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つまらない日常

一日王都グーンラキアを歩いて疲れた一行は、冒険者ギルドの前で解散することにする。バルコはそのまま冒険者ギルドの中に入り、冒険者たちと「魂殺し」襲撃のプランを練り直す。被害は最小限に抑えて倒すのが理想的だが、そのためには入念な準備が必要になる。バルコは顔見知りの2人の冒険者を見て、口を開く。


「準備はどれくらい進んでいる?」

「武器の調達はいい感じだな。武器屋に無理言って矢と爆薬を大量に調達した。と言っても「魂殺し」が引き連れている死者の軍勢がどれくらいいるかは分からないから油断は禁物だがな」

「住民への説得は順調。避難は進んでいる」


大きな盾を持って全身鎧に身を包んだ男と、無表情で杖を持った女性がそう言う。この2人にバルコを含めた3人が王都グーンラキアの冒険者の中では最高戦力だ。元々彼らほどの冒険者なら態々「魂殺し」に喧嘩を売らなくても別の町に移り住む資金はある。だが最近この王都に流れ着いた世間知らずのモンスター使いが、彼らをやる気にさせたのだ。3人は顔を見合わせる。泣いても笑ってもチャンスは一度っきり。この王都の負の歴史に終止符を打つ戦いが始まるのだ。


場面は変わりここはカケルとリアが住む宿屋だ。カケルとリアが部屋に帰ってくると、すでにオフィーリアとウッドゴーレム、そしてリザードマンがいる。リアは今日一日の疲れからか真っ先にベッドにダイブする。すぐにカケルがリアを労う。


「疲れた」

「お疲れ様です。今日はその・・・辛い思いをさせてしまってすいませんでした。思い出したくもない記憶ですよね」

「そうでもなかった。リアはもう逃げないって決めたから」


リアは小さな声で呟く。そのか細い声を聴いて、カケルは不安に思うと同時に、どうしてもリアだけは幸せにしてやりたいと心の底から願う。するとベッドの上でだらけているリアがふと起き上がり、外に出たいという。カケルが理由を聞くと、夜の空を見たいからだという。すぐさま宿屋を出て王都の街並みを歩き、綺麗に見えるところまで向かう。オフィーリアもついていくと言ったので、3人で、だ。


「綺麗・・・」

「本当に、満天の星空ですね。俺はあまり感性が豊かではないですが、この星空がかけがえのないものだって事くらいは分かります」

「私もこの星空を見ていると、昔を思い出しますね。亡くなった前の主人は星が好きでした」


そこまで言ったオフィーリアが思いに耽るように目を落とし地面を見つめる。不思議な話だと思う。オフィーリアは目が見えないのに星の輝きが分かるのかという無粋な質問はあがらない。きっと自然の雄大さを肌で感じているのだろう。ふと空に雲が陰り、ポツポツと雨が降ってくる。カケルなどはその雨が折角の満天の星空を覆い隠しているような気がして眉をひそめるが、リアは嬉しそうに目を細める。思わずカケルは疑問に感じて尋ねる。


「リアは雨の方が良いんですか?」

「うん。満天の星空も良いけど、曇天の濁り空の方が好き。雨が降っている間は悲しくても涙を我慢しなくていいから」

「・・・。もうリアは泣かなくていいんですよ。辛い過去より、楽しい明日を想像してみませんか?」

「リアの悲しみはなくなることは無いよ。だからリアはこれからもずっと雨が好き」


曇天の下でリアはポツリと呟く。それは酷く悲しそうで、カケルに有無を言わさせなくする。まだリアにはカケルが知らない秘密が沢山あるのだろう。だが今のリアに聞ける雰囲気ではないことだけは確かだ。居た堪れなくなって、カケルはこの場から離れた方が良いと感じて立ち去ることを提案する。


「ここに居ても風邪をひくだけです。帰りましょう。さぁ、オフィーリアも」

「・・・!はい」


オフィーリアは何処か気もそぞろな様子だったが、カケルが声をかけると飛び跳ねて、振り向く。通り雨だが随分と濡れてしまったようで、オフィーリアは特に顔の辺りがびしょ濡れだったので、急いで近くの木の下で雨宿りをする。先ほどは帰ることを提案したカケルだが、もう少しで雨が止みそうだったのでそのまま木の下で雨宿りをする。するとオフィーリアが口を開く。


