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ポンコツ商人とヘボエルフ

戦いの火蓋を切ったのは盗賊の頭領の叫び声だった。


「来い、俺に力を見せてみろ!」


その声を皮切りにアルトリアが真っすぐに飛び出し、続いてカケルがアルトリアの右手から剣を頭領目掛けて突き刺す。だが頭領はアルトリアとカケルの剣を上半身を逸らすことで躱して、そのまま無防備なアルトリアとカケルに足払いを仕掛ける。アルトリアは持ち前の身軽さで躱すがカケルは派手に横転する。そのカケル目掛けて巨大な剣が振り下ろされるが、すんでのところでオフィーリアが間に割り込み、その剣の腹を全力で蹴り飛ばす。果たして盛大な音がして、巨大な剣は吹き飛ばされる。


「ほぉ、面白い。目隠しをしながらその強さとは恐れ入る。だが足りない、もっとだ。身の毛もよだつ恐怖を俺に示して見せろ」

「この戦闘狂が・・・」


未だ豪快に笑う頭領に対してアルトリアが忌々しそうに悪態をつく。事実頭領は命がけの戦いを楽しんでいる節がある。それを見てカケルは舌打ちする。


「命がけの戦闘で笑えるなんて、随分と心に余裕があるんですね」

「そうだな、この世界で未だかつて俺より強い奴に出会ったことがないからな」

「それはまた狭い世界を生きて来たんですね」


カケルは目の前の大男を憐れむ。この世界には自分より強大な存在など沢山いる。「地喰い」などはそのいい例だ。恐らくこの大男はそんな存在に出会わずにのうのうと盗賊団の頭領と言うポジションに甘えて生きて来たのだろう。そう思うと、自然とカケルの肩の力が抜ける。油断しまくっている頭領の大振りを難なく避けてカケルは牽制とばかりに地面に落ちている石ころを頭領に投げつける。


「何のつもりだガキ」

「馬鹿力相手に真正面から挑む必要はないので」

「クソがっ!」


カケルの挑発に頭領は怒り狂い、巨大な剣を横なぎに振りぬく。それをカケルは躱し、すかさず地面をけって土を頭領の目目掛けて放つ。頭領が目を瞑ってガードすると同時にアルトリアが剣を頭領の脇腹に向けて突き刺す。


「ぐっ・・・!正面から堂々と戦え」

「盗賊が何を語る。先に襲っておきながら正々堂々が何たるかを語るな。私は人間のそんな自分勝手なところが嫌いだ。お前らのような人間がいなければ、エルフと人間が手を取り合う未来もあったかもしれないというのに」


そう言ってアルトリアが頭領の首目掛けて剣を振り下ろす。だが頭領が最後の力を振り絞って巨大な剣を振り払う。アルトリアは慌てて回避しようとするが、剣先がアルトリアの表皮を切り裂く。


「へっ、ざまぁねぇな長耳」

「くっ、往生際の悪い奴だ」


そう言ってアルトリアは剣を振り下ろし、頭領の首を跳ね飛ばす。カケルは慌ててアルトリアの下へ駆け寄る。盗賊の武器には例外なく毒が塗ってあった。緑の魔力があるカケルは体力増強のスペルで毒を無理矢理耐えているが、苦しそうに顔を歪めるアルトリアは、どうやら緑の魔力を持っていないようだ。急いで毒消しを使わなければいけないが、唯一の毒消しはラパツのために使ってしまった。するとそのラパツが腹を布で軽く止血した状態で現れる。


「カケルさん、毒消しをありがとうございます。残念ながらカケルさんの兵隊蟻は毒で先ほど亡くなりました。それで戦闘はどうなったんですか?」

「ラパツさん、俺は大丈夫ですけどアルトリアさんが・・・!」


カケルは叫ぶ。ラパツも倒れこむアルトリアを見て状況を理解した様で、酷く取り乱す。無理もない、先ほどラパツは毒を食らったので、毒の辛さは誰よりも分かっているのだ。


「私が急いで王都まで毒消しを買いに行きます!カケルさんはアルトリアの看護をお願いします」


ラパツがそう言って急いでその場を離れようとした時だった。何処からともなく笑い声が聞こえる。カケルとラパツが笑い声の主を探して辺りを見渡すが何もいない。まさか、と下を向くとアルトリアが顔を上げてニヤリと笑う。


「私が食らった武器には毒は塗っていなかったようだな。あの大男は毒なんかより自分の実力を優先したんだろう。それより旅をするのに毒消しの一つも持っていないポンコツ商人、今私の事を名前で呼んだか?」

「どうしたヘボエルフ?」

「もう一回名前で呼べ」


アルトリアは毒を食らっていなかったようだ。カケルはほっと息を吐き、アルトリアとラパツのいつものやり取りを見て緊張の糸を緩める。そして心底無事でよかったと安堵するのだ。盗賊達は決して弱くはなかった。カケルのモンスター達もほとんどがやられた。それでも勝てたのはひとえに敵の頭領が油断していたからだろう。アルトリアとラパツ、そしてオフィーリアばかりか「手負い」までもが無事だったことはカケルにとっては嬉しい事ではある。しかしナイトを含むモンスター達の死はカケルにとっては悲しい事である。カケルはモンスター達の遺体を引き摺って一カ所に集める。


