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05.過ぎ去りし過去から、これからの未来へ

《――チェック終了。今日もいつも通りいこう》

「――了解」


 軽く呼吸を整え――コントロールユニットのグリップを握り直す。


――世界大会、決勝。


 前評判では、『ルシファー』の圧倒的優位。ここまで『完全制覇』を二度成し遂げている彼らを、ファンは期待と諦め(・・・・・)の眼差しで見ている。


(――違うんだよなぁ……)


 優也は、コクピットの中でそっと溜息をつく。――これは、優也が求めた状況ではない。


 切磋琢磨し、互いの全力でぶつかり合って――上を目指していく。その先に、どんな景色が見えるのか? それを見たくて優也は戦ってきた。





――しかし、優也が『その先』を見ることは、出来そうになかった。





 チームと優也の力は、周囲に対して飛び抜けすぎていた。優也が期待していた『切磋琢磨』は、近しい力関係があってこそ、成り立つ。――実力差がありすぎては、成り立たないのだ。

 結果として、優也は目指す場所を失い――仲間達とすれ違うことになった。チームは、今の状況に満足していたが……優也は、そうではなかったからだ。


「――ふぅ」


 それでも、全力を尽くさねば。油断は敗北に繋がるし、手を抜くのは相手に失礼だ。――だからこそ、優也は己の力が自らの『夢』を遠ざけると分かっていても……手を抜くことはなかった。


「どうして――」

《――何か言ったか?》


 無線で確認してくるレオに、「いや、独り言だよ」と返し――優也は目の前の敵に集中する。





――そして、優也は三度目の『完全制覇』を達成した。



--------------------



『どうだ、凄いだろう!』


 そう言って父親が見せてくれたのは、設計を新たにした『レベリオン』の新しいRG。純白のボディは美しく、派手さはないがなつきの目に印象的に映った。


『コイツで、世界を獲ってやるんだ!』


 嬉しそうに、楽しそうにそう言っていた父親は――それからしばらくの後、帰らぬ人となった。


「――ごめんね。アンタのパーツ……借りるから」


 なつきの周りではその白いRG――『レベリオン』からパーツを外し、運ぶチームのメカニックが動き回っている。


「なつきち、チェックが済んだパーツから組んでいくぞ!」

「お願い――って、なつきちって呼ぶのやめてってば、後藤田さん!」

「名字じゃ、親父さんと被るからなぁ」

「なつきで良いじゃない!」

「俺がファンのアイドルと被るから駄目だなぁ!」

「もう!」


 周囲の人間も笑いつつ、手と足は動かし続けている。

 父親が設計した『レベリオン』――RE-RG01の隣りに立つ、フレーム剥き出しのRGにメカニック達はRE-RG01から外したパーツを順番に組み付けている。





――RE-RG02、『レベリオン 2nd』。





 なつきが設計し、チームのために組み上げたはずのRG。――けれども、真の性能を発揮することなく、スクラップとなってしまった機体。

 原因は、明らかだった。未熟なパイロットの腕にも一因はあったが、最も問題だったのは『パーツの品質・・』だ。――低迷していたレベリオンの予算では、なつきの求める性能を発揮させるだけのパーツが揃えられなかったのだ。

 それが分かっていたから、なつきは揃えられるパーツでどうにかバランスを取った――が、それをパイロットが戦える状態まで持っていくことが出来なかったのだ。


(せめて、腕の良いエンジニアがいれば――)


 そう考えて、なつきは自分の都合の良い言い訳(・・・)に苦笑する。――自分が設計したRGのことを棚に上げて、それはあんまりだな、と。


「モーターは、試運転すれば大丈夫だろう。他のパーツも劣化はなさそうだ」


 声をかけてきたのはとどろき――父親が存命の時からチームに所属し、なつきの前にチーフメカニックだった男だ。現在は、チーフメカニック補佐、という役職に就いてもらっている。

 元々はもう引退すると言っていた轟に待って貰い、『チーフメカニック』が不在の状態でなつきがデザイナーと兼任している間、サポートして貰っている。チームの信頼厚い轟のおかげで、不慣れななつきもどうにかチームを動かせている。

 監督がいれば、とは思うが――これまでのレベリオンでは、なってくれる人間がいなかった。結果として登録上は良子が監督に就き、実質なつきと轟でカバーしている状態だ。


(まったく――無い物ねだり、ばかりね)


 無いものは、どうにもならない。だから、あるもので戦うしかない。――そのために、手に入らない『高品質パーツ』を、動態保存状態であったRE-RG01から取ることにしたのだ。

 チームから、軽い反発はあった。しかし、このままパイロットの力だけで勝っていけるのか? 勝てたとして、それでチームとしては良いのか? なつきの言葉に、反発していた人々も最後は納得してくれた。


