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夢の終わり

ディープワールドカードゲームは毎年世界大会が開かれている。だが一度優勝すれば☆6カードを贈呈される代わりに、次回から優勝してもカードの獲得権を失う。故にどんなプレイヤーでも☆6カードは1枚までしか持てないのだ。そんな制限がある中、多くのプレイヤーが目当ての☆6が出るまで大会の参加を見送った。特にスペルカードなどは人気がなく、「雨降らし」や「星落とし」が優勝商品となった世界大会は、モンスターが優勝商品となった大会に比べて参加人数も露骨に減った。そんな中で、必死に☆6のスペルカードを狙いに行った双子がいた。


リアとルアは容姿も声質も似ている双子だった。2人はその特性上、いつも服を交換して入れ替わりを楽しんでいた、無邪気な年相応の子供たちだった。その双子の両親は天文学者と気象予報士で、その2人が空に憧れを抱いたのは当然の帰結かもしれない。当時地球では、テラフォーミング・マーズ計画が一定の成果をあげていた。増えすぎた人口と破壊された自然、そして人の居場所を奪うロボット技術の進歩に、人々は壊れた地球を捨てて、新たな地でやり直す計画を思いついた。高層ビルに空飛ぶ車、全自動の生産ラインと簡略化されたプログラム。技術の進歩と言えば聞こえはいいが、人間にとっては武器が増えただけである。かくしてテラフォーミング・マーズ計画の指導者は、火星での作業員を募集した。昔とは異なり、特別な訓練を受けなくても、誰でも宇宙に旅立てる時代。当然リアとルアも火星で暮らすことを夢見ていた。


「リア、雲の上には何があると思う?」

「行ってみないと分からないよ、ルア」


そんな夢物語に花を咲かせるリアとルア。だが現実というのは時に残酷だ。火星での暮らしはリアとルアが想像していたほど豊かなものではなかった。とてもコロニーの外では暮らせない人間たちは、コロニーの中で慎ましく暮らす。人工知能が天気をランダムに再現して、壁には投影装置で綺麗な草原が映し出されている。つくられた自然、人々が壊したかつての地球がそこには再現されている。だが所詮は作り物で、まだ見ぬ宇宙に夢を見た双子の心を折るには十分すぎる程の出来栄えだった。


「こんなもの、人類の理想郷でも何でもないよ」


リアとルア、どちらかは分からぬがポツリと漏れた本音は、冷え切ったコロニーの中に嫌に響く。そして2人は地球に帰り、ディープワールドカードゲームというVRの世界を体験する。所詮VRなら火星にいることと変わりないという人もいるかもしれない。だがディープワールドカードゲームの世界のVR技術には目を見張るものがあった。召喚された森狼が爪を振るうたびに、そこからほとばしる汗。スペル・薄明を使った時、照明が消えて突如暗くなり、その後本物と見紛うほどの朝日の輝きがプレイヤーを照らし出すリアリティ。リアとルアにはその完璧なまでの地球をおとしこんだこの世界が、何か特別なものに見えた。そんな2人が「星落とし」と「雨降らし」に憧れを抱いたのは無理もない話、いやもはや必然であったと言える。


「リアは雨が好き、ルアは星が好き。このディープワールドカードゲームの世界にそれらが降ってくるとしたら、やっぱり幻想的なのかな」


リアはそんなことを夢見る。そこから2人の夢は決まったも同然だった。双子はいつも2人で試合をしながら、切磋琢磨をして強くなっていった。そして2人は世界大会で優勝して、それぞれ「雨降らし」と「星落とし」を手に入れた。2人はすぐに試合でそれらのスペルを使った。「雨降らし」は空に雷雲が現れて、優しい雨を降らせる。まるで人間の悲しさを洗い流すかのような、この世界を洗浄するかのような、そんな雨を降らす。「星落とし」は星を1つ落とす。星は最後の輝きをこの世界にうちこむ。地面が揺れて、一つの星の終わりを感じると同時に、それを受けて尚びくともしないこのディープワールドカードゲームの世界の、いやそれどころか地球の雄大さを雄弁に語っているかのようだ。


