朝の一コマ
体が暑い、全身が少し痛い。 ………抱きしめられてる?
目を瞑っているのに明るい。 ……朝?
薄目を開けると、黒い布、旦那さまのシャツの色。
手を動かすと、旦那さまの体の感触が伝わってくる。
聴こえてくるのは寝息と、暴走した心音。
ここに来て幾星霜、種族も変わって長い事一緒にいて、慣れたはずなのに心配になる。
なのに、斜め上に見える、旦那さまの寝顔は穏やか。
私がこんなに心配しているのに、腹立たしいやら、憎たらしいやら。
前に「寝起きの口内は、細菌がとんでもなく繁殖してるので、寝起きのキスはいらない。」と言っていたので、嫌がらせでキスしてやろうかな。
そう考えていると、ニヤついてきた。
っと、こんなことしている場合じゃない。
旦那様の状態から、別々に寝ていたのに私に抱きついて寝ているこの状態から、今出ている症状が、かなり重たいものだと証明している。
そんな旦那様に必要な朝食は…、野菜スープか野菜と果物のミックスジュース。
…そういえば、昨晩、ふらついていたから、貧血の可能性もあるかも。
なら、鉄分多めにして…、よし。
【精霊使役】スキルを使って、シルキーを呼ぶ。
すぐに、フランス人形みたいな見た目の妖精が部屋に入ってきた。
シルキーは私達の状態を見て、顔を赤らめて両手で覆って、指の隙間からこちらをチラ見してくる。 指の隙間は大き目というお約束付きで。
一体誰がこんなことを教えたのか。
シルキーに魔力を渡して、テレパシーで、先程考えた朝食の内容を伝える。
了解、とテレパシーで返信をもらう。
それと、朝風呂と着替えも用意しましょうか、と伝えてくる。
まったく、旦那様は私にそんなことを望んでないことを知ってるくせに、からかって言ってくる。
怒っている感じの思念で、いらないと伝えると、逃げるように部屋から出ていく。
それを見て、今度は微笑む。
今でこそ、旦那様は人の姿で一緒に寝ているが、初めの頃は違った。
旦那様は、ご自身の呪いが私に移るかどうかわからないから、距離を置かれていた。
でも、苦しんでいる旦那様の姿に、私が耐えられなくて、距離を近づけた。
そして、今は一緒に寝るようにまでなった。
けど、子作りはしたことが無い。
だから、先程のシルキーとのやりとりも、楽しい。
おませな子供を相手にしているようで。
でも、いつの日か、自分の子と日常を過ごしてみたいな。