49話
地上からその言葉が聞こえ、それは人から人へと伝染していき、瞬く間に多くの人々がアリスやハンプティに罵声を飛ばした。
ほとんどの者が二人の詳しい経緯を知らない。未来が視える。人とは思えない戦闘能力。これだけ知っていれば十分といった様子ではあった。
「人のような物言いをするな!」
「バケモノ!」
「お前らなど、戦争が終われば必要ないんだよ!!」
わかっている。自分たちの存在価値なんて、二人が一番わかっている。
所詮、自分たちが戦場にいたのは勝利のため。そのたった数文字のために、どれだけの人々が戦場で命を散らせたのか。
戦争が終わり、勝利、敗北という結果が残ったそのあとは一体どうなる。
「なら勝利の先に何がある!」
息を荒げながら口を開いたのはアリスだった。流石のハンプティも少しばかり驚いている。
体をプルプルと震わせ、涙を流すアリス。絞り出すような声で「そんなものわかっている」と呟いた。
「そんなものわかっている!自分が道具であること、戦争に勝利するために作られた道具で、バケモノであることなんて!お前たちに言われなくてもわかっている」
突然の激しい言葉に、辺りはしんっ……と静まりかえった。それでも、アリスは言葉を続ける。
「戦争が終われば私は殺される。そんなこと、最初からわかっていた、覚悟もできていた。
けど、実際に勝利してみて込み上がってくる感情は嬉しさでもなんでもない。ただ生きたいという、醜いすがりだった」
まるぜ演説。その場にいる全員が、自分の感情をぶつけるように話すアリスに目が離せなかった。
「戦争に勝った。勝ったその先には何がある?国民を蹂躙した先に何がある!勝った。それに満足するならそれはただの子供だ。自分が上だと認められたい、ただの子供だ。そんなのばかばかしすぎる!」
下唇を強く噛み締め、頬を伝う涙は止まることはなかった。
ずっと、考えなかった。考える必要なんてなかった。勝利の先なんて、アリスには関係のないことだったのだ。
だけど、生きたいと思ってしまった。死にたくないと思ってしまった。そう思えたのはあの日、雨の日にハンプティに逃げだそうと誘われたから。初めて、戦い以外のことに触れたから。知らないことを知ったから。だからアリスは、死を拒み、生にすがりついた。
「そんな傲慢のために、これ以上死者を出すのは馬鹿げてる……戦争を続けたいなら、内乱を起こしたいなら勝手にすればいい。だけどもうこれ以上、私は戦いに参加するつもりはない」
俯き、声をあげて泣きそうになるのを必死に抑えた。
「俺も。もう戦いに参加するつもりはない」
アリスの頭にそっと手を乗せながら、ハンプティも彼女の言葉に同意した。