「――また、ちゃんと元に戻してあげるからね」


 装甲を――部品を外され、フレームが剥き出しになっていく機体を前に、なつきはそう誓う。


「皆、疲れているのにごめんね」

「なあに、あんちゃんだけ頑張らせる訳にはいかねえだろ?」

「おうよ! それに、ちゃんとウチの機体で戦いたいしな!」


 なつきの言葉に、皆がそう言って笑う。――ハチクロの準備、メンテナンスで大変なのに……申し訳ないとともに、ありがたいと思う。


「――私も、頑張らないとね」


 設計者として、エンジニアとして――組み上がった機体を、戦える状態に仕上げなければ。





「あ、あのぉ……」





 頑張らねば、と決意を新たにしたなつきに、ちーちゃん――智恵が声をかけてくる。


「ん? どうしたの、ちーちゃん」

「外国人の方がいらっしゃっていて……わ、わたし英語話せないからどうしたら良いかわからなくて……!」


 泣きそうなちーちゃんに、なつきは「えぇ……?」と困惑しつつ、その外国人がいるという所まで連れて行ってもらう。





「あぁ……良かった。そこのお嬢さんに話しかけようとしたら走り去ってしまったから、どうしようかと思って」





 流ちょうな日本語を喋り、立っていたのは金髪碧眼の美男。後ろに、同じく金髪碧眼の美女も立っている。


(あれ……どこかで見たことがあるような……?)


「に、日本語お上手ですね……」

「日本が好きでね。それに、チームメイトに日本人がいたから、ある程度は話せるつもりだよ」

「そうなんですね……ええと、それで、ウチに何か……?」

「――ユウヤは?」


 それまで黙っていた美女の方が、澄ました顔で聞いてくる。


「――え?」

「私達、ユウヤに会いに来たのよ。彼は、どこ?」

「えっと……彼の、お知り合いですか?」

「まあ待ちなよ、シェリー――ごめんね、僕たちはユウヤの元チームメイトなんだ」

「え――じゃあ、まさか……『ルシファー』の?」

「うん、元チームメイト。彼が離脱した後に、僕らもチームを辞めたんだ」

「違約金、高かった」

「はは……まあ、結構かかったねぇ」


 どこか、ブスッとしている美女と、爽やかに笑っている美男。


「ええと、彼は今、住んでいるマンションに帰っているけれども――」

「あちゃあ……ちょっと遅かったか」

「兄さんが、アキバに寄ろうなんて言うから……」

「シェリーもノリノリだったじゃないか」

「ちょ、ちょっと! そういうこと、こんなところで言わないで!」


 クール美女さんかな、という印象が吹き飛ぶほど慌てている美女――シェリー。どうやら、ふたりは兄と妹らしい。


「――え、『ルシファー』のスタッフで、兄妹きょうだい……?」


 そこで、なつきはハッと気が付く。





――ジーン・ブライトマン

――シェリル・ブライトマン





 世界トップレベルのチームでチーフエンジニアとチーフメカニックを務めた、RG業界で有名なふたりだ――


「え、え……? ブ、ブライトマン兄妹……?」

「あ、知っていて貰えて光栄だなぁ」

「この業界で私達のこと知らないとしたら、かなり将来性がない人間だと思うけど?」

「はっはっは、それはちょっと自信過剰だよシェリー」

「事実だけど」


 まさか、こんな有名人がこんなところ(・・・・・・)に。

 あまり露出しないふたりだけに、たまに中継に映る以外では目にしないものだから気が付くのに遅れたが――なつきでは出会うことも話すことも無かったであろうほど、遠い存在のふたりだ。


