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開戦

空が晴れ渡り、誰にともなく朝を告げる。それよりも早くカケルは目を覚まし、今日のドローカードを確認する。そして、王都に響き渡る鐘の音を聞きながら、精神を研ぎ澄まして深呼吸をする。


「今日のドローカードは獣の通り道、か。ははっ、まったくもってツイてないな。でもやるしかない、いつか来るツキを待ってちゃ逃げてるのと同じだ」


〇獣の通り道[陣地] 体力1 ☆1

効果・この陣地がモンスターから受けるダメージは0になる

―小さな道に誘われ、大きな夢を見る―


カケルは自嘲気味に笑いながら、立ち上がる。昨日リアを拾って銭湯に行った後、王都のいろんな場所を一緒に回った。その間にリアはこの世界の事をたくさん知った。屋台を回ってモンスターの肉の美味しさに興味津々だった。武器屋に行って武器の重さに驚いた。服屋に行ってリアに似合う服をオフィーリアに選んでもらった。どれもこれも、リアにとっては大切な思い出。そしてそれはカケルにとっても同様だ。大切な思い出を引っ提げて、カケルは死地に赴く。


「リザードマン、ウッドゴーレム、召喚」


〇リザードマン[モンスター] コスト4 5/3 ☆1

効果・このモンスターはスペルで受けるダメージが1減る

ーリザードマンの戦士は盾と剣で語るー


〇ウッドゴーレム[モンスター] コスト3 4/5 ☆2

ー無機質だが木の温もりを感じるー


カケルの声に応えるようにリザードマンとウッドゴーレムが何処からともなく現れる。リザードマンは盾と剣を持っているトカゲの亜人だ。亜人というのは人間に似ているが、人間とは異なり寿命が長かったり体が強靭だったりする。そして亜人というのは基本的に種族間の対立が激しい。未知の森にいた時にリザードマンを召喚できなかったのは、エルフと衝突するからだ。リザードマンとウッドゴーレムはジッとカケルを見つめる。それに対してカケルは何も言えない。今から戦う相手は強大だ。恐らくリザードマンとウッドゴーレムも死ぬだろうし、何ならオフィーリアだって死ぬかもしれない。いやそもそもカケル自身の命すら危うい。そんな大博打にカケルは強制的に自らの召喚したモンスターを引き連れる。カケルとて悪いとは思っている。モンスターだって自我があるのだ、怖くないわけがない。故にカケルは無言でオフィーリア、リザードマン、ウッドゴーレムに向けて頭を下げる。オフィーリアが一瞬驚いた後、たしなめるように言う。


「頭を上げてください。命はいつか死ぬものです。最後の最後まで、私は貴方についていきます」


オフィーリアが歌う様に呟く。それは召喚されたモンスターとしての召喚者への服従心か、それともオフィーリア自身の意志なのか。恐らく後者だろうとカケルは勝手に推測する。そしてやり切れぬ思いに嘆く。


「モンスター使い、か。モンスターを駒みたいに使い潰せれる程の心を持ち合わせていたら楽だったんだけどなぁ・・・。もう俺の心は持ちそうにない。地球という安寧から安易に逃げ出そうとした俺への罰なのかな」


カケルは一瞬心が折れそうになる。だがすぐにリアの事を思い出して、首を横に振る。諦めなど誰にでもできるが、挑むことは容易ではない。カケルは覚悟を決めて投影装置を見る。死の祭壇は魂殺しが守っている以上、今の布陣ではどう足掻いても勝ち目はないだろう。狙い目は他の蟻モンスターを強化する女王蟻しかない。


「女王蟻は親衛蟻と一緒に赤の時計台を守っている。グレゴリは蟻モンスターが好きだった。恐らくこいつらもグレゴリとの思い出があるんだろう。でもやるしかない。この王都の未来のために・・・殺す!」


カケルは地球にいたことの記憶を思い出す。グレゴリは確かに口は悪かったが、そのプレイ技術は目を見張るものだった。何より彼は低レアリティの蟻カードを誰よりも愛していた。アンドレ―が進化モンスターを使って進化モンスターの評価が見直されたように、グレゴリも同じく低レアリティモンスターを使いこなして、観客を驚かせてみせたのだ。ディープワールドカードゲームには面白いシステムが導入されている。カードとの絆を深めれば深める程、ここぞという時に盤面をひっくり返せるようなカードを引き当てるのだ。当初はそのシステムに批判もあったが、人と共に進化するというコンセプトもありすぐにそれは受け入れられた。プレイヤーはただデッキを見直して勝利を追求するだけではなく、モンスターと触れ合いVRの世界を楽しんだのだ。勿論所詮VRだと笑う奴もいたが、そういう類は召喚したモンスターもプレイヤーに懐かなくなり、次第にゲームでは勝てなくなった。多くのプレイヤーが高レアリティのカードと交流を深める中、最後まで自分の好きなカードを愛したのがグレゴリだ。いつだったかグレゴリは取材にこう答えている。


『☆の数とかは関係ねぇ。ただ好きかどうか、それだけだろ』


その通りだとカケルは思う。特にこの世界に呼ばれてから、その言葉は深くカケルに突き刺さった。だからこそカケルには分からない。自分の好きなカードと楽しく過ごす時間を誰よりも大切にしていたグレゴリが、今の王都の惨状を作り出した事が。分からないのなら最早本人に聞くしかない。カケルは宿を出て王都の端にそびえたつ、赤い煉瓦でつくられた時計塔を目指す。


