5話
赤の国。別名《上位服従国家》。
傲慢、強欲である赤の女王を絶対とした国家。裕福で、一見すれば平和な世界ではあるが、赤の女王の機嫌を損ねたり、命令に歯向かった者は、即刻死刑となる。表面上の幸福とは一変、皆緊張感を持って生活をしている。
敵国である白の国の一部では、《軍事国家》とも呼ばれており、赤の国の兵士である《トランプ兵》一人一人の戦闘力は高いものだった。
白の国の軍師であるハンプティがいない今、紅白戦争では勝利をおさめているが、彼女は喜ぶどころか、日に日に機嫌が悪くなっていた。
「いつになったらアリスは見つかるのじゃ!!」
謁見室に響き渡る女性の激しい憤りの声。苛立ちで何度も靴を鳴らし、手にした杖を兵たちに向ける。
「もう半年じゃぞ!いくら戦に勝とうと、アリスは妾にとって必要不可欠な子なのじゃ!」
「で、ですが。国の隅々まで。それこそ、貧民街までくまなく探しましたが、彼女の姿はどこにもありません」
「アリスが死んだというのか!貴様らの様な捨て石の兵と一緒にするではない。あの子はこの国を、妾をこの世界一の女王にするために生まれた子じゃ!」
椅子から立ち上がり、一歩、一歩と階段を降りていき、女王に対して否定の言葉を口にした兵の前へと立つ。
「お前は先ほど、妾の言葉に対して言ったな。「どこにもいない」と。だったら国外を探せば良いだろ。妾が待ち望んでいるのは「アリスが見つかった」という知らせだけじゃ!」
「も、申し訳ありません女王陛下!何卒、お許しください」
「許せだと。あの様な言葉を口にしてお前は妾に許しを乞うのか?」
女王の片手がゆっくりと持ち上がり、側にいた兵が彼女に剣を渡す。それを見た兵士はそのままその場に尻餅をつき、無様な悲鳴をあげ、彼女を見上げながら恐怖に震えていた。
「無能は嫌いじゃ。お前は必要ない」
「じょっ」
兵が言葉を発する前に、女王の手にしていた剣が左から右に流れ、目の前の兵の体から頭が重さ相当の音を立てて地面に転がり、一拍遅れて体も地面に倒れた。
「掃除しておけ」
「はっ!」
背を向け、女王は先ほどまで座っていた椅子へと戻る。兵士たちはそそくさと死体を片付け、血で汚れたカーペットを剥ぎ取り、新しいもの敷いた。
「アリス……妾から逃げられると思うな……」
手にした杖の柄をグッと握り、強く床を鳴らす。その音に、側に控えている兵たちの体に緊張がはしり、びくりと肩が上がる。
「陛下。次回の戦はいかがなさいましょう」
「ハンプティダンプティがいない今、白など敵ではない。いつもの様に戦力を削っておけ」
「ハッ!承知しました」
女王は深々とため息をこぼし、不意に自身の右隣を見る。一瞬、いる筈のない金色の髪の無表情の少女の姿が見えた気がした。笑った姿など見たことない、常に無表情で自分の右隣に立つ、少女の姿を。
「陛下ッ!」
その時、勢いよく兵士が謁見室へやってきて、女王の足元に跪く。
「なんじゃ。妾は今、良い気分ではない。内容によっては、その首がないと思え」
「ハッ!ご報告いたします」
跪き、わずかに体を震わせながら、兵士は女王に報告をする。
徐々に彼女の目は大きく開かれ、自然と頬が緩み、笑みを浮かべ始めた。
「そうか……大義であるぞ」
年に一度、見れるか見れないか。女王は普段の憤りの表情とは異なり、喜びに満ちた表情を浮かべていた。