表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/76

手負いのピーギァ

朝になるとカケルはラパツが起き上がる前に投影装置に視線を落とす。昨日の段階で手札は8枚、つまりバーストしていたので、カケルは手札を1枚捨てる。


〇増幅装置完成版[アイテム] コスト7 ☆5

効果・デッキの☆5カード以外は全て☆5カードに変化する

ー世界システムにログインしますー


今のカケルにとってはコストが高すぎるアイテムなど使い道がない。それに何より、☆5カードを持ったとしても老兵ガルガンの時のようにエラー表示が出て使えない可能性がある。カケルは迷わず増幅装置完成版のカードを捨てる。そして新たに引いた1枚のカードを見る。


〇ジャイアントラット[モンスター] コスト3 2/2 ☆1

効果・攻撃時【毒】を与える

―ピギィ―


それはカケルにとっては懐かしいカードだ。最初のクエストでカケルはジャイアントラットを殊更恐れて、巣の破壊を急いだ。思えばあれから時間が経ったとカケルは感傷に浸る。最初は訳の分からなかったこの世界も、カケルは慣れてしまった。カケルは迷いなくジャイアントラットを召喚しようとするが、ふと隣で寝ているラパツの存在を思い出す。カケルがモンスター使いという事まではいい。この世界にはカケル以外にも沢山のモンスター使いがいるからだ。だがカケルが召喚者だとしたらどうだろうか。昨日まで引き連れていなかったモンスターを何事もなく引き連れているとしたら、ラパツはどう考えるだろうか。恐らく神の言い方からして、召喚者の数自体は少ない。地球から呼び寄せているのだ、日常的に呼び寄せていたらカケルがいた地球でニュースになっているはずだ。迷った末にカケルはモンスターを召喚しないという選択肢を取る。


(今はラパツさんとの一時の旅路を楽しみたい)


そう思いながらカケルは朝食の準備をする。程無くして木が燃える音でラパツが目を覚ます。ラパツはすぐにカケルにお礼を言い、朝食の用意を手伝う。カケルは護衛としての仕事の範疇だと言って、ラパツを気遣う。ぎこちないながら、明らかに昨日より距離が縮まった一行は、また楽しそうに朝食を食べる。今日も無駄に硬いパンと塩を練りこんだ干し肉という保存食だが、サバイバルに慣れているカケルにとってはこれすら御馳走だ。ペロッとたいらげて、一行は野営地から旅立つ。一行は王都に向かうために深く暗い森を抜ける。


「イロム=イチム。意味は古代エルフ語で未知の森という意味です。この森はまだ未開の部分が多くてね、噂じゃぁエルフが棲みついてるとも言われております。だから古代エルフ語なんかで名前が付けられたという訳ですね。この森を抜ける時は何があるか分かりません。護衛は頼みまますよ」

「任せてください、この馬車にはオフィーリアとナイトをつけます。俺は兵隊蟻と共に先行して、安全を確認します。モンスターがいればすぐに馬車に引き返しますので、その時は安全を取って迂回しましょう。王都までは3日かかると聞いてます。まだこんな序盤でいたずらに消耗するわけにはいきませんから」


そう言いカケルは兵隊蟻を連れて慎重に先行する。そして馬車からある程度離れて、木々で視界が遮ったタイミングを見計らって、すかさずジャイアントラットを召喚する。そのままカケルはジャイアントラットに馬車から少し離れたところを歩くように指示する。モンスターがカケルから少し離れたところにいても大丈夫なことは、地喰いとの戦闘で学習済みだ。


「よし、頼むぞ。馬車とは一定の距離を保ちながら安全を確保してくれ」


そう言ってカケルはジャイアントラットを送り出す。そしてまた兵隊蟻と共に馬車の邪魔になりそうな倒木をどけたり、松明で先を照らしたりする。そうしてしばらく歩くと、より一層森は深くなる。そして風切り音と共に何処からともなく飛んできた矢が、カケルが持っている松明の先を掠める。


「誰だ!?」


そう叫びながらカケルは松明を手放し木の陰に身を隠す。カケルの大声に反応して後ろの馬車も止まり、急いでラパツは身を潜める。先ほどカケルは誰だと問うたが、その答えは火を見るより明らかだ。明らかに松明の火に向けて矢は放たれた。少なくとも行商人でもなければ冒険者でもない。松明の明かりがなく暗い森の中で、カケルは息を殺して目が慣れるのを待つ。そして目が慣れた時には目の前に剣の切っ先が突き立てられている。思わずカケルは驚くと、その剣の持ち主が口を開く。


「お前、人間か?」


そう言われてカケルが顔を上げると、そこにはやけに耳が長い女性が、その美貌を険しく歪めてカケルに質問している。カケルには心当たりがある。この特徴的な顔と先ほどの質問、恐らくこの女性はエルフだ。カケルは観念して両手を上にあげる。


「そうです、人間です。貴方はエルフですね?知らずにテリトリーに入ってしまい申し訳ございませんでした。どうか命だけは見逃してください」


カケルはエルフというものをディープワールドカードゲームで学んでいる。彼らは等しく耳が長く美貌であることに加え、寿命が長い。そして何人かで群れをつくり、森をテリトリーとして生活している。エルフは人間を信用しておらず、不用意にテリトリーに近づけば殺されても文句は言えない、という内容を知っているのだ。だからカケルは必死で命乞いをしているのだが、カケルの目の前の女性は小首をかしげる。


「何を言っている?ここは私のテリトリーなどではないぞ?私は村を抜けて一人で彷徨っているからな。それにもしテリトリーに足を踏み入れていたのなら、さっきの矢を外さずに当てているよ」

