40話
それはまだ彼女がホワイトナイトになる前のこと。
両親を流行病で亡くして孤児となったが、人間関係に馴染むことが出来ずに一人、孤児院を飛び出し、暗くて湿った路地裏で生活をしていた。
「おいこら!この盗人!!」
食べ物を盗んだり、家の生ゴミを漁ったり。そうやって一人で必死に生き続けていた。細くなった体をボロボロの布で隠し、ボサボサにで薄汚れた髪の毛。女の子ではあるが、その見た目は美しいとは言えなかった。
「このクソガキが!」
「ぅぐ!」
「次盗んだらぶっ殺してやるからな!」
だんだん食べ物を手に入れることが出来なくなってきた。彼女に漁られないようにと早急に生ゴミは処理され、盗みも困難になった。
「ぁ、ぐ……」
「うわぁ……」
「見ちゃダメよ」
「汚ねぇな……」
周りの彼女を見る目は冷たく、一人として気遣う者はいなかった。当たり前だ。こんな生き方をして、手を差し伸べる人なんているはずがない。
「お父さん……お母さん……」
このままここで死んでしまえば、腐臭を嗅ぎとって虫や動物が餌を求めてたかってくるだろう。そのまま国の憲兵に処理される。生きるのは大変なのに、死とはなんでこんなにもあっさりしているのだろうかと、彼女はぼんやりする意識の中でそう考えていた。だから不意に目の前に現れた人物に、すぐには反応できなかった。
「貴女、よく見ると綺麗ね」
その人は、一言で言えば《白》だった。
絹のような髪に、雪のような肌。真っ白なドレスを身にまとった彼女は、ニッコリと笑みを浮かべていた。
「ねぇ、貴女。私のところにこない?」
「ぁ……あ……」
「こんなところで無駄に死ぬより、私のために生きて、私のために死んで。生きるのにも死ぬのにも理由ができていいでしょ」
同じ年頃のその少女は、年相応とはいえない言葉を口にする。だけど、そんな言葉に対しての疑問はなく、死にかけの少女はゆっくりと首を縦にふった。
「よかったわ。まずはお風呂に入って綺麗にしないと。それからお洋服も見立てないとね」
それが、ホワイトナイトと白の女王の出会いだった。
女王の友人として迎えられたが、それはあくまで表向き。本当はお転婆な王女様のオモチャとして迎えられたのだ。
「まぁ!やっぱりとても綺麗!」
お風呂に入り、綺麗な服を着た少女を見て、王女は花が咲いたかの様に笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。それが気恥ずかしく、少女はあたふたと目を泳がせた。
「綺麗な青い髪。それに、まるでお月様を埋め込んだ様な綺麗な金色の瞳!」
「も、勿体無いお言葉です。王女様」
「そんなかしこまらないで。私たち、今日から友人同士よ。身分とか考えなくていいから」
「しかし」
「いいの! ほら、お庭に行きましょう」
王女は天真爛漫で、好奇心旺盛。お部屋でじっと勉強するよりも、自由にお城の中を好き勝手に遊ぶ方が楽しい様だった。
そんな彼女の後を、少女はいつも手を握って追いかけていた。あの日の、薄汚れた少女ではなく、今の彼女の姿は王女の隣に立つにふさわしい姿をしていた。
「また兵士の一人が貴女の悪口を言っていたのよ!薄汚い子だって」
「仕方ありません、事実ですから」
「もう!貴女は私の友人!私が選んだ子なの!もっと胸を張りなさい」
「しかし……」
王女がどんな言葉を口にしても、少女はやっぱり現実を突きつけられるとそれに抗うことはできなかった。たまに夢でみる過去の自分の姿。それがどれほど罪深いことなのか。怖くて怖くて、本当に自分はこのまま彼女のそばにいていいのだろうかと、そう思ってしまう。
「私は、貴女のことが好きよ」
不意に、王女は彼女の手をとってにっこりと笑みを浮かべた。
「貴女はこんな私のわがままを聞いて、いつも付き合ってくれる。城の者はいつも私の顔色を伺ってる。貴女の側だけが、自分を偽らなくて済むわ」
「王女様……」
「私は貴女を誰になんと言われようと、“大切な友人”だと胸を張って言えるわ」
ぎゅっと、王女は少女の体を抱きしめる。彼女はあたふたと慌てるが、王女は強く強く彼女を抱きしめた。
「貴女は、私から離れていかないでね」
「……はい、ずっとお側にいます」
この時すでに、少女にとって王女は特別な存在だった。ただ、自分の抱いている感情を自覚していなかった。あくまでその感情は友人としてのものだと。
しかし、少女はある日突然それを自覚した。王女が庭でハンプティと話してる姿を見にした時だった。王女に対しての愛おしさ、ハンプティに対する憤り。
(あぁそうか……私は王女様を……)
少女は知った。王女に対する“恋心”とハンプティに対する“嫉妬”を……




