51話
何が起きたのかわからなかった。
女王はただ唖然とその様子を見つめ、見上げていた国民や兵士たちはざわざわと騒がしく動揺していた。
クールな態度のアリスに引き換え、顔を真っ赤にしてアワアワするハンプティ。キスはもちろんだが、アリスが大勢の前でこんな行動を取るなんて未来は視えておらず、あまりの驚きに頭の中が真っ白になりかけていた。
「あっ、アリス!何をしているのじゃ!」
我にかえった女王はすぐにアリスに慌てて声をかける。尋ねた問いかけの答えは、すでに出ているにも関わらず、彼女はアリスに投げかける。
しばし、真顔でじっと彼女を見つめた後、アリスは笑みを浮かべる。
ほんのり頬を赤く染めたその表情は、どこか恥ずかしそうで、でも幸せそうな。今まで誰もみたことのない表情だった。
「きっ、キス……ですよ」
「そんなもの見ればわかる!わっ、妾が尋ねているのは、なぜそのようなことをしたかじゃ!」
「どうしてって……どうしてわかっていることを尋ねるのですか?答えはとっくに出ているではありませんか」
「それ、は……」
「好きだからです。私は、ハンプティのことを心から愛してます」
「っ!」
絶望に満ちた表情を浮かべる赤の女王に比べ、幸せに満ちた表情を浮かべるアリスは、ぎゅっと胸を抑える。
「だから私は、これからもずっと彼と一緒に居たいんです。一緒に、今まで見れなかったもの、触れることができなかったもの。その全てを、一緒に。だから陛下。私はもうあなたのそばにはいられません」
「そんなことは許されぬ!いったであろう!お前は妾のものだと!」
「はい。でも、感情を持った道具は、そばにいても面倒なだけでしょ?自分のいうことを聞かないモノなど不要でしょ?」
幸せに満ちていた表情は、だんだん冷めたものになって行き、アリスはまた、女王を見下ろした。
「だから陛下、そんな道具のことは忘れてください。私も、貴女のことをしっかりと忘れます」
「っ!アリス!」
「さようなら陛下。もう、会うことはないでしょう?」
女王に背を向けたアリスは、そのままハンプティの手を取り、ジャックの背中に乗る。
「アリス!」
大声で、劈くほどの女王の声が響く。ハンプティやジャックは振り向くが、アリスは彼女に視線を向けることはなかった。
「行こう、ジャック」
大きく翼を羽ばたかせ、ジャックはそのまま空高く飛びたった。
三人の姿は、どんどん城から離れて行き、やがて視えなくなってしまった。
それから数時間後、白の国は完全に落とされ、戦争は赤の国の勝利という形で、幕を閉じた。