「・・・」


エルフは何でもないように言い放つ。人間とエルフとではあまりにも倫理観が違いすぎる。エルフはその性質上、多くの命の終わりを見ているせいで、命が終わるという事に慣れてしまっている。つまり命を奪うことについても躊躇がない。だがエルフは動物を博愛しており、動物の命を手にかけることに関しては殊更に厳しい。故にエルフたちはベジタリアンだ。カケルは慎重に言葉を選らぶ。


「俺の後ろに馬車に乗った行商人がいますけど、俺たちに敵意はないです。それに動物も狩りません。俺たちには保存食がありますから」

「その言葉を信用するとでも?」


エルフのその言葉にカケルが言い返す言葉が見つからなかったとき、獣の鳴き声がする。思わず声の方を見ると、そこにはピーギァの群れがいる。だが何処か様子が可笑しい。見ると、群れのリーダーであろう一番大きなピーギァが、傷を負っている。昨日の夜にカケルが見た時には、遠目ではあったがあんな傷はなかったはずなので、恐らくその後に負ったのだろう。思わずカケルはここぞとばかりに声を大にする。


「あのピーギァ、傷を負っています。俺を離してください。俺は自然の治癒を使えます!今ならまだ間に合います!」


カケルのその迫真の言葉に思わずエルフは手負いのピーギァと目の前の人間を見比べて、やがて観念したかのように剣を下す。それを見て急いでカケルは手負いのピーギァに近づく。野生の動物というのは非常に警戒心を持っている。特に手負いともなると警戒心はより一層強くなっている。カケルはまずは武器を地面に置き、そして目線を決してピーギァに合わせないように気をつけながら、音を立てずにピーギァに近づいていく。そして手が触れるとこにまで近づくと、すぐにピーギァの傷口に手を近づけて、自然の治癒を使う。最初緑色の光が溢れてピーギァは驚いたようだが、暫くしてこの緑色の光が有害なものでないと悟ったのか、カケルの魔法を受け入れるようになる。そして手負いのピーギァの傷は、完治とまではいかないが、血は止まったようだ。カケルは一安心とばかりに息を吐く。兵隊蟻がそのでかい触角を使ってカケルを小突く。エルフはそんなカケルとモンスターの関係を見て考えを変えたようだ。


「これは失礼なことをしたな。これほどまでにモンスターがなついているとは、お前は悪い奴ではないのだろう。モンスター使いはモンスターを使い倒す奴ばかりだと思っていたが、これは考え方を改めないとな」

「いや、大丈夫です。モンスター使いをやっている以上、好奇な目には慣れましたから。それに俺みたいなやつは特殊みたいですよ。兎に角俺の後ろに行商人がいます。俺たちは動物を襲いません、これだけは約束します」


そしてカケルはエルフと友好の印として握手をする。互いに自己紹介も済ませる。エルフの名前はアルトリアというらしい。アルトリア曰く、カケル達が動物に手をかけない限りは敵対はしないとのことだ。そして後続のナイトとオフィーリア、ラパツが到着する。ラパツは到着するなり手負いのピーギァを見て驚くべきことを口にする。


「おぉ、ピーギァ、それも死にかけだ。よし、今夜は新鮮な肉だ」

「ちょっとまって?」


思わずカケルが敬語を忘れてラパツを止めるが、アルトリアはすでに冷え切った眼で剣の柄に手をかけている。これはまずいと感じたカケルは慌てて取り繕う。


「今のは言葉のあやというか、何というか・・・」

「ほう?それで私が納得するとでも?」

「すいませんでした。ほらラパツさんも謝ってください」


カケルが心底嫌そうな顔をしたラパツを謝らせたのは言うまでもない。アルトリアはラパツの謝罪を半信半疑といった風な顔で聞いていたが、やがてカケルの必死の謝罪に折れたのか溜息を吐く。そしてラパツが無暗に動物を殺さないかどうかを見張るために同行すると言い出す。こうして野良のエルフと現金な行商人、そしてモンスター使いらしからぬモンスター使いといった奇妙な即席パーティーがつくられる。


「お前が王都に行くまでの道のりに同行する。変な気は起こすなよ?」

「勿論ですともエルフ様。へ、へへっ・・・」

「・・・」


アルトリアがラパツを睨みつけ、それに対してラパツがわざとらしく手を揉みながら絶対服従を誓う。カケルとその仲間であるナイト、オフィーリア、兵隊蟻が死んだ目で2人を見つめている。カケルはラパツの護衛を受けたことを大いに後悔しているようだ。だが済んでしまったことは仕方ないとカケルは荷物を入れている袋から魔導書を取り出す。魔導書とはスペルについての説明が載っており、読み込んで才能があればスペルが使えるようになる、かもしれないという代物だ。こればかりは体質にもよる。とにかくカケルはユタの村の魔道具屋のおさがりである魔導書を読み漁る。カケルが持っているのはスペル緑のみ。「地喰い」との戦闘時では土壇場のところで自然の治癒が使えたし、「手負い」のピーギァを治療する時も自然の治癒が使えた。カケルはここぞという時は自然の治癒が使えるのだが、普段はてんで駄目なのだ。だから今カケルは魔導書を読んでスペルを使う訓練をしているのだが、今は新たに別のスペルに興味がわいている。


〇体力増強[スペル] コスト緑 ☆1

効果・プレイヤー・モンスター・陣地いずれかの最大HP+1

―ここからは泥沼の混戦だ―


最大HPが増えるのはモンスターの召喚コスト、アイテムの使用コストどちらの面をとっても嬉しいことだ。自然の治癒は困ったことにここぞという時にしか使えないのだが、しっかりと休んで治療を受ければ体力が回復することは、ユタの村で治療を受けた時にHPが全回復していたことからも明らかだ。カケルは魔導書を握りしめ、強くなってやると誓う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