〇雨降らし[スペル] コストなし ☆6

効果・貴方のプレイヤー、陣地、モンスター全てのHPを5回復する

ー雨はすべての命に平等に降りかかるー


〇星落とし[スペル] コストなし ☆6

効果・陣地を一つ破壊する

ー星は一つの命に終わりを告げるー


発動に必要なコストなし。どのデッキにも入り、単純に強い効果を持つこの2枚のスペルカード。だがモンスターカードほど人気がなかったのは、このカードとの絆が目に見えないという点であろう。モンスターは愛情を注げば、それに応えてくれる。だがスペルカードに愛情を注ぐと言ってもどうすればいいか分からないというのが一般論だ。当然双子にとっては朝飯前の事ではあったが。


だからこそ私はこの双子の物語の結末が納得できないでいる。いつものように高台に上って空を観察していた双子の上に落ちてきたものは、流れ星でもにわか雨でもなく、テロリストによって落とされたコロニーであった。


『本当に人間という奴は自分勝手だ。いや私も人の事は言えないか。だが地球で居場所を失った人間に、このウオアムの世界で居場所を与えただけだ。後悔はない』


元々私がこの世界に呼んだ命は、地球では居場所がなかった命たちだ。私は万能ではない。人の運命など、それぞれの考えの末に変化するもので分かるわけがない。だから時々呼び寄せた召喚者たちと、召喚されたモンスター達のその後を見て、思う所があった。故に私はこの世界に、災厄を持たない異分子を呼んだ。丁度向こうも地球での生活を嫌っていたので、都合がよかった。災厄という力に溺れないのなら、彼はどんな生き方をするのか。そしてこの世界に残された災厄たちとどんな物語を紡ぐのか。それに興味があった。別に彼の代わりなどいくらでもいる、いるのだが・・・。


『この物語は彼にしか紡げないな』


私にはそう感じる。人間とは恐らくその短い人生で、狂うほど悩み苦しむ生き物なのだろう。ふと、リアとルアが繋いだ物語の続きを思い出す。地球で死んだ双子は、後悔の念を抱きながらこの世界で暮らしていた。ルアは他の召喚者と戦うために星を紡ぐ者を召喚したり「星落とし」を使ったりした。その度に星が落ちたのだが、私はすぐに落ちた星を1日程度で復元させた。この世界を変えるわけにはいかなかったから。ウオアムの世界に出来たクレーターは、何もしなくても修復される。自然の修復力という奴は凄まじい。ルアと対照的にリアは戦う事を心底嫌った。何故別の世界に来てまでいがみ合わなければいけないのか、まだ子供の彼女にはその理由が分からなかったのかもしれない。だが力がものをいう世界で、慈愛は弱みとなる。故に・・・リアとルアを待ち受けていた運命は残酷なものとなった。


『・・・』


私はウオアムの世界で起きていることに直接干渉することは出来ない。私に出来ることと言ったら、せいぜいカケルという人間を焚き付けてやるくらい。だがそれで十分かもしれない。さて、この過去を知ってお前はどうする?


_____


カケルは急に意識が覚醒する。長い、長い夢を見ていたようで、頭が痛いのかカケルは頭部をおさえる。今カケルが見た記憶と神からの一方的な語りは、痛いほどカケルの脳裏に焼き付いている。どうやら神と心さえも一体化した感じで、神の吐き出すような混沌とした思考回路に中てられて、カケルはしかめっ面をする。カケルが辺りを見渡すと、そこには相変わらず王都グーンラキアの市場が広がっている。カケルが夢を見た時間はほんの一瞬だったようで、喧騒が相変わらずやかましい。カケルは目の前の2枚のスクロールを眺め、ニヤニヤとカケルの足元を見る露天商にルピーを叩きつけて、その2枚のスクロールを購入する。まいどあり、とその露天商の言葉をカケルは背中で流しながら、ズカズカと歩いてその場を離れる。


(思い出した、悲しい真実を・・・。リアもルアも死んだ人間なのだ)


カケルは生きながら地球の暮らしに飽きて別世界への逃避を望んだが、リアとルアは望まない形でその短い人生を終えたのだ。カケルは思わずリアの腕を掴む。その腕は冷え切っていて、まるで生命の温もりが感じられない。カケルは人知れず決意する。リアをこんな目にやった奴を許せない、と。カケルはいてもたってもいられなくて、王都のとあるところに向かう。先ほど神の思考を読んでいたカケルは、グレゴリの居場所に心当たりが出来た。神はこの世界に干渉は出来ないが、ずっと傍観者として見ていたのだ。王都にはグレゴリの陣地が東西南北に1つずつある。それならばグレゴリは何処にいる?答えは簡単、この王都の中心部だ。グレゴリもディープワールドカードゲームのシステムを踏襲しているというのなら、陣地は自分から離れた場所には設置できないという縛りがある。またプレイヤーが陣地を設置できる数は5つまで、そして内2つは隠れた場所に設置しないといけない。これはプレイヤーの両隣に設置した陣地は接している陣地が少ないという、ディープワールドカードゲームのシステムに依存しているからである。そしてカケルはこの王都の中心部、つまりは立派な城が聳え立っている場所に向かう。


