謝罪 と 最後の
大量の怨霊が騎士団に纏わりつき、阿鼻叫喚となる。
それを唖然として見ていると、視線が遮られた。
「?」
「貴女が見る必要は無い。」
「………はい。」
「さて、あれが終わるまで、現状の説明をするとしようかのぅ。」
「………お願いします。」
「儂はこんな姿をしているが、さっきまでいた龍じゃ。」
「はい。」
「そして、この島、国、島民の守護をしておる。」
「守護竜様!?」
「ああ、おぬし等が毎日祈ってくれている、あの石像のモデルになった龍じゃ。」
(あんなに禍々しいのに!!)
「そして、あ奴ら騎士団は、別大陸から来た侵略者で、目的はこの島の略奪じゃ。」
「はあ。 ……食料が目的ですか?」
「賢いのぅ。 そうじゃ。」(ナデリコ、ナデリコ)
好々爺みたいな雰囲気が、変わった。
「本来なら、島に入った瞬間に察知、目的次第で殲滅するのじゃが、奴らは察知できなくてな。
この辺一体の祈りが無くなってから、気付いたのじゃ。
そして、」
唐突に、頭を下げられた。
「ええ!!」
「貴女が朝にした祈りのおかげで、状況を把握し、あ奴らを見つける事ができた。」
「頭を御上げください。 私はたいしたことはしておりません。」
「いいや、貴女からの祈りが無ければ、王都とその周辺以外の全ての村を失っていた可能性が有る。」
「それと、すまんかった。」
「儂が気付かなかったせいで、貴女の肉親、友達、村を失わせてしまった事を、謝罪する。」
「………わかりました。 受け入れます。」
「ただし、」
「何じゃ? 大抵の事なら聞くぞ。」
「村人の埋葬を手伝ってください。
それと、私の住む所を用意してください。」
「その事なら心配ない。
埋葬の方は、あ奴らの仲間が他にいないか、捜索が終わり次第、行う予定じゃ。」
「住む所は、要相談じゃな。」
「?」
「続きは後じゃ。 先にあっちの後始末をせにゃいかんからのぅ。」
守護神様が倒れた騎士団に近付いていく。
それに、私も後を追う。
騎士団は苦悶の顔浮かべ、多分死んでいた。
むしろ、ここまで苦しそうな顔をしているのに死んでいなかったら、そっちのほうが驚きだ。
「少しは、」
「?」
「気が晴れたか?」
守護神様は、怨霊達に話しかけていた。
「そうか。 それなら、後の事は任せて成仏する事じゃな。
こ奴らの国は報いを受けさすし、この嬢ちゃんは、成人するまでは、生活が困らないようにするからのぅ。」
守護竜様が言い終わると、怨霊達から守護竜様に、黒い何かが流れ、それが終わると、消えていった。
「ふむ、これで解決じゃな。
それじゃあ、嬢ちゃん、」
「?」
「こっらに来るんじゃ。」
「?はい。」
守護竜様に言われた通りに近づくと、残っていた、二人ほどの怨霊の顔がよく見えるようになり、
「!!お父さん、お母さん。」
ニコッと微笑む2人。
「守護竜様、これはいったい、」
「儂の術の副効果で、一時的に姿が見えやすくなっておるのじゃ。」
「【現呪】という、儂オリジナルの術でのぅ。
効果は、対象にまとわりつく怨霊と怨念に儂の力を注いで、一時的に魔物化させ、その恨み辛み呪いを、実現させる術じゃ。」
(あのドーム状の黒一色、霊系魔物だったんだ。)
「そんな怨霊達の中で、こ奴ら夫婦は、あ奴らが貴女に危害を加えようとするのを、阻止しようと企んでいたのじゃ。」
「!!お父さん、お母さん。」
「じゃが、その心配も無くなったから、これから成仏するところじゃ。」
「!!あの、守護竜様、」
「ならん。 このまま維持させとくのは、悪い事しか起こらん。」
「未練が無い、魂だけの存在は、周りの影響を受けやすい。
そして、飲み込まれ染められ、又は乗っ取られて、災禍を撒き散らす魔物になるのじゃ。」
「!?」
「そうじゃな、嬢ちゃんは賢いから………、精霊って知っておるか?」
「?えっと、自然の力が集まり、人のように意思を持った存在、ですよね?」
「やっぱり賢いのぅ。 殆ど正解じゃ。」
「?」
「人のような意志の部分が、微妙に違う。
そのような意思を持つのは大精霊のみで、小と中は持っておらん。」
「あ奴らが持っておるのは、循環と維持、そういった意思が集まって、存在しておる。」
「?」
「精霊の話はここまでじゃ。
今重要なのは、小/中精霊が、不特定多数の似たような意思の集合体、という事実じゃ。」
「はい。」
「そして、あ奴ら騎士団は、聖戦とかほざいて、多くの虐殺/強姦/侵略を繰り返しておったから、大量の怨霊と、怨念が集まっておった。」
「怨霊とは強い負の意思、つまり自我が強すぎる存在じゃ。
ゆえに協調性が少なく、似たような怨念を吸収できても、他の怨霊や怨念を吸収することはできん。 例外はあるがな。」
「………もし、その集団の中に、未練の無い魂があれば、」
「様々な負の意思に染め上げられ、核となり、災禍をばら蒔く魔物になっておったじゃろうな。」
(蠱毒!!)
「あ奴ら、騎士団に付いていた怨霊達は、成仏させたが、あ奴らの仲間がいた場合、そっちに呑まれる可能性が有る。」
「何よりこの島は、怨霊と怨念が集まりやすくなっておる危険地帯じゃ。」
「じゃから、成仏させる必要があるのじゃ。
貴女には、酷な事じゃがな。」
「………解りました。」
「ふぅ。 お父さんお母さん、死んだ後も私を護ろうとしてくれて、ありがとうございます。」
「十年間、育ててくれて、ありがとうございました。
私は、両親の元に産まれて、幸せでした。」
「これから先、どうなるかわかりませんが、精一杯、生きていきます。」
「だから、どうか、安心して、成仏してください。」
「それと、」
「守れなくて、ごめんなさい。」
「ありがとう、ございました。」
両親は徐々に薄くなっていき、父は私の頭を撫でて、母は抱きしめて、消えていった。
「大丈夫か?」
「ーーー」
守護竜様は、私を包むように抱きしめて、
「泣きたい時は、我慢せずに泣いたほうがいい。
ここには、守護神龍たる儂しかおらんからのぅ、遠慮する必要など、ない。」
「ありがとうございます。」