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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
《四章(一緒に……)》
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43話

「どうして貴女がここにいるの……」

「陛下……」

「しかも、私のハンプティに……」


 最初からこの部屋にいたわけではない女王からみれば、今の二人の姿は明らかにアリスがハンプティを押し倒している状態。女王は中で高ぶった感情がドス黒いものに変わり、それは殺意として生まれる。


「私の、私のハンプティに……」


 女王の手に力がこもり、握る剣がカタカタと震える。その姿を目にして二人は察する。激しい怒りを浮かべた女王は、そのまま剣を両手で握り、アリスに襲いかかる。

 すぐさま腰の剣を抜き、女王の剣を弾き飛ばす。刃と刃がぶつかり合い、キンと鼓膜を痛いほど震えるほどの音が部屋中に響きわたった。


「陛下! やめてください!」

「貴女さえいなければ、ハンプティは私を見てくれる!私だけを愛して、ずっとそばにいてくれる!!」


 ハンプティの言葉に耳を傾けず、女王はただただ目の前にいるアリスを殺そうとしていた。

 まるで警戒心むき出しの猫のように、威嚇する彼女をじっと見つめるアリス。


「私からハンプティを奪おうだなんて……私よりも醜いバケモノのくせに!!」

「言ったはずです。貴女は、本当は彼のことなんて愛してないと」

「違う!」


 アリスは、怒り狂い自分を殺そうとする女王の剣を受け流し、彼女を傷つけまいと防ぎ続けた。


「どうして貴女なのよ!化け物の貴女が!人を捨てた貴女が!どうして私のほしいものを持ってるのよ!!私は何も悪いことなんかしてない!」

「陛下、やめてください!! これ以上アリスに手を出さないでください!」

「どうして貴女なんかが彼から愛情をもらえてるの! 私がいくら彼に愛情を注いでも、彼は私に返してはくれなかった!!どうして貴女が!!」


 激しい罵倒を、心の苦痛を。女王は胸の内に押し込めていた感情を剣を振り下ろすたびに吐き出して言った。

 アリスはその姿を、ただ哀れみの目で見ていた。

 美しい髪はぼさぼさになり、いつも凛々しい姿勢はやや猫背に。目を引くほどの美しい瞳はわずかに濁っていた。


「何よその目……私を憐れんでるの? どうして私が貴方にそんな目を向けられないといけないの? その目は嫌いよ。その目は、周りのみんなが私に向ける目なのよ!」


 剣の稽古を受けていない彼女の攻撃は、最もたやすく避けることができる。動きも単調で、戦場を経験しているアリスからすれば、子供の攻撃となんら変わらない。


「私は何も悪いことなんてしてない。ちゃんということを聞いてるのに、なんで……なんで……なんで!!」


 女王の息は徐々に上がっていく。体力の限界が近いようで、アリスは諦めるように声をかけようとした。


「貴女なんて、貴女なんて……」


 気づけば真後ろには締め切られた大きな窓があった。目の前には狂乱した女王。逃げ場はない状態だった。


「生まれてこなければよかったのよぉおおお!」


 アリスは防ごうとした。だけどその言葉を聞いてゆっくりと剣を降ろしていく。

 まるで世界の時がゆっくりと進んでいくような感覚だった。

 アリスは自身の身を守るのをやめ、女王の剣を受け入れようとした。


「もうやめてください」


 待ってもこない痛みの代わりに、彼の声が聞こえた。

 顔を上げれば、そこにはハンプティの姿があった。

 彼は剣を振り下ろそうとした女王の手首を防ぎ、それを止めた。何が起きたのかわからない女王は混乱しており、手から剣を離すと、ゆっくりとふらつきながら後ずさっていく。


「なんで……どうして……嫌よハンプティ……貴女まで……いや……いやっ!」


 感情はぐちゃぐちゃになり、息を荒げながら何度も何度も疑問の言葉を、現実を否定し続ける。

 その姿を見て、誰もがきっと思うだろう。女王の心は壊れてしまった。いや、もうずっと昔から壊れていた。王が亡くなったあの日から。


「いや、いやよハンプティ……貴方までいなくなるなんて……私にはもう貴方しかいないのに……貴方が、私以外のものになるなら……」


女王はゆっくりと手にしている剣を構える。感じるのは殺意とは違う、絡みつくような嫌悪感を抱きたくなるような感情が。


「死体にして、ずっと私のそばにおいてあげるわ」


 もうその瞳に、彼女の心は存在しない。

 相手を殺すことへのためらいも恐怖もない。ただただ、目の前のハンプティを手に入れるために、自分から大事なものを奪ったアリスを殺すために、女王は剣先を逃げ場のない二人に向ける。


「陛下、俺は……」

「命乞い? けどもう遅いわ。貴方は一生、私の側にいるの。死体になれば、もう逃げたりしないでしょ。反論だってしない。ずっと私だけを愛してくれる」

「陛下……」

「二人で遠くに行きましょう。誰にも邪魔されない場所で、ずっとずっと……一緒にいましょう」


 女王は一歩、二人へと近づいた…………その時だった。



 パリィィィィィィィィィィィィィン!!



 勢いよく背後の窓ガラスが割れ、激しい風と日差しが流れ込んできた。

 驚き、呆然と全員の視線が外へと注がれる。


「アリス!」


 そこには、一匹の大きなドラゴンの姿があった。


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