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別れの刻

地喰いとの壮絶な戦いから一夜が明け、ユタの村は幾何かの安寧を得た。村人たちは健気に笑う。それは等しく家族を失った者、大切なものを失った者、知り合いを失った者、誰もが健気に笑っている。悔しくないはずなどない、だが立ち止まっている訳にもいかない、そんな表情だ。皆心の中では分かっているのだろう、自分たちが笑顔で彷徨う魂を送り出してやらねば、と。数多の犠牲を出しながら、それでも世界は回り、人々は明日を願い、来年にはかれはてた焦土一面に花が咲き乱れるのだろう。カケルは気丈に生きる人々を見て、何とも言えない表情を浮かべる。ふとカケルの背後からナイトがぬっ、と現れる。そしてカケルの心労を察して、気持ちを落ち着かせるために、任せろとばかりに胸を手で叩くのだ。


「ははっ、ナイトいつもありがとう。少し気が紛れたよ」


ナイトに励まされ、カケルははにかむ。そして決意を胸に長老であるルゥダの下へ向かう。ルゥダはユタの村の復興作業に追われている。見ればマウリも駆り出されている。その傍らには散っていったユタの村の戦士たち。散っていった者たちを忘れまいとしながら、生き残った者は復興作業を続ける。皆顔は疲れているが、その目だけは死んではいない。そう、彼らはいつでも未来を見ている。地喰いと戦った時も、今も。彼らは村の仲間の死を目の前に資ながら、それでも未来を見据えているのだろう。カケルは冷たくなった戦士たちを見て、無理やり少し笑いながら努めて明るく世間話を切り出す。


「ルゥダさん、お疲れ様です。何とか無事生き残れました。と言っても生き残れなかった人も多かったですが・・・」

「リューよ、よく生き残ったな。そしてトゥグリの病気を治してくれたことに感謝する。それで今日は何用だ?」

「別れ話を告げに来ました」

「・・・そうか」


カケルがそういうと、ルゥダは溜息を一つ吐く。まるでカケルがそう言う事を分かっていたかのように、落ち着いている。ルゥダは続けてゆっくりと口を開く。


「お主からいつその話が切り出されるか身構えておったがの、随分と速かったな。覚悟を決めたのか」

「はい、俺はユタの村を出ていきます。まだ次の目的地は決まってませんけど、ここに居ても皆さんに迷惑がかかるだけですし」


思い起こされるのはカケルが持つ投影装置。このままユタの村に居座ったところでまたクエストが発生して、ユタの村の住民を危険にさらすことになるとカケルは危惧しているのだ。それに何より、アンドレ―の記憶の内容と、その後の神との会話がカケルの脳内にモヤモヤとしたものを残したのだ。カケルは一人考える、立ち止まっていても意味がないと。何かに急かされるように、カケルはユタの村を離れることを決意する。


「本当にお世話になりました」

「その言葉を言うべき者は一杯いるだろう。時間はかかるだろうが、全員に言ってくるといい。これは儂らからの思いだ、受け取るがいい」


そう言ってルゥダはカケルに大きな袋を渡して、目を伏せる。当然今の言葉には、カケルが世話になって、お礼を言う前に死んでいった者も含まれている。カケルはルゥダから受け取った大きな袋の中身を確認する。中には少なくないルピーと地図、それにいくつかの魔道具が入っている。ルゥダはこれは皆の思いだといった。カケルはゆったりとユタの村を歩く。そこでお世話になった人たちと出会う。眼鏡がトレードマークの名前も知らないギルドの職員は、地喰いとの戦いで帰らぬ人となった。一人ぼっちになった解体作業員が悲しげな顔で嘯く。


「俺は全然悲しくないぞ。一人で黙々と解体作業をするってカッコイイからな」


その解体作業員に、カケルはどんな言葉を投げかければいいか戸惑う。そして、投げかける言葉などないという結論に至る。傷心の人間に必要なのは見せかけの安らぎなどではない。ただその人間を一人にさせて、落ち着かせることが一番の良薬なのだ。カケルは解体作業員の背中に、ただ無言で礼をする。カケルはその足でトゥグリの家である日の出亭に向かう。日の出亭の主人の遺骨は結局見つかることは無かった。ただ遺骨は無いが、日の出亭では線香の香りがする。カケルはそこで両手を合わせて祈りを捧げている、傷だらけの少女を見つける。外傷は時が経てば癒えるが、内傷は時がいくら経とうと、変わらず付きまとってくる。恐らくトゥグリはその長い残りの人生の中で、永遠とも思われる回数の祈りを捧げるのだろう。やがて祈りが終わり、カケルはトゥグリに声をかける。


