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無機質な心

朝カケルが目を覚ますと、珍しくアルトリアもラパツも起きている。昨日の出来事で疲れたのか、ぐっすり眠っていたようだ。カケルは木の枝を集めてくると言って野営地を離れ、すぐさま投影装置を確認する。クエストは昨日と変わらず、まざまざと現実を突き付けてくる。それ以外に変化と言えばまたカードを引いたことだろう。


〇獣の通り道[陣地] 体力1 ☆1

効果・この陣地がモンスターから受けるダメージは0になる

―小さな道に誘われ、大きな夢を見る―


「獣の通り道か、これまた懐かしいカードだな。面白いカードだ、こんなのも入ってるんだ。さて、捨てるカードだけど・・・。うん、水の流れかな」


〇水の流れ[スペル] コスト青 ☆1

効果・手札を1枚引く

ー止まることなく流れ続けるー


カケルは慣れた手つきで水の流れというスペルカードを捨てる。今までのカケルなら体力1の獣の通り道という使えないカードを引いて、落胆していただろう。手札を捨てる事にも多少なりとも抵抗があっただろう。だが今カケルはのびのびと王都までの道のりを目指している。カードに弱い強いは関係なく、ただその背景に注目している。未知の森の中には強いモンスターもいないので、馬車を見かけて襲ってくる気配はまるでない。戦闘がなければ当然手札はどんどんバーストしていくのだが、抵抗はそれほどない。ただゆるりとした時間をカケルは楽しみたいのだ。そんなことを考えながら木の枝を集めていると、ガサガサと全貌の茂みが揺れて、そこから光沢ある金属のボディが現れる。


「マシーンゴーレム?実際に見るとナイトよりデカいなぁ・・・」


〇マシーンゴーレム[モンスター] コスト5 6/6 ☆3

効果・死亡時カードを1枚引く

ー無機質だが鉄の温もりを感じるー


カケルはそんな呑気な感想をつぶやく。だがそれもそのはず、マシーンゴーレムとはいえ「地喰い」に比べれば可愛いもので、それに今のカケルには護衛としてナイトと兵隊蟻、遠巻きながらジャイアントラットがいるのだ。それにカケルも加えれば4対1、勝負にもならない。それはマシーンゴーレムも分かっているようで、一瞬茂みから出た時にカケルを見つけて硬直したが、すぐに何事もなくその場から立ち去っていく。立ち去り際にナイトを見て、自分の方が格上だと示すために腕で胸を叩いてから、だが。


「ナイト、気にするな!ナイトは俺の最高のパートナーだから!」


落ち込むナイトをカケルが全力で励ます。ついでに兵隊蟻も申し訳程度にそのでかい触角でナイトの背中を撫でる。この世界はディープワールドカードゲームの世界よりも鮮明にモンスターの意志が表面に現れている。カケルは必死になってナイトのご機嫌を取るのだった。ジャイアントラットが呆れてそっぽをあさっての方向を眺めている。


「カケルさんが帰ってきません。何かあったのでしょうか・・・」

「そうだな、最近思い悩んでいたようだしな。おいポンコツ商人、カケルを探してやれ」

「何で自分で出来ないんだ。私は商人だから戦闘能力は無いが、よもやエルフが持っているその剣は飾りか?ビビッて森の中を一人で歩けないのか、このヘボエルフ」

「・・・カケルさん、帰ってきてください」


カケルがナイトを慰めているとは露知らず、ラパツとアルトリアはいつものいざこざを今日も繰り返す。板挟みになったオフィーリアがカケルの帰還を望むと、タイミングよくカケルが帰ってくる。


