隣村 絶体絶命
ここ数日、この島に生まれたことを毎日感謝し、転生させていただいた神様に祈った。
食料の不安がないこと、魔物に襲われないこと、この2つおかげで、隣村に着いた。
隣村の現状は、私の村と同じ、徹底的に破壊されていた。 家も、人も。
無事なのは、守護竜様の石像。
とりあえず、石像に愚痴を言おう。
その間に、頭の中を整理しよう。 今、しないといけない事は、何かを。
【状況把握】
誰が、又は何が、村を破壊したか。
【推測】
事故 ☓
【理由】
隣村も、同じように破壊されている。
おそらくは、他の村も破壊されていると思われる。
⇒上記の理由と、死体が残っていることから(全焼しているけど)、魔物による破壊も無し。
【結論】
人による破壊と推測。
となると、この場所は……、危険?
唯一生き残っている私が、他人を頼るために寄る所は、ここだけだから。
急いで火災現場を漁る。
少しでも、使えるものがあることを祈って。
何も見つからなかったので、辺りを警戒しながら、村を出る。
だが、遅かったようだ。
遠くに金属音が聞こえた。
あれが、この国の騎士団………っという希望的観測は捨てよう。
今しないといけないのは………観察、アドリブ、演技。
頑張れ、私。
案の定、騎士団は、私を保護するという目的で、近寄ってきた。
ヤバい、どうしよう。
最悪な未来を予想していると、突然
「グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ。」
と、轟いた。
その轟音に固まる私と対象的に、騎士団は臨戦態勢をとった。
ご都合主義なら、この不意の出来事を利用して、騎士団から逃げられるだろう。
だが、現実は無理だ。 思考がバラバラで動けない。 気を抜いたら、現実逃避をしそうになる。
何秒、何十秒、何分経ったのか、判らない。
突然、辺りが暗くなり、空から風を浴び、目の前に巨大な何かが降りてきて、地面が揺れた。
その何かは、禍々しくも神々しい尻尾、翼?、背中、長い首?、髪?、雄々しい角?、生物?
私が混乱していると、
「ようやく見つけたぞ、殺戮者共。」
「ようやく姿を見せたか、邪竜。」
(これ、竜なんだ。)
「よくも、儂の民達を殺してくれたな。」
「ふん、異教徒共を殺して何が悪い。
どうせ、お前の食料として飼われているのだろう。」
(ええ!!)
「覚悟は出来ているのだろうな。」
「死ぬのはお前だ。 総員、滅竜術式起動。 我らが神敵を滅ぼすぞ。」
「「「オオーーー。」」」
(ヤバい、巻き込まれる、逃げないと。)
「愚かな、【現呪】。」
竜?が何かを言い終わると、騎士団が、黒く動く何かに包まれた。
それが何か知りたくて、目を凝らすと、
「ひっ!!」
大量の、人の幽霊だった。
それも、怒っている?、怨んでいる?ような。
体が寒い。 私の事を見てないのに。
寒い、寒い、寒い、震えが止まらない。 寒い。
「落ち着け。」
(ーーー)
「気を持て。」
(?)
「あれ等はお前を傷付けない。」
(………)
「だから、落ち着け。」
前を見ると、竜?はいなくなり、私の横にオジサマ(角/翼/尻尾付き)がいて、私はオジサマの服の裾を掴んでいた。
(ええ、誰?)
「………落ち着かないか、仕方ない【***】。」
「!!」
突然、私の思考がクリアになった。
その事に驚こうにも、出来なくなっていた。
「魔術で無理矢理落ち着かさせた。」
「ーーー」
「この方法は、貴女に負担がかかる。」
「………」
「だから、今の内に心を落ち着かせてくれ。」
深呼吸を繰り返す。 何回も何回も、深く深く、
「ふぅ。 お手数をお掛けして、申し訳ありませんでした。」
「謝る必要は無い。
混乱するのは当然だ。」
「はい。」
「現状の説明をしてあげたいところだが、今は時間が無い。」
そう言い終わると、オジサマ?が騎士団の方を見た。
………今、気付いたが、私が落ち着くまでに結構な時間が掛かったはずだが、騒いだ様子は無かった。
それどころか、静かすぎる。
突然、音楽プレイヤーの再生が始まったかのように、騎士団が慌てふためく音が聴こえた。
「貴様、何だこれは。 我々に何をした。」
「それは、貴様らが無意味に殺してきた人々の恨み辛み呪いを、儂の力で見えるようにしたものだ。」
「巫山戯るな、神敵を殺して、何が悪い。」
「神は決して、無意味な同族殺しをさせない。」
「なのに恨まれているのなら、それは、お前達が信じている神が、偽りだということだ。」
「戯言を、」
「もう、黙れ。」
「恨みを晴らせ、【現呪】。」
言い終わると、怨霊達が禍々しい雄叫びを上げた。