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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
一章《平穏と焦燥》
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3話

 ハンプティに手を引かれながら、アリスは橋を渡って行く。

 つい先ほどまで湖で遊んでいたはずのジャックの姿はなく、散歩は二人で行くことになってしまった。


「お、アイリスさんにオーウム」

「お散歩かい、仲良しだね」

「こっちに来るなんて久々だね。帰りにうちで作った野菜あげるから、寄りなよ」


 村に来れば、村人一人一人が声をかけて来る。それに答えるように、ハンプティは笑顔で手を振ったり言葉を投げかける。

 人の視線が恥ずかしいのか、少し俯きながらアリスは彼に手を引かれて進んで行く。

 二人の名前はどちらの国でも有名だった。その名前を口にしてしまえば、敵国であろうと自国であろうと、表情は曇り、よそよそしくなり、誰も関わってこないだろう。

 アリスはそれでもよかった。自身の国さえ離れられれば。だけど、提案してきたのはハンプティだった。他人には本名を名乗らず、別の名前を使って接すればいい。そうすれば、きっとみんな声をかけ、その手を取ってくれると。

 だから、アリスは《アイリス》となり、ハンプティは《オーウム》という名前で生活をしていた。


「足下気をつけろよ」

「バカにしないでください。半年とはいえ、体は鈍ってません」

「はいはいすみませんね」


 木の根が複雑に絡み合い、地面が凸凹になっている森の中。

 ピンク色の葉が舞い上がり、地面に咲く花たちの笑い声。小鳥たちの合唱が聞こえる。


「はぁー……気持ちぃ……」


 森の吹き抜けた場所。白い草花が広がるそこで、降り注ぐ太陽を浴びながら横になるハンプティ。アリスはその隣に座り、一息をつく。すると、ハンプティはそれを予想していたかのようにアリスの膝に頭をのせる。


「静かだな……」

「当たり前のように……」

「嫌なら落とせばいいだろ」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるハンプティ。言葉通りに彼を膝からどかそうとすると、ハンプティはアリスの手首を浮かんで、じっと彼女を見つめる。


「貴方は、どうしてそうやって私をからかうんですか?」

「からかってるつもりはない。ただ俺は、お前の色んな顔を見たいんだ」


 草花や木々がいたずらに風を吹かせれば、アリスの金色の髪が太陽の光に照らされてキラキラと輝く。ハンプティはアリスの手首から手を離し、風に揺れる髪に触れた。


「綺麗だな……」

「……わかってるんですか。私たちは」

「わかってる。俺たちの関係は赤の他人。ただ一緒に戦場を逃げ出し、一人じゃ何もできないから一緒にいるだけ。それだけの関係だ」

「そうです。だから……」


 不意にその先を口にすることをハンプティが止める。唇に彼の指が触れ、アリスに向ける顔はどこか優しいものだった。


「言っただろ。俺はお前の色んな顔が見たい。今でも目の裏に浮かぶのは、無感情な、表情のないお前だ。人間には皆平等に感情がある。人間だけじゃない、この世界には木にも花にも、感情が存在する。だから……」


 体を起こし、ハンプティはそのままアリスを押し倒した。突然のことで彼女は驚いた表情を浮かべ、それを見て彼は満足そうな表情を浮かべる。


「お前の感情を知りたい。そして、いつか俺の未来をくつがえしてくれ」


 最後の言葉は、きっと彼の切実な願いなのだろう。アリスはそっと彼の頬に触れ、ゆっくりと体を起こした。


「私が、貴方の未来を覆したことが一度でもありますか?」

「あぁないな。お前が戦場にいても、必ず俺の未来は当たる」

「そうです。でも、それが貴方の願いというのであれば私からも一つだけ願いを聞いてはくれないでしょうか」


アリスは自分の胸に触れる。温もりが、心音が、手を通じて身体中に感じる。ゆっくりと目を閉じ、彼女は祈りを捧げるように言葉を口にする。


「私に生きる価値をください」


 人の価値は誰かが決めるものではない。ハンプティはそう口にしようとしたができなかった。それが彼女にとってどれだけ必要なものなのかは、ハンプティにはわかっていたからだった。


「お前が俺の願いを叶えてくれるのであれば、俺もその願いを必ず叶えてやる。すぐには無理だけどな」

「えぇ。私も、すぐには無理です」


 ハンプティは優しくアリスの頭を撫でる。

 アリスは俯きながら抵抗せずにされるがままだった。

 二人の間には一本の線が引かれている。その前で互いに足を止めて会話をする。

 その先に行くことが、白線を超えることがどういうことか二人はわかっている。だけど、自分の事、相手との関係。多くのものを考えれば、その先に行こうと足を上げる行為は、あまりにも重いものだった。


「そろそろ戻るか。きっと、ジャックが腹をすかせてる。昼にしよう」

「……パイは、コーヒーがいいですか?」

「あぁ。うんと濃い味にしてくれ。きっと、いつも以上に甘く感じるだろうから」


 ハンプティは立ち上がり、アリスに手を差し伸べる。差し出された手を握り、行きと同じ様に、アリスは彼に手を引かれ、森の中を歩いて行く。

 その様子を木々や草花は、楽しそうに見つめて、またいたずらに風を起こした。


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