた手札を確認していなかった。カケルの今の手札は以下のようになっている。


〇怒りの石[アイテム] コスト1 ☆2

効果・プレイヤー、陣地、モンスターいずれか1つの最大HPを-1して、その後1ダメージ

ーガナスの村は破滅の運命ー


〇誰かの隠れ家[陣地] 体力7 ☆5

効果・プレイ時、カードを5枚引く

―今は忘れ去られた誰かの家―


〇ディスペル[スペル] コスト緑 ☆2

効果・相手のスペル1枚の効果を打ち消す

ー抗う力を思いに乗せてー


〇獣の通り道[陣地] 体力1 ☆1

効果・この陣地がモンスターから受けるダメージは0になる

―小さな道に誘われ、大きな夢を見る―


〇獣の通り道[陣地] 体力1 ☆1

効果・この陣地がモンスターから受けるダメージは0になる

―小さな道に誘われ、大きな夢を見る―


〇不動のガーゴイル[モンスター] コスト1 1/1 ☆1

効果・死亡時、プレイヤーの最大HPー1することで不動のガーゴイルを本陣に召喚する

―何かの守り人―


〇大障壁[スペル] コスト緑・赤 ☆2

効果・1つの陣地を選択する。その陣地にモンスターは進軍不可

ー突如現れたその壁は生き物を拒んだー


不動のガーゴイルと大障壁を新たに引いたカケルだが、どちらも使い勝手が悪いと判断してまだプレイしていない。だがこの間にも体力増強のスペルは使い続けており、今のカケルのHPは18となっている。準備は万全と言える。だがこの状況で尚、カケルは迷ってしまっている。それはグレゴリが、リアが、ルアがどんな思いで生きてきたかを知ってしまったから。もうカケルは前のように愚直にこのクエストをクリアする気力が湧いて来ないのである。だがそんなカケルにも一つだけ確かに言えることがある。


「リア・・・俺はイート国が許せない。我が物顔で王都の平和を奪っていった奴が許せない。俺は王都の事を何も知らないけど、でもみんなが暮らしてきた王都の事をどうでもいいと言えるほど薄情じゃない。仇は、必ず取る」

「カケル・・・リアが一番許せなかったのはリア自身だよ。グレゴリもルアも戦う事を選んだのに、リアだけ逃げてた。でもありがとう。もうリアは思い残すことは何もないよ」


そう言ってリアが涙を流しながらカケルに泣きつく。まだ年端もいかない少女の、息が詰まるような独白。誰にも言い出せなかった思いのたけをようやく言えたからか、リアは涙を流しながら笑っている。死は、この世からの逃避は必ずしも救済ではない。悩みぬいた魂には手を差し伸べてやることが、一番の救済なのかもしれない。リアも市兵衛も、そして城で出会った老執事でさえも、皆一見普通の人間のように見えて、戦い続けていたのだ。覚めない夢に囚われていたのだ。カケルはリアを抱きしめる。短い時間だったが、酷く記憶に残る時間であった。だがそれも今日までだ。カケルは震える手で投影装置に手を伸ばす。最後にリアが優しい音色で感謝を告げる。


「リアは、自分勝手なグレゴリとルアが少し嫌いだった。でも一番許せなかったのは、思い切りが付かないリア自身だったんだよ。最後に市兵衛と仲直り出来て、良かった。ありがとう、カケル」

「・・・こちらこそ」


カケルは俯きながらディスペルを使う。リアの体を緑の粒子が覆い、やがてリアの実体がかすれていき、後には何も残らなくなる。だがそれでいいのかもしれない。何も残らなくても、リアと過ごした記憶はカケルの心の中に残り続けるのだから。カケルはふらりと立ち上がり、おもむろにガラハの水瓶を取り出して頭から水をかぶる。そして頭を左右に振り水をある程度飛ばしてから、両頬を強くたたく。


「何をしているんですか?」

「別に何にも」


オフィーリアの質問にカケルはおどけてみせる。そして老執事の下に向かう。カケルとオフィーリアを見た老執事が訝しげに尋ねる。


「おや、もうお戻りになられるのですか。・・・リア様は何処へ?」

「リアは、ルアの下に行きました。後悔がもうなくなったみたいで。すいません、すぐに市場でディスペルのスクロールを買ってきます。少し待っていてください」

「・・・私は最後でいいのですよ。全てを見届けるのが、この老いぼれの最後の役目ですから」


老執事はニコリと笑い、そんなことを言う。カケルは老執事の意図を組み、急いで冒険者ギルドに向かう。だがそこにはバルコも市兵衛も、いやほとんどの冒険者がいなかった。


「え?なんで・・・」

「皆さんなら何処かに出て行ってしまいましたよ。どこかまでは分かりませんが」


戸惑うカケルに受付嬢がそんなことを告げる。すぐにカケルは冒険者たちが向かった場所を悟る。カケルは慌てて冒険者ギルドを出て、宿屋でウッドゴーレムとリザードマンを拾い、そのまま死の祭壇へ向かう。


「くそっ、間に合ってくれ!」


焦る気持ちを前面に押し出しながら何とかカケル一行が死の祭壇に到着すると、そこには疲れ切った冒険者たちと市兵衛の姿があり、「魂殺し」は体中に傷があり、胸に日本刀が突き刺さっている。不思議なのは冒険者たちは疲れてはいるが、目立った外傷はない事だろうか。カケルは真っ先に皆の安否を確認するが、皆歯切れが悪いながらも無事だと答える。思わずカケルはここで何が起きたのかを知りたいと願ったが、それは無粋というものだろう。未来は誰にも知りえないが、過去は神のみぞ知る。代わりにカケルの脳内にいつもの声が木霊する。


(報酬としてグレゴリの記憶を獲得します)

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