「バルコさんや冒険者の方達に挨拶をしなくてよかったのですか?」

「分かってないなぁオフィーリアは。別れの挨拶なんかしたら、全員俺についてきてしまうよ。バルコも他の奴らも、バカだからさ」


オフィーリアの問いにカケルはあっけらかんと答える。「地喰い」を呼び寄せたのは自分だと嘆いてユタの村を出てから、カケルは変わらず優しいままだ。今も誰にも何も言わずに死地に向かって歩いているのは、その優しさゆえだろう。そして目的地に到着したカケル一行が見たのは、何とバルコと他の冒険者たちだ。


「あ?おいおいバルコ、カケルのやつ来ちまったぞ。だから言ったんだよ、誰か冒険者ギルドに残って足止めしろってなぁ」

「うっせぇなぁ、冒険者ギルドでお預けなんて誰もやりたがらねぇよ。仕方ねぇだろ」

「バルコさん、それに皆さん・・・。何故ここに?」

「そりゃあこっちの台詞だぜカケル。いいか?グレゴリは俺たちの獲物だ。あいつには散々王都をぶっ壊された、だからこれは俺たちのお礼参りだ。新参者が我が物顔で獲物横取りしてんじゃねぇぞ」


バルコがそう言い放ち、周りの冒険者たちもそうだとばかりに激しく頷く。どうやら昨日カケルがリアを無理やり冒険者ギルド内に引き入れてしまったせいで、彼らもこの惨状を引き起こした元凶への怒りが再燃した様だ。カケルは焦る。もう誰も巻き込まないようにしていたのに、結局こうなってしまうのかと。嫌だ、バルコたちは死なせたくないとカケルは思うが、バルコたちの目を見て、いかなる説得も通じないと悟る。バルコたちは女王蟻と親衛蟻に向き直り、開戦の合図を大声で張り上げる。


「行くぞ、野郎ども!反撃開始だ!」


その合図を皮切りに冒険者たちが一斉に蟻たちに襲い掛かる。親衛蟻が女王蟻を守る様に前に立つが、魔法使いが放った魔法が親衛蟻を凍らせ、弓使いが撃った毒矢が親衛蟻の甲殻の隙間に刺さり、瞬く間に親衛蟻は絶命する。守るものがいなくなった女王蟻が鳴き声で威嚇するが、それがどこ吹く風だ。バルコが一瞬で女王蟻との距離を詰めて、その剣で女王蟻の首を吹き飛ばし、決着がつく。


(強い・・・!未知の森で遭遇した盗賊の首領並、いや慢心がないからそれ以上だ。これが冒険者として長く生きてきた者たちの本気か)


カケルが本気の冒険者たちの強さに呆気に取られていたころ、王都の他の場所でも同じく銭湯が勃発していた。川を背にした簡易的な陣では羽蟻が、地下にある機械工場では兵隊蟻、働き蟻、甲殻蟻が、それぞれ冒険者たちによって討ち取られていた。瞬く間にグレゴリの蟻軍団は全滅するが、当然それだけでは終わらない。それだけで終わるのなら冒険者たちは今頃とっくにかつての王都を取り戻していた。この王都に住む人間はグレゴリが何もないところからモンスターを生み出す歪な力を知っていた。冒険者たちは油断なく武器を構える。カケルも投影装置を確認するが、不思議なことに陣地・背水の陣、赤の時計台、機械工場そのすべてがモンスターが撃破されており、新たなモンスターは召喚されていない。つまりグレゴリは何も手を打っていないことになる。


「あれ?何も起きない?」

「油断するなカケル!誰か来るぞ!」


戸惑うカケルにバルコが声を荒げる。その声に思わずカケルが顔を上げると、奥から人がやってくる。目を引くのはその風貌。場違いな和服に古びた刀。無精髭を伸ばしたその顔は酷くやつれているが、眼光は強くギラギラと光っている。


「あれは、侍・・・?バカな、時代遅れだ。今の時代にいるはずがない」


バルコが驚くが、カケルの心は密かに警鐘を鳴らす。あの姿をカケルは知っている。最もディープワールドカードゲームの世界の話だが。☆5のカードだったはずだ。カケルは思わず声を張り上げる。


「逃げろ!そいつは敵だ!」

「・・・え?」


新たに現れた人影に戸惑っている魔法使いと弓使いがそんな間抜けな声を発したときには、すでに侍は剣を抜き去っており、いつの間にか魔法使いと弓使いの後ろに立っている。瞬間、魔法使いと弓使いの体から血があふれ出す。


「・・・!テメェ!」

「儂の名は市兵衛。よろしく頼む」


激昂するバルコに侍が真っすぐに剣を向ける。カケルが冷や汗を流す。どういう訳か投影装置には市兵衛と名乗る侍の姿が映らないが、状況を鑑みるに侍はグレゴリに召喚されたモンスターであることは容易に想像できる。混乱しているカケルは侍のステータスを思い出すことが出来ないが、今ははっきりと体中が警鐘を鳴らしている。幸いにも魔法使いと弓使いは死んではいないが重症だ。間違いないとカケルは悟。侍の目は殺し慣れている目だ。


「オフィーリア、俺たちが頑張って隙を作る。その間に冒険者たちを回収してくれ」

「分かりました。死なないでください」

「言われなくとも!」


こんなところで死ねるかとカケルは自分を鼓舞する。バルコも覚悟を決めたようだ。冷や汗を流しながら、剣を構える。


「俺の名はバルコだ。覚えとけ侍野郎」

「俺はカケルです」

「ふむ、バルコにカケルか。それでは、いざ尋常に勝負といこうか」


極度の緊張感が溢れる戦場で、市兵衛が笑った気がする。かたや闘争心が溢れ、かたや緊張感が溢れる。対極にありながら、両者は激突する。

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