8話
白の国。別名《人形統一国家》。
かつては、国中が活気にあふれ、多くの民の声が国中に響き渡り、差別のない平和な国だった。しかし、前国王が亡くなり、一人娘であった白の女王が王位を継いでからは、国は腐敗し始める。
王政の勉強も何もせず、ただ可愛がられてきた白の女王。そんな女王に変わり、国の政治を任されている大臣たちが好き勝手に国を動かしていた。
税金が引き上げられ、払えない者が増え、明日を生きるのに必死になり始める。不安や心配なく生活ができるのは貴族や裕福な家庭の人間ばかり。
男は戦場へチェス兵として送り込まれ、女は貴族たちの愛玩人形として飼われる。
民達が城で懇願しても、誰も聞く耳を持たない。それは、王位にいる白の女王でさえだった。
彼女にとって国の状況は知ったことではなかった。王位にはいるが、税金が上がったのも、民が苦しむのも、自分のせいではない。大臣たちが勝手にやっている。そして、それが悪いことだということもわからない。自分は何も知らずに、ただ可愛がられただけ。まさに、人形のように。
「まだ見つからんのか」
「国のどこを探しても見つからないなど、ありえぬものか!」
「さっさとハンプティを探せ!」
「クッ、あやつ一人いないだけでこんなにも戦場は悪くなるのか!」
白の王城、円卓の席。
女王に変わり、国を動かす腐敗の元凶たちは頭を悩ませていた。
軍師ハンプティが戦場から姿を消して、白の国は敗北ばかり。洗練された兵だけでは足りず、税金を払えなくなった民を戦場に送っても現状は変わらない。
ただただ頭を抱え、次の戦に向けて考えていた。
「はぁ……無意味な会議だなこれ。そう思わないか」
「黙っていろ、今は仕事中だ」
大臣たちから少し離れた出入り口の傍、白の国の軍服を身にまとった二人の男。
一人はつまらなそうに両手を頭に持っていき、深々とため息を零す。
もう一人は背筋を伸ばし、腕を後ろへと回して真面目な表情で円卓の様子を見つめていた。
「全く腐った大臣たちは、脳みそまで腐ってんのかよ」
「口を慎めライオネル。今の俺たちの仕事はこの場の警護だ」
「とは言ってもあの様子じゃ、仕事する気にもなれないぞ」
今だに大臣たちは言い争いをする。ハンプティの行方の話、次の戦の話をしているが、徐々にお互いに責任のなすり合いになり始めてきた。
「たく……お飾り女王のご機嫌とりもあるのに」
「今や戦が全敗中。このままだと赤の国に攻め入られるから、彼らも焦っているのだろう」
「赤の国といえば、あれホントなのかな」
護衛の仕事をしているとは思えないほど、ライオネルは壁に寄りかかって隣の男と話をする。
「紅の剣姫も行方不明って話」
「そんな話もあったな」
「確かにここ半年戦場にいないけど……なぁ、ハンプティさんがいなくなったのと関係があると思うか?」
「楽しそうだな」
「そんなことねぇーよ。俺、剣姫との戦闘が一番好きだから、早く戦場に戻ってきて欲しいだけだ」
ニヤニヤと過去の戦を思い出しているのか、ライオネルはどこか楽しそうな表情をし、徐々に陶酔し始めて自身の体を抱きしめはじめる。
「気持ち悪いな」
「ユニーア……鼻血を出しながら言われても説得力ねぇーよむっつり」
「妄想は神が与えてくださったものだ。汚れたもののようにいうな」
ポケットから取り出したティッシュを鼻に詰め、再び姿勢を正して警護を続ける。
円卓では今だに大臣たちの言い争いが繰り広げられている。
ライオネルは大きな欠伸を一つし、ユニーアは変わらず警護を続けるが、塞いでいる鼻の穴とは逆の穴から鼻血が垂れていた。
「ご、ご報告します!」
不意に、部屋の大扉が開き、一人のチェス兵が慌ただしく入ってきた。
「なんだ、会議中だぞ!」
「も、申し訳ありません!急ぎ、ご連絡がありまして」
「許す。もうして見ろ」
「ハッ!赤の女王より、伝令が届いております」
「赤の女王からだと……!」
「読み上げてみよ」
兵は大臣たちの命令に従い、赤の女王より届いた伝令を読み上げる。
大臣たち、そして護衛で同席していたライオネルとユニーアはその内容を聞いていく。
ライオネルの口の端は徐々に上がっていき、ユニーアは止めていたティッシュを抜き、逆側の鼻にティッシュを詰め直した。
—————白の国の軍師、ハンプティ・ダンプティを見つけた。