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王都、グーンラキア

人々の活気が四方八方からカケルを襲う。カケルは今城門を潜り抜け、王都グーンラキアに立っている。王都の中に入るのに500ルピー払わなければいけなかったのは痛手だが。ルゥダからいただいたルピーもいつまでも持つわけではない。王都の物価の高さに目をくらませながら、本格的にルピーを稼ぐ手段を見つけないといけないとカケルは考える。そんなカケルの目の前にやけにでかい冒険者ギルドが現れる。


「ユタの村の冒険者ギルドとは大違いだ。田舎者ってバレないかな?」


そんな独り言をつぶやきながらカケルは中に入ることを躊躇していたが、やがて腹を括ってバカでかい扉を開ける。だが予想通り扉はとても重く、カケルは何とか門を開けることに成功する。


「安心してください。開けれるだけすごいと思いますよ」

「フォローしてくれなくていいから」


オフィーリアが精いっぱいの慰めの言葉をかける。カケルは少し拗ねながら冒険者ギルドの中に足を踏み入れる。その瞬間空気が変わったのをカケルは確かに感じる。新人に向けられる目は警戒心、それのみ。カケルの近くにいる大鎧に身を包んだ厳つい顔の男がカケルに詰め寄る。


「おいおい、一般人が迷い込んだか?」


その男が笑いながらそんなことを言うと、周りの冒険者とみられる人間もつられて笑いだす。だがカケルにとっては何が面白いのか理解できないでいる。カケルは困った顔をして、ただ冒険者登録がしたい旨を伝える。ユタの村では一応冒険者ギルドはあったが、やれることと言えばモンスターの解体とモンスターや野生の動物などの説明を受けれる事くらいであった。だが大きな町では冒険者ギルド内に受付があり、冒険者登録をすることが出来ると、王都に入る時にカケルは説明を受けた。冒険者として登録すると冒険者ギルドに年会費として5000ルピーを払わなければならないが、町に入る時の入場料を払わなくて済むのだ。様々な場所を旅する冒険者にとっては嬉しい特典なので、カケルは何としても冒険者登録をしたかったのだ。はたして受付嬢は笑顔で答える。


「それではお名前と職業を教えてください」

「名前はカケルで、職業はモンスター使いです」


そうカケルが答えた瞬間、受付嬢から笑顔が消える。同時に周りの冒険者たちも突然殺気立つ。カケルが突然の変化に呆気に取られていると、先ほどの厳つい男が明らかに顔を顰めながらカケルに尋ねる。


「おいお前、まさかモンスター使いかよ?」

「そうですけど、それが何か?」

「かぁー、自分は戦わずにモンスターに戦わせるモンスター使いが、冒険者になりたいだと?なんの冗談だ?」

「冗談じゃありません。本当に冒険者になりたいんです。くいっぱぐれたくないんです」


カケルが真剣に言うと厳つい男は一瞬こいつマジかという生暖かい目を向ける。恐らく今の一言でカケルが田舎からやってきたという事がバレただろう。だが厳つい男も引き下がらない。執拗にカケルを冒険者にさすまいと食い下がる。だがカケルの意志が固いことについに折れる。


「チッ、そこまで冒険者になりてぇなら勝手にしやがれ」

「おいおいバルコ、折れてんじゃねぇぞぉ」


厳つい男、名はバルコと言うその男が観念すると、周りから途端にヤジが飛ぶ。気付けば最初は殺伐としていたギルドの雰囲気も何処へやら、今は活気あふれる雰囲気に早変わりしている。カケルはその活気にホッとする。やはり冒険者とはこうでなければとカケルは感じるとともに、前から感じていたやけにモンスター使いの評価が低いことに疑問を抱く。そして勇気を出してバルコに質問する。


「あの、何でモンスター使いはそんなに嫌われているんですか?」

「おいおい、まさか知らねぇのか?自分の力で戦わないって考えられてるモンスター使いは元々評判わりぃぜ。だが特にこの王都グーンラキアじゃすこぶる評判は悪い。まぁお前が一般的なモンスターを侍らせているモンスター使いじゃなさそうだから、そこは一安心だがな」

「何でこの王都では特に評判が悪いんですか?」

「質問ばっかすんじゃねぇよ。この王都は昔からモンスター使いが幅を利かせているんだよ」


バルコの言葉を受けてカケルが冒険者ギルドから外に出ると、今まで気付かなかったことが見えてくる。活気あふれる王都の街並みも、隅に目を向ければ平然と奴隷が売られている。エルフやリザードマンと言った亜人は全然歩いておらず、時々いても奴隷として売られているほどの人間至上主義。王都グーンラキアは昔ながらの人間至上主義で、強いものが弱いものを食う歴史ある王都なのだ。カケルはディープワールドカードゲームでの王都の設定を思い出す。


