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鋼鉄に血は通うか?  作者: 織田璃空


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12/18

12.準決勝を前に~前へ進む~

「――仕様変更?」


 準決勝当日の朝――ジーンはニコニコと笑いながらタブレットを差し出してきた。


「少ないながらも実戦でのデータが取れたし、昨日の試運転で新しいパーツのデータも取れた。だから、それらを踏まえて仕上げてみたよ」


 タブレットの情報をチェックしながら話を聞く。前戦ではキッチリ詰めつつもジーンにしては『優等生』気味なセッティングだと密かに思っていたが、どうやらここにきて本格的にいじったらしい。


「ダンパーがこれで……出力特性がこれ? ――やりたいことはわかるけど、本気かい?」

「僕が本気じゃなかったこと、あったかい?」

「……無い、かな」

「だろう?」


 楽しそうなジーン。

 ファクトリーではリセッティングを終えたレベリオン 2ndがキャリアに搭載され、固定されている。今回は『長物』の武器も調達でき、一緒に搭載されている。


「『アレ』、もう少し重心が手元寄りだともっと良いんだけどね」

「間に合わせだから仕方ないさ。一応、ウェイト代わりに余計なものを付けてみたけど……リングに上がる前に振って確認しておいてね」

「了解」


 一通りデータを確認し、タブレットをジーンへと返す。


「……こういうの、良いね」

「……でしょ?」


 チームの動きを見ながら微笑んでいるジーンに、優也は嬉しくなる。こういう雰囲気は、長い間忘れていたものだ。


「あ、ふたりとも」


 しばし眺めていると、皆瀬が駆け寄ってくる。


「今日もよろしくね」

「まあ、僕の仕事はほぼ終わったから、あとはユウヤ次第だけどね?」

「はは……精一杯頑張るよ」

「ふふ……期待してる」


 皆瀬は、初めて会った時よりも柔らかく笑うようになったと感じる。それは交流を深めて皆瀬が優也に慣れたから見せてくれているのかもしれないが、轟の話を聞いた今となってはそれだけではないのだろうとも思う。


「今日も強敵だし、油断せずに全力で向かっていかないとね」

「そうね、私達は『チャレンジャー』だから」

「底辺からの成り上がり、ってやつだね! 日本のラノベでよく読むよ!」

「え、ジーンてああいうの好きなの?」

「大好きさ! イギリス発の物語も悪くないけど、僕は日本のラノベが大好きなんだ!」

「あぁ、皆瀬さん。ジーンはラノベのこと語り出したらうるさいから、気を付けた方が良いよ?」

「うるさいとは酷いなぁ」

「……ふふ」


 笑い合う三人。これから準決勝という舞台を前にして、良い感じに力が抜けているように思う。


「ま、ラノベに関してはもうひとりうるさいのがいるけど――」

「誰が歩く騒音ですって?」

「誰も言ってない、後ろから首絞めないで」


 うっかり失言し、いつの間にか背後に居たシェリルに首を絞められる優也。――彼女は普段クールに振る舞っているつもりらしいが、かなりのオタクだ。王子様が情けない顔をしながら女性に尻に敷かれるタイプの『薄い本』が好みらしいが、伝手は無いかと相談された時は忙しすぎて気でも狂ったのかと思うくらい、別人のように思えたのも懐かしい話だ。


「――積み込み、もうすぐ終わるわよ。装備品とか忘れないでよね?」

「大丈夫、もうチェック済ませて載せてあるから」

「そう、なら良いわ」


 それ以上話は無いからと、さっさと去って行くシェリルの背中を見送るとジーンが「好きなこと、隠さなくても良いのにねぇ?」と苦笑していた。


 まあ、誰だって秘密のひとつやふたつくらいあるさと笑って返し、優也はあらためてファクトリーで働く皆の姿を眺める。


「――良い雰囲気だ」


 思わず笑みが零れる。――こういう雰囲気の中、上を目指したかった。その場で良しとせず、もっともっと上を目指して仲間達と挑戦したかった。


――その願いは、きっと叶った。


「――皆、楽しんで働いてる」


 隣りに立った皆瀬がぽつりとそう零す。


「ずっと……ずっと、このチームはあの日の事故に捕らわれていたんだと思う。受け止めて、前に進まなきゃいけなかったのにね……ううん、それはたぶん、私が一番、そうだったんだと思う」


 ふっ――と苦笑する皆瀬。


「お父さんとおじさん――前オーナーを亡くして、皆悲しかった。私だけじゃない。皆……皆悲しかった。でも、私は自分のことで精一杯で……歩き出してからも、お父さんを追いかけたいのに全然届かなくて。中途半端に仕上がった『私のレベリオン』は、全然『お父さんのレベリオン』には届かなくて……」


――皆瀬が、涙を拭った。


「――っん。……でも、ちゃんと、向き合えた。私は私で――お父さんはお父さん。そういう風に思えたのは……貴方のおかげだと思う」

「――僕の?」


 心当たりが無く、優也は首をかしげた。


「ふふ……あのね、前戦で貴方が動かしたあの子――『レベリオン』を見て、分かったの。同じだけど、同じじゃないんだって。私はお父さんの設計をなぞるようにあの子を設計したけど……やっぱり、あの子は『私の子』なんだなって……分かったというか、思い知ったというか」


 皆瀬の言いたいことは、なんとなく分かった。――それは、『LR-Ⅳ』……かつての相棒と同じ基礎を持ち、けれどもやっぱり違う『レベリオン 2nd』との差が間接的に教えてくれる気がした。

 同じものを元に作り上げたとしても、そこに作り手の『癖』や『願い』が込められ、溶け込んでいく――その結果、わかる者にはわかる『違い』が生まれるのではないか、と。


「私……この大会が終わったら、あの子をもっとしっかり仕上げたい。あの子とちゃんと向き合って……ちゃんと、『私のレベリオン』だって、胸を張れるように仕上げたい」

「……良いと思うよ。大事なことだよそれはきっと」

「……そう、かな?」

「うん……そうだと思う」


 優也は皆瀬の肩をポンと叩き、「外の空気吸ってくるね」とファクトリーを出る。


「………ふぅ」


 軽く深呼吸し、優也は空を見上げる。雲ひとつ無い青空――爽やかな空と空気だ。


「皆、前に進んでる。挑戦してる」


 口に出し、優也はその言葉を己の中に染み込ませる。


「――自分も、前に進まないとね」


 そのために、日本へと帰ってきた。かつて、RGに憧れ、RGパイロットを夢見た祖国へと。


「――レオ。君は僕がどうして『ルシファー』から去ったかわからないって言っていたよね」


 そこに居ない『友』へと、優也は語りかける。





「――その答えを、君に見せるよ。レオナルド」

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