表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
一章《平穏と焦燥》
7/56

6話

 女王の住むハートの城から少し離れた、領土内の森の中。そこではいつも、昼間にお茶会が開かれている。

 横長のテーブルの上には、いっぱいに並べられたお菓子と赤い薔薇。各々が好きなものに手を伸ばし、どんどん口に運んで行く。

 主な参加メンバーは三人。大きなハット帽をかぶった燕尾服の男性は優雅に紅茶をすすり、茶色の長い耳をつけた男性は、目の前にある人参のケーキを口に運んでいく。その向かいに座っているネズミ耳の少女は、テーブルの上でスヤスヤと眠っていた。


「今日はいい天気ですね」

「良すぎるぐらいだよ。おかげでマウスは熟睡。半年前だったら、幸福な瞬間だったけどな」

「半年……もうそんなになりますか」


 カップから口を離したハット帽の男は、中の赤い液体に映る自身の姿を見つめる。


「女王は大荒れ。うちも機嫌を損ねない様にって必死になってるよ。居心地悪いったらない」

「スリープ家も同じ様ですよ。普段以上に居場所がないと」

「……アリスが見つけば、少しは大人しくなるのかな」

「アリス、マウスたちのこと、嫌いになったのかな」


 つい先ほどまで眠っていた少女、マウスは、ゆっくりと体を起こし、ポツリと言葉を漏らした。


「ハッターの準備してくれたお菓子はいつも通り美味しい。だけど、食べても食べても心が満たされない。アリスがいた頃は、そんなことなかったのに」

「あの子は人ではない。戦争に勝利するために作られた女王陛下のお気に入り。我々とは、抱えているものがあまりにも大きすぎる」


 ハット帽の男、ハッターはマウスの隣の席を見つめる。

 半年前まで、そこには金色の髪の少女が座っていた。甘いお菓子をマウスと一緒に幸せそうに食べていて、彼が進めたシュガリを入れた甘い紅茶をすごく気に入っていた。


「でも、トランプ兵が国中探しても見つからなかったんだろ?だったら国外とかじゃね?」

「マーチ……ケーキ食べすぎ」

「ん?」

「それ、三ホール目」

「マウスも、そのカップケーキ10個目だろ。太るぞ」

「ムッ……太んないもん」


 ムッとした表情でもぐもぐとカップケーキを食べるマウス。マーチも「俺だって太んない」とどこか誇らしげに言いながらケーキを口に運ぶ。

 いつも通り賑やかなお茶会に、主催者であるハッターも満足そうに笑みを浮かべる。

 不意に、二人の耳がピクリと動き、同じ方向を向いた。何事かと思い、ハッターも同じ様に、二人の見つめる方に目を向ける。

 わずかに聞こえる足音。それに、マウスとマーチの期待が高まっていく。どんどん近づく足音。二人の体が、自然と前のめりになり始める。


「ヤッホーお三方。元気かな」


 しかし、現れた人物に対し、二人の表情は一瞬にして歪み、何事もなかったかの様にケーキを食べ始める。


「やぁチェシャ猫。遊びに来たのですか?」

「まぁね。どこにいてもつまんないし。やっぱりアリスやハンプティがいないと面白くないなぁ」


 飄々とした男は、ゆっくりとテーブルに近づくと、そのままマウスの隣に腰掛け、ニコニコと笑みを浮かべる。


「マウス、それ美味しい?」

「……うるさい」

「そんなに食べると太っちゃうよ?マウスは、栄養が胸じゃなくてお腹にいくんだから」

「うるさいっ!」

「マウスをからかいに来たんなら帰れよ」

「そんな邪険にしないでよ」


 チェシャ猫は中央にあるフルーツがもられている器の中から柘榴を手にすると、がぶりと赤い汁をこぼしながら食べ、ペロペロと腕を伝う汁を舐めて、満足そうな表情を浮かべた。


「僕は君たちにいいことを教えに来たんだよ」

「いいこと?」

「興味ある?」


 グッと、チェシャ猫はマウスに顔を近づける。マウスは彼が嫌いで、会話もしたくないし近づきたくもない。だから、カップを手にしたまま椅子から降り、ハッターの後ろをすり抜けて、マーチの隣の席に腰掛けた。


「ありゃりゃ」


 どこかつまらなそうな表情をするチェシャ猫は、残った柘榴を口に運んでいき、全て食べきるとテーブルに肘をついた。


「それで、いいこととは何ですか?」

「ん?あぁ……見つかったんだって」

「見つかったって、何がですか?」

「何がって……」


 また、チェシャ猫はいつもの様にニヤニヤと笑いながら、耳をピクピクさせ、尻尾をゆらゆらと揺らしている。


「アリスだよ」


 ガタリと、マーチとマウスが勢いよく椅子から立ち上がる。その目は驚きと嬉しさが入り混じった様子で、チェシャ猫よりも激しく耳と尻尾が動いている。


「そうですか……」

「今頃、女王の耳にも入ってるんじゃないかなぁ?まぁ次の戦争も近いし、アリスの奪還は裏で動くだろうけど」

「……なら、少しばかり女王と話をしなければいけませんね」


 椅子から立ち上がったハッターは、軽く身だしなみを整えると、側に置いていた杖を握り、出入り口へと向かう。


「女王のところに行くのか?」

「珍しいね。女王嫌いの帽子屋さんが、彼女に会いに行くなんて」

「嫌いですよ。しかし、アリスの事はまた別です。あの子とまたお茶会ができるなら、どんな屈辱的なことでもしますよ」


 軽く帽子をあげて挨拶をすると、彼はそのままお茶会の席から姿を消した。

 三人はじっとその姿を見つめた後、それぞれ席を立ち、彼と同じ様にその場を後にする。

 誰もいなくなったお茶会。テーブルの上には、まだたくさんのお菓子や紅茶が置かれている。しかし、しばらくすると、それらはその場から消えてなくなり、白いシーツをかぶったテーブルだけが、ポツンと置かれているだけとなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