「――じゃあ、まあ仕方ないか。先に、オーナーに会っておこうか」

「そうね、その方が話が早いと思うわ」


 ふたりで何やら話を進めている。ついて行けていないなつきは「えーと……どういうことでしょうか?」と尋ねる。





「あ、このチームに僕らを雇って貰おうと思って」

「持参金付きで」





 そんなことを言い出したふたりに、なつきは言葉を反芻した後――





「――えぇぇぇっ?!」





 ファクトリーの皆がびっくりして出てくるくらいの大声で叫んでしまった。



--------------------



「――やぁ! ユウヤ!」

「久しぶりね、鞭を打ちたいわ(会いたかったわ)、ユウヤ」


――騒動の、翌日。


 ファクトリーに顔を出した優也の前に、居る筈が無いふたりがいた。


「――ふたりとも、なんで……」

「そりゃ、君を追いかけて来たに決まってるじゃないか!」

「私、あなた以外のパイロットのために仕事する気、ないわ」


 元チームメイト――ジーンとシェリルの登場に、優也は驚いた。


「レベリオンは、ブライトマン兄妹と契約することにしました。チーフエンジニアと、チーフメカニックとして」

「オーナー……」


 やって来た冴木に、優也はコソッと「――うちに、ふたりに払えるお金あるんですか……?」と聞くと、彼女は苦笑しながら「どうにかなったから、契約するのよ」と答えた。


「まあ、ちょっと異例というか……普通なら、絶対無いわよねえ……こんなこと」

「いやあ、僕らもこんなことになるとは、去年は思わなかったよねえシェリー?」

「ユウヤが悪い。何も相談せずに、契約更新しなかったんだから」

「え、えぇ……?」


 そのままチームに残れば、富も名誉も手元に残ったであろうに――ふたりは、優也を追いかけてチームを去ったという。


――しかも、契約期間が残っていたから違約金を払ってまで。


「違約金払ってといっても、よく辞められたね……凄く引き留められそうだけど」

「しつこかったわよ? ――特に、ミシェルには部屋に居座られて、一晩中泣かれて鬱陶しかった……」

「はっはっは、アレは凄かったねぇ……」

「えぇ……? それで済む話なの……?」


 変わり者のふたりと分かっていたつもりだったが、離れてそれがよく分かった。


「とりあえず、89型はプログラムを変更するよ――君、僕がいじってあげたままで使ってるみたいだけど、あんなのもう時代遅れだからね? 最新の制御を施してあげよう!」

「それは、助かるよ。正直なところ、もう少し反応が早かったらなと思っていたから」

「任せなさい! ――で、その次(・・・)は『レベリオン』だね」

「――なんだって?」


 聞いていて、違和感のある話に優也は首をかしげた。すると、ジーンは「あれ? もしかして、内緒だった?」と冴木に確認する。


「内緒、ではないけれど――」


 そこまで言うと、冴木は苦笑しながら皆瀬に視線を向ける。

 視線を受けた皆瀬は「うぅ……」と不満そうな顔で躊躇っていたが、大きく溜息をつくと「『レベリオン』は、ウチのオリジナルRGよ。――初日に、スクラップになっていた」と答えた。


「あ……あれ? あの白い、綺麗なRG――」


 日本のチームを調べていた時、目に留まった白いRG――美しく、素性の良さを感じるものの結果が出ていなかった機体。RE-RG02――今大会では出番は無いと思っていたが、直したというのか?


「まさか、ファクトリーで皆が遅くまで作業していたのって――」

「そうよ……ハチクロの整備と平行で、直してる(・・・・)


――直してる。


 つまり、まだ作業は完了していないということだ。


「動画で確認させてもらったし、スペックも確認したけど――悪くない機体だね。ちょっとパーツの問題はあるけど、設計自体はとても良いものだと思うよ!」

「パーツの問題って、根本的で致命的な部分よね……」

「う、うぅ……」


 何故かシェリルが皆瀬を睨んでいるが、問題はそこではない。


「――パーツは、どうしたんです? スポンサーが増えたし、ジーン達の持参金があるとはいえ……パーツを調達するには、時間が……」

「あるものでまかなった、ってところね」


 皆瀬がそう言って苦笑する。


「あるもの……? そんなの、どこから――」


 言いかけて、優也はファクトリーの奥――チームの大事な『思いで(財産)』として保管されていた『白いRG』を思い出す。


「まさか――あれを解体して……?」

「察しが早くて、話が早いわ。――RE-RG01、初代『レベリオン』に使っていたパーツは少し古いけど、今でもそれなりの性能を発揮できる良品なの。それを、使うわ」

「大事なRGだったんでしょ……?」


 優也は冴木にも確認するが、冴木は苦笑しながら「良いのよ」と首を振る。


「――競技チームとして生き残らないとね。過去の栄光を大事にしているだけじゃ、何も変わらない、何も得られないもの」

「偉い! ナツキのそういう考え方、良いね!」

「そうね、そこだけは評価してあげる。――レオより大分マシだわ」

「えーと、なんだかわからないけど……ありがとう?」


 ブライトマン兄妹に褒められて困惑している皆瀬。――しかし、困惑しているのは優也も同じだった。


「話が急展開過ぎて、ついていけない……」

「はっはっは! knight Kは速さもウリだったのに、どうしたんだい?」

「腑抜けた? だったら『整備(調教)』してあげようかしら?」


 なんだか不穏な言葉が聞こえた気がするが、とりあえず優也は「ま……やることは変わらないか」と思考を変える。


「うんうん、やることはただひとつ――戦うことだけだね!」

「わかったら、さっさと仕事しなさい」


 ブライトマン兄妹に引っ張られるようにファクトリーの中へと連れて行かれる。


「わ、わかったから引っ張らないで――」


 助けを求めて皆瀬を見るが、彼女は「ふん……」とそっぽを向いてしまう。


「なんでぇ……?!」


 孤立無援――優也はイギリス時代を思い出し、震えていた。

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