終戦
夜の帳が下りる。
布を張ったような暗黒へ、何処からか、蜘蛛糸ほどの靄がすっと弧を描いた。かと思えば、あたりは真っ白な濃霧に包まれる。
戦地に再び、宵闇が訪れたのだ。
淡い身の丈のシルエットが、その距離を詰めるにつれ、見上げる程まで高くなる。
樹皮は音も立てずに剥がれ落ち、蝶のように鮮やかな野の鳥たちが、身を休めていた小枝は、まさしく灰の如く土に還っていく。この夜更けをもってようやく冬を迎えたかのように、枯葉を散らしている。
その大木は、朽ちていた。
剣の音が、耳に残っている。
終戦が告げられたというのに、美しい眺望が、大地を染め上げることはない。
水を打ったような寂しさと、泥土に噴き出す血生臭さが、足下に埋もれる骸骨をも、見えもしない蛍の羽音をも想像させる。
それは、麗しき風物へ抱く儚さへと姿を変え、未知の感覚を突いた。
この人型は、過ぎ去った過去に考えを巡らせ、小さな岩に腰かけている。
全て見たのだ。
振り返る過去は、それは残酷で、罪にあふれていた。誰もが、罪深く死んでゆく。まるで、獣の様だ。残虐な獣を放ち、死にあいをさせた。
弾の如き雨を降らし、核の如き雷を落とす、大きな黒雲が一つ去った今、この人型は、考えを巡らせている。