「やぁトゥグリ、昨日はお疲れ様」

「お兄さん、どうされたんですか?」

「いや、なに。この村を旅立とうと思ってね。それで最後に挨拶をしに来たんだ。トゥグリにはお世話になったよ。トゥグリがいないと地喰いには勝てなかったしね」

「そうですか・・・。私の方こそお世話になりました。ありがとうございました。ユタの村を出て何処に行くかは決めているんですか?」

「折角だからトゥグリが行きたがっていた王都に行こうと思ってるよ。またお土産話をもってこの村に帰ってくるから」

「絶対ですよ?」

「あぁ、絶対だ」


カケルから見てトゥグリは大人びた。もう両親に守られているだけのか弱い存在ではないのだ。それがカケルの気持ちを悲しくさせる。トゥグリは悲しいほどに強くなってしまった。もう年相応の無邪気な笑いもしなければ、感情に振り回されることもないのだろう。カケルは笑顔でトゥグリに別れを告げる。そして最後にカケルはマウリの下へ向かう。マウリは変わらず日々の訓練に勤しんでいる。汗を流しながら剣を振るうその顔には後悔の念が現れているのが見てとれる。


「何で俺はもっと日々の訓練を積まなかったんだ。俺はこのユタの村の守衛だというのに。俺のせいだ、俺の・・・」

「マウリさん、昨日はありがとうございました。倒れた俺とトゥグリの事を気にかけて、ベッドまで運ぶように言ったのはマウリさんだと聞きました」

「あぁ、カケルか。なに、守衛として当然のことをしただけだ」

「えぇ、守衛として当然のこと、でも人間はだれしも出来ることが限られています。マウリさんは俺とトゥグリの命を見捨てないでくれた、それだけでとても嬉しかったです。守衛として村を守るなんて大それた責任に駆られるんじゃなくて、目の前の命を救ったという事を誇ってください」

「聞いていたのか。それで?まさかそんなことを言うためだけに来たわけじゃないだろう?」

「はい。マウリさん、お世話になりました」


カケルがそれだけ言うと、マウリは全てを察する。そして、そうか、と一言だけ呟いて、それっきり押し黙る。出会いがあれば別れもある、例えそれが唐突だとしても受け入れるべき現実だ。カケルは何も言わないマウリに背を向けて歩き始める。ユタの村を抜けて、新たな旅路を辿る。それはきっと魔王を倒すという使命感や、自分がいればユタの村がクエストに巻き込まれるという危機感などではない。上辺だけの理由ではなく、カケルは自分の意志で旅立ちを決意する。ユタの村を離れる時に、カケルは今一度振り返る。そこにはユタの村の皆が勢ぞろいでカケルの事を見送っている。思い起こされるのは、日の出亭の主人が王都に向かった時の光景。ただし、前と違うのは、今回は絶望ではなく村に希望が溢れているという点だろう。


「必ず帰ってきます。だから少しの間だけ、さようなら」


カケルは別れを告げる。皆からの受け取った餞別としてルピーは申し分ないし地図もある。火を起こす魔道具と清水を生み出す魔道具も貰った。元よりサバイバルはカケルの得意とする分野だ、最悪ルピーがあるから途中で馬車に乗せてもらってもいい。カケルは投影装置に目を移す。そこには兵隊蟻と星を紡ぐ者、そしてナイトがいる。昨日の激戦から一夜明け、手札も補充されている。


〇ディスペル[スペル] コスト緑 ☆2

効果・相手のスペル1枚の効果を打ち消す

ー抗う力を思いに乗せてー


思えばいろいろなことがあった。だがどんなことがあろうとも、ユタの村は明日を目指すし、そこに住む村人も同様に未来を望む。きっとユタの村は特産品である命の石と地喰いの素材で、これからも永遠に続いていくのだろう。長かったチュートリアルが終わった。ディープワールドカードゲームの世界ではそれはゲームのさわり、絶対にクリアできるものだ。だがこの世界ではチュートリアルの中にも人々の営みが隠れている。長いチュートリアルが終わり、今カケルの旅が始まろうとしている。

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