「おぉ、待ちくたびれたぞ。・・・その手に持ってるのはなんだ?」


アルトリアが尋ねる。見ればカケルは手に機械の部品を持っている。


「さっきマシーンゴーレムに出会ったんですけど、古いパーツが落ちていたんです。折角なので拾って持ってきました」

「えぇ・・・。マシーンゴーレムに出会って攻撃されないって、カケルさん凄いですね。それよりマシーンゴーレムの部品は高く売れますよ。今は機械部品の特需なんです」


ラパツは最初カケルの説明にドン引きしていたが、すぐに商人としての職業病が出てマシーンゴーレムのパーツが高く売れると告げる。聞けば、今は魔法から機械へシフトチェンジしている最中だという。ラパツの馬車も簡素ながら空調設備がついている。だから借金までしてこの馬車を購入したのかとカケルは納得する。カケルは護衛だから馬車の中の構造までは知らなかったのだ。


(それにしても魔法から機械、か・・・。恐らく俺のようにこの世界に呼ばれた人間が広めた技術だ。思えばこの世界は剣や魔法がありながら妙に生活環境が整っている。ユタの村にはトイレもあったし、水道も引いていたし、ガラスや眼鏡もあった。召喚者の影響で急激に文明が進んだんだ)


カケルは考え込む。これほどまでに文明を進めていいのだろうかと。するとアルトリアが、カケルの心の気持ちを代弁するかのように話し始める。


「機械文明か、人間はいつも考えるのは自分たちの事だけだ。それで世界はどう変わった?急激な文明の変化に耐えきれず多くの生き物が絶滅し、森林は減少した。お前たちには私が村から出たエルフだと言ったが、本当は人間に住処を奪われたのだ」


アルトリアの言葉にカケルとラパツは言い返せずに押し黙る。特にカケルなどは地球の事を知っているから、猶更反論できない。誰かが楽をするために誰かが割を食う。それが世の常などと言う言葉は口が裂けてもアルトリアには言えない。生き物とはそのどれもが身勝手だ。周りの事など考えずただ本能に従い生きていく。だがそれでもこの星の活動は停止しない。そういう風にできているのだ。食物連鎖という理の中に於いて、地球を狂わせることが出来るのは人間だけだ。ふとカケルは一行を遠巻きに眺めるピーギァの群れに目をやる。すると向こうもカケルが見ていることに気付き一向に近づいてくる。


「ははっ、「手負い」聞いてくれよ。エルフに怒られちゃった」


わざとらしくカケルは「手負い」を手招きして、その頭を乱暴にワシワシとかきたてる。すると「手負い」はその目を細めて、幸せそうにされるがままになるのだ。そんな様子を見て、アルトリアが溜息を吐く。この言葉をぶつける相手が違うという事を、冷静になって気付いたのだ。だがそんなアルトリアの心のうちなど知らず、カケルは腹をくくる。今アルトリアの言葉を聞いて悟ったのだ。自分にとって真に大切なものは何なのかを。カケルは何も言わずに投影装置をチラリとみる。思い起こされるのは理不尽なまでのクエスト内容。だが神も言っていたではないか、お前の代わりはいくらでもいる、と。ならばカケルは自分の心の赴くままに自由に生きてやるだけなのだ。


「ありがとうございます、アルトリアさん。色々気持ちの整理がつきました。王都まであと少しですけど、最後までこのパーティーで楽しく過ごしましょう。やっぱり天命なんかより絆が一番ですね」

「よく分からんが、最後まで一緒にいるという点には賛成だな。あ、勿論ポンコツ商人はその限りではないぞ」

「当たり前です、カケルさん。私たちなんだかんだ言っていいパーティーですよ、ヘボエルフの事は知りませんがね」

「良いですね、命とは儚いものです。せめて後悔だけは無いように生きていきましょう」


カケルの言葉に各々が賛同する。少々言葉にとげがあるのはご愛嬌だ。カケルが右手で「手負い」を己の下に引き寄せながら左手を前に出す。すると残りの3人もカケルの手の上に、各々の手を重ねる。そしてその上にナイトが手を乗せ、兵隊蟻が触角を乗せ、「手負い」が角を乗せる。それを確認してからカケルは思いっきり手を上にあげる。皆は笑っている、楽しく朗らかに。カケルがジャイアントラットの存在を忘れていてその後噛まれたのはここには記さないでおく。

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