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鋼鉄に血は通うか?  作者: 織田璃空


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16/18

16.決勝戦――強者達の喜び

大変遅くなりました。

――あの(・・)チャンピオンと同じ舞台に立っている。


 ミハエルはリングの向こう側に立つ機体――レベリオン 2ndのパイロットである元・knight Kこと、神代優也のことを考えて背筋をゾクリと震わせた。


 絶対王者とまで言われた『ルシファー』のパイロットは、突然チームを離脱した。ミハエルは下層から登り詰めて彼を倒すのだと考えていたので、彼の『引退』を悲しんだ。――もう、戦うことは無いのだろう、と。


――しかし、彼は幸運にも(・・・・)ここ、日本にいた。


 スポンサーの勧めで日本にやって来た。ドイツ国内で苦労するよりもイギリスか日本が良いだろうという話になり、スポンサーはその中で日本をミハエルに勧めた。機体の優秀さに比べて優秀なパイロットが少ないから、自分にとって良い環境、つまりチームを整えやすいだろう、と。そして、『トライブ』と契約を結んだ。

 当初の想定よりも苦労はしたが、腐らず、全力で取り組んだおかげかチームはあの『ルシファー』と提携を結び――ミハエルは来期からルシファーに移籍することが決まった。

 ルシファーとの契約は幸運とも言えたが、ミハエルの実力と努力が正しい未来を引き寄せただけだ、とミハエル自身は思っている。――それよりも、叶うことは無いであろうと思っていたあの絶対王者とこうして戦えるということが、何よりも幸運だと言えるだろう。


「――楽しいねぇ」


 ヘルメットの中で、ミハエルは笑っていた。――楽しくて、楽しくて、楽しくてしょうがない。早く戦いたくてウズウズしている。

 TRG-N03はルシファーとの提携で旧型よりもかなり性能アップした。優也とデータの少ないレベリオン 2nd相手にどの程度やれるのか? ミハエルの見立てでは――6対4で優也が優位だと思っている。

 不利であると思っていても、実際に戦ってみなければ分からないこともある。戦力とは別の要素――マシントラブルや操縦ミスだってありえる。それに、パイロットとしての腕で絶望的な差があるとは思っていない。それはミハエルのパイロットとしての自信だ。


 大会本部から指示があり、優也とミハエルは機体を前に進める。――いよいよ、決勝戦の開幕である。


「――挑ませてもらうよ……チャンピオン」


 ミハエルは、日本に来てから最もワクワクしていた。



-------------------



「――!! 速いっ!」


 油断していたつもりは無かった――が、優也は試合開始と共に突っ込んできたTRG-N03の初手、ブレードによる突きを避けるのに苦労した。

 攻撃の手は緩まない。相手――ミハエルは優也に手番を渡すまいと攻撃を重ね、繋げていく。それに対して後手に回った優也は捌くのに必死だった。


(記録で見ていた動き以上に、良い――!!)


 今日のTRG-N03の動きは、今大会の映像を確認した優也の目には最も良い動きに映っていた。機体のコンディション、パイロットの操作が非常に良い――そう感じられる。


 相手側にレオナルドがいる以上、簡単ではないという事は分かっていたし、優也が確認できている範囲でのミハエルの戦い方は世界レベルと言っても良かった。だからこそ、簡単に勝てるとは思っていなかったが……それにしても――である。


(こんなにギリギリのやりとりをしているの――いつ以来かな?)


 優也は苦戦している最中だというのに、自然と笑ってしまう。――それは、戦いの喜びを感じていたから。淡々と、決められた動作を行って勝ってしまっていた昨期とは違う、『戦っている(・・・・・)』という実感を得られる試合に、喜びを感じていたのだ。


「――良いね……これだよ、これ……」


 ミハエルの攻撃を捌きつつ、優也は笑い――闘志を燃やした。


――これがしたくて、僕は『ルシファー』を去ったのだから。


 優也の望んだものが、そこにはあった。

 優也の望んだ相手が、そこにいた。


 絶対的な勝利など無い、戦いの駆け引きが常に行われる場所。

 絶対的な優位に立てない、力ある強敵。


「――最高だよ、最高だ……っ!!」


 交差するブレード。間合いを詰め、間合いを開け、そして互いの手の内を読みつつせめぎ合う。

 機体のパラメータがこの戦いのシビアさを物語る。各部にかかる負荷、駆動状況はこれまでにないほど、高くて厳しい。何も考えずに力任せに戦えば、やがてこちらがオーバーヒートでもして敗北へと追い込まれるだろう。――それはレベリオン 2ndが貧弱なのではなく、それだけ高度な試合を優也とミハエルがしているということだ。


(キツいけど、それは向こうも同じ筈――)


