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17 コニーの闘い(1)

 十二月二十日


(なぜお母様は従兄弟の誕生会に私の同行を許したのだろう。いつもは留守番させるのに)

 嫌な予感しかしない。

 


「コニー!会いたかったわ!」


 クラリッサ伯母様はそう言ってから声をひそめた。


「いつもあなたが忙しいと断りを入れるから嫌われたのかと思っていたのよ!今日は絶対に連れてくるように義姉の権限できつく言っておいたの」


「えっ?なんですかそれ」と驚いてその目を覗き込めば伯母は「やっぱり」と唇を噛んでいる。


「コニー?何をもたもたしているの?こっちにいらっしゃい!」


 母の声に棘がある。気をつけないとまた覚えのないことで叱られて食事を減らされてしまうだろう。


「はい!ただいま参ります!」


 伯母が目を見開いて驚いている。コニーの返事がまるで使用人みたいだからか。


「さあ、コートをお預かりいたしますよ」


 執事が優しく微笑んでいる。

 コニーは少し恥ずかしげにコートを脱いで手渡した。


「えっ?」


 妹が驚いている。母もポカンとしている。それはそうだろう。小銀貨五枚しか渡さず、「あの店で買って来い」と指定したのは平民用の店だ。こんなドレスを買えるとは思わなかったのだろう。家を出る直前までドレスを着ないで良かった。これを見せたら着替えさせられただろう。


「やあ、コニー。しばらく会えないでいるうちに、すっかり淑女らしくなったんだね」


 従兄弟が眩しげな眼差しでこちらを見ている。


「このドレス、フラワーズで、買いましたの、似合いますか?」

「ん?フラワーズって、平民用のドレスショップじゃないの?最近話題とは噂で聞いたけれど」

「ええ、お母様がそこで買うようにって。小銀貨を五枚くださったんです」

「コニーーッ!あなた、あなた、下品なことを言うのもいい加減にしなさい!」


 目を吊り上げた母がヒステリーを起こす寸前だ。


「そう、フラワーズで、ね。しかも小銀貨五枚しか持たせないで。私の姪が普段どんな暮らしをしているのか、よくわかるお話ね?ケイト」


 母は唇を噛んでこちらを睨んでいるが、それは想定内だ。やるなら今しかない。


「さすがにそれでは平民の普段着しか買えないので、お店の方が古着を手直しして売ってくれたんです。お母様と妹の荷物持ちをしている私を見ていたとかで、気の毒がってくれたんだと思いますわ」


「ケイト、コニーが荷物持ちってどういうことなの?」


 伯母の声が低い。


「平民の普段着を着せてここに参加させたら自分だって親として恥をかくとは思わないの?」


「この子は本にお金を注ぎ込むんです!渡せば渡しただけ本を買ってしまうんです!だからドレスもギリギリの金額しか持たせられなくて」


 ああなるほど、そうやってこの家の人たちの前で自分を糾弾するつもりだったのか、と母の拙い作戦に気がつく。


「私はお金なんて貰ったことがありません。私が読んでいるのは全部お父様の書庫にある本だけだわ」


「まあまあ、今日は僕の誕生日だ。まずはみんなで食事にしようよ」


 本日の主役、従兄弟のブリーズが声をかけた。目を吊り上げた母も眉間にシワを寄せた妹も渋々着席した。


「そうね、まずはお食事にしましょう」


 クラリッサ伯母様の声で食事が始まる。皆無言だ。そりゃそうだろう、玄関を入っていきなり親子で火花を散らしたのだから。


「それで、」


 なぜか口火を切ったのはさっき止めに入ったブリーズだった。


「叔母さまはなぜコニーに辛く当たるのか教えてくれる?ここにずっとコニーが来ていないのも、本当はコニーの意思じゃないんでしょ?」


 ブリーズは幼い頃からコニーに親切だったことを思い出す。もう十年は会ってなかっただろうか。


「実の娘ですもの、辛く当たるなんてあるわけがないわ、ブリーズ」


「じゃあどうしてコニーの手はあかぎれだらけなんですか?妹のデビーは美しく手入れされて爪もピカピカだ。コニーの爪は割れてるよ、可哀想に」


「どうしてみんなで姉さんのことを心配するんですか?姉さんはわがままで引きこもりで、家族に迷惑ばかりかけているのに」


 デビーは自分が誰にも注目されず、いつも侍女扱いの姉が心配されているのが我慢ならないようだ。


「お黙り。あんたには話しかけてないよ。ケイト、ずいぶん素敵な礼儀知らずが出来上がっているじゃないの」


「っ!あんまりですわお義姉様」


「コニー。あなたが言いたいことがあるなら今、全部言いなさい」


「言いたいこと、あります。まずはあの家を出て働きたいと思っております。あの家にいる限り、身に覚えのない理由で食事を減らされます。服も靴も買ってはもらえません。冬のコートは小さくなってもうボタンを閉められません。おまけに外出する時は母と妹の荷物持ちをしなければなりません。もう、十分耐えました。貧しくても外で働く方がよほど幸せです」


「いい加減にしなさいよ!この恩知らず!」


「それでコニー、住む当てはあるのかしら?無いならここにいらっしゃい。あなたは可愛い姪っ子なの。遠慮はいらないわ」


 伯母は母の言葉を完全に無視して語りかけてくれた。


「伯母様、今夜だけはお言葉に甘えさせてください。ある方が住む場所と仕事をくださるとおっしゃってくれたんです」


「お父様が、お父様がお許しになるはずがないわ!」


 デビーが叫んだが、皆聞こえないかのようにコニーに話しかけていた。


「弟には私から話をします。自分の娘がどんな扱いをされているのか知ろうともしない人に、口出しする権利はないからね」


「もう成人しているんだ、コニーは自分を自分で守ることができるよ。必要な援助があれば遠慮なく言ってほしい」


 従兄弟のブリーズが味方してくれた。


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