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どこまでも続く道

カケルはユタの村を出て、目的地も定かではない旅に出る。あるのは少なくないルピーとサバイバルに役立つ魔道具、そして地図とカケルについてくるモンスター達。行く当てもなくゆらりとふらつく旅路。カケルの目の前にはどこに通じるともわからぬ一本の道のみ。この道は果てしなく遠い、気が遠くなるほどに。その旅路の末にどんな未来が待ち構えているのか、よしんばカケルが知っていたとしても、それを気にかける必要などない。


「どこに向かわれるのですか?」

「どこか遠くへ。例え道に迷っても、それで君たちと少しでも長く一緒に入れるというのなら、それもいいかも」


盲目の女性、星を紡ぐ者の問いかけにカケルはあっけらかんと答える。カケルは改めて投影装置を見る。見ると赤の地はフィールドから消え失せている。赤の地を守っていたモンスターたちは地喰いとの戦闘で散っていった。守護者のいない赤の地の未来は、最早カケルは知る由もない。恐らく野生の動物が住み着いて、少しずつ長い年月の果てに風化していくのだろう。それが時の流れという物だ。


「おぉ、すげぇ!魔道具ってすごいんだな!清水を出す魔道具がガラハの水瓶って魔道具で、これは魔力を注げば清水を生み出してくれる。同じく火をつける魔道具は火炎石っていって、キャップを外して仄かに熱を持っている石の部分を木屑とかに押し当てると火が付く。これは興奮するなぁ」

「ユタの村の人たちは優しいのですね。旅立つ人に貴重な魔道具を2つも渡すなんて」


星を紡ぐ者がそんな感想を述べる。ナイトは何処かほっとしているようだ。もう棒を擦って火をつける必要がなくなったからかもしれない。兵隊蟻は何の会話をしているかが分かっておらず、その大きな触角を動かすのみだ。カケルは折角だから星を紡ぐ者と兵隊蟻に名前を付けようとするが、どうやら自分のネーミングセンスが壊滅的であることを悟ったらしく、難しい顔をする。そのカケルの悩む顔を見て、星を紡ぐ者が助け舟を出す。


「もしかして私を何と呼べばいいか悩んでおられるのですか?それでしたらオフィーリアとお呼びください。前の主人がつけていた名前です」


星を紡ぐ者、基オフィーリアの言葉にカケルはハタと気付く。この地にいるモンスターはもとはと言えばカケルのように地球から呼ばれた者たちが召喚したモンスターで、それらが歴史を紡いで今この世界が出来ているのだ。だから老兵ガルガンをカケルは召喚することが出来なかったのだ。☆5及び☆6カードはデッキに組み込める制限がある。例えば人間などこの世界にはいくらでもいるが、その中でオフィーリアも老兵ガルガンも不幸の少女トゥグリも、この世界には一人しか存在しない。あの地喰いだって過去にこの世界にやってきたアンドレ―が召喚したものだ。だからこそ、カケルより先に誰かがこの世界で召喚した老兵ガルガンが今も生きているから、カケルは老兵ガルガンを召喚できなかったのだ。そこまで考えてカケルは気付く。


「待てよ?そしたら今までの召喚者はチュートリアルを受けていないのか?地喰いを倒したのは俺だし、トゥグリも不幸の少女のままだった。あの自称神の言い方だと今まで多くの人間がこの世界に呼ばれたはずだ。でもその人たちはチュートリアルがなかった、いやそれどころか魔王を倒せなかったから今の俺が魔王退治を任されているんだろう。今までの召喚者は一体何の目的でこの世界に呼ばれたんだ?」


だがいくらカケルが考えたところで答えは出てこない。カケルは次に誰かの記憶を獲得したときに、直に神に質問をぶつけようと決める。そう割り切り、今はただ歩くことだとカケルは前に向き直る。と言ってもカケルは地図を片手に歩きながら、その実地図などまるで見ずに、分かれ道に出ても棒を倒して歩くという始末なのだが。暫くカケルがそうやって歩いていると後方から馬車の音が聞こえる。思わずカケルが後ろを振り向くと、そこには2頭の馬にひかれた簡素な馬車がある。元々ディープワールドカードゲームのシステムを踏襲した世界だ、眼鏡があったくらいだから馬がいても不思議ではないとカケルは考える。そして視線を上にあげると、御者の姿がカケルの目に映る。御者は中年の小太りの男だ。その髭がトレードマークの男は、ユタの村の人々より少しだけ上質の服を着ている。馬車を持っていることから行商人であろう。これ幸いとカケルは御者に向けて話し始める。