(ナイト、君は最高の騎士だった。兵隊蟻、いつも俺を気遣ってくれてありがとう。ジャイアントラット、損な役回りをさせてごめん。スライム、君とはもっと長くいたかった)


カケルは心の中で後悔の念を唱える。もっと上手くやれたはずだという雑念は振り払う。それは何も生まない。どうすれば被害を最小に抑えられたかより、彼らの犠牲の末に今自分が生きているのだという実感が大切なのだ。その上で後悔をするのは忘れない。最後に彼らの遺体に火炎石で火をつけ、ガラハの水瓶で鎮火して灰にする。灰は未知の森に根付く草木の養分となるだろう。カケルは気持ちに区切りをつけて、立ち上がる。そしてアルトリアとラパツの方を見て別れを告げる。


「アルトリアさん、ラパツさん。短い間でしたがありがとうございました。俺は王都にいます、何かあればまた」

「カケル、私の方こそ楽しい日々をありがとう。モンスターの事に関しては残念だったな。モンスターと対等の立場にたてるカケルなら立派なモンスター使い、いや冒険者になれるさ。そこのポンコツ商人は何時まで経ってもポンコツ商人だろうな。どれ、最後に私の名前を呼んでもいいんだぞ?」

「カケルさん、ありがとうございました。カケルさんに護衛を頼んでよかったです。少しスリリングでしたけど、短い人生です、それもいいでしょう。ヘボエルフはまぁこのままヘボエルフのままでしょうね。ヘボエルフの方こそ私の事を名前で呼んでもいいんですよ?」

「私がお前の事を名前で呼ぶわけがないだろう」

(嘘つき)


呆れるアルトリアにカケルが心の中で突っ込む。これで正真正銘の別れだ。未知の森を出る時、最後にピーギァの群れが見送りに来る。その群れの先頭には「手負い」の姿がある。そして「手負い」が鳴いて、踵を返す。まるでついてこいと言わんばかりに。「手負い」に導かれてカケルが歩くと、未知の森と草原の間に朽ち果てた一軒の家がある。寂れた場所に建てられたこの家は、随分と長い間家主がおらず風化しているようだ。その一軒家には見覚えがある。カケルは思わず投影装置を見て、陣地・誰かの隠れ家を見やると、それは目の前の一軒家と瓜二つだ。


「おいカケル、別れる前に聞かせろ。それは一体なんだ。先ほども何もないところに毒消しが現れたことと関係あるのか?」


アルトリアがカケルに詰め寄る。カケルは観念して自分の生い立ちを話し始める。地中から呼ばれたこと、モンスター使いと言うよりモンスターを召喚していること、そして天命ともいえるクエストの事。アルトリアとラパツは最初は半信半疑で聞いていたが、カケルの話が進むにつれ、次第に信用していった。


「成程な、話は大体理解できた。お前は災厄を倒すという天命があるんだな。それで何で今回は災厄である「手負い」を殺さなかったんだ?」

「そんなの決まってるじゃないですか」


カケルは「手負い」の方を見る。「手負い」は最早廃屋となった家の前で悠然と佇んでいる。恐らくあの家は「手負い」を召喚した者が棲んでいた家なのだろう。だがあの朽ち具合、一体召喚者が死んでからどれほどの歳月が経ったのかカケルには想像もできない。それでも「手負い」はこの家の事を覚えているのだ。近くに王都があるというのに未知の森近くで暮らすとは、この家から離れたくないからなのか。そして「手負い」に付き従うピーギァたちも群れで暮らすその性質上、この地で暮らしているのだろう。カケルはしっかりと「手負い」を見てアルトリアの質問に答える。


「ピーギァは群れで暮らす生き物です。「手負い」は立派な群れのボスになっています。「手負い」にとっての居場所はこの家でも俺でもなく、仲間の下です」


「手負い」は最後に朽ち果てた家に頭を下げ、その後カケルにも頭を下げて未知の森へ戻っていく。彼を待つ仲間の下へ戻るのだろう。恐らく神などはこの世界に一人取り残された「手負い」の事を見て、死こそが救済だと考えるだろう。だが残された者でも居場所などはいくらでもある。カケルは晴れ晴れしい気持ちで朽ち果てた家に頭を下げる。感傷に浸っているアルトリアとラパツも最後に別れの挨拶だけをして別れる。


「それではお元気で」

「カケルさん、こちらこそ。私は行商人でカケルさんは冒険者。またどこかで会う事もあるでしょう。ヘボエルフにも一応言っておきますか。良い旅路を」

「ふん、ポンコツ商人は最後まで一言余計だ。だが私も一応言っておくか。ウオタギラ、アラヌオヤス」

「なんて言ったんですか?」

「自分で考えろ」


やれやれ最後まで素直じゃないと感じながらカケルは別れる。ディープワールドカードゲーム、それは「人と共に進化する」というコンセプトを掲げた新時代のゲームだ。だが悲しいことに寿命と言うのは平等ではない。絆は永遠とはいかないのが世の常だ。それは人間とモンスター、人間とエルフ、いや生きとし生ける全てのものに言えることなのかもしれない。故に悲しくても、別れることが出来るうちに別れるのだ。カケルは未知の森に背を向け、王都に向けて歩き始める。

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