「カケルさん、貴方はモンスターと召喚者の寿命が同じではないことをどう思いますか?」


いきなりのオフィーリアからの質問にカケルは思わず一瞬固まる。オフィーリアの口調が少しおかしかったのも、カケルの不安を増大させる。カケルは慎重にオフィーリアの質問に答える。


「それが命っていうものじゃないかな。オフィーリアは前から命を星の輝きに例えているけど、正しく命って言うのは星の数ほどある。差異があるのも必然じゃないかな」

「そうですか・・・」


カケルの返答を聞いてオフィーリアは押し黙る。その反応が怖いのか、カケルもそれ以上何も言えない。少しばかり気まずくなった雰囲気を紛らわすように、雨が止んだ瞬間リアが走り出す。慌ててカケルとオフィーリアが後を追いかけると、リアは市場の方に駆けだす。追いかけるカケルが市場の中に足を踏み入れると、そこは先ほどまでの雨を吹き飛ばすほどの熱気あふれる場所だ。夜の闇にランタンの明かりがこうこうと輝いて、思わず別世界にいるような気がしたのか、カケルは蹈鞴を踏む。だがすぐに気を取り直してリアを探すことに注力する。周りに聞こえるのは人々の喧騒。


「安いよ安いよ!今人気の機械部品、セール中だよ!」

「おい親父、この機械部品、俺たちが潰した機械工場にあったやつだろ!何勝手に採取した挙句、何食わぬ顔で売ってやがんだ!冒険者を馬鹿にして、タダで済むと思うなよ!」

「マスター、戦うための道具頂戴」

「無理言うなって嬢ちゃん。最近隣国パルメトからの物資の供給が減っているんだ。前に渡した武具だってギリギリなんだぜ。回復薬、特に猛毒さえ直す上質な毒消しなんてほとんど手に入らない。パルメトは戦争でもする気じゃないのか?」


何処かで聞いた声もするが、ひとまずカケルは無視してリアを探し続ける。すると露店の前でリアが品物をのぞき込んでいるのを見つける。カケルは疑問に思うが、リアは後ろにカケルが近づいても商品から目を離そうとはしない。気になってカケルが覗き込むと、そこには2枚のスクロールが売っている。スクロールは魔導書と違い魔力持ちならすぐに魔法を発動することが出来るが、1度しか発動できないという誓約があり、あまり人気はない。それにそのスクロールの値段設定が可笑しいことも、このスクロールが売れ残っている要因の一つであろう。カケルはその2枚のスクロールを見て、何処かモヤモヤとしたものを感じる。


(何だろう。この2枚のスクロールを見ると胸がざわざわする。何か大切なことを見落としているような、そんな感覚だ・・・)


カケルは改めてスクロールに注視する。2枚のスクロールに込められた魔法はそれぞれ、雨を降らす魔法と星を落とす魔法。星を落とす魔法は強力に違いないが、雨を降らす魔法も同じ値段設定なのがいまいちカケルには分からない。思わずカケルは露天商に疑問をぶつける。


「すいません、この2枚のスクロール、値段設定がおかしくないですか?」

「おいおいあんちゃん、見る目がねぇな。この2枚のスクロールはかの有名なスペル、「雨降らし」と「星落とし」だぜ。王都グーンラキアに居ながらこれらのスペルを知らないなんてな」


露天商は少しばかりカケルの事を馬鹿にする。だがカケルはたいして不満を抱くわけでもなく、食い入るように2枚のスクロールを見つめる。今はこの何とも言えない感情をどうにかしたい、と考えているようだ。だがいくら考えても答えは出ず、遂に立ち去ろうとしたその時だった。


「ルア・・・」


リアの消え入るようなその声をカケルの耳がとらえた。その瞬間カケルはハッとする。忘れかけていた地球の記憶がフラッシュバックして、出来れば思い出したくなかった悲しい真実を照らし出す。

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