「こんにちは。行商人ですか?こんな辺境の地から何処へ向かわれるつもりですか?」

「おぉ、こんにちは。今からこの国の王都に向かう所なのですよ。どうです?1000ルピーで王都まで乗っていかれますか?見たところモンスター使いのようなので護衛もお願いしたいのですが、こちらも毎食出しますよ」


カケルはいつしかのトゥグリの母親の言葉を思い出す。王都までの相場は食事抜きで1200ルピー。馬車の護衛依頼付きとはいえ、食事込みで1000ルピーは安いようにカケルには感じられる。カケルは二つ返事で御者の言葉に了承して1000ルピーを払う。護衛と言ってもオフィーリアと兵隊蟻、そしてナイトがいる馬車を襲う野生モンスターなどそうそうおらず、結局夜までカケルはぼーっと流れる景色を眺めている。夜になると野営の準備を始める。御者とカケルが二手に分かれて燃えやすそうな木の枝を集め、それを使って焚火をする。着火にはカケルが貰った魔道具を使うのだが、その時に行商人が羨ましそうな顔をしている。


「火炎石ですか、いいですね。火打石より楽に火がつけられるから旅路には重宝するのですよ。私も欲しいのですが、この馬車を買うのに借金をしてしまいましたからなぁ」


パチパチと木が燃える音をバックグラウンドミュージックに、会話が盛り上がる。どうやら行商人は馬車に大金をつぎ込んだようだ。素人のカケルから見ても、上質な木材と綺麗になめした皮を使ったこの馬車は立派に見える。行商人はガナスの村の特産品である怒りの石を王都に売りに行くようである。怒りの石は常に透明な命の石と違い、カケルが手に持つと緑色に変化する。そして行商人が持つとまた透明に変わるのだ。


「カラーチェンジ!珍しいですね」

「この怒りの石は少々特殊な石でしてね。持ち主の魔力の波長に合わせて色が変化するのですよ。怒りの石本来の使い方ではなく、このカラーチェンジの性質で怒りの石は値が上がるのですよ。不思議なものですね、人間は怒りの石の本質ではなく、その摩訶不思議な外観に惹かれて大金をはたくのですから」

「確かに、言われてみれば面白い話ですね。怒りの石も王都の人にとってはファッションの一部ですか。あ、鍋が煮えたようですよ。俺がよそいますね。えっと、兵隊蟻は勝手にそこらへんでご飯を食べてるし、ナイトはゴーレムだからご飯がいらない。だから俺とオフィーリアと行商人さんの3人で分ければいいんですね。すいません、今更ですが何と呼べばいいですか?」

「ラパツとお呼びください。そちらは?」

「カケルです」


カケルとラパツはひとしきり交流を深めた後、美味しそうに夕ご飯を食べる。いや旅である以上保存食なのだから美味しさなどたかが知れているのだが、それでも会話をしながらの食事という物は往々にして美味しくなるものなのだ。この広い星の満天の星空の下、楽しそうに笑う影。やれどっちが量が多いかで争うその姿は、星空よりも輝いて見える。ふと何処からか獣の鳴き声が聞こえる。


「ピーギァだ!」


ラパツが叫び、草原の遥か先を指さす。カケルが暗闇に目を凝らすと、やがて雲の隙間から月明かりが差し込み、獣の群れを照らし出す。ラパツがピーギァと呼んだ獣は鹿のようなシルエットをしている。ただその角が4本あることが鹿との違いか。茶色になびく毛皮が月明かりに照らし出され、怪しげに輝く。思わずカケルはその草原の中で鳴き声を上げるピーギァの群れに見ほれる。大自然は雄弁に語る。それは人にとっては時に辛く厳しい時もあるだろう。だが時に美しく映るのだ。ピーギァの群れが遠くに向かうのを見届けてから、一行は眠りにつく。

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