(王都グーンラキア、思い出した。この町はモンスター使いによって歪められた。確かディープワールドカードゲームでは次のアップデートで、権力をものにするモンスター使いにプレイヤーが勝負を挑むという展開が追加されるはず。いや待て、そもそも王都と言ったら12章で魔王軍に攻められるじゃないか)


カケルは重要なことを思い出し思わず周りを見るが、王都はいたって平和だ。まだ魔王軍による襲撃は来ていないことをカケルは認識すると同時に、投影装置を見て魔王の状態を確認する。


(確か兵隊蟻の効果で魔王のHPは2減っているはずだ。・・・減っていない、魔王のHPは100のままだ。一体どういうことだ?)


カケルは悩むが、いくら悩んでも答えは出てこず考えることをやめる。カケルにとっては分からないことだらけではあるが、少なくとも今わかるのは最新アップデートで追加された情報により、この王都を支配しているモンスター使いが邪な考えを持っているという点だけは確かだ。カケルが王都でさらに情報を集めると、どうやらこの王都を支配しているのはグレゴリと言うモンスター使いだということが判明する。


「グレゴリ・・・。アンドレ―の記憶で出てきた人間だ。確か持っていた災厄は「魂殺し」だ。グレゴリはモンスター軍団を作り上げて、この王都を支配しているって話だったな。なら俺がとるべき道は一つしかない」


カケルは人知れず呟き決意を固める。「地喰い」も「手負い」も強かったが独特の輝きを持っていた。それは何も知らない人間にとっては脅威かもしれないが、それはカケルの目には召喚者と災厄の友情にも見えた。グレゴリのようにモンスターをちらつかせるやり方と、アンドレ―や名も知らぬ「手負い」の召喚者のように世間に隠れながら人知れず死にゆく人生、どちらがいいかは分からないがおしなべてこの世界は召喚者と言うモンスター使いの存在によって歪んでいる。


「大体俺が何をすべきか分かってきた。いや、俺自身がどうしたいかが分かってきたという方が正しいのか・・・」


地球にいたころのカケルは無気力に死への旅路を、文字通り緩やかに進んでいた。そんなカケルがこの世界で命を削って戦っているのだから世の中何があるか分からないものである。カケルはぶらりと王都を散策する。王都は奴隷もいるが、王都と言う名前に劣らず豪華な建物が所狭しと乱立しており、人々はその笑顔の下に卑しい本性を隠していることを気にも留めていない。この世界はカケルには少々眩しすぎて直視できない。


「ここが王都ですか・・・。ユタの村に比べれば随分と小さいところですね」

「前から思ってたんだけど、オフィーリアは目隠ししてるのに何でそこまで視えてるの?」

「生きて来た年数が違うんですよ」


オフィーリアが得意げになる。だがカケルは悪い気はしない。カケルなどはこの世界では新参者である。全てのものが新鮮に映るし、この世界の住人からの忠告にはすぐに耳を貸す。カケルはぶらりと屋台を食い歩きしながら、新しい世界に目を輝かせる。


「うん、この森狼の肉美味しいな。モンスターを食べるなんて最初は驚いたけど、塩辛くて硬い保存食より断然美味しい。モンスターはすでにこの世界を回す要因になっているんだな」


カケルはルピーを使って興味のあるものを食べていく。冒険者登録が出来た以上、少し安心したこともある。それにカケルはこの世界を知らなさすぎるので、この世界を少しでも知るためには出費は惜しんでられない。すると露天商が声をかけてくる。


「そこのお兄さん、横にいるお姉さんに贈り物はどうだい?」


露天商の呼びかけにカケルが商品を覗くと、地球で見たことのある宝石が並んでいる。この世界はディープワールドカードゲームのシステムを踏襲してはいるが、ディープワールドカードゲームでは地球の宝石など出てこなかった。だがあの神の事だ、地球を参考にして何かしていても不思議ではない。そして地球の知識を持っている召喚者なら綺麗な石に価値をつけて宝石とすることも容易かもしれない。改めてカケルはこの世界のちぐはぐさに眉を顰める。


(この世界は地球で見た物が多く存在する。なんか白紙の紙に何処からか持ってきた素材をぶちまけた、そんな感じだ・・・)