「何が古い歴史がある王都だよ。人々の煌びやかな暮らしが溢れる王都だよ。この王都は中心から外に向かうにかけて、だんだん寂れていく。俺が終わらせてみせる」


王都グーンラキアは、ゲームの世界では煌びやかな街並みが魅力的な都だった。市場の明かりのグラデーションが景色に溶け込むこの王都は、ゲームの世界とは異なり王都の端々で人の業が現れている。これらの説明をグレゴリに聞くことに決めたのだ。不思議なことに王城はガランとしており、外見と比べて内部は所々荒れている。ふと王城に草臥れた執事服を身にまとった老執事を見つけて、カケルは声をかける。


「すいません、この王城の人間はどこに行かれたんですか?」

「おぉ、訪問者は久しぶりですな。この城はグレゴリ様が実力で手に入れたのです。我がティラキア王国は隣国のイート国と小競り合いをしておりまして、グレゴリ様はイート国のモンスター軍団を撥ね退けたので、王都の住民に支持されたのです。ですが最近またイート国が攻めてきて、この城の住民は、戦えるものは迎撃戦に出ていったのです」

「・・・結果は?」

「御覧の有様です。一人で旅立たれたグレゴリ様は帰ってこず、王城でふんぞり返っていた戦えない者は一目散に他の国に逃げました。幸いなのはイート国がこの王都グーンラキアをまだ攻め落としていないことでしょうか・・・」

「何故それを王都の住民に言わないんですか?このままじゃイート国に攻め落とされるだけでは?」

「私たちは・・・まだ死んでいないからです。私たちは戦い続けているのです。民を見捨てて私たちが逃げられましょうか」


老執事の言っていることは、カケルはほとんど理解できなかったようで、首をかしげる。だがどうやら、彼らはまだ戦い続けているという事は確かなようだ。カケルは老執事にお礼を告げ、白を捜索する。捜索しながらカケルは考える。


(やっぱりここでもグレゴリへの評価はいいものだった。もしかしたら王都の奴隷売り場も、グレゴリが長い間帰ってこなくなって、勝手に部下が暴走したのかもしれない。それならグレゴリの陣地を落としてもグレゴリが抵抗しないのも理解できる。グレゴリは王都の近くにはいないという事か?)


モンスターの召喚にしろ陣地の設置にしろ、プレイヤーが近くにいないとどちらも出来ないアクションだ。当然スペルの使用もしかり。ファイアースピアを唱えたって、この星の裏側まで炎の槍が飛んでいくことは無い。地理的な制限があるのだ。それならばこの不可解な現象も納得できるというものだが、どうしても腑に落ちない点が一つある。それはグレゴリが出発してから、いったいどれほどの月日が経っているのかという事。カケルは改めて城を見渡し、その退廃具合に気が滅入る。そうして城を捜索している間に引き寄せられるように一つの部屋を見つける。カケルは気にせずその部屋に入ると、最初に感じたのは冷気。ひやりとした空気に思わずカケルは身震いする。床には白と黒のタイルが敷き詰められている。そしてひとしきり部屋を見渡して、その部屋には椅子と机があることに気付く。カケルが机の上を確認すると、そこにはチェスの駒が1種類ずつ置かれており、残りの駒は倒れている。壁に目をやると、4本の縦線と1本の斜めの線が1組となり、それが何個も描かれている。パキッという音がしてカケルが足元を見ると、氷を踏んづけている。


「そうか、そう言う事か・・・」


カケルはポツリと呟く。全てを理解した、いや理解してしまった。この謎の部屋と、チェスの駒。壁の数字と、こんなところに数字が書かれている事。城にたまった埃と、グレゴリの心の変化。その全ての謎が解けてしまったのだ。カケルは後ろについてきているオフィーリアと、この部屋に来てから何故か涙を流しているリアに振り向く。


「リア、ごめんなさい。また辛いところに連れてきてしまって。でも俺はもう逃げないって決めたんだ・・・。だからリアも逃げないでほしい、それがどんなに辛い過去でも」

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