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14.決勝戦前夜~再会~

――とある川沿い。


 整備された歩道とベンチがあるその場所で、優也は人を待っていた。

 時刻は、夜の八時。辺りに人影はあまりなく、犬の散歩で通りかかる人がたまにあるだけだ。

 近隣の明かりを僅かに反射させる川面を眺めながら、優也は一人立っている。


「――」


 どこかソワソワした気分で落ち着かない。優也は一度深呼吸をすると、近くにあったベンチへと腰を降ろした。


 約束の時間は、過ぎている。

 もう来ないかもしれない――そう思い始めた頃、『待ち人』が少し離れたところに立っているのが見えた。


「――やあ」


 上手く笑えただろうか――そう思いながら片手を挙げて挨拶すると、相手はムスッとした顔で腕を組んだまま、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。


「――大事な決勝前に、何のようだ?」

「そう怖い顔しないでよ――レオ」


 苦笑しながら「ま、座りなよ」と席を勧めると、少し躊躇した後にレオは優也から少しだけ離れて腰を降ろした。


「――で? 時間の無駄だからさっさと話してくれないか、ユウヤ?」

「ん~……まずは、明日はよろしくってことかな」

「……ふざけているのなら、帰るぞ」


 本当に腰を上げようとするレオナルドに「まあまあ、待ってよ」と宥める。


「君と――いや、皆と戦うのは、世界大会だと思っていたからね……君が日本に来ていて驚いたよ」

「……だろうな」

「うん……本当に、驚いた」


 話すことは、もう無いような気もした。――話せなかったことが、沢山あった気もする。しかし、こうして面と向かうと……話したい気がするし、話せることが無い気もするから不思議だ。


「――『ルシファー』を捨てて、手に入れたのが『アレ』か」


 優也はレオナルドが言う『アレ』がチーム――レベリオンを指すのではなく、RGのレベリオン 2ndを指しているのが分かった。


「……言われると、思ったよ」

「……何故だ?」


 レオナルドの『何故』には、非難と……そして戸惑いが感じられた。


「――皆と戦うためには、最も適した環境で……機体だったからだよ」

「あんなもの――!! ただ外見が違うだけで、『LR-Ⅳ』とほとんど変わらないじゃないか!!」


 デザイナーだからこそ、だろう。レオナルドは自分達を――『LR-Ⅳ』を『捨てて』選んだのが、彼にとってほとんど『LR-Ⅳ』と変わらないように見える『レベリオン 2nd』であるということが納得できないのであろう。


「『レベリオン』は、『ルシファー』とは違うよ」

「同じだ! アレは……あの機体の基本的なコンセプトは、俺の『ルシファー』と同じだ! 部品の精度やアレンジで違いは出ているが――そんなもの、機体性能の差に表れるだけのもので、根本的な部分が同じだということには変わりない。お前は、同じタイプの機体なら勝てるとでも考えたのか……? あの、出来損ないのアレで」

「……出来損ないは、酷いなぁ」

「出来損ないじゃないか! あんなもの――コンセプトを全うできない、未熟なデザイナーの欠陥品だ!」


 レオナルドの怒りは、ひとりのデザイナーとしてなのか、それとも――。しかし、道を違えた優也にその答えは分からない。


「『レベリオン』はさ……未完成なんだよ、まだ」

「未完成……? 馬鹿を言うな、アレは完成しているよ、あの程度のレベルでな」


 レオナルドが鼻で笑う。


「アレと『ルシファー』は、元を辿れば同じプロジェクトのRG設計に辿り着く。その研究成果はほぼ完成されていて、それを具現化したのが『ルシファー』であり――アレだ」


 優也は「ん?」と思った。――レオナルドは、優也が知らない『何か』を知っているようだ。


「RGとして形になれば、『未完成』なんて言い訳が出来ないくらい、あの基本設計は完成されているんだ。――だから、その真の性能を発揮できないのは未完成なんかじゃない。ただの、欠陥品だ」

「――それは、『ルシファー』が完成されたRGだから?」

「そうだ――そして、お前が知る『LR-Ⅳ』もまた、まだ真の完成形へ至る途中でしかない」


 レオナルドはベンチから今度こそ腰を上げ、優也を見下ろす。


「――次で負けても、お前は世界大会の切符を手にする。お前の腕なら、余程のことがない限りはあんな機体でも勝ち進んでくるだろう」

「酷い言われようだな」

「事実だ――だがな、その先に待ち受けるのは、より精度を増した『ルシファー』だ。『LR-Ⅴ』……それが、俺達を裏切ったお前に復讐する」


――復讐。


「――恨んでる? 僕を」


 優也が苦笑交じりに零したその言葉に、レオナルドは優也の胸ぐらを掴んだ。


「――信頼していた仲間に裏切られたんだぞ? 恨むに決まっているだろ!!」


 レオナルドの怒声に、少し離れていたところで歩いていた男女が「何だ?」と立ち止まる。


「――決勝前にスキャンダルは、不味いんじゃない?」

「お前は――」


 再び怒りの表情を見せたレオナルドだったが――呆れたように溜息を零し、優也を解放した。


「――決勝で戦うのは、『ルシファー』ではないが……パイロットを甘く見ていると、開始早々に負けることになるぞ」


 レオナルドの言葉に、次の対戦相手であるパイロットの名を思い出す――ミハエル・ロッテラー。それは、以前に黒沢から気を付けろと言われていたドイツ出身のパイロットだ。


「奴は、来期からウチに移籍する――新しい、『ルシファー』のパイロットになる男だ」

「――」


 レオナルドがそう言って笑う。それに対して優也は何も言えない。


「性格は気に入らないが、腕は一流だ。――奴は天才だよ。お前と同等か……それ以上の、な」

「……僕は、天才なんかじゃないさ」

「――ふん」


 イラッとした雰囲気を撒き散らしながら、レオナルドは背を向けてしまう。


「――お前が選んだ道が間違いだって、俺が証明してやる」

「――僕の道は、僕のものだ。間違えることもあるかもしれないけど……それは、君に決められることではないさ」

「……話は、それだけか?」

「――さあ、ね……もっと話したいこともあった気がするし、元から無かった気もする」

「……そうか」


 特に反論しないのは――レオナルドも同じだったのだろうか、と優也は思う。


「――次に会うのは、お前の『向こう側』だ」


 別離の時の優也の言葉を思い出したように告げてくるレオナルドに、思わず苦笑する。


「……うん。『向こう側』で」

「……俺を、ガッカリさせないでくれ」


 それだけ言うと、レオナルドは歩いて行く。

 背中を見送り、やがて彼の姿が見えなくなると優也は夜空を見上げた。


「……星、綺麗だなぁ」


 モヤモヤとしたものを抱えた優也の心の中とは正反対に、今夜の空はとても澄んで綺麗な星空だった。

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