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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
《四章(一緒に……)》
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41話

「それで、ハンプティが褒めてくれたの」

「……そうなんですね」


 もうどれだけの月日が経っただろうか。王女も少女も、すっかり大人となった。可愛いというよりは美しいという言葉が似合うほどに、二人の姿は見る者の目を惹くほどだった。


「未来視……本当に視えているのでしょうか?」

「視えているわよ!だって、彼のいう通りの出来事が私にも起きた。戦争だって、彼の活躍で勝ってるわ!」


 楽しそうに、嬉しそうに話す彼女に胸がとても満たされる。だけど、その内容が恋敵の話。心が複雑な感情を抱き、うまく笑えているかもわからなかった。

 王女がハンプティと知り合いであり、彼女が彼を慕っているのも知っている。そして、彼に恋心を抱いているのも。

 王女が彼を想うのは自然なことだ。むしろ自分が抱いている感情の方がおかしいのだと。女同士。少女と王女は友人関係。どうあがいても結ばれることはできない。でも何か、彼女のためになりたい。ずっと、彼女のそばにいたい。どんな形であろうとも。


「そういえば、あそこに立たれてる方はどなたですか?初めて見る方ですが」


 自分達から少し離れた場所に立つ一人の騎士。こちらの様子を伺うように、楽しい会話を邪魔しないように距離をとっている少し若い白の国の軍服を身に纏った男性。


「お父様が私につけた騎士よ。もう子供じゃないから、何があるかわからないからと護衛をつけたの」

「そうなんですね、知りませんでした」

「普段は、私たちと距離をとってついてきてるの。最近走らなくなったのもそのせい。護衛の目の届くところにいるようにってお父様に言われたの……あの人も可哀想よね。お父様の命令だから、仕方なく私のそばにいて」


 少しだけ、寂しそうな表情を浮かべる王女。

 話を聞くと、以前あの騎士が同僚に愚痴をこぼしているのを王女は聴いていてたらしい。同僚も、彼に同情すると同時に、自分はならなくてよかったと安堵していた。

 

「それを聴いて、お父様に彼を護衛から外してもらおうと思ったけれど、あの騎士が怒られてやめさせられるかもしれないし、そうなったら彼に恨まれるかもしれない。そう考えたら、面倒になったの」

「陛下は、娘思いですからね。おそらく、そうなるでしょう」

「みんな、私のことをお人形か何かだと思ってるの。勉強もしなくていい、好きにしててください。そう言ってるくせに、たまに目を合わせると嫌悪を向けるの。邪魔だと、何もしなくていいですね、幸せそうですね。そう、言ってるみたいな……」


 王女の手がわずかに震える。少女はそっとその手を握り、彼女の気持ちを沈めていた。

 おそらくこの城で、心の底から王女を思っているのは、国王と自分、そしてハンプティの三人だけだろうと。

 国王には、王としての仕事がある。ハンプティも戦場に出ていてほとんど城にはいない。だったら、誰よりも一番そばにいる自分が、王女を守り続けよう。そう思い、少女は握っている手に少しだけ力を込めた。


「王女様。一つお許しをいただきたいです」

「許し?」

「……私を、貴女の騎士にしてください。貴女を守る、剣に」

「それは……」

「剣を学びたいのです」


 苦笑交じりに、少女は王女の手を握った。

 剣を学び、彼女のそばにずっといる。友人として、騎士として。


「私があの人の代わりに専属の騎士になります。ただ、立派な騎士になるまで、しばらくお側を離れます。私は、あなたに苦しい思いはして欲しくない。あの汚らしい私に声をかけ、友人としてそばにおいてくださった貴女のために」


かつて、王女がボロボロの少女に投げかけた言葉。それは、いまこの瞬間をさししめるかのようだったと、少女は思い出していた。


「貴女のために生きて、貴女のために死んなせてください」

「……随分、懐かしい言葉ね。私もすっかり忘れていたわ」


 王女は苦笑を浮かべながら手を離し、そのまま少女を強く抱きしめた。


「私、そんなに我慢強くないから」

「……はい。すぐにお戻りします」


 こうして、少女は騎士になるための特訓を開始した。

 稽古は大変だった。男性と女性では腕力の差があり、最初は何度挑んでも負けてばかりだった。そんな姿を、男の騎士たちはいつも鼻で笑い、少女を馬鹿にした。それでも少女は諦めず、腕力の代わりに技術などでカバーし、少しずつ勝てるようになってきた。吐きそうになることもあった。しかし少女は弱音を吐くことはなかった。全ては王女のため。その想いが、彼女を立たせ、彼女に剣を握らせる。


「好きにしていいわ」


 それから数年後、王が病で亡くなり(表向きは)、王女が“白の女王”となり、“おパペット女王クイーン”となった。少女と女王の関係も、主人と騎士という関係ではあるが、友人ではなくなっていた。

 それでも……


「行ってきます、陛下」


 それでも、少女は剣を握り続ける。例え触れることができなくても、愛しい人を守るために。

 気づけば少女は全身を甲冑で覆い、人々から“ホワイトナイト”と呼ばれるようになった。


———————— 自身の身を包む純白の甲冑は、彼女の女王への想い


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