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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
《三章(繋がれた鎖)》
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33話

「…………」


 もう何度目になるかわからない戦争。剣を握ったまま、案外あっさりと終わってしまった戦場を見渡す。


「今日は、兵が少ないな……」


 響きあう剣や銃声の音。しかし、白の国のチェス兵がいつもの戦場よりも数が少ない。恐らく、人員不足なのだろう。そう頭の片隅で考えながら、アリスは戦場を歩く。どこかでたかだかとライオネルの声が響き渡っている。


「もう、戻れないのかな……」


 半年前の幸福などまるで遠い出来事。いや、もしかしたら夢だったのではないかと思うほどに、アリスの体に戦場が馴染んでいた。

 戦場に漂う屍臭。耳にこびりつくように聴こえる、疲弊した兵士たちの呻き声。


「死ねぇええええ! アリス・カーマイン!」

「……ありきたりなセリフ」


 襲いかかってきたチェス兵に冷たい目を向けながら、あっさりとその首を刎ねた。

 そのまま体は前と倒れ、跳ね飛ばされた首は数メートル先に転がる。

 

「あ……りす、様……」

 

 不意に聞こえた声にアリスは振り返った。

 ボロボロになった自国のトランプ兵がゆっくりと彼女の元へと地面を這いながら近寄ってくる。


「後は……おま、かせ……しま、した……」


 震える手をゆっくりと伸ばしてくるが、彼は力付きその場で動かなくなってしまった。

 アリスは何も感情が動かなかった。敵国の兵を無慈悲に殺し、自国の兵を無感情で見つめる。そう、戦場で彼女の感情が動くことはない。彼女は化け物。国に勝利をもたらすために人を捨てた化け物なのだから。

 遠く、戦終了の合図が響く。生き残ったチェス兵たちは引いて。トランプ兵たちも引いていく。だけど、今回の戦はこれでは終わらない。準備が整い次第、赤の国はそのまま白の国へと攻め入り、その領土を手に入れることになっている。


「私もそろそろ戻らないと」


 戦場にはもう、各国の兵の死体しか転がっていない。人の姿はなく、アリスはそのまま自国へと戻ろうと一歩踏み出した。


「アリス・A・カーマインさまですね」

「っ!」


 背後から突然聞こえた声にアリスは驚き、振り返ろうとした。

 だが、すでに相手は攻撃態勢に入っており、手にしていた剣を振り下ろそうとしていた。


(全く気配がなかった。いつから後ろに……!)


 頭の中で疑問を抱くアリス。剣を抜こうと腰に手をおくが、このスピードでは間に合わない。


「ぐぁあっ!」


 体に受ける激しい痛み、血を吹き出しながらアリスはその場に倒れてしまった。


「安心してください。殺しはしません。陛下のご命令です」


 こんなに激しい痛みを感じたのはいつぶりだろう。ハッターに連れ去られるときでさえ、ここまでの痛みは感じなかった。

 生死を彷徨うほどの痛み。傷口から赤い泉が溢れ出し、彼女をそのまま沈めてしまいそうなほどに流れていた。


「貴女が引きあげるギリギリまだいてくれよかったです。これで、秘密裏に運ぶことができます」

「……ホワイト、ナイト……」

「戦場で会うのは久しいですね」


 ゆっくりと重症のアリスに近づくホワイトナイト。純白の甲冑は、アリスの返り血を浴びて、所々花びらが散っているようになっていた。


「こうでもしないと、貴女を連れ帰ることができません」

「ぁ……あ、ぁあ」

「陛下が、貴女にお会いしたいとのことです。なので、白の国に着くまでは、どうかお休みになられて下さい」


 血の出し過ぎで、アリスはそのまま意識を失ってしまった。

 彼女が動かなくなったのを確認すると、ホワイトナイトはアリスを抱え、その場を後にした。





 薄暗いそこは、わずかに埃っぽい。蝋燭に灯った炎の光でわずかに明るいが、近くに寄らないと相手の顔がはっきりと見えないほどだ。


「ぁ……」


 そんな場所で、アリスは意識を取り戻した。しかし、ただその場に寝ていたわけではなかった。両手首が拘束され、足には鉄球と繋がった足枷がつけられ、何も身につけてない状態だった。


「ここ、は……」


 まだボーッと意識ははっきりしていないが、彼女はここが自分の見覚えのない場所だと瞬時に理解した。

 そして、顔を歪めるほどに鼻をつく香水の香り。


「目が覚めたようね」


 聞こえた声にアリスは顔を上げた。

 真っ白な髪に真っ白な肌、真っ白なドレスを身に纏った彼女はにっこりと笑みを浮かべた。


冤罪イノセンス女王ヴィスレーヌ……」


 辺りを照らす炎のせいか、赤やオレンジ、黄色に照らされた女王は、酷く歪んだ笑顔を浮かべているように見えた。


「その名で呼ばれるのは久しぶりだわ。皆、おパペットりの女王クイーンと呼ぶのだから」

「……ここは、白の国、ですか……」

「えぇ。白の国の地下牢。そして、貴女を歓迎する貴女のための客室よ」

「ハッ……ひどい客室だ……」


 ベットも何もない牢屋は、ただ石で作られた殺風景な空間。唯一あるとすれば、女王の側にある、暗くてよくわからない何かを乗せた木のテーブルだけだった。壁はひび割れていたり、蜘蛛の巣があったり、床は埃が溜まっていて手入れなどはされていない。


「アリスと呼んでもいいかしら」

「白の女王にそう呼んでもらえて光栄です」

「そう、それはよかったは」

「それで、女王さまはどうして私をここに連れ去ったのですか?」


 アリスはなんとなく察していた。この戦争に勝つために、自分を捕まえて殺そうとしている。あるいは、情報を吐かせるために捕まえた。そんなところではないかと。お飾りとはいえ彼女も女王だ。秘密裏に国のために動いているのだろうとアリスはそう思った。

 だけど、動機はいたって単純でシンプルで、国のためでもなんでもなかった。


「あぁ、ただの嫉妬よ」

「し……っと……」

「そう嫉妬。お腹の中がグツグツと煮え繰り返りそうなほどに貴女を殺したくて堪らないのよ。如何してかわかるかしら?」


 女王が自分に嫉妬。なぜ?

 頭の中でありとあらゆる可能性を考える。だけど、答えを出す前に女王が自らの口でアリスの罪状を告げた。


「貴女は、ハンプティを変えてしまった」


 あぁそうか……。

 アリスは心の中で納得し、そして察した。


「ハンプティが私を拒絶するはずがない。貴女を求めるはずがない……ハンプティに何をしたの!私のハンプティを返して!!」


 激しい怒りをみせる女王。だけど、そんな彼女のことなどどうでもいいように、アリスは石づくりの天井を見上げる。


(そうか……すぐ側にいるのか……)

「ハンプティは渡さない……ハンプティのためにも、貴女には死んでもらう。だけど、簡単には殺さないわ……じっくりたっぷり……もうハンプティに会えないほどに醜くしてあげるわ」


 木のテーブルの上に置かれていたそれに手を伸ばし、アリスの前に立つ女王。鋭いナイフは酷く輝き、彼女たちの姿をそれぞれの面で映し出していた。

 女王がいかれていることは一目でわかる。そして、この女王がハンプティに何もしないわけがない。今、彼女がここにいるということは彼は安全。だったらと、アリスは笑みを浮かべた。


「やれるものならやってみてください。私は人を捨てた身ですよ」


 アリスは強気に、女王を嘲笑うようにそう答えた……


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