 実際に戦ってみれば、記録以上に見えてくるものがある。純粋な、機体だけの性能ならTRG-N03はレベリオン 2ndよりも若干ではあるが、劣る。――それを互角の戦いに持ち込んでいるのは、ミハエルの技術力の高さだ。


――強い。


 優也はミハエルをあらためてそう認識する。

 世界大会で戦ったどの相手よりも、ミハエルはパイロットとして強い。それは操作技術の高さもそうだが、何よりも『読み』と『反応』の速さ、正確さがずば抜けている。――それは悔しいことだが、優也よりも秀でているかもしれない。


「――ちっ!!」


 左腕外装が一部、はじけ飛ぶ――ミハエルの攻撃に、優也が反応しきれなかった結果だ。


「強いね……本当に、強い!!」


 苦戦――それでも、優也は笑っていた。


――もっと。

――もっとだ。


 優也の身体が、魂が――もっと、と求めている。


「もっともっと――この先(・・・)を見せてくれ!!」


 そう優也は笑いながら、コクピット内で吠えた。



--------------------



(面白い――!!)


 ミハエルはコクピットの中で歓喜していた。心躍る戦いとは、こういうことを言うのであろうという戦いをしている喜びに震えた。


 戦いたい、勝ちたいと思った相手との試合――それは、叶うこと無く終わる夢の筈だった。しかし、今こうして現実に、ミハエルはあのチャンピオン――優也と試合をしている。


――脚部負荷、急上昇。


 機体から告げられる警告を確認しつつ、それでも手は緩められない。そんなことをすれば、劣勢に追いやられるのはこちら側なのだとわかっているから。

 現状、戦いは互角だ。機体性能こそ、全ての面で若干、こちら側が劣っているのは事前の予想通り。しかし、パイロットの能力としては――ミハエルの反応速度がやや、優也よりも上を行っていた。


(チャンピオンよりも、こちらの方が上――!)


 それは、パイロットとして――ミハエルにとって、嬉しい事実・・だった。憧れ、勝ちたいと思ったチャンピオンに対して、自分が優位なのだという事実は素直に嬉しい。

 しかし、ただ喜んでばかりもいられない――優也はこちらの反応速度を加味した上で、それに追いつき、追い越そうという動きを見せている。


「――くっ!」


 圧していたミハエルが、そこで逆に圧され始めた。――少しずつ優位に立っていたハミエルを、優也が押し返し始めたのだ。

 機体の損耗や、パイロットとしての消耗が原因ではない――これは、純粋に、パイロットとしての力関係が逆転したせいだ。


――ユウヤの読みと反応速度が、上がっている。


 ミハエルは、その事実に背筋をゾクリと震わせた。こんなにも素晴らしい戦いの中で、優也はさらに『その上』を見せてくれるというのだから。


「――最高だ……」


 ミハエルは、思わず声に出す。――今この瞬間、ミハエルはこれまでの人生に感謝した。


――この瞬間に巡り合わせてくれた己の人生に、感謝した。


《ミハエル――関節部の負荷が大きい。そのままだと一気にダメージが来るぞ》


 不機嫌そうなレオナルドの声に思わず苦笑する。――自分を裏切った友に、負けたくはないって? 普段はクールに振る舞っているレオナルドのそんな子供じみた本音が透けて見えて、ミハエルは彼も見た目よりは子供っぽいところがあるのだなと、あらためて思う。


「――負けても、機体とチームのせいにはしないさ」

《――》


 ミハエルが通信でそう返すと、レオナルドからの応答はなかった。――悟ったから、だろう。





「――あ~あ……ちょっと、届かなかったか」


 次の瞬間、ミハエルの身体を衝撃が激しく揺らした。



--------------------



――ダメージリミット・オーバー

――機能停止


 レベリオンチームのピットにあるモニターに表示されたその文字列。――それは、レベリオン 2ndが規定ダメージ以上を受けてしまったため、機能停止に追い込まれたことを意味していた。


「負けた……」


 思わずなつきはそう漏らしたが、拳を握ってひとつ深呼吸すると、顔を上げた。


「……決勝まで来られたんだもの。胸を張りましょう」


 笑えているかな? そう思いながら監督である轟を見る。轟もまた、苦笑いではあるが笑みを浮かべ、「そうだな」と同意してくれた。


「――おかしいね」


 ふと、そんな言葉を漏らしたのはジーンだった。


「え?」

「――試合結果が、通達されていない」


 ジーンの言葉に、ハッとなったなつきと轟はモニターに視線を戻す。――確かに、勝敗結果が表示されていない。通常であれば、簡単に『WIN』や『LOSE』と表示されるはずなのに。


「……どういう、こと?」


 顔を上げ、なつきが見たその先――リングでは。





 TRG-N03の頭部がズルッと機体から離れ、派手な音を放ちながらリング上に落ちていた。

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