28話
激しく扉がノックされ、白の女王とハンプティは部屋の出入り口へと視線を向ける。
ディーとダムはまるでその音が聞こえていないかのように、いつも通りの表情と姿勢で扉の両サイドに立っていた。
「いいところだったのに……」
ベットから降り、身だしなみを整え、いつもの姿勢で扉の前に立つ。
ディーとダムは軽く頭を下げると、まるでそれが合図かのようにゆっくりと扉が開いていく。女王らしい姿勢で扉の向こう側にいる人物に顔を合わせるが、相手が誰かわかると、少しばかり表情が歪み、彼女が不機嫌になったのが後ろにいるハンプティにはすぐにわかった。
「何かご用ですか」
「陛下!いつまでハンプティを部屋に監禁なさるおつもりですか!」
「監禁とは失礼ですね。ただ一緒にいるだけではないですか。それが何か問題でも?」
「これでは戦争に負けてしまい、我が国は赤の国に攻め落とされてしまいます!どうかハンプティを戦場に!」
必死に頼み込む大臣たち。しかし、女王の表情はいつもにもまして機嫌が悪くなっていき、まるで汚物でも見るかのような目で彼らを睨みつける。
「自業自得ではないですか。訓練も受けてない一般人を戦場に送ったって勝てるはずがない」
「ハンプティさえいれば戦場はひっくり返る」
「未来視の力がなくてもわかる現状です。私利私欲で国民を好き勝手にした結果です」
「なっ、何様のつもりだ!」
「そうだ!我々は貴女の代わりに政治などを全て行っているのだ!」
図星をつかれた大臣たちは、急に怒りを女王へと向けて罵倒し始める。
呆れたとため息をこぼす女王は、身も凍るほどの冷たい目を大臣たちに向ける。その視線から感じるは確かな殺意だった。
「国がどうなろうと私には関係ない。困るのは貴方たちでしょ?でも、私は協力などしない。もうハンプティがどこにもいかないため、彼は私の部屋にいてもらいます」
「このっ……お飾りの女王の分際で!」
「私をそういう立場にしたのは貴方たちでしょ。可愛がられて、何もしてこなかった私をマリオネットの人形だと勝手に思って、動かしてると勝手に思って」
怒り狂う大臣たち。しかし、女王も一歩も引かず、はたから見ればドラゴンに吠える犬のようだった。
「無様」
憐れむように嘲笑う女王。さすがの大臣たちも堪忍袋の尾が切れた。
「小娘がぁああああああああ!!」
大臣たちが叫んだセリフは、どれも女王に向けるような言葉ではなかった。女王は特に動じることもなく、その場にただ立っていた。
伸びてくる大臣たちの手。だが、女王の目のまでその手が止まる。
「ぅぐっ……」
「ホワイトナイト……」
「陛下に、手を出すなど万死に値しますよ」
「クッ……」
大臣と女王の間に割って入り、一番前にいる大臣のあご下に剣を入れた人物は、全身を純白の甲冑で覆いながら、”彼女”はゆっくりと顔を上げた。
「貴様、我々に剣を向けるのか!」
「私は、女王陛下の騎士です」
甲冑の下から覗く鋭い瞳が大臣たちを威圧し、殺気を放つ。
大臣たちは肌に感じたそれに怯え、そのままその場に尻餅をつき、恐怖を抱きながら彼女たちを見上げていた。
「用が済んだなら話は終わりです」
汚いものを見るように女王は大臣たちを見下し、女王はそのまま部屋の中に戻って行く。
ゆっくり扉が閉まり、俯いてその場から動かない女王。しかし、しばらくするとゆっくりと振り返った。
「お待たせハンプティ」
先程までの表情とは一変し、コロリと満面の笑みを浮かべる女王は、再び服を乱してベットへと飛び乗り、ハンプティを押し倒した。
「邪魔が入ってしまったわね、ごめんなさい」
先程と同じ、ねっとりとした笑みを浮かべ、ゆっくりとはだけたハンプティの体に手をはわせ、耳元に口を近づける。
「あなたを戦場に出したりはしない。あなたはずっとそばにいないといけない。だって、あなたは父に恩があるのだから、亡くなってしまった以上、その恩を娘に返さないといけない……でしょ?」
女王はそのままハンプティの首に腕を回し、強く抱きしめる。
理不尽すぎる言葉。
ハンプティは奥歯を噛み締めながら、自身の過去を思い出した。