だがそんなカケルの思考は露天商の言葉にかき消される。露天商はどうやら眉を顰めるカケルが商品を疑っていると感じたらしい。


「そんな顔をしないでくれよ。多少値段は張るが、正真正銘の宝石だよ。王都でもこれほどのものは珍しいんじゃないか?」

「すいません、疑ったわけじゃないんです。確かに綺麗な宝石です。でも彼女は俺の連れっていう関係だけでして・・・」

「かぁー、若いねぇ。まぁお兄さんも年を取ると彼女に宝石を送るのも視野に入れた方が良いよ、いつまでも一緒に居られるとも限らないから、プレゼントは早い方が良い。宝石には石言葉もあるんだよ。俺のおススメはアイオライト、石言葉は初めての愛、だ」


露天商がまくしたて、カケルは確かにと感じる。いつまでも一緒に居られるわけではないのだ。結局カケルは露天商の言葉に乗っかり、そのままアイオライトを購入する。口車に乗せられたとも考えたが、これが自分の純粋な気持ちだとカケルは自分自身に語り掛ける。


「はい、オフィーリア。俺からのプレゼント。綺麗な宝石でしょ」

「すいません、目が見えないので宝石が綺麗かどうかはわかりません」

「・・・」


何とも前途多難ではあるが、カケルの思いは確かに伝わっただろう。その夜カケルは手ごろな値段の宿屋に泊まり、投影装置を眺める。今カケルを支えるモンスターはオフィーリアのみ、魔王はいまだに影がかかっており、その全貌は掴めないでいる。カケルのHPは盗賊との戦いで少し減って現在13だが、この宿で寝ていればすぐにでも最大値の16まで回復するだろう。カケルは今日引いたカードを見る。


〇ウッドゴーレム[モンスター] コスト3 4/5 ☆2

ー無機質だが木の温もりを感じるー


カケルはそのカードを見て笑う。☆5カードはそれぞれ同じ種類のカードは1枚しかデッキに入れられず、合計して5枚までと言う制限があるが、☆4以下のカードは同じカードはデッキに3枚まで入れられるし、枚数制限もない。故にこういう事もあるのだろうとカケルは考えるが、今日引いたウッドゴーレムは当然ながらナイトではない。カケルが長い時間を共にしたナイトはもういないのだ。カケルの手札は今ウッドゴーレムも合わせて6枚、アイテムの総使用コストは14となっている。


〇リザードマン[モンスター] コスト4 5/3 ☆1

効果・このモンスターはスペルで受けるダメージが1減る

ーリザードマンの戦士は盾と剣で語るー


〇怒りの石[アイテム] コスト1 ☆2

効果・プレイヤー、陣地、モンスターいずれか1つの最大HPを-1して、その後1ダメージ

ーガナスの村は破滅の運命ー


〇誰かの隠れ家[陣地] 体力7 ☆5

効果・プレイ時、カードを5枚引く

―今は忘れ去られた誰かの家―


〇ディスペル[スペル] コスト緑 ☆2

効果・相手のスペル1枚の効果を打ち消す

ー抗う力を思いに乗せてー


〇獣の通り道[陣地] 体力1 ☆1

効果・この陣地がモンスターから受けるダメージは0になる

―小さな道に誘われ、大きな夢を見る―


カケルはじっと陣地・誰かの隠れ家を見つめる。それは紛れもなく「手負い」に連れられて見た家そのものである。カードの絵は綺麗な新築の家だが、現実は時に残酷だ。カケルは陣地・誰かの隠れ家をプレイしようとするがエラーが出てプレイできない。普通なら4000ルピーも払って買ったカードパックのほとんどが使用不可とはどういうことだと怒りを覚える場面なのだろうが、カケルはクスリと笑うのみ。強いカードなど全員が使うものだ。カケルがプレイできないという事は、過去に誰かがそのカードを使って、まだこの世界のどこかで生きているという事だ。例え他の誰もが知らないことでも、カケルだけはそれを認識できる。それが酷く嬉しいのだ。


「さて、と。「手負い」はピーギァの群れで楽しく暮らしているかな?」


カケルの独り言はオフィーリアにだけ届く。オフィーリアは沈黙を貫き、カケルの独り言は宙に掻き消える。ここは王都、グーンラキア。召喚者のグレゴリがモンスター軍団で実力支配している、力こそすべての町。そんな町で反撃を誓う若きモンスター使いがいる。同じモンスター使いでもその本質はまるで逆、彼はこの世界でどう生きていくのか。それは神のみぞ知る、というやつだ。

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